All Chapters of 偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも幸せになれますか?〜: Chapter 51 - Chapter 60

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第五十ニ話

棗さん私を優しく抱きしめてくれた。そして頭を撫でてくれる。「……棗さん」「愛しているよ、聖良」「……はい。私もです」棗さんが私を思ってくれているように、私だって棗さんのことを本気で思っている。「さ、家に帰ろうか?聖良」 「はい。……美味しいご飯、作りますね」「ああ。楽しみにしている」棗さんも、今日は疲れただろうな……。「はい。……今日はカレーにしようと思いますが、大丈夫ですか?」「ああ。聖良の作るカレー好きだから、全然いいさ」「ありがとうございます」家に帰ると、早速私は夕飯を作りを始めた。 棗さんはいつも美味しいと食べてくれるから、作る度に嬉しくなる。「うん。美味い」「本当に?良かったです」棗さんは、よっぽどお腹が空いてるのか、カレーを美味しそうに食べていた。 その美味しそうに食べる表情を見て、私まで嬉しくなる。「ゲホゲホ……」棗さんは勢い良く食べすきたのか、むせてしまっていた。 「大丈夫ですか?棗さん?」「ああ、大丈夫だ……。すまない」「もっとゆっくり食べて大丈夫ですよ?カレーは逃げませんから」「ああ……。がっつきすぎたな」「そうですね。お水、もっと飲みますか?」「ああ」私は棗さんに水を渡した。 水を飲む姿の棗さんも、カッコイイ。だけどそんな棗さんを見ると、幸せだなと思うし、こんな棗さんの姿を見れるのは私だけ。だからこそ、この幸せをずっと感じていたい。 棗さんと二人で幸せになって、いつかお父様に子供の顔を見せられる時が来るといいなって思った。それまでお父様が、生きていてくれるといいな……。「聖良、こっちに来てくれ」「はい」お風呂から上がって髪の毛を乾かし終わって寝室へ行くと、棗さんが私をベッドに呼んだ。 私が棗さんの隣に行くと、棗さんは優しく唇を重ねてきた。「……棗、さん?」「今日は色々あって、疲れた……。もう寝よう」「はい」棗さんは私を愛おしそうに抱きしめながら、その日の夜は一緒に眠りについた。✱ ✱ ✱   それからしばらくが経った。気が付けば私たちは、結婚して間もなく一年が経とうとしていた。手術をしていたお父様も容態も安定していて、一応は退院して今は自宅で療養しているようだった。今の所、転移もなく安定はしているそうだけど。 まあこれからどうなるか分からないから、油断は出来ない
last updateLast Updated : 2026-01-27
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第五十一話

その姿勢は、お父様の姿勢に少しだけ似ているような気がした。「……棗さん。 いえ、棗社長。そろそろお時間です。病院へ参りましょう」仕事上私は、棗さんのことを社長と呼ばないとならないけど、なかなかその呼び方に慣れない。「聖良、ムリして俺を社長と呼ばなくていい。いつも通り名前で呼んでくれて構わないよ」そんな私を見て、棗さんは優しく頭を撫でながらそう言ってくれた。 私は嬉しくて、心がドキッとして、そして感動した。棗さんのこの優しさは、世界一だと思う。 こんなに素敵な旦那を持った私は、本当に幸せなんだなって思う。「……棗、さん」「よし、行こうか?聖良」「……はい」私たちはお父様の手術の時間が近づいたため、病院へと向かった。「親父」 棗さんが病室へと入ると、お父様は「棗、聖良さんも……来てくれたのか?」と顔を向けて言った。「親父、これから手術だろ?……頑張れよ」「お父様、頑張ってください。……後これ、渡したくて」私はお父様の手術が成功するように、お父様にお守りを渡した。 そしたらお父様はそれを受け取ると、優しく微笑んでくれた。「……ああ、ありがとう。二人とも……」その後すぐに、お父様はオペ室に運ばれた。 そして十一時の時間を少し過ぎた頃、お父様の手術が始まった。ずっとそばに付いていてあげたいと思っていたけれど……この後も仕事があるので、それはムリだと判断した。手術が終わる頃に、私たちはもう一度顔を出すことに決めた。その後は会社へと戻り、棗さんは取引先の社長とリモートでの打ち合わせをしていた。 私はその間、秘書室で打ち合わせ内容の確認や、明日のスケジュールを確認していた。リモートでの打ち合わせが終わる頃、社長室に行くと棗さんはすでに打ち合わせを終わらせていたようで、窓から外を眺めていた。「……もうこんな時間なんだな」「え?……あ、そうですね」 ふと時計を見ると午後ニ時半を過ぎていた。 そういえばまだ二人ともお昼ご飯を食べていなかった。「……そういえばまだお昼ご飯、食べてなかったですね」「そうだな。何か食べに行こうか」 「はい」私たちは、遅めの昼食を食べるため会社を出た。✱ ✱ ✱その日の午後十六時過ぎ、病院からの連絡があった。「はい鷺ノ宮です。……え、本当ですか?ありがとうございます」「……病院からですか?」「
last updateLast Updated : 2026-01-27
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第五十三話

