All Chapters of 偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも幸せになれますか?〜: Chapter 31 - Chapter 40

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第三十一話

だけどいつからだろうか。聖良に少しずつ笑顔が戻り始めてきたのは。……聖良は最近、俺といても前よりも笑うようになった。時には一緒に笑うことも増えた。 きっとそれが出来るようになったのは、初めてしたあの遊園地デートの時からだったと思う。あのデート以来、聖良は前よりも笑ってくれている気がした。明るくなった気もするし。俺の思い過ごしかもしれないけど、なんとなくそう思った。結婚してもお互いの愛は偽りでしかない。本物の愛なんて、俺たちには存在しない。 そう思ってこの結婚生活を過ごしてきた。俺たちには今、その生活がちょっとずつ変わり始めていた。 少しずつだけど、笑顔が増えてきて、会話も増えてきた。距離を縮めたいと思っていたあの時よりも、今は一番聖良との距離が近い気がする。 聖良と結婚して良かった。聖良が妻で良かったと、俺は今本気でそう思っている。俺はあの時よりもずっと、聖良のことを愛している。そしてこれからだって、ずっと聖良のことを愛していくんだ。その日の夜、俺は社長と長谷川社長と共に会食をしていた。「そうそう。棗さん、最近ご結婚されたんだそうですね?」「はい。もうすぐ結婚して、半年になります」「そうですか。それはおめでとうございます」 「ありがとうございます」そうか、結婚してもうすぐ半年になるのか……。早いな。「末永く幸せになることを、心から願っているよ」「……ありがとうございます」俺が結婚したという事実は、世間のあらゆるところに広がっている。だからといって、いい気分ではない。今はマスコミに取り上げられて、一般人の妻である聖良の名前や写真なんて、簡単にあげられる時代になっている。そんなことをされるのだって、俺にとってはいい気分ではない。 それですら、聖良のことを傷付けていると感じる時がある訳で。聖良を表に出すのは、正直言うと俺が困ってしまう。聖良がどんな気持ちかを考えると、やるせない気持ちにもなる。俺は鷺ノ宮聖良の夫として、聖良が平和で幸せに暮らせることだけを願いたいだけなのに。「ところで、棗さん」「はい」「もし子供が出来た時に一報をくれたら、出産祝いでも送るよ」 子供……? 出産祝い……。その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になりかけた。「……はい。ありがとうございます」「では、これで失礼致します」   「長谷川社
last updateLast Updated : 2026-01-14
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第三十ニ話

そんなことを考えたことはなかった。 聖良との子供……か。確かに社長の言う通り、夫婦になったからには、子供を持ちたいと望むのは、きっと当たり前のことなんだと思う。しかし結婚して間もなくしても、俺たちの間に子供を作ることを、聖良は許してくれるのだろうか……。俺との子供がほしいと、聖良が言ってくれる日なんて来るのだろうか……。「お前は鷺ノ宮家の長男だ。長男として結婚した以上は、鷺ノ宮家の跡取りを残してくれないと困るというはあるんだがな」「………」跡取り、ね……。まあ、言いたいことはわかるが。「しかし私は、お前たち夫婦の事情を深く知っている訳ではない。 子供を望むかどうかは、お前たち自自身が話し合って決めることだ。……だから強要などしない」「……社長」「よく話し合いさなさい、聖良さんと」社長の気持ちはきっとそれが本心だとは思う。 だけど社長の言う通り、俺は鷺ノ宮家の長男だ。 鷺ノ宮家を背負う者として、跡取りを残していくことは自然なことだとは思う。けれどそれは……妻である聖良にも、鷺ノ宮家を背負わせることになる。 聖良はきっと、鷺ノ宮を恨んでいるだろうし、そんなことに付き合わせることになるのは……どうなのだろうか。聖良がそのプレッシャーをとても辛いと感じたりすることだってあるだろう。そんな時に、俺が聖良を支えていけるのか分からない。正直に言うと、自信がない。 もしそれが俺たちの宿命だとしたら、俺たち夫婦は二人で乗り越えていくために協力していかないといけない。聖良とどんな夫婦になっていくのか、俺たちがどんな夫婦を目指していくのか。 その先の未来のことを考えると、俺たちは夫婦としての在り方をちゃんとこれから考えていかないといけないんだなと、社長に言われてそう思った。聖良と話し合うことを決めた以上、俺は何があっても聖良を妻として受け入れ、その覚悟を背負っていかないとならない。俺は妻として、一人の女性として、生涯を共に生きることを誓った聖良のことを愛している。だからこそ、夫婦としての在り方をしっかりと考えていくべきだな。妻を愛する者として、聖良の夫として、そう思ったのは確かだった。……きっとこれからだって、俺は聖良を愛するだろうし。「聖良、ただいま」「おかえりなさい。棗さん。今日もお仕事、お疲れ様でした」「……ああ、ありがとう」聖良の
last updateLast Updated : 2026-01-15
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第三十三話

