All Chapters of 偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも幸せになれますか?〜: Chapter 71 - Chapter 80

80 Chapters

第七十一話

「……いよいよ、明日。棗さんのお母さんに会えるんですね」 思えば、一度棗さんのお母さんに会う予定だったけど、私の体調が優れなかったため、延期にしてもらっていた。でも明日、ついに私は棗さんのお母さんに会える。……とても楽しみで、そして緊張してしまっている。どんなお母さんなんだろう……。どんな風に話すのだろうとか、色々なことを思ってしまう。 今日の夜はきっと、楽しみすぎて寝れなさそうだな……。そんなことを思っている私に、棗さんは察したように「大丈夫だ」と言ってくれた。その一言はとても力強くて、安心感があった。 棗さんの言葉の魔法ってすごい。 どうしてこんなにも安心させてくれるのだろう……?不思議な感じだ。こんなにも安心するなんて……やっぱり私は、棗さんの妻になって良かった。棗さんと結婚出来たからこそ、本当にそう思う。……棗さんがいてくれたから、私はこんなにも安心出来るんだ。 棗さんとだから、幸せを毎日噛み締めていける。「棗さん……キス、したいです」「え?」「キス……してください」  つわりでキスももらえなかった私は、棗さんにキスをねだった。「……んっ」棗さんは私の唇に、そっとキスを落としてくれた。ちゅっと音を立てて離れた唇は、すぐに離れてしまった。「愛してるよ……聖良」「……私もです」私たちは、もう一度お互いの体温を確かめるようにキスをした。✱ ✱ ✱そして次の日の十二時半。私たちは鷺ノ宮グループが経営している、とあるホテルのラウンジにいた。ここで棗さんのお母さんと会う約束をしている。 時間が近づくにつれて緊張で顔が強ばりそうだった。緊張でうまく話せるのかどうかも分からない。「……来たぞ、聖良」「は、はいっ……」 棗さんが見る視線の先には、とある一人の女性が歩いていた。……あの人が、棗さんのお母さん。スラッしていて、スタイルが良い。 棗さんのスタイルの良さは、お母さんに似たのかもしれないな。棗さんのお母さんは、私たちに気づいて声をかけてきた。「棗、お待たせ。待たせてごめんなさい」「いや。大丈夫だ。俺たちも今来たとこだから」「あなたが棗の……。聖良さん、でしたっけ?」私は棗さんのお母さんに「はい、初めまして。棗さんの妻の、聖良と申します。……よろしくお願い致します、お母様」と挨拶をした。「こちらこそ。体
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第七十二話

「……ええ、幸せになりなさい。これ以上ないってくらいに、幸せになりなさい。 たとえ離れて暮らしていても、あなたはずっと私の息子よ。世界でたった一人の、大切な息子よ」棗さんはお母さんと会えて、きっと嬉しいはずだ。「棗……あなたが幸せになるのを、母さんはいつだって待ち望んでいるわ。 あなたに子供が産まれるって聞いた時、母さんは本当に嬉しかったもの。……あなたもついに親になる日が来たんだと思うと、感慨深いものね」棗さんのお母さんは、目に涙を浮かべながら優しくそう言って笑っていた。やっぱり……親はいつまで経っても、親なんだな。 棗さんのお母さんを見ていたら、そう思った。たとえ離れて暮らしていても、別の人生を送っていたとしても。 いつまで経っても棗さんのお母さんは、ずっと棗さんのお母さんなんだなって、棗さんのお母さんの言葉を聞いていたら、不思議とそう思ったんだ。棗さんのお母さんは、きっと棗さんのことが誰よりも大切なんだな……そして誰よりも愛しているんだ。こんなにも愛されている棗さんは、幸せ者なんだな。素敵な親子だな……。「……ありがとう、母さん。俺、母さんに会えて良かった。 実はずっと言えなかったんだが……母さんと親父が離婚してから、親父は俺にキツく当たるようになったんだ」「え……?」私は、その話を知らない。 聞いたこともなかった。「母さんに会いたいと言ったら、拒絶された。ダメだと。……それを言うのはきっと、俺をいい息子に育てたいからなんだっていうのは、子供ながらに気付いていたけどな」棗さんの言葉に、棗さんのお母さんは「辛い思い、させてごめんね……棗」と涙をこらえる。「違う、母さん」「え……?」「今思うと、あれは母さんがくれていた愛情を、親父も同じようにくれようとしたのかもしれないって思ってる。……親父なりに、気を遣ったんだと思う」棗さんの言葉に、胸がギュッと締め付けられるのが分かった。 気が付いたら私の瞳からは、一筋の涙が零れ落ちていた。それは私だけでなく、お母さんの目にも同じように涙が伝っていた。 「ごめんね……棗……。本当に、ごめんね……」「っ……」その一言だけ呟くと、大粒の涙を溢した。 私もそれを見て涙を堪えることが出来なくて……一緒に涙を流していた。「……母さん、俺は今すごく幸せだよ。……俺を産んでくれて、本当にありがと
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第七十三話