「そうか。何かほしいものができたら、遠慮なく言ってくれ」「あ、はい……。分かりました」「それと、記念日にレストランを予約してある。一緒に食事をしよう」「え?」 棗さんが、レストランを予約してくれてるの……? 結婚記念日だから?「せっかくの記念日だ。二人で楽しもう」すごく、嬉しい……。 「……はい。ありがとうございます」私は棗さんと結婚してから、色々なことが変わった。結婚して幸せだったか分からなかったけど、今は本当に幸せだと思う。正直に言うと、私は棗さんと結婚しても、棗さんとは分かり合える気がしなかった。 鷺ノ宮棗の妻としてやっていける自信がないって、ずっとそう思っていた。「結婚記念日か……初めての結婚記念日だな」「そうですね」「この一年、色々あったな」「……ですね」このままこの先、ちゃんとした夫婦になれるとも思っていなかった。 棗さんだって私のことを、本気で愛しているなんて、結婚したばかりの時は思ってもいなかった。でも今は、こんなに分かり合えていることが嬉しいと思える。「んんっ……っ、棗さん……」「聖良……もっと顔見せて」大きなベッドの中で、今日も棗さんに抱かれる。 枕元の灯りを暗くして、お互いの体温を感じていく。甘く激しく、とろけながらお互いの名前を呼び合っていくと、快感が襲ってくる。「っ……あっ、んあっ」愛している。日に日に増していく、その想いが募って仕方なかった。 お互いにこんなにも愛しているのに、私はまだ愛され足りない。そんなことを思ってもしまう時がある。 私って、欲張りなんだな……最近そう思うようにもなった。いつからこんなにも欲張りな人間になってしまったんだろう、私は……。これも全部、棗さんのせいだ。「はぁっ……聖良、可愛い……」「可愛くなんて……ないですっ……。あっ、んんっ……」棗さんが身体を動かしながら、私の首筋にキスをする。「ん、もっと……激しく、してっ」棗さんが足りなくて、思わず棗さんにすがる。「そんなに煽るなんて、聖良はいつからそんなにエッチな子になったんだ」「それは……棗さんの、せいっ……んっ、はっ」棗さんから深く唇を重ねられると、それを合図に棗さんの腰の動きが少しずつ激しくなっていく。「あんっ、あっ……イッちゃうっ……」「ん……イッていいよ、聖良」私は棗さんの身体にぎゅっ
last updateLast Updated : 2026-01-28
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第五十四話

