All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 181 - Chapter 190

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第2章 54 アルベルトへの頼み

「は、はい。そうですけど。あの、もしや陛下はユダのことを御存知なのですか?」確かユダは兵士でも階級はそう高くは無かった。騎士でもない、単なる兵士をアルベルトが知っているとは思えなかった。しかしアルベルトは私の声が聞こえていないのか、黙ってワインを飲んでいる。「陛下?」もう一度声をかけると、アルベルトは空になったワイングラスをテーブルの上に置いた。「知っている。一応クラウディアを迎えに行く人員の名簿は確認しているからな。人員の半分は俺の配下の兵士達で残りは宰相が選んだのだ」何故か面白くなさそうな口調のアルベルト。やはり半数は宰相の息のかかった兵士。けれど彼らは宰相の思惑通りにならなかった。旅の初めは全員私の敵だったはず。それがいつしか旅を続ける内に仲間になっていた。恐らく宰相はそのことが気に入らず、全員監獄に入れたのかもしれない。「そうだったのですね。でしたら……」そこで私は口を閉ざした。ひょっとして、ユダは宰相の手の者だったのだろうか? だからアルベルトは彼の名を口にした時、険しい顔をしたのかもしれない「俺はお前にこの城の近衛兵を護衛につけようと考えていたのだがな?」「そうなのですか? ですが、私は旅を共にした彼が適任だと思うのですが」回帰前、この城の人々は全員が敵だった。ただ1人、リーシャを除いて。今、私がリーシャの次に信用できるのはユダ。本当はスヴェンがいれば彼にも頼むことが出来たのに。「ところで、お前から見てユダと言う人物は腕は立つのか? その者は騎士ではないのだろう?」「ええ、騎士ではありませんでした。私は素人ですから詳しいことは分かりませんが、腕は立つのではないかと思います。それに勇敢な人です」大体、私の出迎えに来た使者達は騎士など1人もいなかったのに今更アルベルトは何を言うのだろう?けれど、そんなことは彼の前で口に出来るはずもない。「そうか、お前から見るとユダは腕が立って勇敢な男なのか」何故かアルベルトはユダの話をするたびに機嫌が悪くなってくる気がする。ユダは宰相が選んだ人物だったのだろうか?どうしよう……。やはり、ユダのことをアルベルトに尋ねた方が良いだろうか?「あ、あの……陛下」「いいだろう」不意にアルベルトが頷いた。「え? それでは……」「他でも無いクラウディアの望みだからな。ユダをお前
last updateLast Updated : 2025-12-18
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第2章 55 アルベルトの気遣い

 2人だけの食事は静かに終わった。「陛下、大変美味しいお食事でした。どうもありがとうございます」私は素直に彼に感謝の意を述べた。思えば、回帰前に私に出されていた食事は今よりも質素だった気がする。けれどその時の私は『エデル』で王族に出される料理の基準が分からなかったし、国で出されていた料理と大差が無かったので気づかなかったのだ。「そうか? 喜んでくれて良かった。なら、明日は朝食も一緒に食べよう。流石に昼は無理かもしれないが……」「え?」アルベルトの言葉に驚き、うっかり言葉を漏らしてしまった。まさか朝から彼と一緒に食事を取らなければならないのだろうか?「どうした? そんなに驚いた表情をして……」訝しげにこちらを見るアルベルトに慌てて取り繕った。「い、いえ。陛下は戦後処理でお忙しいお方なのに……わざわざ私の為に朝食の時間を割いて下さることに少し驚いただけです」「何だ? それくらいのことか。別に気にすることはないだろう? 俺たちは夫婦になるのだから」妙に嬉しそうな笑みを浮かべるアルベルト。ひょっとして彼は少し酔っているのだろうか?「そうですね……。では、明日もどうぞよろしくお願いいたします。それでは失礼いたします」椅子から立ち上がりかけた時、アルベルトが声をかけてきた。「待て、クラウディア。一人で部屋に戻るつもりか?」「はい……そうですが?」すると眉をしかめてアルベルトが立ち上がった。「俺が部屋まで送ろう」「え? ですが……」いくらなんでも国王であるアルベルトに何度も部屋まで送って貰うわけにはいかない。「駄目だ、一人で部屋に戻すわけにはいかない」妙に真剣な目で私を見つめるアルベルト。「はい、ではよろしくお願い致します」「ああ」そして私達は一緒にダイニングルームを後にした。  時折、廊下で使用人たちにすれ違ったかが彼らの反応は皆同じだった。一瞬私に蔑みの目を向けると、頭を下げる。アルベルトはそのことに気づいているのかいないのか、無言だった。 少しの間、私達は在るき続け……やがて部屋の前に到着するとアルベルトが振り向いた。「着いたぞ」「はい、ありがとうございます」部屋のノブに触れようとした時、アルベルトが声をかけてきた。「クラウディア」「はい」「いいか? 先程のネックレスだが……寝る時も肌見放さず身につけ
last updateLast Updated : 2025-12-19
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第2章 56 複雑な思い

