Semua Bab ある野望を話したら夫が子どもを連れて出ていった話: Bab 21 - Bab 30

43 Bab

少年の善行

────今日ばかりは仕方ない。単独行動だ。眩い朝陽を浴びたノーデンスはいつものスーツに着替え、意気揚々と家を出た。日の出と同時に家を出る。そう、ルネはまだ夢の中だ。すぐに起きるだろうが、とりあえず無事に家を脱出できれば大成功である。 外出先のメモもテーブルに置いてきたし大丈夫だろう。もしかしたら一緒に行きたいと不満をもらしたかもしれないが、自由に動きたいのでできればひとりできたかった。今日は他国のコンテナ船が港に停る為、大勢の商人や運搬業が向かう予定だ。荷物の輸送については一切関わりがないものの、目的はちゃんとある。船にはフリーの商人も乗ってきている為、港湾の一角が大きな市場のようになる。そこでは民族や企業が最先端の技術を用いた品々が売られる為、非常に魅惑的だ。何ならまだ市場に出回っていないものや、数に限りのある一点物も安価で買うことができる。情報交換の場としてももってこいだし、商いをする者なら必ず顔を出すべき行事だった。宝飾品や織物、食料品に工芸品、新しい乗り物まで並んでいる。朝早くから大勢の人が集まり、港は賑々しさがピークに達していた。外交戦略として武器を出品している者を片っ端から回り、気になる製法の品を購入した。荷物は近くの店に預け、今度は息抜きとして市場に戻る。その国で何が流行っているのかは前に置かれた品でよく分かる。しかし本当に価値のある物は店主の奥に眠ってあるものだ。「そのペンは漆で塗られててね。職人が一本ずつ丁寧に作ってるんだよ。中には完成に半年近くかかったものもある」ちょうど書き物をする時のペンが欲しいと思い、文具が並ぶコーナーに立ち寄った。老齢の男性が穏やかな笑顔でひとつずつ説明していってくれる。試し書きをしていると、さりげなく持ち方を直された。「力強い筆致で、整った字を書くね。でもこのペンはもう少し先を立てて持つんだ。慣れるまで大変だと思うけど、慣れたら他のペンは使えなくなるよ」「へぇ……。触り心地も良いですね。これにしようかな」即断であと数本手にとると、男性は驚きながらも嬉しそうにお礼を言った。「ありがとう。もし機会があれば、またウチに来てくれ。君の筆圧に合わせたペンを作ってもらうよ」意匠を凝らした装飾はやはり気に入るものが多い。買い物の醍醐味は、その品をよく知る人間と話すことだ。その後もいくつか店を回り、西で一
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-17
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「誘うの上手になったね」強引に組み敷きながら舌なめずりする。ノーデンスに覆い被さりながら、ルネは長い睫毛を揺らした。毎晩発情期の名は伊達じゃない……ノーデンスが顔を引き攣らせていると、ルネは耳朶に顔を近付け、甘噛みした。「やっ!」「君の言う通り、今日は“そういうこと”はしないよ。だからちょっと頂くだけ」「頂くって……」酷い表現だ。日に日に変態じみていく夫にため息が出る。ルネの甘噛みは首筋から胸にまで及び、それなりに長く続いた。小さな痛みも長々やられると辛いものがあり、眉を寄せて訴えた。「も、もういいだろ!」「うん。ありがとう、もう満足」オウム返しするルネの胸を推し、上体を起こす。その際、鏡に映った自身の姿に絶句した。「お前ぇ……! ふっさげんなよ、キスマークだらけじゃねえか!!」「ごめんごめん」わずかな灯りを頼りに見ると、首元に赤い跡がいくつかついていた。久しぶりに何とも言えない怒りが脳天まで込み上げる。「たまにはこういう束縛激しいプレイも良いね~」「楽しんでんのはお前だけだっつーの!」明日は襟元をしっかり隠さないと、レノアに突っ込まれてしまう。ぶつぶつ文句を言っていると、不意にルネが身を乗り出してきた。「ところで、彼……レノア君って、なにか訳あり?」「へっ」何だこいつ……読心術でも会得したのか?レノアのことを想起してる時に彼の名を出され、露骨に動揺した。それをルネは訳ありと勘違いしたらしく、深刻そうに隣に座る。「小国とはいえあんな若さでひとり航海してくるなんてちょっと不可解だし、やっぱり何か事情があるんだね? 