紗夜の肩が冷えた空気に晒され、身体がびくりと震えた。それが寒さのせいなのか、恐怖からなのか、彼女自身にもわからなかった。だが次の瞬間、文翔がその答えを容赦なく突きつけてきた。「っ......」鋭い歯先が柔らかな首筋を掠め、紗夜は痛みに息を呑む。手を伸ばして彼を押しのけようとしたが、文翔はその手首を掴み、ソファへ押し付けた。「千歳と踊った感想は?」文翔は彼女の顎を掴み上げ、陰を帯びた眼差しで射抜いた。紗夜は顔を背け、彼を見ようとも、言葉を返そうともしなかった。その無反応こそが、文翔の怒りをさらに煽る。舌先が奥歯を押し、怒気の中に歪んだ笑みが浮かぶ。「そんなに良かったわけか。あんなに嬉しそうに笑ってたんだし。外の男とちょっとした曖昧ならまだ許せる。けど......今度は俺の友人にまで手を伸ばしたとは......お前、そんなに飢えてるのか!?」怒号が狭い空間に響く。「男なら、目の前にいるだろうが。俺じゃ不満なのか?いい度胸してるじゃないか。他の男を好きになるとはな!深水紗夜、忘れるな。和洋はまだ俺の手の中だ。お前は『名義上の』長沢奥様だけじゃない。お前の身体も、気持ちも、全部俺だけのものだ」――自分でも気づいていなかった。こんなふうに、彼女に「好意」を求めずにはいられなくなる日が来るなんて。かつてはくだらないと切り捨てていた感情。掴みどころもなく、価値などないと思っていたもの。それなのに今は、狂ったように彼女のそれを奪い取ろうとしている。プリスの助言を聞いたとき、あれが通じると思ったのは、オリヴィアがまだプリスに執着していたからだ。好意ではなく、何かしらの感情が残っていたから。でも、紗夜は違う。彼女はもう文翔を気にしていない。何も求めてもいない。二人を繋ぐ唯一の繋がりは、文翔が和洋の命を握っているという一点だけ。だから、彼の脅しを聞いた彼女の表情は平坦だった。その瞳はどこまでも静かで暗く、波ひとつ立たなかった。――彼の激昂が、滑稽な子供じみた癇癪に見えるほどに。「あなたが竹内と踊れるのに、私だけは誰とも踊っちゃいけないの?随分と締めつけが厳しいわね。それに、新野のあれはただの誤解。あのウェイターがわざとぶつかってきたの、避けきれなかっただけ。
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