All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 11 - Chapter 20

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第1章 9 怒りの矛先を逆手に…

 声が聞こえて振り向くと、教会の前にはこの村の住民と思われる10名ほどの人々が集まっていた。全員が痩せた身体にみすぼらしい身なりをしており、何処か疲れ切った表情を浮かべていた。そしてこの村の中心人物であろうと思しき高齢の女性が険しい顔でこちらを睨みつけている。「誰でしょうか……あのお婆さんは」リーシャは小声で私に問いかけてきた。「あの女性は恐らくこの村の長老か、村長だと思うわ」私も小声でそっと返事をした。すると私達の態度が気に入らなかったのか、更に女性は声を荒らげた。「質問に答えるんだよ! あんたたちは何者なんだい!? あんなところに兵士たちまで連れてきて……また私たちの村に略奪でもしにきたのかい? 言っておくがね……この村にはもう何にも残っていないんだよ!」その女性は私達を睨みつけながら怒鳴りつけているが……恐らく私達が馬車の前に立っていたからなのかもしれない。『エデル』の兵士たちは建物の陰に隠れるように荷馬車の前に立っていたので私が一番目立ったのであろう。すると先程私に嫌味を言ってきた兵士が進み出て来ると村人たちに声をかけた。「皆の者、よく聞け! ここにいる女性は『クラウディア・シューマッハ』様だ。何とこちらの御方は先の戦争で負けてしまった『レノスト』王国の王女様であらせられるのだ。クラウディア様は『エデル』国へ嫁ぐ為に旅を続けている最中で、旅の途中にこの村に我等を立ち寄らせたのである」私は立ち寄らせてなどいない。彼らが勝手にこの村を休憩地点と決めたのだ。けれど遭えて私は口を閉ざし、成り行きを見守った。すると兵士の言葉に村人たちがざわついた。「何だって? あの女が……『レノスト』王国の王女?」「戦争を起こして、我等を苦しめた……?」「一体何しにここへ来たっていうんだ?」「でも、本当に王女なのか? その割には随分みすぼらしい身なりじゃないか?」その言葉が私の耳に飛び込んできた。そう……この反応だ。私はこの言葉を待っていたのだ。そこで私は一歩前に進み出ると声を張り上げた。「はい、その通りです。この様なみすぼらしい身なりをしてはおりますが、私は紛れもない『レノスト』王国の姫であるクラウディア・シューマッハです! 勝戦国となった『エデル』王国の人質妻として嫁入りする道中に、こちらの村に立ち寄らせていただきました!」人質妻
last updateLast Updated : 2025-07-05
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第1章 10 『アムル』の村での贖罪

 私の言葉にその場が一瞬で静まり返った。『アムル』の村人たちは明らかに不審な目を私に向けてくるし、『エデル』の兵士たちは唖然とした表情を浮かべている。「クラウディア様……贖罪って……」背後に立っているリーシャが怯えた様子で私に声をかけてきたその時。「へ~面白いじゃないか、姫さん。一体俺たちにどんな贖罪をしてくれるって言うんだい?」回帰前には見たことが無い、黒髪に青みがかかった青年が前に進み出てきた。「スヴェン」この村の長老と思しき女性が青年に声をかける。「本当に贖罪の為にこの村に立ち寄ったって言うなら、俺たちにそれなりのことをしてくれるんだろうな?まさか姫さんともあろうものが、ただ謝罪する為に立ち寄ったなんて、ふざけたことは当然言わないよなぁ?」スヴェンと呼ばれた若者が挑発するような目で私を見た。「ええ、勿論です。謝罪の言葉だけではお腹は満たされませんから」「え……?」スヴェンの目に戸惑いの色が浮かぶ。「それでは村の皆さん。今からあの馬車の荷物を下ろすのを手伝っていただけませんか?」私はエデルの使者と兵士たちの真後ろにある先頭の荷馬車を指さした。「え!?」「な、何だって!?」「馬車って……この馬車のことか!?」驚いたのは使者と兵士たちだ。彼らは自分たちが馬車に何を積んだのか、何も知らない。恐らく積まれた荷物は全て私のドレスやアクセサリーの類だと思っていたに違いない。現に回帰前の私が馬車に積ませたのはドレスにアクセサリーばかりだった。そして『アムル』の村に立ち寄った際、飢えた村人たちに馬車の荷物を荒らされて中身が全てドレスにアクセサリーだということを知った村人たちは私に激怒したのだ。食糧難で苦しむ我らに何もせず、贅沢品に溺れる悪女とののしられたのだから。「おい、本当に俺たちにあの荷馬車の荷物を降ろさせようっていうのか? あの荷物は姫さんの大切な私物が入っているんじゃないのか?」スヴェンが尋ねてきた。「ええ、本当です。かなりの量の荷物が入っているので、皆さんで手分けして運び出してもらいたいのです」「へぇ~姫さん。中々面白いことを言うじゃないか?」ニヤリと笑うスヴェン。「そう? ありがとう。それより早く荷物を出してくれる?」「ああ、いいぜ。つまり……あの荷馬車の荷物が俺たちへの贖罪の品ってことだろう?」「ええ、
last updateLast Updated : 2025-07-06
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第1章 11 『アムル』の村と和解