私達が力を貸してあげられることはないかな?」「いや、俺も詳しくは知らないよ。ただ数日はここで仕事するって言ってたから、泊まらせるだけでも良いんじゃないか? あと輩に狙われるのと、国の外交官になってるのはお前と同じで特別な力があるからだよ」「えっ……私と同じ?」ルネは驚いた顔で叫んだ。「言ってなかったっけ? レノアも生まれながらに治癒能力があるんだよ。だから国で大事にされてないなら、むしろ厄介払いされてる可能性があるな。出先で人買いに狙われたり、事件に巻き込まれても構わない。なんて思われ痛ああっ!!」まだ喋ってる途中だと言うのに、容赦ない手刀をくらい床に伏した。「何すんだ! 家庭内暴力で訴えるぞ!」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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「すごいね、その腕輪。ライトがいらないぐらい青く発光してる」急で狭い階段を慎重に降りながら、ルネはレノアの腕元に目をやった。レノアも足元に注意しながら、ルネが見やすいように腕輪を外した。「これ、温度も関係するんです。温度が低くなればなるほど輝きが増すみたいで……僕がいた町は年中暑いので、あまり光るところは見たことなかったんですけど」冬に入ったランスタッドは、外はもちろん鉱山の中はもっと涼しい。ここにきて腕輪は、レノアを照らすほどの光を放った。ここを探索するより、その腕輪の方がよっぽど重要な代物だ……。「この大陸にはないものだね。だからノースも興味深そうに見てたのか」世界にはまだまだ未発見の鉱物が存在する。ノースのように鉱物に造詣がある人間ならまだしも、ルネはこれまで深く関わらなかった分野だ。それでも彼が身につけてる石は相当な価値があるように見えた。ノース、この石を採りに行きたいとか言い出しそうだな……。ビジネスになりそうなものならどこまでも貪欲になれるのが彼だ。でもさすがにレノアの負担になることを提案してきたら絶対に止めねば。商人としては素晴らしいのかもしれないが、昔の彼なら絶対に言わないこと、やらないことをやるようになった。本当に人が変わったかのように。「ふー。結構歩いた気がしますけど、まだ入り口から六百メートルなんて。広いですね」「ほんとにね。私なんて普段そこまで歩かないからクタクタだよ」「あっ! ごめんなさいルネさん、ちょっと休憩しましょう!」適当に腰掛けられる岩まで誘導され、二人で休むことになった。「ありがとう。ごめんね、レノア君」「とんでもない、こちらこそありがとうございます。一国の王子様に案内してもらえるなんて、まるで夢でも見てるみたいです」レノアの言葉に気恥ずかしさを覚え、慌てて首を横に振った。「それは忘れてね。私は母国の公務には一切関わってないから」「わ、わかりました」彼は良い子だから素直に聞き入れてくれたが……自分はあまり褒められることが得意じゃない。反対にノースは、レノアに容姿を褒められた際得意げに高笑いしていた気がする。受け取り方がだいぶ違くて内心笑ってしまった。「……あぁ、もう夕方か。今からゆっくり戻ったらちょうどいい時間だ。行こうか」「はい!」初めての鉱山見学は楽しんでもらえたようで、レノアは
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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日暮れと出国

その日、ノースは起き抜けに庭の花に水をやっていた。戻って朝食の支度をしようと思っていると、ルネが郵便受けの前で立ち尽くしていた。「何やってんだ?」「わっ! おおおはようノース……」顔面蒼白なうえ大袈裟な反応のルネを、すぐに怪しむ。のんびり屋のルネがこんなに狼狽えるのは珍しい。加えて、彼は咄嗟に手に持っていたなにかを後ろに回した。「誰からの手紙?」ルネが持っているのは薄緑色の便箋だった。昔はよく見ていた気がするそれに、妙な胸騒ぎを覚える。どこで見ていたんだろう。最近じゃなくて、数年ぐらい前だ。確かランスタッドにいた時ではない……そうだ!「ヨキートから……おっ王室からの手紙!」「……うん。