 部屋に入り、壁掛け時計を見ると20時を少し過ぎたところだった。「お風呂にでも入ろうかしら」そこで室内にあるバスルームへ向った。中に入り、コックを捻ってバスタブにお湯を入れ始めると着替えを取りに室内へ戻った。「ふ~……いいお湯……」浴槽に浸かりながら天井を見上げる。「王女でありながら、1人で入浴するなんて変に思われるかもしれないわね」思わず呟きが漏れる。かつての私だったら考えられないことだった。入浴する際は、必ず城のメイド達を呼びつけて身体や髪を洗わせて着替え迄手伝わせていた。それは嫁いで来てからも同じだった。自分がこの城の者達からどれほど嫌われているか知っていたにも拘わらず。けれど、今は前世の橋本恵としての記憶が勝っている。誰かの手を借りて入浴などあり得ない話だった。「やっぱり1人で入浴するのが一番落ち着くわね。檜の入浴剤があれば良かったのに」 私は檜の入浴剤が大好きだった。息子の倫も私と同じで檜の入浴剤が好きだったけれども、葵はラベンダーやジャスミンといったハーブ系の入浴剤を好んでいた。そこで日替わりで入浴剤を変えたお風呂に入っていたことが思い出される。けれど、この世界には入浴剤というものは存在しない。「もしも、入浴剤を作ればこの世界でも流行するかしら……」入浴剤を『レノスト』国の領民達に作らせて、流行すれば彼らの生活は潤うだろう。そうすれば、敗戦して貧しくなってしまった領民達を救うことが出来るし、城の人々の暮らしぶりも改善させることが出来るかもしれない。「明日、朝食の席でアルベルトに相談してみようかしら……」どうせ2人で面と向き合って食事をしても特に会話があるとは思えない。入浴剤の話をすれば、アルベルトはどんな顔をするだろう? 何を妙なことを口にしていると思われるかもしれない。「別にアルベルトにどう思われようが構う事は無いわね」そして窓から見える夜空を見上げながら、久しぶりに懐かしい日本の家族の思い出に浸った――****「いいお湯だったわ……」夜着に着替えてバスルームから戻ると、驚いたことに部屋の中にはリーシャの姿があった。「リ、リーシャ。どうしたの? 驚いたわ。部屋の中にいるなんて」「はい。とっくに夕食から戻られているはずなのに、いくらノックをしてもお返事が無かったので。てっきり、何かあったのでは
last updateLast Updated : 2025-12-22
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第2章 57 小さな違和感

