All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 171 - Chapter 180

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第2章 44 忘れていた記憶

「アルベルト……」何故彼は私の探している本を知っているのだろうか?「今回のアルベルトは謎だらけだわ……」けれど、魔術に関する本の在り場所を教えて貰うのはありがたかった。「3階の35番の棚と言っていたわね」早速螺旋階段を上って、私は3階へ向かった。「35番の棚……あ、あったわ」アルベルトが教えてくれた棚はすぐに見つかった。私の背丈よりもうんと高い書棚には辞書並みに分厚い本がびっしり並べられている。この棚の中だけでも優に100冊は軽く超えている。「ここに並べられている本が全て魔術に関する本なのね……」その膨大な量に思わずため息をついた。私が何故、魔術に関する本を探しているのか……その理由は2つあった。1つは自分が何故再びこの世界に回帰してきたのか。私は確かにあの時、断頭台で命を散らせた。「……」そっと自分の首筋に手を当てる。あの冷たく鋭い刃が私の首筋に触れた瞬間は未だに忘れられるものではない。「そうよ……あれは決して夢なんかではなかったわ……」 その後……日本人として生まれ変わって幸せに暮らしていたのに、突然の事故で私は命を落とし、目覚めたときは再びこの世界だった。恐らく何か大きな力が働き、時間を巻き戻して私は戻されたのではないだろうか?魔術の本を探せば謎が解けるかもしれないと考えたからだ。 もう一つの理由はスヴェンについてだった。何故彼はユダ達の記憶から消えてしまったのか……何故私だけが彼の記憶を持っているのか。それがどうしても知りたかったのだ。「人の記憶を自由に操作出来る魔法でも存在しているのかしら……?」呟きながら、書棚に並べられている本の背表紙を見つめた時……私は自分の背筋が冷たくなるのを感じた。「え……?」書棚に並べられているのは『錬金術』に関する本と、『賢者の石』に関する記述がされている本ばかりだった。アルベルトが教えてくれた書棚は魔術は魔術でも、全て錬金術の本ばかりだったのだ。「ど、どうして……?」回帰前、この城の誰にも自分が錬金術師であることを口にしたことは無かった。城の中でも錬金術を使ったことがないのに……?ひょっとして、アルベルトは私が錬金術師であることを知っている……?その時――「うっ!」突然激しい頭痛が私を襲い、思わず書棚に手をついて頭を押さえた。「え……?」一瞬、蝋燭
last updateLast Updated : 2025-12-07
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第2章 45 忘れられない記憶

 気付けば私は自室のベッドに寝かされていた。「あ……」部屋の中はオレンジ色の夕焼けに照らされていた。「え? 私の部屋……?」身体を起こして辺りを見渡し、ここが自分の部屋のベッドの上であることが分かった。いつの間に部屋に運ばれていたのだろう?「確か図書館で頭痛が起きて意識が無くなって……」そうだ。あの時私の脳裏には身に覚えの無い映像が頭に浮かんだ。カチュアの前で錬金術を行おうとしている自分が……。「ま、まさか私……回帰前にカチュアの前で……」ひょっとして私は身に覚えの無いところで操られていたのだろうか?もし、彼女が人を操る力を持っていたとしたら……?そう考えると怖くなった。背筋が寒くなり、両肩を抱きかかえた時。「ク、クラウディア様……」突然名前を呼ばれた。「え?」振り向くと、開け放たれた扉の前にリーシャが立っていたのだ。「リーシャ……」するとリーシャがベッドに駆け寄って来た。「良かった……クラウディア様。目が覚められたのですね? 本当に……心配しました」「ごめんなさいね。貴女に心配かけさせてしまったようね?」「いいえ、私のことはいいのです。ただクラウディア様に何かあったらどうしようと思って……」リーシャは首を振った。「ところで、一体何があったのかしら? どうして私はベッドの上にいるのかしら?」「はい、国王陛下が本棚の前で倒れているクラウディア様を発見されて、お部屋まで運んで下さったのです」「え? 陛下が!?」その話に驚いてしまった。「はい、そうです。陛下はかなりクラウディア様のことを心配されておりました。暫くの間付き添われていたのですよ?」「そ、そうだったの……?」にわかには信じられない話だった。回帰前、私は自分を顧みてくれないアルベルトの気を引く為にわざと階段から落ちて怪我をしてみせたことがあった。それ以外に仮病を使ったこともあったのに、彼は一度も私を気に掛けたことが無かったからだ。「クラウディア様はとても国王陛下に大切に思われているのですね。安心しました」リーシャは嬉しそうに笑った。「え、ええ。そうね」 返事をしたものの、私はアルベルトに心を許すつもりは無かった。何しろ彼は私を断頭台に送りつけた人物だ。そして鋭い刃が私の首に落ちて来る最後の瞬間までカチュアの肩を抱きよせて、冷たい瞳でじっと
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第2章 46 周囲の意見

