All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 131 - Chapter 140

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第2章 4 しばしの別れ

 馬車から1人で降りて外に出て見ると、既に荷馬車から降りたトマスとザカリーの姿も兵士達の中に紛れていた。 ユダはまっすぐ開門された大扉の前に立つ2人の騎士に挨拶をした。「ただいま『レノスト』国の王女様をお連れいたしました」すると1人の騎士がこちらを一瞬チラリとみると、すぐにユダに尋ねた。「おい、いい加減なことを言うな。どこに王女がいるのだ? 見たところあそこにいるのは薄汚れた身なりの2人の女しかいないじゃないか」「ああ、その通りだ。それともあそこで男に抱きかかえられている女が王女なのか? それにしても全員小汚い格好だな……。まさかお前は物乞い女でも連れて来たのか?」そして騎士は馬鹿にした表情でユダを見た。「クッ……」騎士達の言葉にスヴェンが悔しそうに唇を噛む。他の兵士やトマス、ザカリーも騎士たちの言葉に怒りを抑えているのが伝わってくる。「! いいえ! 決してそのようなことはありません。あちらにいらっしゃるお方こそが、『レノスト』王国の王女様でいらっしゃるクラウディア様です!」「嘘をつくな! 貴様は任務すらまっとうにこなせないのか!」「一生貴様のような男はただの兵士でいるんだな!」ユダ……。騎士達がユダを馬鹿にしている姿を見るのは耐え難かった。そこで私は自ら騎士達の元へ向かった。「お、おい? 姫さん?」スヴェンの狼狽えた声が聞こえたけれども私は構わず騎士達の前に立つと足を止めた。「何だ? 薄汚れた物乞い女め」「早く城の外へ出て行け」1人の騎士は煩げに手で私を払うフリをする。彼らの態度は回帰前と似て異なる。あの時は一番美しいドレスを着てはいたものの、『エデル』へ到着するまでに私の悪評が広がり、騎士から心無い言葉を投げつけられたのだった。あの時は彼らの酷い態度に激怒したけれども、今の私はそのような態度を一切取るつもりは無い。「いいえ、そこの兵士の言う通りです。このような身なりをしてはおりますが、私は間違いなく『レノスト』国の第一王女であるクラウディア・シューマッハです。疑うのであれば、これを見せましょう」メッセンジャーバッグから封筒を取り出すと、右側に立つ騎士に手渡した。その封筒には王家の封蝋が押されたアルベルトのサイン入りの『結婚同意書』が入っているのだ。「ふん、こんなもので……」騎士は封筒から手紙を抜き取り、目
last updateLast Updated : 2025-10-28
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第2章 5 謁見の間

「それにしてもクラウディア様は随分と……その、地味なお召し物を着ていらっしゃいますね」謁見の間に案内している騎士が声をかけてきた。今、私が着ている服は麻布のワンピースにエプロンドレス姿だ。髪も後ろに1つにまとめただけの……まるで平民以下の、それも物乞いに間違えられてもおかしくないような姿。「そうですね。確かにその通りだと思っています。陛下に謁見するには失礼な格好かもしれませんね。でも馬車での旅は動きやすい方が良いですし、それに必要最低限な服しか持ってきていませんから」「え……? そうなのですか……?」そんな私を騎士は怪訝そうな眼差しで一瞬こちらを見たが、後は私に声をぁけることなく前を向いて歩き続けた。**** 謁見の間に向かっている時に、廊下で多くのメイドやフットマンにすれ違った。彼らは不躾な視線で私の方を見て何やらヒソヒソ話している。そんな彼らの目は明らかに蔑みを含んでいた。彼らがあのような目で見るのは、私をただの貧しい女に見ているからなのか。それとも私が人質姫として嫁いできた王女だと知ってのうえでの態度なのかは定かではない。けれどいずれにしても私に好意的ではないことはすぐに分かった。大体侍女どころかメイドすら連れていないとなれば、蔑まれても当然なのかもしれない。何しろ唯一城から連れて来ていたリーシャもシーラに何カ月も身体を乗っ取られていた影響で、深い眠りについている為ここにはいないのだから。そして私を連れて歩く騎士も、そのような態度の彼らを注意すらしない。それだけ私は軽んじて見られているのだろう。回帰前と同樣、この城での私の生活は窮屈なものになるに違いない。けれど、今回は予想以上に早く『聖なる巫女』が現れた。きっと城の人々と同樣、国民も『聖なる巫女』の存在に夢中になるだろう。そうなれば元・敵国から嫁いできた私の存在はきっと邪魔な存在に感じることになり、いずれ私を追い出そうとする流れになるかもしれない。それまでの間は静かに、慎ましく暮らして敵を作らないようにしよう。今度は絶対処刑されない為に。私は両手を強く握りしめた――****「到着いたしました。こちらが謁見の間です」案内されたのはひときわ大きな両開きの扉の前だった。回帰前も初めて案内された場所はここだった。ここで私はアルベルトと再会し、自分が少しも望まれ
last updateLast Updated : 2025-10-29
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第2章 6 国王の不在

