まさか自分が、こんな衝動に駆られる日が来るとは――文翔は夢にも思わなかった。当初、理久が紗夜にあの言葉をぶつけ、彼女の心を完全に打ち砕いた時、文翔は傍に立ちながら、まるでただの傍観者のように振る舞っていた。だが本当は、胸の内がまったく波立っていなかったわけではない。むしろ、どこか歪んだ幸災楽禍の念さえあった。理久が紗夜の心を徹底的に傷つけたなら、そのぶん、紗夜が彼に向けていた愛情をすべて回収するだろう、と。丸五年間、紗夜の心の最優先は常に理久だった。自分はそんなこと気にもしていないと思い込んでいたが、結局すべては気のせいで、実際は気になって仕方がなかった。いや、気にするどころではなく、妬ましくてたまらなかったのだ。ただ、それを決して認めようとしなかっただけで。理久のあの出来事のおかげで、紗夜の心はすっかり冷え切った。これでようやく、紗夜の心を丸ごと手に入れられる、と。紗夜は彼だけのもの。他の誰にも、ましてや実の息子にすら、奪わせるつもりなど毛頭ない。そんな陰鬱な考えが浮かんだ時、自分でも驚いた。しかし、にもかかわらず胸の奥に湧き上がったのは、どこか病的な満足感だった。だが今、紗夜は彼のことを「もう好きじゃない」と言いながら、理久にはあれほど優しい。あれほど辛辣な言葉をぶつけた理久には心を和らげるのに、どうして自分には、あれほどまでに冷たい?特に「紗夜が理久と一緒に寝ている」と執事から聞いた瞬間、彼の胸に湧き上がったのは、自分こそが捨てられた哀れな存在なのではないかという惨めさだった。文翔の表情は深い陰で覆われ、瞳の色は嵐の前触れのように重く淀む。彼はほとんど狂気じみた勢いで、自分の息子に嫉妬していた。文翔は拳を固く握り、理久の部屋の扉を押し開けた。だが、目に入った光景に、動きがぴたりと止まる。薄い紗のカーテン越しに月光が差し込み、ベッドの上に淡い光の粒を落とす。その光の中、紗夜と理久が寄り添って眠っていた。静かで、穏やかで、絵のような光景。理久の顔は彼に七分ほど似ている。そのせいで一瞬、紗夜が自分と一緒に寝ている錯覚すら覚えた。後ろから追いついた執事も、その姿に思わず微笑みながら言う。「お坊ちゃんはやはり旦那様の息子ですね。同じ型から抜いたようにそっく
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