「おい、姫さん。本当にこの中に入っているのは、あんたのドレスや宝石の類じゃないっていうのか?」スヴェンが疑わし気な目で私を見た。「ええ、そうです」その言葉に彼の周囲にいた村人たちが一斉にざわめいた。村人たちだけではない。『エデル』の兵士たちも驚いた様子で私を見ていた。けれど、彼らが驚くのは無理もない。何しろ村人たちの足元に置かれたのは全て衣類を収納する為のチェストやジュエリーボックスだからである。『エデル』の者達の目を誤魔化す為に、あえて私はこれらの箱の中に村人達に配る食料をいれたのだった。勿論匂いが外に漏れない工夫も怠らなかった。「さぁ、皆さん。箱の中を開けてみて下さい!」私の言葉に村人たちはこぞって次々と箱の蓋を開けていき、あちこちで歓声が湧き上がった。「すごい! これは干し肉だ!」「こっちには小麦粉が入ってるわ!」「干し魚まであるぞ!」「野菜の酢漬けまである!」「あ! これはハーブだ!」「ドライフルーツにナッツよ!」私が運んできた食料を開けて喜ぶ村人たち。そんな様子を見ていたリーシャが私に小声で囁く。「良かったですね、クラウディア様。村人たちのあの嬉しそうな様子をご覧下さい。それに引き換え……見て下さいよ、あそこにいる『エデル』の兵士たちを」大喜びする『アムル』の村人たちとは正反対に、『エデル』の兵士たちは面白くなさそうに様子を見ている。中でも格別なのが、馬車を降りるときに私に声をかけてきた兵士である。彼は明らかに憎悪のこもった目で私を睨みつけていた。「ええ、そうね。あの人たちは私がこの村で窮地に立たされる様を見たかったのでしょうけど、あてが外れたのでかなり苛立っているかもね」「何だか彼らの鼻を明かしたみたいで気分がいいですよ」この『アムル』の村へ到着するまでは苛立ったり、不安げだった様子のリーシャは今はすっかり上機嫌になっている。「ええ、私も気分がいいわ」そこへ、スヴェンと先ほどの老女が私たちの元へやってきた。「どうやら姫様の話は本当だったようだね。私はこの『アムル』の村の村長のドーラと言う者です。そしてこっちにいるのは孫のスヴェン。この村の自警団の団長を務めています」するとスヴェンが私の前にやってくると突然頭を下げてきた。「姫さん、さっきは失礼な態度を取ってしまってすまなかった。この村は戦争に巻き
last updateLast Updated : 2025-07-07
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第1章 12 村の事情

