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Lahat ng Kabanata ng ピロトークを聞きながら: Kabanata 11 - Kabanata 20

52 Kabanata

ピロトーク:不満満載なボク2

(――マジでムカつくなぁ、もう!) イライラを消化すべく右手親指の爪を噛み噛みし、ノートパソコンの画面に向き直った。「なぁこのBGM、昼間っからなにエロい話を、大音量で流してるんだ?」「ぜんっぜん、エロくないし! むしろ聴いてて、仕事がばりばり捗っちゃうんですけど」 郁也さんは呆れた声で言いながら、着ていた上着をハンガーにかけていく。横目に映るそれを見ながら、同じように呆れた声で返してやった。「あっそ。それは良かったな」 良かったなと言いつつ、口調は全然良さそうじゃない。 口を尖らせる僕を尻目に、袖をぐるぐるとめくって、ネクタイをワイシャツのボタンとボタンの間にねじ込むと、ため息ひとつついて台所に立った郁也さん。「どーせメシ食ってないんだろ。今から作ってやる。ちょっと待ってろ」 いきなりの餌付け宣言――恋人ならまずは、ただいまのちゅーをしたり、抱きしめあったりするんじゃないの。 付き合って、半年以上経ってる僕たち。初々しい気持ちは、どこへやら。なのかな……。『なぁ、キスしてって言ってみ?』 空気を読むのが無理なハズなのに、スピーカーから僕の望むセリフが艶っぽい声で流れる。「涼一、悪いけどそのBGM、ちょっとだけボリューム落としてくれないか? 気になって、包丁の手元が危うくなる」「いやだね。今ちょうどいい、イメージが沸いてきてるんだ。邪魔しないでよ」 とは言ったものの――パソコンの画面は相変わらず某サイトを表示したままで、執筆する気配がないのは、手に取るようにわかるだろうな。 微妙な雰囲気の中、男の甘いため息とリップ音が、室内響きまくった。ドラマの展開的には、もういいコトをヤりまくってますって感じ。『……んっ、はぁはぁ……俺の声が、傍で聴きたいって?』 大音量で聴いているのに、耳元で囁かれるような、切ない声が特大音で流れる。すっごく手が込んでるんだな、思わずドキドキしちゃった。(――だけどドキドキするなら、郁也さんの声でしたいのに)「やっぱ、ダメ。昼間からこんなエロいの聴いてたら、頭が変になる」 よく言うよ。昼だろうが夜だろうが、以前なら関係なく襲ってきたくせに! 郁也さんは僕の傍を足早に通り過ぎ、オーディオの電源をご丁寧にブチ切った。「もぅ、なにやって――」 くれちゃうんだよと文句を言おうとしたけど、それ以上言葉が出
last updateHuling Na-update : 2025-07-05
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ピロトーク:厳かなブランチの僕と俺

「すみませーん。すぐそこの作家さんのお宅に行って、思い出したんです。桃瀬先輩の家、ここら辺だったなって」 (へぇ、なるほど。これって絶対わざとでしょ!) 郁也さんは仕事ができるし、見た目もカッコいいし、面倒見だっていい。僕と違って愛想もいいから、誰にでも好かれる。「初めまして、小田桐センセ。俺、桃瀬先輩の同僚で、鳴海マサヤっす」 「ナルミ・マサヤさんね。どうも」 ノートパソコンの前で頬杖ついて、棒読みで返す。(――もう、いいとこだったのに!)  郁也さんが触れた肌がまだ熱くて、切なさが止まらない。その気持ち、きっと顔に出てると思う。 そんな僕をじっと見つめる鳴海さん。 「鳴海、そこら辺に座って待ってろ。涼一に、メシ作ってやらねえといけないんだ」 微妙な空気を無視して、郁也さんがキッチンに行ってしまった。 (困った……知らない人と一緒は、かなり苦痛だ。部屋に逃げるのも失礼だし、郁也さんの同僚なんだから、ちゃんとしないといけないよね) 「小田桐センセ、めっちゃ美人ですね」「は?」 「いや、男性に美人は変か。ビジュアル系バンドのボーカルみたいな、キレイな顔立ちっすね」 (――なんだよその表現!)  眉間にシワ寄せて不快感を表してやった。女々しい見た目が、すっごく嫌なのに。わざとイラつかせる気なんだろうか? 「桃瀬先輩、なんでサイン会断ったんすか? センセのビジュアルなら、大好評間違いなしなのに」  僕の不機嫌な表情をスルーして、鳴海さんがキッチンに移動した。そのことに、ほっとため息をついたら、楽しそうな声が聞こえてきて、余計にイラつく。 「見てわかるだろ、涼一は人見知りだ。誤解を招くから断ったんだ」 「勿体ないっ! ジュエリーノベルの人気作家がこんなにイケメンなら、間違いなく女性読者が飛びつくのに」「だから読者アンケートの抽選で、直筆サインの企画を立てただろ。今、執筆しながらサイン練習中だ」(ふん! 執筆もサイン練習も全然してないもんね!)  心でベロを出しつつ、キッチンの二人をチラ見する。仕事中、こんな感じで喋ってんだ。郁也さんって……。 普段なされる会話と比べて、じわっと寂しさが湧く。 結局僕は仕事相手、編集者からみるとただの商品になる。お金を生む存在に心をかける必要なんて、最低限でいいん
last updateHuling Na-update : 2025-07-06
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ピロトーク:厳かなブランチの僕と俺2