「……はい。鷺ノ宮です」 それから何週間か経った時のことだった。 棗さんのスマホに誰かから連絡が入ったようだった。「……え?それは本当ですか?……はい。分かりました。すぐに行きます!」電話を切った棗さんは、慌てて出かける準備を始めた。「棗さん……?どうしかしましたか?」と声をけると、棗さんは「病院からの連絡で、親父の容態が急変したらしい」そう言うと、上着を羽織り、車の鍵を持った。「……え?」「親父の所に行く。聖良も来い」「はい!」私たちはすぐに家を出て、急いで病院へと向かった。車を走らせる棗さんのその横顔は、とても不安そうで……動揺しているようだった。まさかお父様の容態が急変するなんて……。手術がうまく行っても、やはり転移するリスクがあると医者からは言われていた。だからこそ、この時がきたんだなと、私たちは悟ってしまった。お父様がどうか無事でいてくれることだけを、今は祈るしかなかった。「すいません!連絡を頂いた鷺ノ宮です!……あの、親父は……?」病院に着いてすぐ、私たちはナースステーションでお父様の病室を聞いた。「鷺ノ宮さんのご家族ですか?……病室はこちらです。ご案内します」看護師に連れられ、私たちは病室へと向かった。……その足取りはとても重くて、不安と緊張、そして悲しみが溢れそうだった。「……親父?」病室に入ると、お父様は人工呼吸器に繋がれ、眠ったままの状態でベッドに横たわっていた。 棗さんはお父様に近づいて「親父?」と話しかけた。「……あの、親父の容態は?」「鷺ノ宮さんは、自宅で倒れたようです。実は一時間ほど前に、救急に運ばれてきたんですが……詳しい検査をした結果、肺と肝臓にも、ガンが転移してることが判明しました」医者は静かにそう言うと、目を伏せた。 棗さんは、驚いたような表情で、お父様の顔を見つめていた。「親父は、大丈夫なんですか……?」「……正直に言うと、なんとも言えない状態です。あの時の手術で取りきれなかったガンが、肺や肝臓にも転移したようで……思ったよりも早く、進行したと思われます」「そんな……」「お父様……」最後にお父様に会ったのは多分、ニ週間くらい前だったと思う。……あの時会った時は元気だと、大丈夫だと言っていたけど、本当は元気に見せようとしてムリしていたのかもしれない……。私たちは、しばらく言葉を
last updateLast Updated : 2026-01-28
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第五十五話

「……先生、親父は、あとどのくらい生きられますか?」棗さんが震えた声でそう先生に問いかけると、先生は一言こう言った。「もって……ニヶ月くらい、でしょうか」「ニヶ月……?」そんな……。お父様の余命は、あとニヶ月……?お父様のあの時の笑っていた顔が、忘れられない。 あの時、嬉しそうに笑っていたあのお父様の笑顔が、もう見れなくなるかもしれないなんて……。そう思うと、私は涙が止まらなかった……。「治療をするにはどうしても限界があります。薬を投与して治療したとしても、完全に治るわけではありません。……もちろん薬を使うことで得られる効果には、人それぞれ差が出ます。 髪の毛が抜けたり、頭痛だったり、副作用も出ますし。もっと重い人は吐き気や痙攣なども伴います。……ご年齢を考えると、やはりそう言ったリスクが高くなりますので」「……じゃあ病院は、このまま何もしない方がいいってことですか?」棗さんの表情は、今にも泣きそうになっていた。「いえ。もちろん、ご家族が望むのなら、私たちは患者さんやご家族の意見に寄り添い治療をしていくつもりです。……ですがかなりのリスクになりますので、ご家族でよく話し合って、決めたほうがいいかと思います」   先生のその言葉に、棗さんは黙ったまま何も言わず。……そしてお父様の顔をジッと見つめていた。「……手術は出来るんですか?」「出来ない訳ではありませんが……完全にガンを取り切るのことは出来ません。 転移している箇所が多いため、かなり難しい手術になります」「……それも、リスクが高いってことですね」「正直に言うと……そうですね。リスクですし、患者さんにとっても負担が大きく、ご年齢的に見ても……かなり高いです」「……そうですか」お父様の年齢と、手術や治療のリスクがかなり高くなることを考えると……私たちは何も出来ないんだなって思って、さらに悲しくなり心が不安になる。「……鷺ノ宮さん、ご家族でよく話し合って、考えてみてください」先生はそう言うと、病室から静かに出ていった。 私たちは何も言えないまま、静かな時間だけが病室に流れていった。「……棗さん……」「余命ニヶ月、か……。残酷な現実だな」棗さんはお父様の手を握りながら、掠れた声でそう言った。「……私たちには、本当に何も出来ないのでしょうか」私の言葉に、棗さんは「……医者
last updateLast Updated : 2026-01-29
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第五十六話