君が気付かなければ自分で処理するつもりだったんだけど」「処理っ? 要件は……陛下からなんだろ?」「いいや、女王。母からだよ」ルネは手紙を翳し、小さくため息をもらした。ヨキート王国の女王はルネの実母だ。そして公的にノースの義理の母でもある。そろそろ限界だと思っていたが、いざその時がくると嫌な汗が止まらない。先程のルネよりも青い顔で、ノースは静かに尋ねた。「お……女王様はなんて?」「迎えを送ったから、一度ヨキートに帰ってくるように、と。……君も一緒に」心臓を握られたような苦しみに駆られる。今までどんな嫌な相手と対峙した時も乗り越えられていた苦しみだが、今回だけは駄目かもしれない。もしかしたら世界で一番、勝てない相手だ。そもそも無視する、逆らうといった選択肢が一切ないので弱気になってしまう。ヨキートを統べる国王の妻。高貴なひとだが、それだけに気丈で気高い。彼女になにか言われて反論できる者はそうそういない。一年もの間自分はランスタッドに残り、ルネは息子と一緒にヨキートへ帰っていた。ようやく動きがあったと思えば、ルネは息子を預けてランスタッドで妻(俺)と自由に暮らしている。親として、祖母として、そんな異常事態を悠長に見過ごすわけがないだろう。孫が哀れ過ぎる。ということで、「ルネ、すぐにヨキートへ帰ってくれ」「いや君も行くんだよ……」ノースの握手を華麗にスルーし、ルネは家の扉を開けた。「申し訳ないけど、こうなったら逃げられないよ。それこそ国を敵に回してしまう……私はいいけど、君がそうなったら困るだろ」「……アウェイだよ。俺にとって、あの国に行くこ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-20
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情けないけど、涙が溢れて止まらない。零れる雫を指で優しくなぞり、甘い口付けをされる。ルネは本当に俺に甘い。もっと厳しくしていい、と言えれば良いけど。……彼の優しさに甘えてるのも事実だ。ベッドに移動し、シーツの波に溺れる。結局帰国した初日に最後までしてしまったけど、彼の腕に抱かれながら密かに決意した。もっとしっかりしなくては。パートナーとして、子を持つ親として強くなりたい。まずはルネとルネの家族に安心してもらえる存在になる。そして、自分で自分を認められるようになる。納得がいく生活に戻れるよう努力しよう。それを意識しなきゃ今までと同じだ。明日から謝罪を兼ねた挨拶回りをして、少しでもヨキートの人達と交流しないと。……と意気込んだのは良いが、モチベーションを維持するのは本当に難しい。悲しいことに翌々日にはいつもの萎縮モードに戻っていた。設備点検や技術系の仕事を手伝ったりもしたがやりすぎれば邪魔になるし、気を遣わせてすぐに「休んでください」と言われる。仕事を奪ってるだけだと気付き、そーっと退散した。結局誰にも迷惑をかけない無難な仕事と言えば清掃だけだ。城にいると周りに止められる為、街中に出てゴミ拾いをした。汚れてもいい格好で動ける気楽さと、知り合いがいない自由さが気に入ってる。もしかしたらこういう暮らしの方が向いてるのかもしれないと思ったけど、すぐに首を横に振った。俺の世界は平和の上に配置されるものじゃない。けれども、ここは本当に平和だ。ヨキートは観光客が溢れていて、ランスタッドとは違う安心感がある。皆争いとは無縁で、それぞれ意欲的に過ごしている。これが世界中当たり前になる日々が来ればいいけど、もし来たとしてもそれは自分が死んだ後だろう。兵器の需要は高まるばかりで、まだ当分は他国の脅威に怯えるはずだ。汚れた缶を拾い上げ、片手で握り潰す。缶を袋に入れようと屈むと、後ろを通る人の声がたまたま聞こえた。「聞いたか? ルービオ様が城に帰ってきたんだと」思わずビクッと肩を震わせた。それに気付く者もいない為、冷静になって袋の口を縛る。おかしいな~。一般人に知られるのが早すぎないか……。ルービオはヨキートにおけるルネの愛称だ。妻を連れて帰ってきたことが、どうやらもう話題になってるらしい。入国してから城へ入るまでは各所で休憩もしてるし、面倒なスナパラッチ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-21