 回帰前の私は派手な柄のドレスが好きだった。鮮やかな赤い色のドレスや、オレンジ色のドレス、紫色のドレスなどを好んで着ていた。けれどこの世界で命を落とし、日本人として生まれ変わってからは青や水色のような色を好むようになっていた。それは無意識の内に血の色を連想させるような色が嫌いになったからかもしれない。断頭台で飛び散った血を連想させる色が……。「それにしても、陛下がご用意したドレスの色はどれも同じような色合いのドレスですね。青や水色のような系統が多いように思います」「え?」リーシャに指摘されるまで気付かなかった。確かにクローゼットの中は青系統のドレスばかりが吊り下げられていた。「不思議なものね……」アルベルトは私の好みの色など知っていただろうか?けれど私の疑問を他所に、リーシャが無邪気に尋ねて来た。「クラウディア様、こちらのドレス等いかがですか?」リーシャが取り出したドレスは淡い水色のデイ・ドレスだった――「良くお似合いですよ、クラウディア様」私の髪を両サイドで緩く結び、背中に垂らした金の髪をブラッシングしながらリーシャが声をかけてきた。「そ、そう? でも何だかこのヘアスタイル……若い娘みたいで少し恥ずかしいわね」するとリーシャが目を見開いた。「何を仰っているのですか? クラウディア様はまだ20歳ではありませんか? 当然のヘアスタイルだと思いますけど?」少し唇を尖らせたリーシャは何故か娘の葵を連想させてしまう。「そ、そうね。確かにその通りだわ」外見は回帰前の自分に戻っても、精神だけはどうしても前世の橋本恵を引きずってしまう。「はい、完成です。クラウディア様、とてもお美しいですよ。きっと陛下も喜ばれることです」リーシャが背後から鏡の前の私に語り掛ける。「ありがとう」アルベルトが私の姿を見て喜ぶとは思えないけれども、リーシャの為にお礼を述べた。「あ、後15分でお夕食の時間になりますね。そろそろダイニングルームへ行かれてはいかがですか?」「ええ、そうね。お待たせしてはいけないものね」「どうされますか? どなたか迎えに来られるかもしれませんが……」「いいわ。誰も来ないかもしれないし、1人でダイニングルームへ行くわ」その時。――コンコン扉のノック音が部屋に響いた。「あ、ひょっとするとお迎えかもしれませんよ?」
last updateLast Updated : 2025-12-09
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第2章 47 互いの立場