 教会の前では大勢の村人たちが集まり、早速料理の準備を始めていた。『アムル』の教会の前には石で積まれた竈に、調理台、そして井戸が掘られていた。「すごい、教会の外で料理が出来る設備が整っていたんですね」料理をする為に調理台に集まっている女性たちの傍に近づくと声をかけた。「ええ、そうなんですよ。この教会ではよく炊き出しをして生活に困窮している村人たちに振舞っていたんです」「村長のドーラさんの提案だったんですよ」女性たちは笑顔で教えてくれた。「ドーラさんはとても立派な人なんですね。そう思わない、リーシャ」隣に立つリーシャに声をかけた。「ええ、本当に立派な方ですね」リーシャが同意して頷いた時、背後でドーラさんの声が聞こえた。「お姫様にそんな風に言ってもらえると光栄ですね」振り向くと、そこには鍋を運んできたドーラさんがいた。「この村は小さな集落でね、私たちは身を寄せ合って家畜を育てて日々の生活を送っていたんですよ。ところが戦争が始まってからは食糧や家畜を奪われるだけでなく、戦火で家々も焼かれ……多くの村民たちが他の場所に疎開していって、今では50名程しか残っていなんです。人の数は減っても僅かに残っていた食料の備蓄品は減っていき、今では1日1度の食事しか口に入れることが出来なくなっていたんですよ」ドーラさんはため息をついた。「……そうだったのですね……」私は胸を痛めながらドーラさんの話を聞いていた。回帰前の私はその事実を知っていた。なのに自分には関係ない話だと思い、見て見ぬふりをしていたのだ。私のそんな行動が人々の反感と怒りを買い、最終的に断頭台で命を散らす結果になってしまったのだ。もしも私が困っている領民達の為に手を差しのべていれば、アルベルトや『聖なる乙女』と呼ばれるカチュアの陰謀にはまっても処刑されるまでには至らなかったかもしれない。今回は食糧問題を解決してあげないと。今の私にはそれが出来るのだから。「本当に……今まで申し訳ありませんでした」ドーラさんや料理を作っている女性たちに改めて頭を下げた。「な、何をされてるんですか! 私たちに頭なんて下げなくて大丈夫ですよ!」「ええ、そうです。お姫様は私たちの為に自ら食料を運んでくださったのですから」私が頭を下げたことで、女性たちは慌てて首を振った。「ええ、本当にこの者達の言
last updateLast Updated : 2025-07-08
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第1章 13 スヴェン

 村人たちは私が持ち込んだ食材で楽しげに料理をしている。そんな村人たちの様子を少し離れた場所で眺めながら、リーシャが私にそっと囁いた。「クラウディア様、ご覧ください。『エデル』の兵士たちの様子を」見ると、教会から離れた場所で蚊帳の外にポツンと置かれた彼らは明らかに不機嫌な様子でこちらを睨みつけている。「私、今ならもう分かります。あの人たちはきっとクラウディア様を陥れる為にわざとこの村に立ち寄ったのですよね?」「ええ、そうよ。だけど、思惑通りにいかなかったからさぞかし彼等は面白くないでしょうね」その時――「姫さん!」スヴェンが駆け寄ってきた。「あら、どうかしたの?」「料理が出来上がったから2人を呼びに来たんだよ。一緒に食べようぜ」スヴェンが笑顔を向けてくる。「私達も頂いていいの?」首を傾げるとスヴェンは目を見開いた。「何言ってるんだ? 当然だろう? 何しろ俺たちが久しぶりにまともな食事にありつけるのは姫さんのお陰なんだから」「そう……?」教会からは美味しそうな匂いが漂ってきている。「それじゃ、折角のお誘いだから、ご相伴に与ろうかしら?」「ああ、是非そうしてくれ。ところで……」スヴェンは馬車の前でこちらをじっと凝視しているエデルの使者たちをチラリと見た。「あいつらはどうする? 姫さんを迎えに来た使いの者達なんだろう?」「ええ、そうよ」「一応そうですけどね」リーシャはブスッとした様子で返事をする。「そうなのか〜とてもそうは見えないな。あいつら、物凄い目で姫さんを睨んでるぜ? 大丈夫なのか?」スヴェンが心配そうに尋ねてきた。「ええ、多分大丈夫でしょう? 何しろあの人達は『エデル』へ嫁ぐ私の為に迎えに来た人達なのだから。私に何かあったら困るでしょう?」「そうですよね? 考えてみればクラウディア様に何かあれば絶対に困るのは彼等なのですから。はぁ……それを聞いて少しは安心しました」リーシャが私の言葉に安堵のため息をついた。まぁ、恐らく命の危険にさらされない限りは見てみぬふりをするだろうけれども……。何しろ、この後も旅の途中で立ち寄る町や村でも酷い目にあったけれども、彼等は見てみぬふりをして、私を窮地に追いやったのだから用心は続けないと。「ふ〜ん……」スヴェンは再び『エデル』の兵士たちを見た。「何だ!? 俺たちに何か
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第1章 14 スヴェンからの提案