「国王陛下は……その、半月程前から領地を巡ると言い残して……出ていかれてしまったのです。そのうち戻ってくると言い残して。そこで宰相が今陛下の代理を務めております。本来ならお二方のどちらかがクラウディア様をお出迎えすることになっていたのですが……宰相も先程慌ただしく何処かへ出掛けられてしまって。クラウディア様がいらしたことは既に報告が入っておりますので、こちらでお待ち頂くよう命じられました」騎士が申し訳なさげに説明した。「そんな……」まさか、アルベルトが不在だとは思わなかった。回帰前は確かに彼はこの国にいて、ここで冷たい言葉を投げつけられたのに?しかもアルベルトの代理をしているのが、よりにもよってあの宰相だなんて…!「長旅でお疲れのところ申し訳ございません。ただいま椅子を御用意致しますので掛けてお待ち下さい」「はい、お願いします」騎士は椅子を取りに謁見の間を出ていき……程なくして背もたれ付きの椅子を持って戻ってきた。「どうぞこちらの椅子に掛けてお待ち下さい」「ありがとうございます……」椅子に掛けると礼を述べた。「いえ。それでは私は他に任務があるので、これで失礼致します」騎士は頭を下げると謁見の間を出て行き、私は1人残されることになった。「ふぅ……まさかこんなことになるとは思わなかったわ」ため息をつくと背もたれに寄りかかった。それにしても出迎えの相手がまさかあの宰相だったとは……。トリスタン・リシュリー宰相。前国王時代から宰相として、『エデル』国の影の支配者とも呼ばれる人物。そして、彼が連れて来た人物が『聖なる巫女』と呼ばれたカチュアだった。「きっと、虹色の雲が現れたから慌てて神殿に向かったのかもしれないわね……」彼は元々敗戦国の王女である私をこの国に嫁がせて来るのを反対していた。そして彼は私を徹底的に排除し……代わりにカチュアをアルベルトの傍に置かせたのだ。元より私には微塵の興味も無かったアルベルトは愛らしく、天真爛漫なカチュアにすっかり魅了されてしまった。そして私と言う妻がありながら、2人は堂々とまるで恋人同士のように仲睦まじい様子を城中の皆に見せつけた。それだけではない。カチュアには専属侍女やメイドを沢山つけたにも関わらず、私の専属メイドはたった1人……リーシャだけだったのだ。そこで私はアルベルトの愛情を得られ
last updateLast Updated : 2025-10-30
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第2章 7 国王アルベルト