「……ああ、そうだな。俺には聖良がいるから、寂しくないな」 棗さんはお腹の中で元気に動く我が子を愛おしそうに撫でる。「私たちにはこの子もいます。……私たちは家族になります。だからなんにも寂しくありません」「……そうだな。俺も母さんに負けないくらい、幸せにならないとな」「はい」私たちは二人で手を繋ぎながら、ゆっくり自宅へと戻った。この瞬間、この一瞬が、私たちにとっては大きな宝物になること間違いない。「……棗さん、愛しています」「俺も愛してるよ。……聖良のことを、これからもずーっと」「はい。私は赤ちゃんのことも、愛しています」この子はとても愛おしい、私たちの大事は家族だから。「それは俺も同じ気持ちだ。……家族になろうって言ってくれて、ありがとう。 最高の家族になりそうな予感がするな」「はい。きっと世界で一番、最高な家族になりますよ。……私があなたのことを愛しているように、赤ちゃんもきっと、私たちのことを愛してくれることだと思います」気のせいかもしれないけど、そんな気がする。「なんか、甘いものが食べたくなりましたね」「じゃあ、わらび餅でも買いに行くか?」 「わらび餅?」 棗さんはこの近くに和菓子屋があるのだけど、そこのわらび餅が美味しいと言っていた。 「わらび餅、美味しそうですね」「せっかくだ。買いに行こうか」「はい」お散歩ついでに、わらび餅を買って帰った。✱ ✱ ✱「棗さん、行ってらっしゃい」 「行ってくる。夕飯は一緒に食べよう」「はい。待ってます」「じゃあな。パパ、行ってくるからな」愛おしそうに子供を愛でる棗さんは、すっかりパパモードになっている。「行ってらっしゃい」棗さんが仕事に行くのを見送ってから、私はすぐに家事を始めた。 安定期が過ぎてから経過は順調で、すくすくとお腹の中で育っている。最近は元気によく動いていて、よくお腹を蹴ってくる。 赤ちゃんが元気だと知れるのが、私一番の元気の源だ。赤ちゃんが元気に動いてくれるから、私はいつも嬉しくなるし、もっともっとこの子のために頑張らないとなって思っている。「赤ちゃんは、今日も元気ですね」バルコニーの花に水をかけながらそんなことを呟いてみる。 赤ちゃんが産まれたら、私はこの子にたくさんの愛情を注いであげよう、そう思っている。私たちの元に産まれてきたこ
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第七十四話