 教会の前には大きな木製テーブルに木製ベンチが用意され、『アムル』の村人たちは皆楽し気に食事をしている。用意された料理はナッツ入のライ麦の黒パンに木苺のジャム。そして干し肉と乾燥青菜のスープ。質素な料理ではあったが村人たちの心遣いが感じられ、どれもとても美味しかった。「すみません。姫様から用意していただいた折角の食材なのにあまり時間が無くて簡単な料理しか用意出来ませんでした。とてもではありませんが、王族の方にお出し出来るような代物では無いのですが……」私の右隣に座ったドーラさんが申し訳無さそうに頭を下げてきた。「何を言ってるのですか? どの料理もとても美味しいですよ。本当にありがとうございます」笑みを浮かべてドーラさんにお礼を述べると、左側に座って食事をしているリーシャに声をか「けた。「ね、リーシャ。貴女もそう思うでしょう?」「はい、本当に美味しい料理です。ありがとうございます」リーシャは嬉しそうに返事をする。「むしろ私たちの分まで食事を用意していただき、申し訳ないくらいです。本当に感謝しております」改めて深々とドーラさんに頭を下げた。「姫様……。そんな、私どものようなただの村人に頭を下げるなんて……」ドーラさんは声を詰まらせて私を見た。何故、私がここまでお礼を述べるのかと言うと……それは回帰前と今ではあまりに村人たちの対応が違っていたからであった――**** 回帰前の私は典型的な傲慢な王族だった。 あの頃の私は自分の国が敗戦してしまったことで、領民達がどんな酷い生活を強いられているかなど考えてもいなかったのだ。 私は3台に荷馬車には全て自分のドレスやアクセサリーばかりを積み、『エデル』の使者たちによってこの村へ連れてこられた。 使者達からは、この村は『レノスト』王国の領地なので旅の休憩地点としてもてなしてもらいましょうと言われて連れてこられたのだ。 ところが実際の村は戦火で焼け、食糧は尽きており、とてもでは無いがもてなしを受けられるような状態では無かった。 挙句に村民たちは私がこの村に訪れたのは自分たちを助けてくれる為だろうと信じていただけに、馬車に積まれていたのは私のドレスやアクセサリーばかりで落胆されてしまった。 傲慢だった私は、この村では王女である自分にもてなしの一つも出来ないのかと口走ったばかりに、村民たちの批判
last updateLast Updated : 2025-07-10
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第1章 15 スヴェンとドーラ

 スヴェンが『エデル』国へ着くまでの間、護衛を……。それはとてもありがたい申し出だった。何しろ今のこの状況が回帰する前と同だとすれば、この後立ち寄る町と村で私は再び苦境に立たされることになるからだ。その状況を回避する為の重要な代物が残りの馬車に乗せられているのだが……。チラリと『エデル』の兵士たちを見た。彼等は村人たちから離れた場所に座り、無言で食事を続けている。けれども時々村人たちと私に鋭い視線を向けてくる。恐らく自分たちのシナリオ通りにことが進まなかったので苛立ちを感じているのだろう。私の予想外の行動にかなり焦っているはずだ。彼等は私が運ばせている荷物は全て私のドレスやアクセサリーだと頭から信じ切っていた。ところが、いざ中身を開けてみると出てきたのは『アムル』の村人たちがずっと待ち望んでいた食料だったのだ。村人たちは私に感謝し、私の好感度は一気に上がった。彼らにとってはかなりの痛手だったことだろう。一度回帰してきた私にはアルベルトの考えが分かっていた。彼は私が『エデル』に向かう旅の途中で、私が悪女だということを広めたかったのだ。それなのに、逆に人々から尊敬や信頼されるような人物になられては困るのだ。ということは、スヴェンが心配する通り……この先、彼等が別の手段に訴えてくる可能性もあるはずだ。けれど……。「どうしたんだ? 姫さん。さっきからずっと黙りこくっているけど。……ひょっとして俺が護衛につくのは迷惑か?」スヴェンが困惑した表情で尋ねてきた。「クラウディア様、私はスヴェンさんに護衛を頼むのはとても良い考えだと思いますよ? とにかく『エデル』の兵士たちは誰一人、信頼できませんから!」リーシャはどうしてもスヴェンについてきてもらいたい様子だった。「ええ。でもスヴェンはこの村の自警団の団長なのでしょう? この旅は10日程続くのよ? しかも往復の日程を考えれば、20日間は『アムル』の村を離れることになるし。その間の村の警備はどうするの? 大丈夫なの?」「大丈夫ですよ。この村には自警団に所属する腕利きの若者たちがまだおりますから。どうか孫を連れて行って下さい。必ず姫様の役に立つはずですよ。私からもお願いします」ドーラさんが頭を下げてきた。「ほら。ばあちゃんもああ言ってるし、リーシャだって俺に護衛をしてもらいたいと言ってるんだ。
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第1章 16 資金援助の提案