「クラウディア様、陛下とのお食事はいかがでしたか?」ベッドメイクをしながらリーシャが尋ねてきた。「そうね。私の好きな魚料理が出てきたわ。とても美味しかったわね」するとリーシャはこちらを振り向いた。その様子はどこか呆れたように見える。「私はそのようなことを尋ねているわけではありません。陛下とのお食事時間は楽しかったかどうか伺っているのですけど?」「そ、そうだったの?」まさかアルベルトと過ごした時間の感想を尋ねられるとは思いもしなかった。「はい、そうです。それでどうでしたか?」「ええ、有意義な時間を過ごすことが出来たわ」何しろアルベルトからは賢者の石が埋め込まれたネックレスを貰うことが出来たし、専属護衛兵士にユダを指名することが出来たのだから。「それは良かったですね。きっとお2人は仲睦まじい結婚生活になること間違いないですね」リーシャはどうやら私の言葉を勘違いして解釈しているようだった。私とアルベルトが仲睦まじく?確かに回帰前のアルベルトと今の彼は大違いだ。けれど、私の中には彼によって処刑された記憶が残っている。今はカチュアのことを敵視しているように見えるけれども、この先どうなるか分からない。何しろ彼女は人の心を掴むのがとても上手な女性だったから。「クラウディア様? どうかされましたか?」不意にリーシャに声をかけられて、現実に引き戻された。「いえ、何でもないの。ごめんなさいね、ぼんやりして」「やはり、お疲れなのですよ。ベッドメイクも終わりましたから今夜は早くお休みになって下さい」「そうね。そうさせてもらうわ」「クラウディア様、そのネックレスですが眠るときは危ないですので、外しておいた方がいいかもしれませんよ」「ええ。分かったわ」「はい、それでは灯りを消しますね。お休みなさいませ、クラウディア様」「おやすみなさい」リーシャはサイドテーブルに置かれたランプだけ灯りを残すと、全ての部屋の灯りを消してくれた。「それでは失礼いたします」「ええ、貴女も早く休んでね」「はい、ありがとうございます」リーシャは頭を下げると、部屋を出て行き……扉にカチリと鍵がかかる音が部屋に響いた。その音を聞いた時、ふと疑問に思った。「あら……? そう言えばリーシャはこの部屋の鍵を持っていたのかしら?」でも、きっとリーシャは私の専属メイド
last updateLast Updated : 2025-12-23
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第2章 58 夢遊病の如く

 私達は家族4人で、夫の運転する車で温泉旅行に向かっている。助手席に座っていた私は車の揺れが気持ちよく、いつの間にか眠りに就いてしまっていた。『母さん、起きろよ。外の景色が綺麗だよ』倫の声が聞こえている。『倫、やめなよ。お母さんは皆の旅行の準備で寝たの遅かったんだから。ホテルに着くまで寝かせておいてあげなよ』フフ……葵。大分私を気遣えるようになってきたわね……。『ちぇっ。折角綺麗な紅葉だったから見せてやろうと思ったのに』『まぁそう言うな、倫。母さんは普段からパートの仕事に家事を頑張っているんだから。元々今回の旅行だって母さんを休ませる為に企画したようなものだからな』あなたったら……企画って……ここは会社じゃないのよ?『う~ん……でも、そろそろ起きた方がいいな……。恵、頼む。どうか早く目を覚ましてくれ。このままだと……大変なことに……』え? 何? あなた……。何をそんなに切羽詰まっているの?一体何が大変なの……?****バチンッ!突然右手の平に痛みが走り、私は目を開けた。え……?気付けば私は月夜に照らされた肌寒い森の中を歩いていた。痛みを感じた原因は、どうやら茂みの枝が手の平に当たったのが原因だったようだ。だけど……何故私はこんなところにを歩いているのだろう? ここは恐らく監獄へ続く森。獰猛な番犬が放たれている危険な場所だというのに。こんな恐ろしい森を引き返したくて堪らないのに私の意思に反して身体は勝手に前へ前へと歩き続ける。その事実に気付いた時、私は激しい恐怖を感じた。しかも声を出そうにも出すことが出来ない。「!!」その時、私は闇夜に光る無数の目に気付いた。そして風に乗って低い唸り声が聞こえてくる。番犬だ……!!背筋に冷たい汗が流れて来るのを感じた。番犬は低い唸り声を上げながら私を威嚇している。あの番犬たちは、自分たちのテリトリーに入った途端に一斉に侵入者に襲い掛かるように訓練されている恐ろしい番犬だ。その時、アルベルトの言葉が脳裏に蘇る。『これを肌身離さず身に着けていれば……お前を守ってくれるはずだ』「う……」私は勝手に前に歩き出す自分自身に抵抗しながら、鉛のように思い右腕を必死に動かし、ポケットの中に入れるとネックレスに手が触れた。この中にはアルベルトがくれた賢者の石のネックレスが入っている。危ない
last updateLast Updated : 2025-12-24
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第2章 59 混濁する意識