「あの……今何ヶ月ですか?」その妊婦さんに勇気を出して声をかけると、「もう九ヶ月過ぎです。あと三週間後が出産予定日なんです」と答えてくれた。「そうなんですね。お腹の子は男の子ですか?女の子ですか?」と聞くと、「うちは女の子です」と答えてくれた。「そうなんですね……」と呟くと「あなたは、今何ヶ月なの?」と聞かれた。「私は今、七ヶ月です」「そっかぁ。じゃあまだまだ産まれそうにないね」「はい」ベンチに座りながらふと見渡すと、その妊婦さんの子供たちが楽しそうにはしゃぎ回っていた。そんな光景を眺めていた時、「あなたは一人目なの?」と聞かれた。「はい。一人目です」「そうなんだ。一人目って不安だよね? うちはもう三人目だけどね」え、三人目……すごい。 「すごいですね……。三人もいらっしゃるなんて……先輩ママさんですね」「そんなことないよ。うちはもう慣れちゃっただけですから。 もう三人もいると、大変ですけどね。子育てするの」「そうですよね……。三人も育てるって、すごく大変そうです……」まだ一人目の私には、三人の子供の子育てなんて想像出来ない。「だけど楽しいですよ。……辛い時も、悲しい時があっても、子供たちの顔を見れば元気がもらえるし、パワーが出ます」「パワー……ですか?」「そう、パワー。お母さんになるには忍耐も努力も必要だしね。 たけどそれもまた、子育ての一つの楽しみ方ですよ?……辛いことばかりが育児じゃない。楽しいこともあるからこそ、子供の成長を間近で感じられるし。子供って偉大ですよ?」そう言われて思い出したのは、棗さんのお母さんの顔だった。 どんなに離れていても、実の息子を思う気持ちは強くて、愛情を持っていたことを知ったあの時、私は本当に素敵だと思った。だからこそ私は、こんな素敵な家族を作りたいと思ったんだ。 それはまさに、今言われたような言葉が胸の奥にも刺さった。赤ちゃんは、偉大な存在だ……。「子供って不思議ですよね?泣いたり笑ったり忙しくて。……だけどそれもまた、子育ての魅力だなって私は思ってるんです」「……そうなんですね。それを聞いて、私も早くこの子を産みたいなって思いました」お腹に手を当てて鼓動を感じながら、そう言葉にした。「あ、そう言えば名前言ってなかったですね? 私は蒲田(かまた)友香里(ゆかり)。よろしくお願い
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第七十五話

「そ、そうでしょうか……?」なんて不思議な顔をする私に、友香里さんは続けて言った。「待って。私、今そんなすごい人の奥さんと話してたんだぁ。……やばい。テンションが上がるね」「そ、そうですか?」    私は、社長夫人と言われたらそうだけど、そんなに大した人間ではないからな。「うん、話してくれてありがとう、聖良さん。……鷺ノ宮社長のこと応援していますから、頑張ってくださいと伝えてくださいね?」    「ありがとうございます。……きっと旦那も、喜ぶと思います」こうして身近に応援してくれる人がいるって、幸せなことだよね。……ね、棗さん?「聖良さん。もしまた時間が合えば、またよかったらお話しましょう?」「はい、ぜひお願いします。 先輩ママとして、子育てのこと色々と教えてください」「分かりました。お任せください。 鷺ノ宮社長のお子様のためなら、たくさん協力します」「ありがとうございます」私はその日以来、友香里さんとママ友という感じではないけど、仲良くなって色々とお話をするようになった。子育てのことを主に聞くけど、たくさん話してくれてすごく頼もしい人だ。「そうなのか?……そういうのは、ママ友?って言うんだよな?」「はい。友香里さん、すごく仲良くしてくれて……子育てのこと何でも聞いてねって言ってくれるんです」棗さんにも、友香里さんと仲良くなったことを話した。 棗さんは不思議な顔をしていたけど、「そっか。でもまぁ、ママ友が出来たのはいいかもしれないな」なんて言ってくれた。「はい。本当にそう思います」私はお味噌汁の味見をしながらそう言葉にした。「あと、友香里さんが棗さんのこと応援してるって言ってましたよ?」「そうなのか?」「はい。……棗さんは、鷺ノ宮グループの期待の星ですね?」「はははっ……。期待の星か。まあ、悪くはないな」棗そんはそう言って笑っていた。……棗さん、まんざらでもないって顔してる。   「はい。 皆さんの期待に添えるように、頑張らないとですね?」「……ああ、そうだな」棗さんは私の元に来ると、優しく後ろから抱きしめてくる。「……棗さん?」「聖良、これからも俺のことを支えてくれ」棗さんの優しい体温がそっと包み込んでいく。「……はい。私は、ずっとあなたのそばにいますよ。私は、あなたの妻ですから」「ああ。 子供
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第七十六話