「遅いわね……」あれからどれ位時が流れただろう。気づけば太陽は随分高い位置に登っていた。「もう正午を過ぎた辺りかしら……」まさかここにずっと放置されたままなのだろうか?これは……明らかな嫌がらせなのかもしれない。出来れば旅の疲れを取りたいのに、これでは休むことも出来ない。「疲れたわ……」ホウとため息をついた時……。バタバタと足音がコチラに向かって掛けてくる音が耳に入ってきた。「何かあったのかしら? 何だか廊下が騒がしいようだけど……」廊下の方を振り向いた時……。バンッ!突然謁見の間の扉が開かれた。「クラウディア……」「え……?」私は思わず立ち上がった。何故なら……慌てた様子で扉を開けたのは他でもないアルベルトだったからだ。「クラウディア……まさかここでずっと待っていたのか?」アルベルトは私に声をかけながら謁見の間に入ってきた。私は頭を下げると、挨拶をした。「はい、陛下。大変お久しゅうございます」アルベルトとは幼少期の頃、少しの間一緒に過ごしたことがあった。「あ、ああ……。そうだな……久しぶりだなクラウディア。顔を上げろ」「はい」顔を上げると、そこには玉座に座ったアルベルトがいた。アルベルト……。彼は全く変わらぬ姿でそこにいた。金の髪に青い瞳。まるで彫像のように整った顔……。回帰前、私は彼の美しい容姿を……そしてその権力を愛していた。けれど敗戦国の姫として嫁いできた私を彼は全く省みること無く、冷たい言葉と視線をぶつけてくるだけだった。そして、それは当然の如く『白い結婚』へと繋がっていた。私は一度もアルベルトと夫婦の関係になったことは無かったし、彼と同じ寝室で眠ったことすら無かった。あの頃はそれが寂しくて辛くてならなかったが……今の私は彼を見ても何も心が動くことはなかった。愛されなかったことも、また策略にはまって処刑されたことすらも……。「どうした? クラウディア。俺の顔をじっと見て……」気づけば私はアルベルトの顔を見つめていたようだった。「あ、大変申し訳ございません」すぐに頭を下げ、視線をそらせる。「まぁ別にいい。それよりも何故この謁見の間にいたのだ?」アルベルトは何処までも分かっていない。私が勝手にここで待っていたと思っているのだろうか?「はい、私は騎士の方にこの謁見の間に通されまし
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第2章 8 アルベルトの変化

「あ、あの……行く? とは一体どちらへですか?」回帰前とは違うアルベルトの態度に戸惑いながら尋ねた。「決まっているだろう? クラウディアの為に用意した部屋だ。案内しよう」「え!? まさか……陛下ご自身がですか!?」「ああ、そうだ。今この場に案内できる者は俺しかいないからな」当然だと言わんばかりに頷くアルベルト。「ですが……」「何だ? まだ何かあるのか?」「いえ、何もありません」眉間にしわを寄せるアルベルトを見て口を閉ざした。「そんな身なりでは誰もお前が『レノスト』国から俺の妻になる為に嫁いできた王女だと思わないぞ? 何しろ使用人たちは何と言って俺に報告してきたと思う? 物乞い女が城に上がり込んできたと言ってきたんだ」「物乞い女……」私は自分の身なりを改めて見た。確かに物乞いに見られても仕方がないかもしれない。何故ならメイドたちの方が遥かに良い格好をしているのだから。「どうした? 気に障ったのか?」何故かアルベルトが私を気遣うような素振りを見せる。「え……? いえ。その様なことは思っておりません」「そうか。なら行くぞ」そしてアルベルトは先に立つと歩き出した。「……」私はおとなしくアルベルトの後をついて歩くことにした。私の前を歩くアルベルトの後姿は未だに信じられないことだった。回帰前は一切私を顧みることは無かったのに、何故か今の彼には私に対する気遣いを感じられる。けれど、その理由が何故なのか私にはさっぱり分からなかった。 廊下を歩くアルベルトと私を目にした使用人たちは全員ギョッとした顔つきで慌てて頭を下げてくる。その様子が少しだけ、おかしかった。恐らく彼らの中では何故国王が物乞い女と歩いているのだろうとさぞかし、謎に思っているに違いない。「着いたぞ、ここだ」案内された場所は回帰前と同じ部屋だった。「どうもありがとうございます。陛下自らが案内して下さるとは光栄至極でございます」「別にそれほどのことではない。……今日は疲れただろう。部屋に食事を運ぶように命じておく。夜は一緒に食事をとろう」「え……?」その言葉にまた驚いてしまった。まさか、アルベルト自らが私を食事に誘うとは思いもしていなかった。回帰前……私はアルベルトと共に食事すらしたことは無かったからだ。「どうした? 何をそんなに驚いている?」「い
last updateLast Updated : 2025-11-01
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第2章 9 私とリーシャ