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オリビエの問いに答えたのはルネだった。それだけで充分だったのに、俺にも答えをくれた。「皆で? やったぁ!」オリビエは嬉しそうに両手を広げた。反射的に空いてる方の手で彼の頭を撫で、ルネの顔を確認する。「ルネ……あの」「ノース。どこで暮らすのかは三人で決めればいい。だから君一人で抱え込まないで」胸のあたりに熱いものが込み上げてきて、慌てて二人から見えないように顔を逸らした。本当に敵わない。簡単に話せない悩みや不安を簡単に見透かされる。ルネには救われてばかりだ。「……そうだな」オリビエの柔らかい髪を撫でながら、ルネの肩に顔を沈める。「皆で決めよう。オリビエも一緒に考えてくれる?」「うん!」この笑顔に救われてる。喜びを噛み締めながら、ルネにも御礼を言った。「よし。じゃあ再スタートだ」彼は俺達を抱き寄せたまま、子守唄のように優しく言葉を紡ぐ。「私はランスタッドにいた時と同じで、結局どこに行っても楽しめると思うんだ。だからノースとオリビエの気持ちを尊重するよ」「そんちょう?」オリビエがすかさず反応した。「大事にするってことだよ」と代わりに答えると、ふうんと頷いた。上手く伝えられたか分からないが、それ以上聞こうとはしてこない。「俺は……やっぱり二人といたい。仕事も大事だけど」失いたくないものは片時も手放してはいけない。再会するまで押し殺していたけど、今ならはっきり言える。「三人で暮らす為ならどんな努力もする。だからまた一緒に……家族の一員としてやり直させてくれ」結果的にオリビエには分かりづらい言葉になってしまった。けど微笑むルネを見て、彼も同じように笑っていた。「えーっと。ママはオリビエと一緒にいたいから頑張る!って言ってるよ」くそ、何か恥ずかしい。眉間を押さえて俯くと、オリビエは立ち上がって全身で気持ちを表現した。「僕も! ママに見てほしいものいっぱいあるんだ。友達もできたから、ママと会ってほしい。面白いオモチャもいっぱいあるから、毎日ママと遊びたい」「はは、そうか」オリビエのお願いを聞く度に心が満たされる。というか、幸せを実感する。何で俺の子がこんな真っ直ぐに育ってくれたのか不思議でならないけど、それはやっぱりルネのおかげかな。考えなくてはいけないことが山積みだけど、それは一つずつ、二人と相談して解決しよう。ノーデ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-22
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ヨキートでの生活もすっかり慣れてきていた。オリビエの親としての一日も。……と言いたいところだが、ある日の絵画教室で危うく爆弾を投下してしまいそうになった。その日ルネは予定が重なっており、ノーデンスが習い事に付き添っていた。このところヨキートには他国の要人の訪問者が増え、ルネも帰国してる以上はその場に出席する必要があった。だからオリビエのことは心配せず、自分に任せてほしいと伝えた。流れは大体分かってきていたし、ひとりでも楽勝だと思った矢先……。「オリビエ君のお父様。彼にもう少し画材を寄せるよう言ってくれません? ウチの子の机にまではみ出ていて、製作の邪魔になります」「えっ」教室の端で息子を見守っていた時、突然隣にいた細身の青年に睨まれた。子ども達は四人グループで机をくっつけて作業している。確かに彼の言う通り、オリビエの筆が二本、前の机に飛び出てしまっていた。と言っても先端だけだ。作業の邪魔になるほどではない気がするけど。「す、すみません」よく分からないが、数ミリでもスペースを占領したらキレられる世界なのかもしれない。若い父親に平謝りし、オリビエの方へそっと近付いた。「オリビエ、他の子の席に画材がいかないようにしような。集中しちゃうと分からなくなっちゃうだろうけど」「あ。ごめんなさい」オリビエはすぐに散らかった筆をかき寄せ、再び作業を開始した。ホッとしてその場から立ち去ろうとすると、目の前にいた男の子がこちらに指をさしてきた。「オリビエ、このひとお前のお母さん?」「うん」「へー。帰ってきたんだ。僕の父さんが、お前の母さんは家出したって言ってたから」んなっ。