 『アムル』の村でささやかなもてなしを受けたときには、日は大分傾きかけていた。私とリーシャは村長のドーラさんとスヴェンと一緒にお茶を飲みながら、今後の村の援助のことについて話をしていた。「私が村に運んできた食料は恐らく持っても一月程だと思うのです」私の言葉にドーラさんは神妙な顔で頷いた。「ええ、姫様の運んでいただいた残りの食材は保存庫に移動させましたが……恐らくはそれ位しか持たないでしょうね」「何とかなるだろう? 戦争も終わったことだし、後一月も持つなら村の復興をしながら食料の確保を……」スヴェンが言いかけると、ドーラさんが口を挟んできた。「スヴェン……本気で何とかなると思っているのかい?」「う、そ、それは……」スヴェンはチラリと私を見た。恐らく私に気を使ってそのような言い方をしたのだろう。私は自分の考えを伝えることにした。「恐らく村人たちだけでは到底解決できないと思います。ですから、私に援助させて下さい」「え!? 姫さん。何を言ってるんだよ!?」「クラウディア様、そんなこと可能なのですか?」スヴェンとリーシャが驚きの声を上げる。その一方、ドーラさんは真剣な表情で私に尋ねてきた。「姫様……それはどういうことですか?」「ええ、詳しくお話いたします」大丈夫、恐らくこの世界は回帰前と状況は変わっていないだろう。私は一度呼吸を整えると説明を始めた。「この国は『エデル』と戦い、敗戦したことで『エデル』の国の属国となりました。その証として、私はかつての敵国に嫁ぐことが決まったのです。もう決して盾突くことが無いように……いわば人質のようなものです」「その通りです……お気の毒なクラウディア様……」リーシャがポツリと言う。「「……」」ドーラさんとスヴェンは黙って私の話を聞いているけれども、その眼には同情が宿っているように感じられる。「『レノスト』王国が『エデル』の属国となったので、この村は『エデル』の領土になりました。そこで私は国王に新たな領民となった『アムル』の村に資金援助をしていただくようお願いしてみます」「「何だって!?」」私の話にドーラさんとスヴェンが驚く。「そんな無茶ですよ! あの国王がクラウディア様の願いを聞き入れるとは到底思えません! 逆にクラウディア様の御身が危険にさらされます! どうか考え直してください! あの国王
last updateLast Updated : 2025-07-12
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第1章 17 感情を露わにする兵士