「クラウディア様!」開け放たれた扉の奥の部屋。驚いた顔でこちらを見ているリーシャの姿があった。「あ……クラウディア様……」途端に見る見るうちにリーシャの目に涙が浮かぶ。「リーシャッ!」私は彼女に駆け寄ると、思い切り強くその身体を抱きしめた。そう、まるで我が子を抱きしめるかのように……。「クラウディア様……わ、私……。申し訳ございません……な、何も分からなくて……」私に抱きしめられたまま、リーシャは涙を流している。彼女の熱い涙が私の服を濡らしていく。「いいのよ、リーシャ……何も分からないのは当然よ……」だって貴女は何ヶ月もの間、シーラに身体を乗っ取られていたのだから……。意識が戻った時、見知らぬ場所で……しかも何ヶ月も経過していたことを知った時、どんなにか怖かったことだろう。彼女はまだ……たったの19歳なのだから。私の娘、葵と同じ年齢の――****「申し訳ございませんでした。クラウディア様……沢山泣いてしまって……お恥ずかしい限りです」ソファに座り、涙ですっかり目を腫らしたリーシャが申し訳無さそうに謝ってきた。「いいのよ、リーシャ。そんなこと気にしないで」そしてそっと頭を撫でた。「……」そんな私を驚いた表情で見つめるリーシャ。「何? どうかした?」「い、いえ……何だかクラウディア様……私が身体を乗っ取られている間に随分大人っぽくなられたと思って……あ、申し訳ございません。失礼なことを申してしまいました」慌てたように謝ってくるリーシャに笑いかけた。「いいのよ。そんなこと気にしなくて」リーシャが私を大人っぽくなったと言うのは当然だろう。何しろ彼女が意識の無かった時に、46年の人生を終えて、再び私はこの世界に回帰してきた。しかも外見は20歳。おまけに私は子育て経験者なのだから、大人びているのも当然。今の私には年相応の振る舞いをするのはもう不可能だった。「ところでクラウディア様……」リーシャは私をじっと見つめた。「な、何?」「一体、そのお召し物はどうされたのですか? 王女様ともあろうお方が……その、あまりにも粗末な身なりをされるなんて……」かくいうリーシャも私と引けを取らないくらいの貧しい身なりをしている。「いいのよ、私の身なりなんて。この姿が楽だし、第一馬車の長旅にドレスは不向きだもの」「ですが、お
last updateLast Updated : 2025-11-02
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第2章 10 侍女長とメイド

「あら……どなたでしょうか? 私、出てみますね?」リーシャが立ち上がった。「ええ。お願いね」頷くと、リーシャは扉を開けに向かった。「どちら様でしょうか?」リーシャが扉越しに声をかける。『私どもはこの城に仕える侍女長です。陛下の命により、クラウディア様の元に参りました』「え? 陛下の!?」慌ててリーシャは扉を開けると、そこにはダークブラウンのドレスを着用した50代程の年齢の女性が背後に2人のメイドを連れて立っていた。「はじめまして、侍女長様。クラウディア様の専属メイドとして参りましたリーシャと申します。どうぞ宜しくお願いいたします」丁寧に挨拶をするリーシャに侍女長は頷くと、私の方を振り返った。「はじめまして、クラウディア様。私はこの城の侍女長のメラニーと申します。どうぞよろしくお願いいたします」「ええ。はじめまして、メラニー」訝しげに思いながら挨拶を返した。侍女長が何故……?回帰前、彼女は一度も私の元を訪ねてくることは無かった。何故なら端から私はこの国に歓迎されていなかったし、彼女はカチュアにかかりきりだったからだ。「それではまず、入浴の準備をさせていただきます。その後はこちらのお召し物にお着替え下さい」見ると、背後に立っているメイドは大きな箱を抱えていた。「え? 私に……?」回帰前と今とではあまりにも対応に違いがあるので戸惑うばかりだった。「はい、そうです。陛下よりクラウディア様のお世話をするように仰せつかっておりますから」「……ありがとう。それではお願いするわ」侍女長は言葉遣いこそ丁寧だったが、どこか私を軽んじている態度に見えた。恐らく嫌々アルベルトの命令を聞いているのだろう。「では準備をさせていただきます」侍女長メラニーは頭を下げると、メイドを引き連れて室内に入ってきた。そして隣の部屋のバスルームへと消えていった。「あの……クラウディア様。私はどうしたら良いでしょうか……?」リーシャが困った様子で声をかけてきた。「いいのよ。貴女は今日の所はゆっくり休んで。後でメラニーには私から貴女のことをお願いするから。貴女をこのまま私の専属メイドにさせたいって」「はい」私の言葉にリーシャは安堵の笑みを浮かべた。**** その後、バスタブにお湯が張られた後は侍女長たちが手伝いを申し出るのを断固として断ると1人ゆ
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第2章 11 疑問…そして大切な仲間