「……棗さん、会社で、何かありましたか?」「え?」聖良は食器洗うのをやめて、俺が座っているソファーの方に来て俺の隣に座った。「なんか、元気がないような気がして……」「……いや、本当に何でもない。 久しぶりの会食で、ちょっと疲れただけだ」だけど聖良に心配かけたくなくて、ついウソをついた。……ごめん、聖良。「そうですか? あまり、ムリはしないでくださいね?」「ありがとう。聖良」「はい」聖良のこの優しい笑顔が、俺は好きだ。聖良と一緒にいるだけで、ホッとするし、安心感がある。こんな気持ちになるのはきっと、聖良だからなんだと思う。「棗さん、コーヒー淹れましょうか?」「ああ、ありがとう」聖良のその優しい笑顔を見ていると、俺はいつも心が柔らかくなる気がする。「はい、コーヒーどうぞ」「お、ありがとう。いただくよ」聖良が淹れてくれたコーヒーを一口口にする。「ん、美味いな」「本当ですか? 良かった」聖良は嬉しそうに、「あ、そうそう。今日新しいマグカップを買ったんです」とマグカップを見せてくる。「マグカップ?……あ、本当だな」聖良は「二人でお揃いのマグカップにしました。可愛くないですか?」とマグカップを再び見せる。「……確かに、可愛いな」聖良とお揃いのマグカップか……。悪くないな。「聖良……」俺はマグカップをテーブルに置くと、聖良をそっと抱き締める。 「棗さん……? どうしました?」「聖良に触れたくなったんだ」俺は聖良の髪の毛にちゅっとキスをする。「嬉しいです。……好きなだけ、触れていいですよ」聖良のその言葉に火がついた俺は、聖良の唇を強引に奪っていく。「っ……んっ」「聖良……ベッドに行こうか」俺は聖良の身体を持ち上げて寝室へと運ぶと、聖良に唇を啄むようにキスをしながら、聖良が着ていた服に手を掛けて脱がせていく。聖良の下着に手を掛けブラのホックを外すと、聖良の下着をベッドの下に放り投げる。「あっ……棗、さんっ」聖良の首筋に唇を這わせながら、聖良の胸に手を伸ばすと、聖良は「あ……あんっ」 と甘く厭らしい声を漏らす。「はっ、あっ……」聖良の一番触れてほしい場所に触れると、聖良はさらに「いやっ、気持ちいっ……」と声を漏らすが、俺はそんな聖良の淫らな姿に理性が崩壊し、再び聖良の唇を奪っていく。「ん……んぅっ、んぁ」
last updateLast Updated : 2026-01-15
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第三十四話