 その時、突然背後から声をかけられた。「クラウディア様、そろそろ出発しましょう」振り向くと、目つきの悪い兵士だった。「何だって? 今から出発するっていうのかい? もう日が暮れるし、この先は森を通り抜けることになる。その森には狼どもが生息しているんだよ? ここに1泊していけばいいじゃないか!」ドーラさんが驚きの声をあげた。「ああ、そうだ。あの森に棲む狼どもは夜に活発に動き回る。そんな中、森を通り抜けるなんて正気じゃない。それともまさか……姫さんとリーシャを危険な目に遭わせようとしているのか?」またしてもスヴェンは挑発的なことを言う。「な、何だと! 貴様……また我々を愚弄する気か!? ただの平民のくせに!」兵士は憎々し気にスヴェンを睨みつける。そう、スヴェンの言う通りだ。恐らく彼らはわざと夜の森を馬車で走り、私たちを怖がらせようとしているのだ。現に回帰前、私とリーシャを乗せた馬車は狼の群れに追われて危険な目に遭った。最終的に、兵士たちが手にしていた銃で威嚇して狼たちを追い払ったのだ。彼らは最初からいつでも狼を追い払うことが出来たのに、私とリーシャを恐怖に陥れる為だけに嫌がらせをした。そして『エデル』の使者たちは怯える私とリーシャを見てあざ笑っていたのだ。本当に、あの時は最低な輿入れの旅だったが……それは回帰前のこと。私はもう二度と、醜態は晒さないと決めたのだから。 私が過去の回想をしているその間も、スヴェンと兵士の口論は続いていた。「愚弄も何もない、森には野生の狼が生息している。夜の森がどれほど危険か、仮にも一応兵士の端くれならそれくらいのこと分るだろう?」「何! 誰が端くれだ!」「あんたのことに決まっている」「おのれ……何て生意気な……!」このままではらちが明かない。ドーラさんもリーシャも困った様子で2人の口論を見つめているし、そろそろ終わらせた方が良さそうだ。そこで私はスヴェンに声をかけた。「待って、スヴェン。彼はこの村はまだ復興途中で大変な時なのに、私たちが滞在して迷惑をかけてはいけないと気を利かせて言ってくれてるのよ。何しろ、総勢13人もいるのだから。ね? そうでしょう?」そして兵士の方を振り向いた。「え、え……ええ。その通りですよ。クラウディア様の仰る通りです。何しろ総勢13人という大人数ですからね。ご迷
last updateLast Updated : 2025-07-13
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第1章 18 響き渡る声

 その夜―― 私とリーシャはドーラさんの計らいで彼女の家に泊めてもらうことになった。そして『エデル』の使者と兵士たちは教会で1晩を過ごすことが決定した。「それでは姫様。狭苦しい家ではありますが、ごゆっくりお休み下さい」教会へ行く為にカンテラを手にしたドーラさんが玄関先で私に挨拶をしてきた。「ありがとうございます。でも家主のドーラさんを家から追い出すような羽目になってしまって申し訳ありません」「本当にありがとうございます」私の謝罪の後、リーシャも頭を下げた。そこへスヴェンがドーラさんを迎えに現れた。「婆ちゃん、準備出来たか? それじゃ教会へ行こう」スヴェンもカンテラを手にしている。「ごめんなさい、スヴェンもこの家に住んでいるのよね? それなのに私とリーシャを泊める為に教会に行かせてしまって」迎えに来たスヴェンにも謝った。「何言ってるんだよ。確かに俺はここに住んでいるけど、戦争が始まってからはずっと教会に住んでいるんだ。ここで他の自警団の仲間と村人たちをまもって暮らしていたからな。でも……その生活もそろそろ終わりかな? 何しろ姫さんが『エデル』に嫁げばこの村も領土になって、姫さんが管理してくれるんだろう?」スヴェンがウインクしながら尋ねてきた。「ええ、そうよ」「こら! スヴェン! 姫様に何て態度取るんだい!?」ドーラさんがスヴェンを睨みつけた。「いいんですよ、ドーラさん。スヴェンと私はもう友達ですから」笑いながらスヴェンを見た。「ええ!? と、友達!?」「クラウディア様とスヴェンさんが!?」スヴェンとリーシャが同時に驚きの声を上げた。「ええ、勿論リーシャも私の大切な友達だから」ドーラさんも私の言葉に目を見開いていたが……。「アッハッハッ! こいつはいいや!」スヴェンがいきなり声を上げて笑った。「ス、スヴェン!? どうしたの!?」「スヴェンさん?」「い、いや……ま、まさか王族のお偉い人が……平民の俺を友達と言うなんて……お、おかしくってさ……」スヴェンはお腹を抱えて笑いを堪えている。「そうかしら?」でも考えてみれば、回帰前の私だったら絶対にこのような考えには至らなかったかもしれない。断罪されて処刑され、日本人として生まれ変わっていなければ今のような自分に生まれ変われなかっただろう。「ほら、ほら、スヴェン。
last updateLast Updated : 2025-07-14
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