結婚して五年。最初の一年、紗夜は決まった時間になるとよく電話をかけてきて、彼に夕食は家で食べるかどうかを訊ねていた。だが文翔は、出ても「帰る」「帰らない」と冷たく答えるだけか、そもそも出ないことも多かった。そんなことが続き、いつの間にか紗夜はほとんど彼に電話をしなくなった。文翔が紗夜から最後に電話を受けたのは、弥花スタジオを見逃してほしいと長沢グループに来たときのことだ。それ以外、彼女はもう電話をしてこないし、帰宅時間を柔らかく尋ねることもなくなった。彼は紗夜の不在着信を見つめ、眉間を揉みながら、結局かけ直した。しかし、一分近く鳴らしても、出ない。文翔は眉をひそめ、珍しくもう一度電話をかけたが、結果は同じだった。最後に、彼は中島へ電話した。中島はすぐに出た。「長沢社長!やっとご連絡がつきました!」どこか焦った声だ。「どうした」文翔が問う。「今朝、奥さまと竹内さんが病院の診察室で揉めまして、事態が少し大きくなりまして......」「彼女、怪我をしたのか?」文翔は背筋を伸ばし、眉を寄せた。仁もその言葉に目を向け、何か察したような表情をする。「怪我をされたのは奥さまではありません」中島の声はさらに重くなる。「竹内さんです。顔を奥様に切られまして、それに雅恵様が病院に駆けつけて警察を呼び、奥さまは連行されて拘留中です......」文翔の目の色が暗く沈む。電話を切るや否や、すぐに立ち上がった。「急用?」仁が問う。「ああ」文翔は上着を手に取り、すぐに運転手へ待機を指示し、速い足で部屋を出た。戻ってきたばかりの千歳とぶつかりそうになる。「文翔?その顔......どこ行くんだ?」「京浜に戻る」それだけ言い残し、角を曲がって姿を消した。千歳は驚いたように目を見開いた。長い付き合いの中で、泰然とした彼がこんなに焦る姿はほとんど見たことがない。「何があったんだ?」彼は仁に視線を向ける。仁は肩をすくめる。だが心当たりはある。――紗夜のこと、だろうか?しかし、文翔がそこまで焦るとは。「そもそも文翔、深水さんが奥さんだって俺にすら言わなかったじゃん」仁が目を細める。「お前も隠してただろ」「俺のせいじゃない!言うなって釘を刺されてたん
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