「これは……」リボンタイ付きの白い落ち着いたシルクのブラウスにバッスル付きの青いオーバースカートにお揃いのボレロ。私好みのドレスだった。回帰前……嫁いできた頃は派手なドレスばかりだったが、2年目を迎える頃にはこのようなデザインドレスを好んで着ていたのだ。どうして私が好むドレスを知っているのだろう? それとも、これが元々一般的な装いだからなのだろうか?「だけど、いきなり渡されてもサイズが問題だわ……」ため息をつきながら、私はドレスに手を伸ばした――****「信じられないわ……。何故サイズまでぴったりなのかしら?」ひょっとするとアルベルトの元には私の服のサイズまで書かれた釣書が届けれているのだろうか?回帰前に嫁いだ時には、私はアルベルトから一切の贈り物を貰ったことは無かった。それなのに、今回は夕食に誘われただけではなく、ドレスまで用意されていたとは……。「ひょっとすると回帰前もドレスは用意されていたのかもしれないわね」思わずポツリと言葉が口から漏れた。ただ前回は私が有り余るほどのドレスを用意して嫁いできたので、渡す必要は無いと判断したのかも知れない。「そうよね。きっとそうに決まっているわ」1人で結論付けると、私はバスルームを後にした――****「まぁ、よくお似合いです。クラウディア様」部屋に戻ると、いつの間にかリーシャはこの城のメイド服を着用していた。「フフ、ありがとう。リーシャ。貴女もそのメイド服、よく似合っているわよ。とても可愛いわ」「あ、ありがとうございます……」私の言葉に頬を赤らめたリーシャは早速私に尋ねてきた。「クラウディア様、まずは御髪を整えませんか?」「ええ、そうね。お願いするわ」「はい!」リーシャは嬉しそうに返事をした――**** 12時――部屋で錬金術に使う道具を整理していると、扉をノックする音が聞こえてきた。「はーい、どうぞ」鍵付きのライティングデスクに錬金術の道具をしまい、返事をするとすぐに扉は開かれた。「失礼致します、クラウディア様」するとワゴンに料理を乗せたリーシャが部屋に入ってきた。「あら、お帰りなさい。リーシャ」「はい、戻りました」笑みを浮かべて返事をするリーシャ。実は今から30分程前、リーシャは他のメイドたちと一緒に厨房へ私の食事を取りに行っていたのだ。「どうだ
last updateLast Updated : 2025-11-04
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第2章 12 突然の来訪者