✱ ✱ ✱「……聖良、これ受け取ってくれないか?」「え?……なんですか、これ?」それは結婚して半年が過ぎた日のことだった。突然棗さんは、私に小さな袋を渡してくれた。「俺からの感謝の気持ちだ」「え? か、感謝……?」なぜ感謝されるのだろう? 私はただ、妻として当たり前のことをしているだけなのに……。特別感謝されるようなことは、何もないはず。 「この前俺たちが結婚して半年の記念日だっただろ?……聖良、結婚してから今日まで、お前に感謝しかない。 俺と結婚してくれて、ありがとう。いつも家事をやってくれて、ありがとう」「な、棗……さん?」 棗さんに、こんなに感謝されるなんて……。今まで感じたことはなかった。だけどその気持ちを聞けて、正直に言うと嬉しかった。結婚してから初めて迎えた半年の記念日か……。そうか、結婚してもう半年過ぎたんだな……。もうそんなに経つなんて、時間の流れは早いものだ。「愛しているよ、聖良。これからもずっと、俺は君だけを愛している。……だからずっと、俺の妻として、俺のそばにいてくれ」 棗さんは真剣な眼差しでそう言うと、その小さな袋からネックレスとイヤリングを取り出した。 「……え?」「俺から君への、プレゼントだ。受け取ってくれるだろ?」「……いいんですか? こんなの、もらっちゃって」「当たり前だ。君に似合うと思って買ったんだ。付けてくれるだろ?」棗さんのその優しい声と、その優しい笑顔。そしてその表情。……全てが私のためにと、言ってくれているようだった。「はい。ありがとうございます」そんな私は、棗さんに何も用意していない。 用意していないのに、私だけもらうのは申し訳ない気がする。「貸してみろ。俺が付けてやる」「……あ、ありがとう、ございます」棗さんはネックレスを後ろから付けてくれた。そのイヤリングも、鏡を見て付けてみた。「うわっ、可愛い……」「やっぱりキレイだ。すごく似合っているよ」「ありがとうございます……。すごく、嬉しいです」こんなにキレイなもの、もらったの初めて……。「よく似合っている。やはりこれを選んで正解だった」「……本当に、ありがとうございます。こんな良いものもらえるなんて、思ってなかったのでびっくりしました」こんな素敵なモノをもらえた私は、なんて幸せな妻なんだろう……。本
last updateLast Updated : 2026-01-15
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第三十五話

その日の夜は、恋しさからか棗さんにいつもより何度も激しく、棗さんの甘い吐息や体温に溶かされながら棗さんと身体を重ね合わせた。お互いの手を握って幸せだと言い聞かせながら、何度も棗さんに抱かれたけど、幸せだった。棗さんの愛は日に日に大きくなっていて、私は彼と結婚してきっと幸せだと思えた。 私は、これからも棗さんのそばで生きていくんだ。そんなある日のことだったーーー。「えっ? パーティー……ですか?」「ああ、長谷川社長に招待されたみたいで、俺たちも出席してほしいとのことだ」「なるほど……わかりました」私たち夫婦は社長に呼ばれて、長谷川社長が主催するパーティーに出席することとなった。 棗さんの妻ではあるけど、私がパーティーに出席するなんて……正直おこがましいかとも思う。だけど棗さんも、私に出席してほしいと言ってくれたので、満を持してそのパーティーに出席することにした。パーティーには約100人ほどが出席する。そこには有名作家さんや建築家の方など、数々の著名人が出席するらしい。 そんなパーティーに、私が出てもいいものなのか……そんなことも思ってしまう。「……聖良?どうした?」「え? あ、いえ……」緊張と不安で頭と胸がいっぱいで、なんとも言えない気持ちになった。「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。俺がついてるから」「……は、はい」棗さんは不安な私の手を握ってくれる棗さん。 それだけで少し、安心するような気がした。「……さ、行くぞ聖良。準備はいいか?」「はい……」だけどやっぱり、いざとなると緊張してしまう。棗さんはずっと手を握ってくれていた。その温かい手を握るだけで、少しだけホッとする。  「長谷川社長。本日は僕たち夫婦も呼んでいただき、誠にありがとうございます」棗さんが長谷川社長にそう挨拶をした。そしたら長谷川社長は、笑顔で「やあ棗くん。よく来てくれたね」と笑っていた。「紹介します。妻の聖良です」「君が聖良さんか。 はじめまして、長谷川です。今日は来てくれてありがとう」 「い、いえ!こちらこそ。 本日はお招きいただき、ありがとうございます」私は長谷川社長と握手を交わした。「二人とも、今日は楽しんでいってくれ」「はい。ありがとうございます」「あ、ありがとうございます」長谷川社長は私たちにそう言ってから、他の方へと
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第三十六話