「赤ちゃん、今お腹の中で何してるんだろうな?」「確かに。何してるんでしょうね?」  赤ちゃんが動く度に嬉しくなって、こんなにも成長しているんだなというのがだんだん分かってきた。 こうしているだけで、幸せを感じるのもまた一つの幸せなんだと思う。「赤ちゃんの鼓動を感じる度に、私すごく嬉しくなるんです。ちゃんとお腹の中で生きてるんだなって……」私がそう言うと、棗さんは優しく「聖良も本当に母親になるんだな?」そう言って頬を撫でてくれた。「……はい。私も、自分で本当に母親になるんだなって思ってます」「俺も早く、父親になりたいな。……この子を育てる父親に、なりたい」棗さんのそんな優しい表情は、本当に父親そのものだ。「きっと棗さんは、いい父親になると思います。 愛情を持って、赤ちゃんを育ててくれると信じていますよ?」「ああ。……なあ、聖良。ちゃんとした父親に、俺はなれるか?」棗さんは少しだけ寂しそうに私を見つめる。だから私は、棗さんに「棗さんはきっと、ちゃんといい父親になります。 だって私たちの子供ですよ?愛情をたっぷり注いであげましょう?」と笑った。「……そうだな。俺たちは親になるんだもんな」「はい。私たちはこの子が出来た時から、もう親になっていますよ。……二人で親になって、二人で一緒に、この子の成長を見守っていきましょうね」私たちは親になれる日を待ち望みながら、一日一日を大切に過ごそうと決めた。 この子が生まれて、家族になっていく日を楽しみにしているんだ。「おやすみ、聖良」「おやすみなさい、棗さん」私たちはベッドの中で手を繋ぎながら、その日の夜は眠りについた。そして何日かしてからまた公園で、友香里さんとまた話をした。「そっか……。旦那さんそんなことを言ってたの」「はい。自分がちゃんといい父親になれるのかどうか、不安みたいで……。私はちゃんと彼は、いい父親になれると思っていますけど」友香里さんは少し考え込んだ後、「そうねぇ……」と言葉を続けてくれた。「確かに父親になるって、お腹の中に時にはまだあまり実感ない人が多いよね? うちの旦那もそうだったし。産まれてからようやく父親になったんだ、って実感してたよ」「そうなんですね……。やっぱり、すぐに父親になるってなかなか難しいんですかね?」友香里さんは子供たちを見つめながら「そんなこと
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第七十七話

「……頑張りたいです、私たちも」「大丈夫だよ。聖良さんと鷺ノ宮社長なら、一緒に頑張っていけるよと思うよ。 応援してる」友香里さんの笑顔が、なぜだかホッとして安心感がある。「ありがとうございます。頑張ります」「うん。頑張って!ママ」「はい。ママ、頑張るからね」お腹に手を乗せて声をかけてみると。その返事に反応してか、赤ちゃんが動いた。「……動いてる」動く度に感じる赤ちゃんの鼓動が、とても嬉しくて、微笑みが止まらない。「赤ちゃんの鼓動を感じるとさ、嬉しくなるよね」「はい」友香里さんは「分かるよ〜。私も赤ちゃんが動くのを感じる度に嬉しくなるんだよねぇ」なんて言いながら、子供たちを見つめていた。「子供たちもね、また下の子が産まれるって分かってから、お兄ちゃんになるんだなって自覚してて。早く産まれてきてねーって何度も赤ちゃんに向かって言ってるのよ?……それを見る度にさ、嬉しくなってね。この子はきっと、心の優しい子になるんだろうなって思うんだ」「……素敵です。きっと友香里さんの子供たちは、優しくて心の温かい子になりますね」友香里さんの子供たちを見るその表情は、まさに素敵なお母さんって感じがした。「聖良さんの子供だって、きっと優しくて心の温かい子に育つと思うよ。……私も、そう思ってるよ」「……ありがとうございます。友香里さん」私は友香里さんに微笑みを向けると、「じゃあまた」と公園から歩き出した。✱ ✱ ✱そんな友香里さんがニ週間後に、出産準備に入るために入院すると聞いた。 友香里さんに無事に赤ちゃんが産まれたと報告があったのは、それから二日後のことだった。今度は元気な女の子だそうで、初めての女の子でお兄ちゃんたちも喜んでると報告があった。 私はもうそれが嬉しくて、私も早く産みたいと思った。私ももうあっという間に八ヶ月に入り、ますます赤ちゃんがお腹の中で大きくなってきた。 こうして我が子の成長を見守ることが出来ているのが、嬉しくて嬉しくて仕方ない。「ただいま。聖良」「あ、棗さん、お帰りなさい」「ただいま、赤ちゃん。今日も元気だったか?」帰ってきて早々、棗さんはお腹に手を当てながら嬉しそうにそう言っていた。 私もそれを見て、つい微笑みが出てしまった。「そうだ。棗さん」「ん?」「友香里さん、今日赤ちゃんが産まれたんです」「そうな
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第七十八話