それからというもの、棗さんは仕事の合間を縫ってお父様の様子を見に行っていた。 時間がある時は、お父様に話しかけたり、仕事の話をしたりしていた。私はそのたびに、何も言わずにただ棗さんのそばにいることを決めた。 何も言わずとも、お互いを分かり合えるのが夫婦なのだと、私の母は言っていたから。何も言わなくても、そばいるだけで安心するんだと。 だから私は、黙って棗さんのそばにいることを決心した。それから一週間が経ったが、お父様の病状は悪化するばかりだった。 薬を投与してもあまり改善は見られなかった。だんだんとお父様の意識も朦朧としていて……目を開けたとしても、薬による副作用で体を動かすのも難しくて、まともに話すことも出来なくなっていた。そんな姿を見るのがとても辛くて……何も出来なくて、虚しくて辛かった。「……親父、いよいよかもな」棗さんはベランダから外を眺めながらそう言っていた。 私は棗さんの手を握りながら、寄り添うことしか出来なかった。「……お父様、だんだん衰弱してしまってますね」「ああ……。もうまともに話すことも出来ない。目を開けるのも辛いんだろうな」「……棗さん」「親父に俺が頑張ってる姿、見せたかったんだけどな……。もう無理かもしれないな……見せてやれない……」棗さんは小さくそう言うと、そのまま寝室へと行ってしまった。「棗さん、大丈夫ですか……?」私がドア越しにそう声をかけると、棗さんは「悪い……一人にしてくれないか」と返事をした。「……わかりました」私は静かに夕食の買い出しへと出掛けた。「あんな棗さん……見たことない」どうやって接してあげればいいのか、わからない。「なんとかして、元気付けてあげたいな……」でも、その方法がわからない。「私……ダメだな」棗さんの妻、失格かも……。その翌日の午後、棗さんの元にお父様が病室で静かに息を引き取ったとの連絡が入った。深い悲しみに打ちひしがれながら、棗さんは呆然としていた。 とても辛そうな棗さんを見ていられなくて、声もかけてあげられなかった。私は棗さんに掛ける言葉もなくて……気が付いたら、あっという間に葬儀も終わっていた。 お父様が亡くなったことは、TVなどでも報道されていた。棗さんは「親父の分まで、俺が頑張らないとな」と言っていたけど、本当は誰より辛いはずだ。 だからこそ私
last updateLast Updated : 2026-01-30
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第五十七話

そんなある日のことだった。 朝ご飯の支度をしていた時に、わたしにある異変が起きていた。炊けたばかりのご飯を、茶碗に盛ろうとした時……なんだか急に気持ち悪くなってしまった。「……うぅっ……気持ち悪っ……」なんでこんなにも気持ち悪いんだろう……。急な吐き気に襲われて、そこから少し動けなくなってしまった。「……聖良? おい、大丈夫か!?」心配した棗さんが駆け寄ってきてくれ、背中を擦ってくれた。「す、すみません……。少し気持ち悪くなってしまって……もう大丈夫、ですから……」「無理しなくていい。座って休んでいろ」「すみません……ありがとうございます」 そんな私に、棗さんは優しく「聖良、体調が悪いなら無理してやらなくていい」と言ってくれた。「はい……。ありがとうございます」「今日は仕事を休んでゆっくりしていろ。 無理して倒れられたら、俺が困るからな」棗さんはそう言って私の頭を撫でてくれた。「……でも」「俺なら大丈夫だ。 それより、聖良に何かあった時の方が心配だ」「……ありがとうございます。棗さん」 棗さんの優しさが嬉しくて、泣きそうになってしまった。「……聖良、泣くな」頭を撫でてくれる棗さんは、優しくそう言ってくれた。「棗さん……」だけど私はこの異変に、心当たりがあった。何日か前までなんにも感じず大丈夫だった炊きたてのご飯のニオイ。 そしてさっきご飯のニオイで気持ち悪くなった。もしかして……そう思ってそっと、お腹に手を当ててみる。まだ実感なんてないし、本当にそうなのか分からない。だけど、だけど……早く知りたかった。「今日はゆっくり休むといい。夕食はどこかで済ませてくるから」「ありがとうございます……。お仕事、頑張ってください」「ああ。じゃあ行ってくる。ちゃんと休むんだぞ?」私は「はい」と笑って返事をし、棗さんを見送った。「……よし」 どうしても知りたかったから、私はそれを確かめるために服を着替えて薬局へと向かった。 薬局は歩いて十分くらいのところにあった。薬局の中で探したそれを手にした途端、私はドキドしながらそれをレジへと持っていた。……手にしたそれは、妊娠検査薬だ。 あの炊きたてのご飯のニオイで気持ち悪くなったのは、きっと妊娠しているからなのかもしれない。……あの時、そう思ったのは確かだった。聞いたこと
last updateLast Updated : 2026-01-31
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第五十八話