 精神的ショックのせいか、それとも旅の疲れがたまっていたせいなのかは分からなかったが、あの夜から私はベッドに臥してまった。 時間の感覚も分からず混濁する意識の中、見知った人達が私のもとへやってきた。アルベルトは勿論、侍女長のメラニーやマヌエラ、新しくメイドになったエバ。そして……。「申し訳ございません……クラウディア様……。私は何てことを……」涙で濡れたリーシャがいた。彼女は私の元を訪れるときはいつも誰かと一緒だった。それはまるで監視されているようだった。そして気付けばいつもそばにいるのはマヌエラとエバの姿で、リーシャの姿はそこになかった。「クラウディア……」 朦朧とする意識の中、名前を呼ばれて薄目を開ければそこにはアルベルトの姿があった。彼は心配そうな顔で私を見つめている。「クラウディア。お前は無理に催眠暗示を解こうとした為に身体に負担がかかり、後遺症にかかっているんだ」 アルベルトは私に声が届いているのかも定かでは無いのに状況を説明している。「リーシャは何者かによって、深い催眠暗示に掛けられていた。お前を陥れる為に操られていたのだ」え……? リーシャが……? それで、もしかしてネックレスを外すように……?「もう彼女の暗示は解けているが、今は謹慎処分中だ。お前の体調が回復してから彼女の処遇はこれから考える」そんな、リーシャを私から離さないで……。「犯人の目星はついているが……証拠が無い。だが必ずいつか証拠を掴み……罰を下す。俺はお前を……」そこから先はもう何を言っているか分からなかった。再び私の意識が遠くなってきたからだ。アルベルト……。 何故そんなに私を……?貴方は私を処刑したのに……何故今更……。そして最後に耳に残るあの声。『おい!? しっかりしろ!! クラウディアッ!!』あれは……。そして私の意識は闇に沈んだ――****「う……」夢も見ない深い眠りから、急に私は目が覚めた。何故なら部屋の外で大きな声が聞こえていたからだ。『頼む! どうか……クラウディア様に会わせてくれ!』『いいえ! なりません! 陛下の許可なく会わせるわけには参りません!』『だが、俺はクラウディア様より直々に専属護衛兵士に任命されているんだ! 頼む!』「え……? ユ……ダ……?」気付けば私の口から言葉が出ていた。いつの間に
last updateLast Updated : 2025-12-25
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第2章 60 ユダとの会話

 扉の外で2人の会話が聞こえる。「クラウディア様にお目通りできる許可をいただきました。ですが、つい先ほど目を覚まされたばかりですので手短にお願いします」「すまない。感謝する」そしてユダが部屋の中に入って来た。「クラウディア様……」訓練を抜け出してきたのだろうか? ユダの服装は旅で見慣れた茶色の長衣になめし皮の胸当て姿のままだった。「ユダ……久しぶり、とでも言ったほうがいいのかしら?」自分にはあの夜からどれほどの時間が経過していたのか分からなかったので小首をかしげた。「クラウディア様、本当に……とても心配しました。もう、目が覚めないのではないかと思いました」ユダは部屋の中程迄入ってくると何故か立ち止まってしまった。「どうしたの? ユダ。何故そこで止まるの? 話が遠いから、もう少し近くに来てもらえないかしら?」「もう貴女は次期王妃になられるお方ですから、自分のような一介の兵士がおいそれと近付いてはいけない存在になられましたから……」ユダは悲しそうな顔で私を見つめている。「そう? だけど私は皆と旅をしていたときと何も変わっていないし、あなた達は大切な仲間だと思っているのよ? 私たちは旅先で様々な困難に立ち向かった仲じゃない」「そんな風に仰っていただけるなんて、光栄です」相変わらずユダの表情は硬い。「だから私は貴方を専属護衛兵に指名したのよ。信頼出来る人物だと思ったから」「ありがとうございます。クラウディア様に指名していただいたと知らされた時はとても嬉しかったです。訓練を受けて一刻も早く騎士になり、二度とクラウディア様がこのような危険な目に遭わないようにお守りいたします」「フフ……頼もしい言葉ね。期待しているわ。ところでユダ、貴方は私に何が起こったか聞いてる? まだ誰からも事情を聞いていないのよ」「はい、あまり詳しくは知りませんが……え? ひょっとして事情を聞く相手は俺が初めてですか?」「ええ、そうね。一応そうなるわ」「そうですか……。それでは俺がクラウディア様にとって初めての……」何故かそこで口元に笑みを浮かべるユダ。「ユダ、どうかしたの?」「い、いえ、何でもありません! それでは説明させていただきます。あれは今から5日前のことでした。夜中に宮殿内を巡回していた近衛兵がクラウディア様のお部屋の扉が開いていたことに気付いたそ
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第2章 61 あの人に似た彼