 昼食は私とリーシャの2人分が用意されていた。2人で向かい合わせに食事をしながら、リーシャは戸惑いをみせていた。「あの……クラウディア様」「何かしら?」スプーンを口に運ぶと返事をした。「私はただの専属メイドで、侍女でも何でも無いのによろしいのでしょうか? クラウディア様と一緒のお食事なんて……」リーシャは目の前に並べられた料理を見つめている。テーブルの上には鶏肉や野菜を柔らかく煮込んだシチューや、スコーン、グリル野菜にキッシュが並べられていた。「あら、いいのよ。だって厨房の人が料理をワゴンに乗せてくれたのでしょう?」「ええ。確かにそうなのですが……申し訳なくて……」「別に気にすること無いわ。お城からの計らいなのでしょうから。きっと長旅で疲れている私たちに気を使ってくれたのよ」そう答えながらも、私も実は内心この状況に戸惑っていた。侍女長が訪ねて来たこともそうだが、アルベルト自身が私をこの部屋まで連れて来たこと。服が用意されていたことも含めて。「そうなのですね。ならこれで少しは安心出来ました。私たちはこの国に歓迎されているってことですよね?」「……」リーシャの言葉に私はすぐに頷くことが出来なかった。歓迎?本当に歓迎されているのだろうか?何しろ私はかつて、1度目の人生で処刑されているのだから……。「どうかなさいましたか? クラウディア様」「いえ、何でも無いのよ。そうね、きっと歓迎されているのよ」何も知らないリーシャを不安がらせるわけにはいかない。ただでさえ、彼女は未だに自分の置かれている状況に混乱して不安定なのだから。「それを聞けて安心しました」「ええ、そうよ。それにしても美味しい食事ね」「はい。クラウディア様」そして私たちはその後も会話しながら2人きりの食事を楽しんだ――**** 食事が終わり、リーシャは厨房に食器を運ぶ為に部屋を出て行った。その後はメイド教育があるらしく、しばらくは戻って来れないということでその間は1人部屋で過ごすことになった。「この部屋……本当に懐かしいわね」食後のお茶を飲みながら、改めて用意された部屋を見渡した。家具や調度品、壁紙やカーテンにカーペットの色合い迄何もかもが変わりない、全てがワインレッドの色合いでコーディネイトされていた。「……出来れば色合いは白の方が好きなのだけど…
last updateLast Updated : 2025-11-05
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第2章 13 宰相リシュリー

ガチャ……扉を開けると、そこにはあのトリスタン・リシュリー宰相が立っていた。彼の背後には側近と見られる2人の男性がついている。痩せぎすの青白い顔に銀髪の初老のリシュリーはまるで司祭のように長い紺色のローブを羽織っている。「貴女が敗戦国から嫁いでこられたクラウディア・シューマッハ様ですか?」「はい、そうです」随分失礼な物言いだと思いながら返事をした。「さようでございましたか。先程は私がクラウディア様のお出迎えをすることになっておりましたが……突然大事な用が出来てしまったので席を外してしまいました。大変申し訳ございませんでした。どうぞご無礼をお許し下さい」そして頭を下げてくる。彼の物言いだと、まるで私の出迎えは大して重要事項では無いと言っているようなものだ。以前の私だったら、ここで言い返していたかも知れないが……今は違う。様々な経験が私を大人にしたのだ。なのでにっこり笑みを浮かべた。「いいえ、どうぞお気になさらないで下さい。人には誰でも優先事項というものがありますから、当然そちらを優先するべきです。第一、私の到着が意外なほどに早かったのですから予定が重なってしまうのは無理もありません」「ほ~う。これは驚きましたな。貴女は随分噂とは違うお方だ」私の言葉に目を細めるリシュリー宰相。「そうですか。所詮噂というものは得てして尾ひれがついて歪曲されがちですからね」「……本当に貴女は20歳なのですか? 随分大人びて見えますが?」リシュリー宰相は忌々しい物を見るかのような目で尋ねてきた。「はい、そうです。お褒めに頂き、光栄です」「……ところで、最初にこの城にいらしたときには、みすぼらしい姿でお越しになったと使用人たちから聞いておりましたが……随分と良いドレスを着ておいでですな?」「ありがとうございます。こちらは陛下から頂いたドレスです」「何ですと!? 陛下から!?」その時になって初めてリシュリー宰相の顔に焦りの表情が浮かんだ。まさか、私がアルベルトからドレスを貰ったことがそれほどまでに意外だったのだろうか?「はい、そうです。それがどうかされましたか?」「い、いえ。何でもありません。そういえば……もう陛下にお会いになられたそうですな? 実は陛下は外遊に出ておられたのですが、クラウディア様がこの国にいらしてから、すぐに戻られたのですよ。
last updateLast Updated : 2025-11-06
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