「はい?」 「いや、会社の部下から聞いたのだが……男も育児休暇というのを取る人が増えているらしいな?」 「えっ?」まさか棗さんの口から「育児休暇」という言葉が出てくるなんて、思わなかった。「今は育休と言うんだろ? 俺の部下も、男だが育休を取ったと言っていた」 「え、そうなんですか?」まさか棗さんの会社でも、育休を取った人がいたなんて……知らなかった。「もちろん鷺ノ宮グループでも男が育休を取ることを推奨はしているが……そんなに浸透はしてないようだ」「確かに、男性が育休を取るということは、まだあまり馴染みがないみたいですね。育休は女性が取るものという認識が大きいみたいですし。……現に私も、育休に対しては男性の認知度は低いんだと実感しました」友香里さんの話を聞いて、ますますそう思った。「そうだな。……正直に言うと、俺も男が育休を取ることには賛成だ」「そうなんですか?」「ああ。子供が産まれたらそれで終わりではないだろ?……実際には産まれてからが、俺たちは親としてのスタートになるわけだし」「……はい。そうですね」確かに棗さんの、言うとおりだ。 赤ちゃんが産まれてからが私たちは親としてスタートになる。棗さんは、私たちが親になるその瞬間までのことをしっかりと考えてくれているんだな……。さすがだな。「俺も本当は、育休を取れたらいいんだが……」「い、いえ!そ、そんな……。棗さんにそんなことをさせる訳にはいきません……!」棗さんは鷺ノ宮グループを引っ張っていく大事な存在なのだ。 棗さんに育休を取らせるなんて絶対に無理だとわかっている。そんなことをしたら、仕事が進まなくなるだろうし。それに、大事な商談だって……。「育休を取りたいが、無理だと分かってしまった。……本当にすまない、聖良」棗さんは申し訳なさそうにそう言った。「いえ、謝らないでください。 その気持ちだけで、充分嬉しいですよ?」「ありがとう、聖良。……ただ育休は取れないが、しっかりと一緒に赤ちゃんを育てていきたいと思っている。 出来る限りできることは、なるべく協力していきたいと思っている」棗さんのその力強くて優しい言葉が嬉しくて、私も「ありがとうございます」と言った。お腹の赤ちゃんがその言葉に反応するかのように、動くのが分かった。 赤ちゃんもきっと、パパとママに早く会いた
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第七十九話

