きりりっと引き締まった涼一を、スタジオの隅から郁也はそっと眺めた。「まーったく。担当作家の緊張を取り除くのも編集者である、お前の仕事なんだぞ。編集長の僕に丸投げって、どういうことだ?」「だって俺、お笑い担当じゃないんで!」 隣にいる編集長にさらっと文句を言われたので、しれっと言い返してやる。「ああ、確かに。桃瀬はお色気担当だったな。葩御稜に抱きつかれて、顔を真っ赤にしながら嬉しそうにしていたし」(く~っ! このオッサン。いつも通りに苛めやがって……) 横目でぎろりと睨んでやると、三木編集長は涼しい顔して肘で、俺の体をつんつんと突いてきた。「顔を赤らめる暇があるなら、あんなのさっさと対処してみろ。それを笑顔でガマンしながら見ている小田桐先生の神経が、いつかブチ切れるぞ」「――はい……」「それにそんなんだと、いつまでたっても副編集長のポストにはあげられない」 その言葉に目を大きく見開くと、隣で肩をすくめられる。「鳴海がうまいこと進行係をやってくれてるから、近々仕事の質をワンランクアップさせてもいいかなって、実は考えてるんだ。そんでもって今、副編集長してる高橋が、他所に異動したいって突然相談されたんだ。そうなると必然的にポストが、ぽつんとひとつ空くワケなんだが……。桃瀬はどう思う?」「どう思うって言われましても……」 現在の仕事量を考えると、間違いなく大変なことになるのは目に見える――正直なところ高橋さんが異動したい理由って、きっとそれが原因なんだろう。「ホスト・ジュエリーをぐいぐいっと引っ張ってくれる、若い力が欲しいんだ。燻し吟の僕だけだと、渋さばかりがつい目立ってしまうだろう?」 三木編集長はなぜか瞳をウルウルさせて、すがるように見てくれる。(まったく――)「三木編集長、そんな甘えた目をして、俺を見ないでください。断れないのを知ってて、そういう顔をするんだから」「やりぃ! 一応仕事の査定させてもらうからな。ヨロシク頼むよ」 この人の下で奴隷のように働かされる様子が想像つくことに、内心肩をガックリと落とした郁也の目の前で、和やかに写真撮影が行われていた。「今度、自叙伝を書くことになってね。それと一緒に、写真も掲載するんだ。ああ……小田桐先生は絶対に写さないでよ。あまりの可愛らしさに、読者が嫉妬しちゃうから」 葩御稜は僕に説明
Last Updated : 2025-07-10 Read more