 あの声は……。 嫌な予感に振り向くと、やはりそこに立っていたのはリシュリー宰相とカチュアだった。「今からどちらへ行かれるのですか? クラウディア様」宰相は両手を後ろ手に組んで、私をじっと見つめている。するとマヌエラが一歩前に進み出て来た。「宰相、何故貴方にクラウディア様がどちらへ行かれたのか、答えなければならないのですか?」「何だと? 私はこの国の宰相だ。常に陛下やクラウディア様の動向を知っておくのも私の務めだ」宰相の語気が強まる。しかし、マヌエラも負けてはいない。「貴方は御自分の立場を過信しておいででは無いでしょうか? クラウディア様はお妃様になられるお方ですよ? 陛下と婚姻を挙げれば宰相の立場より上になられます。それを承知の上での発言なのでしょうか?」「な、何だと!? 一介の侍女のくせに生意気な……!」宰相は苛立ちを隠すことなく、マヌエラを睨みつけた。いけない……! このままではマヌエラの立場が悪いことになってしまう。「待って、マヌエラ。私は……」険悪な2人の間に割って入ろうとした時、それまで無言だったカチュアが突然口を開いた。「リシュリー様、別に良いではありませんか?」「カ、カチュア……しかし、それでは……」宰相はどこか狼狽えた様子を見せている。「クラウディア様は敗戦国の王女様とはいえ、この国のお妃様になられるお方なのですから。いずれ、私達よりも立場が上になるのですから礼は尽くさなければならないと思いませんか?」カチュアの物言いはまるで、今は自分たちの方が立場が上であるかのような言い方に聞こえる。「カチュア様、貴女は……」マヌエラの眉が上がる。やはり、彼女もカチュアの言葉が気になったのだろう。「では、私達は参りましょう。リシュリー様」カチュアはリシュリーを促した。「あ、ああ。そうだったな。今夜は神殿で『聖なる巫女』の歓迎の儀が開かれることになっているからな。待たせては悪い。すぐに参ろう」リシュリーはどこか嫌味を込めた目でこちらを見ると、私達の脇を通り抜けた。そしてその後ろを歩くカチュアが私にだけ聞こえるような囁き声で言った。「お部屋の移動の話……陛下にうまく伝えて下さいね」「!」そして2人は会話をしながら遠ざかって行く。「全く……感じの悪い人達ですね。ここに来たのは絶対にわざとに違いありません。神
last updateLast Updated : 2025-12-10
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第2章 48 2人きりの晩餐会

「では、こちらで陛下がお待ちになっております」白い大きな扉の前でマヌエラは足を止めると、こちらを振り返った。扉の前には2人の衛兵が立っている。「お待ちしておりました」「陛下が中でお待ちです」「ありがとう、マヌエラ。それでは行ってくるわね」私は背後にいるマヌエラを振り返った。「はい、行ってらっしゃいませ」すると1人の衛兵が扉に向かって大きな声を上げた。「クラウディア・シューマッハ様がお見えになりました」すると……。「入れ」室内から凛とした声が響き渡る。今のはアルベルトの声だ。まさか……本当に室内はアルベルト以外誰もいないのだろうか?「どうぞお入り下さい」衛兵に声をかけられ、頷くと私は室内へ足を踏み入れた。「失礼いたします。陛下」部屋に入ると、すぐにアルベルトに頭を下げて挨拶をした。背後では扉が音を立てて閉ざされる。「何、堅苦しい挨拶はいらない。顔を上げてこっちへ来いよ」妙に気さくに声をかけられ、警戒しながら顔を上げて驚いた。てっきり大きなテーブルに2人で向かい合わせに座ると思っていたのに、用意されていたのは妙に距離感が近い丸テーブルだったからだ。「は、はい……」一体アルベルトはどういうつもりでこんなテーブルを用意したのだろう? これではまるでレストランのテーブルのようだ。「失礼いたします……」椅子を引いて着席すると、テーブルの上には全ての皿に銀色のクローシュが被せてあり、燭台の蝋燭の炎がユラユラ反射して光っている。するとアルベルトが私に話しかけてきた。「今夜は給仕も1人もつかない。2人だけで食事を楽しみたかったからな。料理が冷めないようにクローシュを被せるように命じたのさ」「そう……でしたか」一国の王が給仕もつけずに食事を? 信じられない思いで話を聞いて頷く。「それじゃ、早速食事にしようか?」アルベルトが自分の目の前に置かれたトレーのクローシュを外していくのを見て、私も彼にならって蓋を開けた。現われたのは私が好きなハーブを利かせた魚料理だった。「あ……」思わず口から言葉が漏れた。「どうだ? 魚料理……好きだろう?」声をかけられ、ハッとなって顔を上げるとアルベルトが私をじっと見つめている。「え、ええ。好きですが……頂戴いたします」まさか私の為に用意したわけではないだろう。早速魚料理を切り分けて
last updateLast Updated : 2025-12-11
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第2章 49 戸惑い