「な、棗さん……。どうしよう……」「どうした聖良!?」「は、破水……してしまってます……」マタニティワンピースから水が出ていた。恐らく破水してしまっているみたいだった。「何?本当か……? 待ってろ。すぐにバスタオルを持ってくる!」「は、はいっ……」棗さんは慌てたようにバスルームへ行くと、バスタオルを何枚か持ってきてくれた。「聖良、もうすぐ車が到着する。もう少しの我慢だからな」「は、はいっ……」棗さんが優しく背中を擦ってくれる。社用車が到着してすぐ、私は運転手さんが運転する車で病院へと運ばれた。 棗さんは車の中で、私のことを励ましながら私の手をずっと握ってくれていた。とにかく痛みが強いけど、棗さんのおかげで少しだけ安心感があった。「大丈夫か、聖良……?」「は、はいっ……なんとか……」   「奥様、奥様は破水していますので、病院に着いたらまず先生に見てもらいましょう」「はいっ……」痛みに耐えながら、私は病院に着くのをひたすら待っていた。 だけどその間も陣痛は来ていて、痛みが強くて我慢できそうにないし、何にも話せない。それから十分後、私は病院に到着した。 痛みと闘いながら病室に運ばれると、すぐに先生が来て子宮口を確認した。だけど子宮口がまだあまり開いてないため、出産までにはいきつかなそうだった。  「はぁっ……。い、痛いっ……」「大丈夫か?辛いだろ?」棗さんは腰を擦りながらそう言ってくれた。 続けて棗さんは「聖良、こんな時なのに何もしてやれなくてごめんな?」と私の頭を撫でる。「い、いえ……。そばにいてくれるだけで、今は嬉しいです……」ずっと腰を擦ってくれる棗さんは、優しく手を握ったままそばにいてくれた。「もう少しだ。……頑張れ、聖良。安心しろ、俺が付いてる」   「っ……はい。ありがとうございます」それからどれくらい経っただろうか……。前にも増して、間隔が変わったような気がした。調べると、陣痛の間隔がニ分から三分くらいの間隔になってきた。 そろそろだと思い、ナースコールで先生を呼んだ。先生は子宮口を確認すると、「うん。子宮口かなり開いてきたね。 では、出産準備に入りましょうか」と言って準備を始める。助産師さんも来てくれて、助産師さんの指示でいきんだり緩めたり、すごく大変だった。 激しい痛みに襲われて、何度も泣き
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第八十話

「はい。赤ちゃん、抱いてあげてください」助産師さんが私たちのところへ子供をを連れて来てくれた。「いいん……ですか?」「もちろんよ。……さ、あなたたちの赤ちゃんよ」「はい……。ありがとうございます」私は今まさに産まれたばかりの赤ちゃんを、優しく抱いた。思ったよりずっしりとしているのに、手や足がすごく小さくて……すごくすごく可愛かった。でもふわふわしていて、ふにふにしていて、これが赤ちゃんなのかと思い知らされる。「……どうしよう、すごく可愛い」「ああ、可愛いな」棗さんと二人、赤ちゃんを見つめながらずっと微笑みが止まらなかった。 私たちの赤ちゃんは、こんなにも可愛いんだと知り、幸せな気持ちになった。「男の子かぁ……。嬉しいな」「はい。……赤ちゃん、すごく可愛いです」棗さんにも似てるし、私にも似ている気がする。 私たちの赤ちゃん、ずっと会いたかった。ずっとずっと、この手で抱きしめたかった。 赤ちゃん、私たちをパパとママにしてくれてありがとう……。私たちは、あなたに出会えて本当に幸せだよ。   「……聖良、産んでくれて本当にありがとう。俺は本当に、幸せだよ」可愛い我が子を見つめながら、棗さんはそう言ってくれた。「……はい。私も、幸せです」「ああ。これからは、俺たちは家族になるんだな」家族か……。すごくいい家族になりそうな予感しかないな、この子がいれば。「はい。私たちは、この子のママとパパです。 ちゃんと……家族です」こうして産まれてきた子供と、棗さんと三人で、今日から私たちは家族としての生活をスタートさせる。そう言えば棗さん、この子が産まれた時、少し泣いてたな……。棗さんが泣いていたところ、初めて見た。そんな棗さんの涙は、とてもキレイな涙だった。美しい、涙だった。「そうだ。子供の名前、決めないとな」「はい。そう言えばまだ、棗さんには赤ちゃんの性別言ってなかったですね。 産まれてからのサプライズにしてしまいました……すみません」教えてあげれば良かったかな……。「いいんだよ。女の子でも男の子でも、産まれてきてくれたら、それでいいんだよ」棗さんは私のその言葉にも、優しくそう言ってくれた。子供を見つめながら、「可愛いな、本当に」と言っていた。「はい。……本当に、天使みたいに可愛いです」「ああ。本当に可愛いな」   「
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