そんな感情ばかり浮かんできてしまって、結局分からなくなってしまった。どうしたらいいのか分からない……。子供が出来たと知って、私も複雑だった。嬉しいのか嬉しくないのか、そんなことも分からなかった。でもちゃんと、棗さんには話さないと……。いつまでも黙っている訳にはいかないよね……。そんなことを考えながらも、結局何日も妊娠してるとは言えずにいた。仕事が溜まってしまい、なかなかそれどころではないということもあったけど……単純に言えなかった。「どうしよう……」反応を伺うのが怖くて、言えずにいる。……私って本当に臆病なんだなって思った。 こんな時でさえ、棗さんに心配かけたくと思ってしまう。何も言えないし、笑ってごまかしてしまう。言わないととわかっていながらも、結局ためらって言えないままだ……。そんなことを考えているうちに、つわりという名の症状は始まってしまっている。妊娠検査薬だけだと本当に妊娠しているかがちゃんと確信が持てなかったため、私はその後産婦人科できちんと診てもらった。 だけど結果は変わらず、やはり私は妊娠していた。 その結果を受けて、私は今度は旦那さんと来てください。そう先生から言われていた。だけどそんなこと言えるわけもなく、そのまま時間だけが過ぎていた。 言いたい気持ちはある、だけど怖くて言えない。「妊娠しました」その一言が言えたらどれだけ楽なんだろうか……。いつもそんなことばかりを考えてしまう。 「聖良、どうした?顔色があまりよくないようだが……」「え……?そ、そうですか……? いつも通りですよ?」なんて自分に言い聞かせるつもりで明るく振る舞う。幸い、そんなにまだつわりがひどい方ではないので、まだ恐らく棗さんには妊娠のことを気付かれてはいないと思うけど……。「本当に大丈夫か?最近仕事でも、上の空の時があるようだが……?」「……すみません。明日からまた気を付けます」棗さんにそんなことを言われてしまっては、ますます言いにくい。 妊娠してるから上の空になってしまうなんて、言い訳にしかならない。 「なあ、聖良」「……はい」「お前、俺に何か隠しごとしてないか?」「ーーーっ!」棗さんが放ったその一言に、私は動揺を隠せなくなった。隠し事してるといえばそうだ。 だって妊娠してることを、まだ言えていないのだから。  「聖良、
last updateLast Updated : 2026-02-01
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第五十九話