 ユダはまさかアルベルトがやって来るとは思わなかったのか、慌てた様子で壁際に下がると片膝をついて深々と頭を下げた。  アルベルトはユダの方を一瞬見ると、すぐに向き直り、こちらへ向かって近づいて来た。そこで私は謝罪の言葉を述べた。「陛下。ご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ございませんでした」そして頭を下げた。すると何故かアルベルトがため息をついた。「……全く……詫びなどいらない。クラウディア。顔を上げろ」「はい」言われて顔を上げると、アルベルトは更に私のすぐ傍までやってきた。「それにしても良かった。やっと目を覚ましてくれたんだな? 侍女から話を聞いて慌てて会いにやって来たのだが……」そして再びユダに目を向けた。「まさか、俺の前に先客がいたとはな」その言葉に俯いていたユダがビクリとする。「陛下、ユダは……」何故かユダに対する敵意を感じられたので、アルベルトに声をかけるも途中で遮られてしまった。「おい、そこの兵士」「は、はい!」そのままの姿勢でユダが返事をする。「いつまでそこにいる? その恰好……訓練の最中で抜け出してきたのだろう?」「そ、そうです……」「ならさっさと戻れ。騎士を目指しているのだろう?」「はい! 失礼いたします!」ユダは立ち上がり、敬礼すると足早に部屋を出て行った。立ち去って行くユダの姿を何故かアルベルトは凝視している。バタン……扉が閉ざされ、部屋の中に私とアルベルトの2人きりになると彼は私の方を向き直った。「クラウディア」「はい」「一体これはどういうことだ?」「え? どういうこと……とは?」アルベルトの言葉の意味が分からない。「何故、俺よりも先にあいつがこの部屋に来ていたんだ? 真っ先に会うべき存在は奴ではなく、俺だろう?」何故かその声には苛立ちが含まれている。然も話し方もどこかぞんざいだ。「え? それは私が目覚めた時に、既に部屋の前にユダが会いに来ていたからです」「ユダ……か。全く、あいつはいつもいつも……」アルベルトが小声で小さく呟いた。その物言いが引っかかる。何故だろう? その口ぶりはまるでアルベルトがユダのことを知っているようにも聞こえてしまう。「あの、アルベルト様」「何だ?」「ひょっとしてユダのことを御存知なのですか?」「え!? 何故そう思うんだ?」妙にアルベルト
last updateLast Updated : 2025-12-27
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第2章 62 指輪 

