────今日ばかりは仕方ない。単独行動だ。眩い朝陽を浴びたノーデンスはいつものスーツに着替え、意気揚々と家を出た。日の出と同時に家を出る。そう、ルネはまだ夢の中だ。すぐに起きるだろうが、とりあえず無事に家を脱出できれば大成功である。 外出先のメモもテーブルに置いてきたし大丈夫だろう。もしかしたら一緒に行きたいと不満をもらしたかもしれないが、自由に動きたいのでできればひとりできたかった。今日は他国のコンテナ船が港に停る為、大勢の商人や運搬業が向かう予定だ。荷物の輸送については一切関わりがないものの、目的はちゃんとある。船にはフリーの商人も乗ってきている為、港湾の一角が大きな市場のようになる。そこでは民族や企業が最先端の技術を用いた品々が売られる為、非常に魅惑的だ。何ならまだ市場に出回っていないものや、数に限りのある一点物も安価で買うことができる。情報交換の場としてももってこいだし、商いをする者なら必ず顔を出すべき行事だった。宝飾品や織物、食料品に工芸品、新しい乗り物まで並んでいる。朝早くから大勢の人が集まり、港は賑々しさがピークに達していた。外交戦略として武器を出品している者を片っ端から回り、気になる製法の品を購入した。荷物は近くの店に預け、今度は息抜きとして市場に戻る。その国で何が流行っているのかは前に置かれた品でよく分かる。しかし本当に価値のある物は店主の奥に眠ってあるものだ。「そのペンは漆で塗られててね。職人が一本ずつ丁寧に作ってるんだよ。中には完成に半年近くかかったものもある」ちょうど書き物をする時のペンが欲しいと思い、文具が並ぶコーナーに立ち寄った。老齢の男性が穏やかな笑顔でひとつずつ説明していってくれる。試し書きをしていると、さりげなく持ち方を直された。「力強い筆致で、整った字を書くね。でもこのペンはもう少し先を立てて持つんだ。慣れるまで大変だと思うけど、慣れたら他のペンは使えなくなるよ」「へぇ……。触り心地も良いですね。これにしようかな」即断であと数本手にとると、男性は驚きながらも嬉しそうにお礼を言った。「ありがとう。もし機会があれば、またウチに来てくれ。君の筆圧に合わせたペンを作ってもらうよ」意匠を凝らした装飾はやはり気に入るものが多い。買い物の醍醐味は、その品をよく知る人間と話すことだ。その後もいくつか店を回り、西で一
Terakhir Diperbarui : 2025-07-17 Baca selengkapnya