「俺にお願いか? どんな願いだ? クラウディアの頼みなら出来るだけ聞くぞ?」身を乗り出すアルベルト。え? 俺?アルベルトは自分のことを今、俺と呼んだのだろうか?何故か彼の砕けた態度が行方知れずのスヴェンと重なる。「スヴェン……」スヴェンのことが気がかりで、思わず彼の名前を口にしてしまった。「スヴェン?」するとアルベルトが眉をひそめた。「あ、申し訳ございません。それで話と言うのは……」しかしアルベルトは何故か不機嫌そうにワインに手を伸ばした。「俺と話しているのに別の男のことを考えていたのか?」「え?」「スヴェンというのは男の名だろう? ひょっとしてクラウディアにとって、特別な男だったのか?」不貞腐れたようにワインを口にするアルベルト。私は彼の態度に半ば呆れたように見つめていた。まさかアルベルトがこの私に嫉妬でもしているのだろうか?「何だ? 黙っているということはやはり特別な相手だったようだな?」「い、いえ。そういう訳ではありません。ただ驚いてしまっただけです」これから重大なことを話すのに、彼の機嫌を損ねるわけにはいかない。「驚く? 何に?」「あの、陛下は……私にはあまり関心が無い方だと思っておりましたので」「お前に感心が無いはずあるまい。何しろ俺の妻になるのだから」「そ、そうですよね」頷きながらも私にはアルベルトが何を考えているのか、さっぱり理解できなかった。けれど、少なくとも回帰前よりは私にずっと興味を示しているようだけれども……それはそれで非常に困る。私はアルベルトと円満離婚してヨリックの元へ戻ると決めているのだから。「まぁ、いい。それでスヴェンという男についての話だが……」「え?」何故スヴェンの話が続くのだろう? 確かに彼の行方は気になるけれど、今はカチュアの要件を先に話しておきたいのに。「あの、彼の話は……」「スヴェンとはどんな人物だったんだ?」アルベルトは私の話を遮ってスヴェンの話に持っていく。「スヴェンは……」「うん」私の言葉にうなずき、真剣な眼差しでこちらを見つめているアルベルト。「旅の途中に立ち寄った村にいた青年でした。とても正義感が強くて頼りになる人でした」「……それだけか?」「はい、それだけです」本当はスヴェンについて話したいことはあったけれども、アルベルトの素振りから彼
last updateLast Updated : 2025-12-12
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第2章 50 言えない事情

「何だって? カチュアとは……あのカチュアか?」「はい。そのカチュアさんです」あのカチュアとは一体どういう意味で言っているのだろう? 疑問に思ったが、尋ねるのはやめにした。「あの部屋は俺がお前の為に特別に用意した部屋だ。それなのに何故交換してもらいたいのだ? まさかあの女に脅迫でもされたのか?」「いえ。脅迫されたわけではありませんが……」「なら何故だ? そもそも交換したい理由は一体何だ?」「そ、それは……」理由など言えるはずが無かった。監獄に入れられたユダ達の居場所を知っている理由を宰相に追及された時、カチュアに庇って貰ったからだとは……。思わず俯くと、アルベルトはため息をついた。「何か深い事情があるようだな……。ひょっとしてお前が仲間だと言っていた兵士たちが監獄に捕らえられてしまったことと関係があるのか?」「え?」思わず顔を上げると、アルベルトは面白くなさそうにナイフで料理を切り分けている。「宰相め……俺が不在なのをいいことに、勝手な真似をするとは……。城に戻って報告を受けて驚いた」そしてアルベルトは切り分けた肉料理を口に運んだ。私はその様子を半ば信じられない気持ちで聞いていた。一体何故アルベルトはここまで変わってしまったのだろう?以前の彼はまるで宰相の操り人形のようになっていたのに……。「どうした? 食べないのか? 手が止まっているぞ?」「い、いえ。頂きます……」彼に促され、再び料理を口に運んでいるとアルベルトが語りかけてきた。「今までは戦後の後処理で城を開けがちだったが……ようやく今日で落ち着いた。これからは一緒にいられる時間を増やせる。だから何か困ったことがあれば、いつでも俺に相談しろ」「は、はい」その声はとても穏やかで、私は信じられない気持ちでアルベルトの言葉を聞いていた。これは……現実なのだろうか?「とにかく、部屋の件は駄目だ。あの部屋はお前のものなのだから。断りにくいのなら俺が直接あの女に伝える。だから何も心配することは無い」「ありがとうございます」戸惑いばかりが大きくて、他に言葉が見つからなかった。「よし、それならいい。それよりも体調の方はどうだ? 図書館で倒れている姿を見た時は本当に心配だった。一体何があったんだ?」「い、いえ。特に何もありません。ただ少し、疲労がたまっていたようです」まさか見覚
last updateLast Updated : 2025-12-13
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第2章 51 アルベルトからの贈り物