「とにかく、今はまだ休んでいろ。何しろ5日間も意識が無かったのだから急に起き上がったりしないほうがいいだろう。それでは俺はもう行くよ。仕事が残っているからな」「あの、陛下」アルベルトが立ち去ろうとしたので、声をかけた。「どうした?」「リーシャはどうしたのでしょう? 目が覚めた時、側にいなかったのですが」「リーシャか……」「はい。あの子は私が国から連れて来た大切なメイドです。何故今ここにいないのですか?」側にいたメイドがリーシャではなく、エバだというのが気になった。「あのメイドは今謹慎処分を受けている」「謹慎処分……? 何故ですか?」「そうか……やはり覚えていないか」アルベルトがためいきをついた。「一体何のことでしょうか?」「いや、リーシャはお前を貶めるように何者かによって催眠暗示をかけられていたのだ」「リーシャが……ですか?」まさか、また身体をのっとられてしまったのだろうか?「そうだ。その顔……何か心当たりがありそうだな?」「いえ、心当たりは特にありません」余計なことは話さないでおこう。「リーシャが証言した。お前にネックレスを外すように提案したのは彼女だそうだな」突然アルベルトの口調が変わった。何故か怒っているように感じる。「はい、そうです。ですが……」しかし、アルベルトは私の言葉を遮った。「何故外したんだ? 肌身離さずつけておくように言っただろう?」「はい、申し訳ございません」 アルベルトはかなり苛立っている。彼の機嫌を損ねるわけにはいかなかったので、素直に謝ることにした。「クラウディア……。この際だから本当のことを言おう。お前は敗戦国の姫だ。この国に一方的に戦争を仕掛けた『レノスト』国の生き残りの王族だ。お前に戦争責任は一切無いが、それでもよく思わない人物が大勢いる。自分だってその事には気付いているのだろう?」「はい……そうです」「この国や、城の者達を信用できない気持ちは分かるが……せめて俺のことは信用してもらえないか?」不意にアルベルトの声の調子が変わった。「え?」驚いてアルベルトを見ると、少し悲し気な顔で私を見ている。「陛下……?」「お前はリーシャから夜寝るときにネックレスは外した方が良いと言われたのだろう?」「何故それを……?」「彼女がそう、証言した。何者によって催眠暗示を掛けられたの
last updateLast Updated : 2025-12-28
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第2章 63 今更言われても

 扉が閉ざされ、1人になった。 回帰前とは大違いの彼の態度にどう接すればいいのか、もう私には分からなくなっていた。 前々回の生でクラウディアとして生きていた頃はアルベルトから婚約指輪どころか結婚指輪すらはめてもらったことはない。 それを婚約指輪だなんて……。 左手の薬指をじっと見つめた。アルベルトにこの指輪をはめて貰った時、私は日本人だった頃の……自分の結婚式を思い出してしまった。彼は真剣な眼差しで、私に結婚指輪をはめてくれた。「あなた……」 会いたい。子供たちに、そしてあの人に。この世界は私にとって安心出来る居場所が無い。常に周囲を警戒しなければ生きてはいけない。 橋本恵として、生きていた頃は平凡だけど幸せに暮らせていたのに。  ふと、先ほどのアルベルトの言葉が耳に蘇ってくる。『この国や、城の者達を信用できない気持ちは分かるが……せめて俺のことは信用してもらえないか?』 だけど、やはり今の私にはまだアルベルトを信用することが出来ない。何しろ私は彼の手によって処刑されてしまったのだから。彼にとっては初めての世界であり、私を処刑した記憶など残っていない。けれども私にとっては2度目の世界。 あれだけの仕打ちをされて、信用なんて出来るはずも無かった。 それにカチュア。 彼女は『聖なる巫女』と呼ばれるだけのことはあり、人の心を掴むのがうまかった。私が完全に孤立し、皆から忌み嫌われたのもカチュアの差し金だったのかもしない。 と言う事は、今は私の味方に思われるようなアルベルトもいつ何時態度が豹変するのか分かったものでは無いのだから。「やっぱり、アルベルトに心を許すわけにはいかないわ……」 その時――扉がノックされ、声をかけられた。『クラウディア様、起きていらっしゃいますか?』その声は侍女のマヌエラだった。「ええ、いいわよ」すぐに扉が開かれ、マヌエラが室内に入って来た。そして背後には……。「ク、クラウディア様……」今にも泣きそうなリーシャが立っていた。「陛下から彼女をクラウディア様の元に連れてくるように言われて参りました」「ありがとう、マヌエラ。リーシャを連れて来てくれて」思わず笑みを浮かべてマヌエラにお礼を述べた。「い、いえ。私は陛下の言いつけ通りにしただけですので……。それでは一度下がらせていただきます」「ええ
last updateLast Updated : 2025-12-29
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