年端もいかない子どもに痛いところを突かれた。どう反応すべきか分からず固まったが、すぐにオリビエの表情を確認する。察しの良い子だから「家出」の意味も何となく分かってるだろう。何とかフォローを入れようと頭を回転させるも、男の子の話は続く。「父さんは、お前の母さんはもう帰ってこないって言ってたよ。お前のお父さんって王子様なのに可哀想だなあとか」「キリト。お喋りはやめなさい」先ほど注意を促した青年が傍に現れた。まだ幼い子どもによその家庭事情をベラベラ喋りやがって。泣かすぞクソガキ……と心の中で思ったけど、表面上は笑顔でやり過ごす。「あの、すみませんでした。ちゃんと注意しましたの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-23
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夕食はノーデンスが作ってくれていた。オリビエをお風呂に入れて寝かしつけ、そっと扉を閉じる。朝はまた笑顔で会えるよう、いつもの祈りを捧げて。自分の寝室を覗くと何をするでもなく、彼はベッドの端に座っていた。まだ寝そうになかったので甘くない紅茶を二人分用意し、傍へ持っていく。「おつかれ」「あぁ、ありがと」ノースはこちらに気付くと少し微笑んだ。彼が紅茶を飲んでる間に寝間着に着替え、隣に腰掛ける。「ずっと留守にしちゃってるけど、最近工場はどう?」「問題ない。商談も受けないようにしてるから、緊急事態でもない限り俺はのんびりだよ」ふう、と息をつき、ノースはマグカップを膝に置いた。「……そっか」「何か話でもあるのか?」どう切り出そうか迷っていると、彼の方から本題を振ってくれた。目を細め、酷く落ち着いた様子でこちらへ体を向ける。「お前すぐそわそわするから分かりやすいんだよ」「あはは、敵わないな」白状して、今朝の教室の件について確認した。彼は驚きもせず、淡々と話を聞いていた。「フランさんに言われたことは全部本当?」「そうだな」「君はそれに何て返した?」「何も返してない」何も……。ノースは紅茶を飲みきり、カップをサイドテーブルに置いた。「何だよその目。本当だって。あの時は本当に、最後までだんまりを貫いた」「そう……」「そう。何て返せばいいのか分からなかったから」明かりをひとつ消した。ベッドの周りだけ赤々としたライトに照らされる。「何て返すのが正解だった?」前で両手を合わせながら、ノースは俯いた。後悔はしてない。武器をつくることが生きる意味だ。疎む者の方が遥かに多いけど、この生業を誇りにすら思ってる。ひとりの青年に抗議されたところでやめられることじゃない。今まで何百、何千という武器を作り、それを流してきていた。名前も顔も知らない誰かが傷つくことを承知で。半端な気持ちではできないことだ。だがオリビエの存在がその覚悟を揺らがせる。今まで心血を注いできたことは全て間違いだったのではないかと。「否定も肯定もしなかった。俺か、一族か……下請けが作った銃かは分からないけど、設計したのは俺だ」武器によって地獄に叩き落とされる人がいる。そして自分は、残された遺族の苦しみなんて一生知らずに過ごす。取り返しのつかないことをしてる自覚はあるし、心
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-24
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天の配剤

「いっっってええ…………」小鳥が囀る喉かな朝、ノーデンスは腰を押さえながら床を這っていた。昨夜も弾け過ぎたことを猛省してる。精神面ではルネのおかげで救われたが、彼の変態プレイにより新たな嫌悪と後悔も植え付けられてしまった。玩具で盛り上がってるしょうもない姿を晒してしまったし、本当に頭が痛い。シャツ一枚羽織って壁に手をついていると、オリビエがパタパタと駆け寄ってきた。「ママー! どうしたの、お腹痛いの?」「あ~……おはよう。大丈夫だよ」大丈夫と返したけど、腰が痛くてその場から起き上がれない。そんな自分の様子を心配そうに見つめる息子。立ち上がるにはもう少し時間を稼がないと無理だ。死ぬ。「オリビエ、もうちょっとこっちおいで」手招きし、射程範囲に誘導する。