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ピロトーク:郁也さんと周防さん④

Author: 相沢蒼依
last update Huling Na-update: 2025-07-14 19:06:56

 なぁんて、くだらないことを考えながら寝室に戻ったら、郁也さんがタイミングよく目を開けた。

「……あれ? 周防は帰ったのか?」

「うん。 ついさっき帰ったばかりだよ」

 ベッドの傍に跪き、枕元でぼんやりしてる郁也さんの顔を覗き込む。ちょっとだけ顔色がよくなったように見えた。やっぱり自分の布団で寝るのって、大事なんだな。

「周防と喋ってる最中に、見事に寝落ちしちゃったみたいだな。短時間で今までの睡眠を、確保した気分だ」

 郁也さんはふわりと笑って、僕の頬を優しく撫でる。手の体温もいつも通りで一安心……って周防さんいったいなんの薬を使って、郁也さんを一気に回復させちゃったんだ!?

「咳も止まって、良かったね」

「ん……でもまだ喉の奥がゼロゼロしてるから、周防の言いつけどおり安静にする。悪いけど俺のスマホ、持ってきてくれないか? 周防に礼を言っておきたい」

「わかった、ちょっと待っててね」

 ダイニングテーブルの上に置いてあった郁也さんのスマホをリビングに取りに行き、寝室で寝ている郁也さんに急いで手渡した。

 背中に手を添えて、上半身だけ起こしてあげる。僕に寄りかかった郁也さんは手早くコールしてから、スマホを耳に当てる。病人の郁也さんがつらくならないように、肩に腕を回した。

 すると僕の行動に顔をほのかに赤くして、少しだけはにかみながら素早く頬にちゅっとキスする。

「サンキュー、涼一」

「いえ、どういたしまして」

 郁也さんに触れたくて、勝手に肩に手を回しただけなのに、こうやって応戦されると困ってしまう。

「もしもし――」

 郁也さんが繋がったラインに言葉を発したとき、周防さんがすぐさま返答したらしい。なにかを言いかけて、口をつぐんだ郁也さん。

 困った顔して、頭をポリポリ掻いている。やがて気を取り直して、ため息をついてから、

「悪かったな周防、迷惑かけてさ。昼からオフだったろ?」

 郁也さんの気遣うセリフに、周防さんはなにを感じただろうか――友達を思っての気遣いなんだろうけど、それでもやっぱり嬉しいだろうなと思った。

「……お前こそ、ちゃんと休みをとってるのか? 周防、結構疲れた顔してたし」

 あの若さで個人病院を切り盛りしてるのは、きっと大変だもんね。少子化と世間は騒いでるけれど、病人は少なくはないんだから。

「そうか。なんかイラついてたから、疲れが溜まっ
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