その言葉を聞いて驚いた。元婚約者……? そんなの、棗さんの口から聞いたことない。婚約者がいたなんて話……私、知らない。「どんな女と結婚したのか知りたくて、気になって来てみたら……まさかあなたみたいな凡人と結婚しただなんてね?」「凡人……?」「驚いたわ。……なぜ結婚する相手が私とではなく、あなただったのかしら? 不思議だわ」遠山さんという女性は、私を嘲笑うかのようにそう言うと、私に一歩近付いてくる。そして私の耳元でこう呟いた。「棗のこと、返してくれる」「……え?」 返して……? それは、どういう意味……?意味が分からない私に、遠山さんはまた一言付け足すように言った。 「棗のことを私から奪うなんて、絶対に許さない……。この泥棒猫!」「ーーーっ!?」彼女は私の頬を叩こうと手を上げた時、私は反射的に目を瞑ろうとした。 叩かれるーーー! そう思った時だった。「……おい。俺の妻に何をしている」「な、棗……さん……?」棗さんが遠山さんの右手を抑えて、冷たい目で見下ろしていた。「な、棗……」棗さんが現れたことに驚いているのか、遠山さんは驚いたような表情を見せている。「お前……俺の妻に手を出すとは、一体どういう神経をしているんだ?」「そ、それは……」棗さんのその目は、遠山さんを睨み付けている。「俺の妻に何を言ったかは知らないが、妻を傷つけるヤツは誰であろうと、この俺が許さない」棗さんはそう言うと、私の肩を抱き寄せる。その言葉に私は、とても嬉しくなってしまった……。「……な、何よ。なんでこんな女が妻な訳? 元々私が妻になるはずだったじゃない……!」「おい、自惚れるなよ。 俺は元々、お前と結婚するつもりなんてなかったと言ったよな」「……っ!」え……妻になるはずだった……? どういうこと……?「棗さん……」「いいか。今度俺の妻に何かすれば、ただじゃすまない。 覚悟しておけ」「っ……分かったわよ!」棗さんは私の手を握ると、そのまま手を引いて歩き出した。 少し離れたベンチに私を座らせると、棗さんは私を思いっきり抱きしめる。「棗……さん?」「すまない、聖良。……まさかこんなことになるとは、思ってなかった」「い、いえ。気にしないでください。……私は、大丈夫ですから」今初めて知った。……棗さんのそんな焦ったような顔がある
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第三十七話

「……あの人の、言うとおりです。 私はただの平凡な普通の人です。よく考えたら、あなたと釣り合う訳ないって……ずっとわかってましたよ」どうしてこんなことを言ってしまったのだろうか……。言うつもりなんて、なかったのに……。「すみません……変なことを言って。忘れてください」そんな私を棗さんはぎゅっと抱き寄せた。「……聖良、俺は君と結婚したいと思ったから、プロポーズをしたんだ」「え……?」棗さんは私の手を握ったまま、話を続ける。「決して彼女と結婚したくないから、君と結婚した訳じゃない。……頼むからそれだけは、わかってほしい」棗さんのその目、その真剣な表情が私を捉えて離さない。……そんな目で見つめられたら、何も言えなくなるし、何も言い返せない。ずるい……そんなの。「……確かに、敦子が俺の元婚約者だというのは本当だ。というか、親父が彼女と勝手に結婚させようとしてたんだが……」棗さんは続けて「いや、こんなことを言うと……言い訳のように聞こえてしまうな」と話を止める。棗さんがこんなに慌てている姿を見るのも初めてだった。 とても新鮮で、だけど少しだけ嬉しくて……ホッとしたりもした。「敦子とは本当に何もない。いや、今までだって何もなかった。 彼女が元婚約者だと言っているが、敦子には結婚はしないとはっきりと断っていた。向こうだって、了承してくれていたんだ」棗さんの言いたいことは、よくわかるし、理解した。「……あの、棗さん、ちょっとだけいいですか?」だけど私には一つだけ、どうしても気になってしまうことがあった。「なんだ? 気になることがあるなら、遠慮なく言ってくれ」「……じゃあ、遠慮なく言わせてもらいます」「ああ。なんだ?」私は棗さんに、「あの、元婚約者の方を名前で呼ぶのは……やめてください」と伝えた。「え……?」「名前で呼ぶのは……妻である、私だけにしてください」「名前……?」なんでそんなことを言ってしまったのか、私にも分からなかった。だけどそれは本当に無意識で、自分でも気付かないうちに、そんなことを言ってしまっていた。「私は、鷺ノ宮聖良。あなたの妻です。 妻を名前で呼ぶのは当たり前だと思います。……だけど、私以外の女性を、名前で呼んだりしないでください」棗さんは私の言葉を理解したのか、「……すまない。もうそんなことはしないよ、本当
last updateLast Updated : 2026-01-17
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第三十八話