何とか背中まで手を回せる位置に行き、そのまま抱き寄せてくすぐりを開始した。「捕まえた。こちょこちょ~」「あははははっ!」上から覆い被さってくすぐると、予想通りオリビエは喜んだ。それが堪らなく可愛いのと、腰が痛いのとで微妙な気持ちに駆られる。耳に入る声は間違いなく楽しそうだけど、顔は多分笑ってない。「はは……はぁ……オリビエは俺に似て敏感なんだな」「びんかん?」「うん。感じやすいってことだよ」今の説明は何か変だな。真面目に考えていると、隣の部屋からルネが顔を出した。下を何も履かず息子を押し倒しているノーデンスに、やや困惑した様子で問いかける。「おはようノース。一応訊くけど、オリビエに変なこと教えてない?」「教えてない。それより昨日のせいで……まぁいいや、起こしてくれ」腰が痛いと言ったらまたオリビエが心配する。何とか横へずれ、差し出された手をとった。「これはこれは。昨夜は失礼しました、お姫様」「そういうのはやめろ」羽を拾うような軽快さで抱き起こされ、思わずムッとする。ルネもやり過ぎたと分かってるからか、オリビエにダイニングへ行くよう声を掛けた。「塗り薬はいる?」「それは……大丈夫」妙に恥ずかしくて、顔が熱くなる。今さら恥じらうことじゃないのに、子どもがいると無駄に強がる自分がいる。「ていうか、そう。昨日の不気味な道具は全部捨てろよ」「えー、あんなに可愛い君が見られたのにもったいない」「もったいなくない! 家宅捜索でもされた時に見つかったらどうすんだ、王族としてどうか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-25
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ノーデンスが留守の間も、ランスタッドは特に変わりなく穏やかな時間が流れていた。武器作りのヴェルゼ一族も同じく、急な仕事さえ入らなければ渡された指示書に従うだけの生活だったが……。「オッド、ノーデンス様はいつ帰ってくるんだ?」「ルネ様とヨキートに帰ってもう一ヶ月以上経つ。そろそろ鋼材に力を吹き込んでもらわないと。一度帰って来てもらうことはできないか?」「あああ……そうですね。すぐに打ってみます」工場の広場でオッドは端末を操作する。その様子を見ていた中年の職人が水を一気に飲み干した。「電話はできないのか?」「それが、ここ数日電話に出なくて……忙しいだけならいいんですけど」「大丈夫じゃないか? 本当になにかあればヨキートから連絡が入るだろう」彼が答えると、周りも迷いなく同意した。「そうそう。第一、あの方より強い人間なんてそうはいないし」「うん。護衛なんか必要ないな」確かに世界的に見ても、ノーデンスに適う者は少ない。大砲や爆弾を持ってきても彼には通用しないだろう。作り方はもちろん、それらの壊し方を誰よりも熟知している。とは言え、彼の唯一の弱点を上げるとしたら……それはメンタル面だ。傍若無人で楽観的なくせに、時折とてつもなく心配性になる。不安げに祈るときのステータスは人並み以下と言ってもいい。ルネと出逢う前の彼はそういう人だった。寡黙で、いつも自信がなさそうで……一族を統括する父の影に隠れていた。それでも彼は自分含め、年下には優しかった。だから全体的に若い職人の方が彼を慕っている。自分も一族の中では経験の浅い若輩だが、武器作りより経理や交渉が得意だった為代表の側近に選ばれた。人は月日で変わる……。ノーデンスの職人としての腕は天才的だったが集団を率いる力に欠けていた為、頭領の死後頭角を現したことに皆が驚いていた。彼についていけば何とかなるような気がしているのは……漠然とした希望のようなものなんだろうか。メッセージを打ち終え、端末をポケットに入れた。「今日中に返信がなかったら、俺がヨキートへ出向きましょうか。どちらにせよノーデンス様ひとりに出国してもらうのは……色々、周りの目がありますし」「それもそうだな。あと、旦那様の母国でフルボッコに合ってたら大変だ」「黙ってやられる人じゃないだろー」彼らはゲラゲラ笑っているが、段々本当に心
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-26
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