温かい夕刻の風が吹き抜ける。ルネは庭園の門を抜け、城内へ続く廊下を進んだ。かつて王族として、呪術も当然の如く学ばされた。生物を媒介として呪いをかける方法や、人ならざるものと契約して呪いをかける方法。もしくは、禁忌の呪物を使う方法。いずれにしても知識が必要で、やり方を間違えれば自身が命を落とす。それだけ呪怨というのは危険で、強力なものなのだ。呪いを祓う方法も教わりはしたが、あんなものはヤガンジャの人間には通用しないのだろう。そう考えるとやはり恐ろしくて身震いする。“呪い”という言葉はだいぶ生易しい。結局彼らが主に請け負っている仕事は暗殺だ。頼まれた要人を、病死や事故死に見せかけてあの世へ誘う。不幸中の幸いは彼らが王族に忠誠を誓っていたことだ。今回のように、王后である母が呪いをかけられた際は祓ってもらうことができる。それなら私の妻も……一度見てもらうことができないだろうか。ノースがある日突然王族に激しい憎しみを持ったこと。あれは外的要因があるとしか思えない。もちろん王族に虐げられた歴史は変わらないが、それでも昔の彼はそれを仕方ないことだと受け入れていた。ところがそんなことなかったかのように、彼は王族を滅ぼすと言って譲らなくなった。以前のノースなら、オリビエを勝手に連れて行ったら迷わず追いかけてきただろう。だが彼はランスタッドに留まることを選んだ。武器作りのことだけでなく、ランスタッドから離れられない要因があると思っていた……でも今は何とかヨキートで過ごせている。確かめるには今しかない。「ただいま」ドアを開けると、オリビエが裸足のまま駆けてきた。「パパ、おかえり! 今日のおやつ美味しかったよ」「本当? 良かった、それならまた作ろう」今日は出掛ける前にオリビエとノース用に紅茶のケーキを焼いていた。テーブルに置かれたお皿は一枚だけで、何も乗ってないからオリビエのものだろう。ノースの分は乗っていない。だとしても、オリビエの皿を洗いそうなものなのに。「オリビエ、ママはおやつ食べなかった?」「うん。ママね、ずっと部屋で寝てるよ」奥の部屋を指さし、オリビエは眉を下げた。具合が悪い……とは違うかもしれない。ひとりで遊んでいたオリビエにまず構ってやりたがったが、頭を撫でて奥へ向かう。そしてドアをノックした。「ノース、起きてる?」どうせ返事はない
Terakhir Diperbarui : 2025-07-27 Baca selengkapnya