「あの、どうかしましたか?」ポリーの顔が青ざめたので、ジェニファーは驚いた。「だ、だって……ジェニファー様はニコラス様と結婚されたのですよね? 侯爵夫人になられたのに、親切にしないで下さいなんて……」「ありがとうございます。ポリーさんは優しい方なのですね」ジェニファーは笑みを浮かべた。「え……?」「だから尚更迷惑をかけたくはありません。私なら大丈夫なので、せめてジョナサン様だけでも気にかけておいていただけますか? 一応執事長にはジョナサン様のことはお願いしてありますが、私はどうもこの屋敷の人たちには歓迎されていないようですので」本当は歓迎されていないどころではない。自分は邪魔な人間と思われていることは感じていたが、メイドのポリーに告げるわけにはいかなかった。「ジョナサン様のお世話ですか……?」ジェニファーに問いかけ、ポリーはふと思った。(ジョナサン様のお世話をすることは、ジェニファー様の助けに繋がるに違いないわ)「分かりました。ジョナサン様のことはお任せ下さい」「お願いします。お食事、届けてくださってありがとうございます」ジェニファーはポリーに笑顔でお礼を述べる。「いいえ、食べ終えた食器はワゴンに乗せて廊下に出しておいて下さい。後ほど回収に伺います。それでは失礼します」ポリーはお辞儀をすると、足早に去っていった。(早く仕事を終わらせて、ここに戻ってこなくちゃ!)自分にそう言い聞かせながら。――パタン扉を閉じると、早速ジェニファーは朝食をとることにした。黒パンにスープ……。ブルック家で食べていたのと殆ど大差ない料理。「せめてニコラスからシッター代の賃金を貰えないかしら。そうすれば自分で食料を買えるし、仕送りも出来るのだけど。……でも、きっと無理よね。私からは彼に会いに行けるような立場にはないもの……」ポツリと呟くと、ジェニファーは使用人以下の乏しい料理を口にした――****――午前10時 ニコラスは外出の準備をしていた。今日から一ヶ月ほど、仕事関係で近隣諸国に足を運ばなければならないからだ。本当はもっと以前から行かなければならなかったのだが、ジョナサンのことが気がかりで先延ばしにしていたのだ。「ニコラス様。本当に本日から行かれるのですね?」執事長のモーリスが尋ねてきた。「ああ、ジョナサンを置いていくわけにはい
Last Updated : 2025-09-07 Read more