 私には回帰前も今も、所々自分の記憶が抜け落ちている期間がある。 その理由が何故なのか……当然記憶が抜け落ちている私には知る由も無かった。けれど、アルベルトが人質として『レノスト』国に囚われ、短い期間ではあったものの2人で同じ時間を過ごした時のことは今も覚えている。何故なら、まだ幼かった私はアルベルトと出会って初めての恋をしたからだ。 幼さ故、何故彼が城に囚われていたのか私は知らなかったけれど彼と一緒に過ごした時間はとても楽しかった。だからこそ、突然アルベルトがいなくなってしまった時は酷く悲しく……暫くの間は嘆き暮らしていた記憶が残されている。でもそれは、もう過去のこと。処刑されて回帰した私にとってはどうでも良いことであった。今の私はアルベルトに対して少しも恋心を抱いてはいない。あるのは……猜疑心のみだった。「どうした? クラウディア。そんなに俺の顔を見つめて……何かついているか?」アルベルトが首を傾げて私に尋ねる。「い、いえ。何でもありません。陛下を不躾に見つめてしまい、申し訳ございませんでした」いけない、ついアルベルトに対する疑念から凝視してしまった。「陛下……か」アルベルトはため息をついた。「どうかなさいましたか?」「いや、昔のように名前で呼んで貰えたらと思ったのさ」「名前……で、ですか?」「ああ、そうだ」私はまたしてもその言葉に耳を疑ってしまった。回帰前、アルベルトは私に名前を呼ばれることを拒んだのだ。『お前のような悪女に私の名を呼ぶ資格はない』と――「では……正式に婚姻した際にはお名前で呼ばせて頂きます。それでよろしいでしょうか?」私は断頭台で私を死へ追いやった宰相やアルベルト、カチュアを恨みながら断頭台で命を散らせた。その時の無念の思いが、この国に来てから強まってしまったようだ。「そうか……? まぁ、お前がそう言うなら無理強いするのはやめておこう」アルベルトはたいして気にした素振りも見せずに、頷いた。「ありがとうございます」お礼を述べながら、心の中でため息をついた。どうしても回帰前の記憶に翻弄されそうになってしまう。本当はもっと上手に立ち回らなければならないのに……。「ところで、クラウディア。実は今夜人払いをして2人きりの晩餐会にお前を呼んだのには、理由があるんだ」「理由……ですか?」一体ど
last updateLast Updated : 2025-12-14
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第2章 52 アルベルトの話  