「ええっ!? け、警察官……なんですか?」「ええ。一応」すごい、女性警察官……。しかも、警視庁……。「す、すごいですね……。女性の警察官、カッコイイです。憧れます」「どうもありがとうございます」「楓さんは、警視庁公安部で国際犯罪テロや暴力団事件の捜査や、右翼団体などの僕滅など数々の功績を残している大変優秀な女性警官なんだよ」「ええ……! す、すごい」女性の警察官……。すごくカッコイイな。「棗さん、この度、私来月から警視としての役職に付かせてもらえることになったの」け、警視……!? 「本当ですか? それはすごいですね。おめでとうございます」「ありがとうございます。……これも男社会に負けずに頑張ってきた証だと思っています」「お、おめでとうございます!」「ありがとう、聖良さん」なんだか分からないけど、女性の警察官が警視になるなんて、すごいよね……。憧れるけど、相当努力してきたからこそ、新しい地位がつくってことだもん。 これは本当に素晴らしいと思うし、とても光栄なことだとも思う。同じ女性として、応援したくなった。これからは女性が活躍していく時代にもなったし、それはまさに、働く女性の鏡だなと思った。「では棗さん、社長、私はこれで失礼しますね? 別件で警視庁に戻らないといけないので」 「ああ。気を付けてな? また食事でもしよう」「はい。では失礼致します。……あ、棗さんと聖良さんもご結婚、おめでとうございます。 末永くお幸せに」「ありがとうございます」「あ、ありがとうございます」楓さんという方は私たちに優しく微笑みかけると、そのまま会場から出ていった。すると鷺ノ宮社長が、棗さんに「棗、さっきのこと聞いたぞ。 遠山さんとこのご令嬢が、聖良さんのところに来たそうだな」と問いかける。「はい。 ですが、すぐに退出させました」「……そうか。とにかく、これからも気を付けなさい。聖良さんに何かあったら、大変だろう」 「はい。分かっています」鷺ノ宮社長……私のこと、心配してくれてるの?「大丈夫だとは思うが……また何かあったら大変だ。 お前たちは時を見て帰りなさい」「え? いや、しかし……」「大丈夫だ。長谷川社長には、私から事情を説明しておく」「……はい。 では、そのようにさせていただきます」社長はそれだけ言うと、棗さんの肩を叩
last updateLast Updated : 2026-01-17
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第三十九話