「聖良、大丈夫だ。……ゆっくりでいいから」棗さんが優しく肩を叩いてくれる。 私は勇気を振り絞ることにした。「……棗さん、話したいことがあります。聞いて、くれますか?」「ああ、ちゃんと聞く。 だから……話してくれないか?」棗さんのその優しい言葉、その微笑み、その表情。全部が心地よくて、温かくて。とてもありがたい存在だなと思った。「実は、私……あのっ……」変に緊張して、言葉が詰まる。 だけど勇気を振り絞った。「……聖良、ゆっくりでいい。深呼吸して」手を優しく握ってくれる棗さんの優しい温もり。これが幸せなんだと感じる。私は深呼吸をしてから、そっと口を開く。「私……お腹に、赤ちゃんが、いるんです……」「……え?」「に……妊娠、してるんです」ようやく言えた。ずっと言えなかった真実を。ようやく、直接話すことが出来た。 「それは、本当なのか聖良?」 「……はい。今、妊娠ニヶ月だそうです」棗さんの驚いたような表情から読み取れるのは、きっと妊娠したという事実をどう受け止めればいいかだ。でもそれは、私も同じだ。 すごく怖いし、緊張する。「本当に……聖良のお腹に、俺たちの赤ちゃんがいるのか?」棗さんの表情は驚きを隠せないという表情だった。少しばかり目を大きくして、動揺しているようだった。「……病院に行ったので、間違いありません。 私のお腹の中には、棗さんの赤ちゃんがいるんです」 私はお腹に手を当てて、さすりながらそう伝えた。その瞬間、棗さんは私を抱きしめてくれた。「え……棗、さん……?」「信じられない……。すごく嬉しいな」 「え?本当に……?」棗さんは嬉しそうに「当たり前だろ?だって俺たちに、子供が産まれるんだぞ?」と言ってくれた。「ありがとう……聖良」「え……?」ありがとう……?「俺、本当に嬉しいよ。……聖良に子供が出来たって聞いて、すごく嬉しい。 俺、父親になれるのか?すげえ……幸せだ」「棗さん……私、産んでも、いいんですか?」不安になりながらも、棗さんにそう問いかける。「何言ってるんだ。当たり前だろ? だって俺たちの子供だぞ?」私は棗さんの言葉に、涙が止まらなくなった。 棗さんが喜んでくれてると知って、安心したのもあるし、何より嬉しいって思ってくれているのが、私には嬉しかったからだ。 「……っ……はい。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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第六十話

【新しい家族〜棗目線〜】「大丈夫か?聖良」「はい……。大丈夫……です」聖良の妊娠していると知ったあの日、俺はすごく嬉しかった。自分たちの子供が今、お腹の中にいると知ってから、もっと今まで以上に聖良のことを大切にしていけないと思った。聖良の妊娠が、俺の中で大きな決意を生んだ。 お腹の子と聖良、三人で幸せになるために。俺はしっかりと聖良のことを支えていきたい。 聖良はこれから母親になるため、一生懸命頑張っていきたいと俺に言ってくれた。だからこそ俺は、聖良が元気な赤ちゃんを産めるように、しっかりと支えてあげたい。 今妊娠三ヶ月の聖良は、だんだんとつわりがひどくなっている。食べ物さえ、まともに食べれそうにないようだった。それもそうだ。炊きたてのご飯のニオイやカレーのニオイ。あまいスイーツのニオイなど、普段いつも何気なく食べれていたあらゆるものを、口に出来ずにいるのだから。今の聖良が唯一食べれるのは、トマトやグレープフルーツやキウイフルーツなどの酸っぱいものなどだ。「聖良、グレープフルーツゼリーなら食べられそうか?」「あ、はい……。グレープフルーツゼリー、食べたいです」グレープフルーツゼリーを冷蔵庫から取り出して見せると、聖良は嬉しそうに笑った。妊娠中は変なものや普段食べない物を食べたくなると聞いたが、本当なんだな……。聖良はもともとグレープフルーツがあまり好きではないと聞いたが、妊娠中は嬉しそうに食べるんだよな……。妊娠すると食が変わると聞くから、自然的なことかもしれないが。「俺が食べさせてやろうか?」「じ、自分で食べれるから、大丈夫です……!」聖良は恥ずかしそうにそう言うと、グレープフルーツゼリーを食べ始める。「酸っぱくて、美味しいです……落ち着きます」なんて言いながら黙々と食べている。「そうか。落ち着くか」「はい」聖良がつわりで大変な中でも、俺は仕事が忙しくなってきて、たまに帰りが遅くなってしまうこともあった。なるべく早く帰ろうと思いつつも、なかなかスムーズにいかなくて、結局遅くなってしまう。「聖良、いつも本当にすまない……。放ったらかしてしまっているようで、申し訳ないよ」俺がそう言うと、聖良は「そんなことありません。いつも支えてもらって、私の方こそすみません」そう言い返した。聖良のその言葉が嬉しくて、なんとも言え
last updateLast Updated : 2026-02-03
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