「どうだ? 美しいだろう? 気に入ったか?」アルベルトが尋ねてくる。「は、はい……とても美しいですね……」返事をしながらも、私は酷く動揺していた。鈍い光を放つ賢者の石は、赤い宝石のようにも見える。けれど、私には分かる。これが賢者の石を加工して作られたネックレスであることが。 何故アルベルトはこの石を持っているのだろう?「陛下、このネックレスは一体……?」何とか平静を装って、尋ねてみることにした。「この石、一見宝石のように見えるかもしれないがそうじゃない。不思議な魔力を帯びた魔石だ。希少な魔石を砕いて加工して作られている」アルベルトが声のトーンを落として説明する。「魔石……」もしかすると、アルベルトはこの石が賢者の石ということに気付いていないのだろうか?そもそも、賢者の石が何故この国にあるのかが不思議だった。「このネックレス、肌身離さず身に着けていろ。出来れば人目に触れないようにな」「え……?」普通アクセサリーというものは人の目に留まるように身につけるはずなのに、何故そんなことを言うのだろう? 更にアルベルトの話は続く。「不思議そうな顔をしているな? だが、この石はお前を守ってくれるはずだ。実は俺も身に着けている」アルベルトはクビの部分に触れると、金属のチェーンを服の中から引っ張り出した。「あ……」揺れるネックレスのチャーム部分には、同じ賢者の石の欠片が埋め込まれている。「これを肌身離さず身に着けていれば……お前を守ってくれるはずだ」アルベルトは再び、ネックレスを服の中にしまった。「守る……とは、一体どういう意味でしょうか?」「今に分かることだ。そのネックレスを身に着けていればお前は安全だ。だが、誰にも知られないようしろよ?」アルベルトは肝心なことは答えてくれなかった。「分かりました」「なら食事の続きをしよう。今夜は邪魔な宰相たちがここへ来ることは無いはずだからな」邪魔な宰相たち……。今、はっきり彼は言った。『邪魔な宰相たち』と。口には出さないが、その中には恐らくカチュアが含まれているのだろう。宰相たちの話なら尋ねても問題ないだろうか?「陛下、お尋ねしたいことがあります」「何だ?」ワイングラスを傾けながらアルベルトがこちらを見た。「リシュリー宰相から聞いたのですが……今夜は神殿で『聖なる巫女』の歓
last updateLast Updated : 2025-12-15
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第2章 53 アルベルトからの質問

 宰相が神官の家柄出身だった……。アルベルトの話から、回帰前の私は本当に何も知らなかったのだということが改めて思い知らされた。この国に嫁ぐ前の私は既に『エデル』で悪評が広がっていた。今にして思えば、旅の道中で私は試されていたのだろう。アルベルトの妻となるのにふさわしい人間かどうか。 そこで『レノスト王国』の領地に立ち寄らせ、敗戦で困っている領民達を私がどのような態度で接するのかを試したのだ。次期王妃として、相応しい行動を取れるかどうかを……。 けれど私は最低な態度を取ってしまった。戦争で困っていた領民達に手を差し伸べるどころか、見捨てて逃げてしまったのだ。その酷い対応はすぐさまアルベルトの耳に届き……『エデル』に到着する頃には既に私はこの国の全ての人々から嫌われる立場になっていた。 だから私はアルベルトや城の者達から、そして『エデル』の国民から憎まれた挙句に処刑されてしまったのだろうか……?「どうした? クラウディア」不意に名前を呼ばれ、顔を上げた。「気分でも悪いのか? 先ほどから俯いたままで食事の手も止まっているようだが?」いけない。アルベルトの前だというのに、つい考え事をしてしまっていた。「いえ。何でもありません。ただ今日は色々あって……少し疲れてしまっただけですから」「そうだったな。まさか宰相がクラウディアをここまで連れて来てくれた彼らをあんな監獄に入れるとは……。知らせを聞いた時は本当に驚いた。おまけに助け出したのがお前だったという事実にもな」 そしてアルベルトはじっと何か言いたげな目で見つめてくる。その目を見た瞬間、私の背筋に冷たいものが走る。どうしよう……宰相のようにアルベルトも私が何故ユダ達の居場所を知っていたのか追及してくるのではないだろうか? その時は一体何と答えれば良いのだろう? 自分の隠している事実を誰にも知られるわけにはいかない。「それにしても良く居場所が分かったな? 知らせを受けた時、すぐに彼らを監獄から出すように命じたが既にお前が彼らを助けていたのだから」 「はい、そうです……」緊張しながら、次のアルベルトの言葉を待つが……彼は予想外の話を口にした。「そうか……。俺の力を借りようともせずに危険を顧みず自ら動いて彼らを助け出したということだよな? それ程までに彼等はお前にとって大切な存在だった
last updateLast Updated : 2025-12-17
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