「聖良、おやすみ」「おやすみ……なさい」私はその日、いつもより早めに眠りに付いた。棗さんに、ある問題が起きているとも知らずにーーー。それから二週間が経った頃、棗さんは私に話があるとリビングへと呼んだ。「聖良、ちょっといいか?」「はい?」「ちょっと話があるんだ」「……話、ですか?」なんだろう……。いつになく棗さんが真剣な顔でそう言っていたから、なんだか不安になってしまった。どうしたんだろう……。棗さん、何かあったのかな……?「とにかく、座ってくれ」 「……分かりました」言われたとおり、棗さんと向き合うように座った。 棗さんは、ゆっくりと口を開く。 「聖良、お前に一つ話しておきたいことがある」「話して……おきたいこと?」なんだろう……。話しておきたいことって?  「ああ。親父のことだ」「鷺ノ宮社長、のこと……?」鷺ノ宮社長が、どうかしたのかな……。「聖良、君に話すか迷っていたが……やはり話しておきたい」「はい。なんでしょうか……?」そこで私は、衝撃的なことを聞いてしまうことになったのだった。「親父には、母親以外に愛人がいたんだ」「……え?愛人……? それ、本当ですか……?」  あの鷺ノ宮社長に、愛人が……? 信じられない……。「信じられないか?」「まあ……ちょっと、まだ……」「そうだよな。……因みに言うと、その愛人との間に、子供がいる。いわゆる、隠し子ってヤツだ」「え、隠し子……?」社長に隠し子が……?だけどそんなこと、一度も聞いたことなんてない。 社長には本当に愛人がいたの……?「そうだ。隠し子がいる。……親父に愛人がいると知った俺の母親は、親父と離婚することを決めた。 俺の親権は母親になったが、結局俺は親父の跡を継ぐ人間だから、親父に着いていくしかなかったけど」「……そう、だったんですね」知らなかった。そんなことがあったなんて……。まさか社長には愛人がいて、隠し子までいるなんて……。だけどその言葉の心当たりはあった。 あの時、棗さんが社長に対して冷たく言い放った「俺はあなたみたいにはなりたくない」という言葉。あの言葉は、そういう意味で言っていたんだなと、今初めてわかった。「このことを言おうか言わないかずっと迷っていたが、やはり言っておいたほうがいいかと思ってな。 今後のためにも」「
last updateLast Updated : 2026-01-18
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第四十話

「……それに」「それに……?」不思議そうな顔をする私に、棗さんは言葉を続けて言った。「もし鷺ノ宮家の後継者にするのなら、俺たち夫婦の間に出来た子供が一番望ましいと、社長は考えているようだ」「私たちの……子供?」「もちろん、それが理想なのは俺もわかっている。……出来れば、それを現実にしたいと思ってる」私たちの間に出来た、子供……。確かにそうだ。私たちは夫婦になった以上、いつかは鷺ノ宮家の後継者を残さないといけなくなる。 「後継者……」「もちろん、無理には言わない。 聖良の気持ちもあるだろうから」でも後継者を残して、未来につなげることは当たり前のことだと思う。……だけど私たちに今必要なのは、本当に子供なのだろうかとも、考えてしまう。子供がもし出来たとしたら、二人で愛情を持って育てていけるのかさえ、分からない。そんな状態で子供を作ることが果たして本当にいいものなのか、私には分からない。「子供……」もし今子供が出来たとしても、正直私は育てていける自信がない。 夫婦としてうまくいってるかだって分からないのに……そんな自信、ある訳がない。子供を作ることは鷺ノ宮家にとってとても重要なことだと、私だって頭の中ではわかっている。「今すぐじゃなくていい。……いつか俺たちの子供を作ることを、考えてみてくれないか?」棗さんのその表情、その目は何かも真剣だった。私はいつか、彼との子供を持たなければいけない。本気でそう思ったのは、確かだった。いつか愛する棗さんとの子供を作って、鷺ノ宮家の後継者として育てていく。……それが私たちの、夫婦としての使命なのかもしれないと、本当にそう思った。棗さんが子供を望むのなら、私は妻として、鷺ノ宮家に入った人間として……その責任を果たすべきだと直感した。「棗さん、あの……」「なんだ?」「私は鷺ノ宮家の嫁として、もし後継者が必要だと言うのなら……きちんとその責任を果たすつもりです」私の言葉に、棗さんは「……え?」と私を見る。「だけど今は、子供のことはまだ考えられません。……私が、鷺ノ宮家の嫁としてもっと相応しくなれるまでは、まだ子供は……」それは私の本心。 誰に何を言われても、その気持ちを変えるつもりはない。「……分かっている。だから、俺との子供を作りたいと言ってくれるまで、俺は待つつもりだ。 聖良がちゃんと
last updateLast Updated : 2026-01-19
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