「涼一、ちょっとがっつきすぎだ。喉を詰まらせたらどうする?」 (こうして俺が作ったものを、いつも美味そうに食べてくれて嬉しいけどな……) 「あ、うん。でも……仕事の話の邪魔になるんじゃないかと思って」  目の前でナポリタンを頬張りつつ、チラチラ鳴海の顔色を窺う。(――そうか、涼一なりに気遣ってたのか) 「悪いが鳴海は客じゃねえ。手土産も持ってこないヤツの面倒は、俺は見ねえよ」 (しかもコイツは、いい場面を見事にぶち壊しやがったからな!) 「桃瀬先輩、そんな冷たくしないで! お願い! 企画書を見てくださいって!」 「見てあげたら? 困ってるのに」  涼一が助け舟を出したことに、俺の機嫌がめっちゃ悪くなった。「さすがは人気作家の小田桐センセ! すげぇ優しい!」 「いや、別に。郁也さんがせっかく早上がりしたのに、遠慮なく押しかけてくるのどうかなって」  レタスをバリバリ食いながら、ぽつり呟く。事実を突きつけられた鳴海は、思いっきり固まった。 「ぷっ! やられたな鳴海。手土産なしだとこうなるんだぞ」 (――やっぱり涼一は優しいな。俺のことをちゃんと気遣ってくれてる) 「キレイな顔してズバッと言うんすね。俺、帰った方がいいっすか?」  苦笑いする鳴海の目の前に、そっと右手を差し出した。「とりあえず、三木編集長に出す前に見せてほしいんだろ。褒めねえから覚悟しろ」「ありがとうございます! 編集長のツッコミ、実はすごく苦手で……」「あー、まあな。でも間違ったツッコミはしねえし、指示は的確だろ」  三木編集長。専務のコネでジュエリーノベルに引っ張られて来た逸材。編集部に顔を出し、現在刊行している雑誌を手早く読んで、バッサリ言いやがった。『こんなつまらん雑誌、誰も手に取らんわ!』  そして連載をフェードアウトさせ、作家と編集を洗い直し。なぜか営業の俺に声がかかった。『こういうのはな、作家が仕事したくなる面構えじゃなきゃダメだ』  そう言い放った三木編集長の言葉を聞いて周りを見ると、確かに男女とも見た目がグレードアップしていた。くたびれたオッサンズは、どこへ飛ばされたのか……。 『俺はジュエリーノベルのジュエリーを研磨しに来た。君たちもガッツリ研磨するぞ!』  メガネを上げてギロリと睨む目が、めっちゃ怖えのな
last updateHuling Na-update : 2025-07-06
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ピロトーク:厳かなブランチの僕と俺3

「郁也さん、出かけるってどこに行くの?」  不思議そうな涼一の口の端を、ペロリと舐めてやった。「ちょ!? 」 「子どもじゃねえってのに、ケチャップつけっぱなし」 「だからって、いきなり舐めるなんて!」 「わざとだろ」  そう断言すると、涼一は頬を赤く染めて「違う!」と唇を尖らせる。 「わざとエロいCDを聴かせて、俺を煽ったり」 「それは偶然だよ!煽るためじゃないし……」 「今もそんな顔で煽ってるし」  赤らんだ頬、伏せた睫。見てるだけで衝動が抑えきれねえ。  細い肩を抱き寄せ、首筋に舌を這わせる。 「……んん、いきなり…うっ」 「声、出すなよ。外に漏れるぞ」 「だって郁也さんが……腰、そんなふうに押し付けてくるから」  涼一は嫌がりながらも、体を預けてくる。「じゃあ、どこならヤっていい? ん?」  耳元で囁くと俺を突き飛ばし、左手をぎゅっと握ってくる。睨んでも赤い顔だから、怒りが半減されてしまった。「ホント、郁也さんってば意地悪ばっかり言ってさ!」  悔しそうに吐き捨てながら、グイグイ寝室まで引っ張ってくる。耳まで赤い涼一、可愛すぎる。さて、このあとはどうしてやろうか。「腹がいっぱいになったら、次は昼寝か?」  ニヤニヤして指摘してやったら、涼一は目を見開き、口を真一文字にする。握ってた手首を投げるように手放した。 (コイツ、いつも俺の予想を裏切るからドキドキする。さすが恋愛小説家、読者と同じく翻弄されてしまうだろ) 俺から身を翻し、ベッドに飛び込む涼一。布団の中でゴソゴソ蠢く姿が目に留まる。「うわっ!」  涼一が着ていたTシャツが、いきなり顔に飛んできた。(ほほぅ、やる気満々じゃねえか!)  布団の中に入って見えないだろうが、次を寄こせというジェスチャーをすべく、人差し指をクイクイ動かす。(ほらほら、次は脱がねえのかよ?) ちゃっかり布団の隙間から、俺の様子を見ていたらしい。 「う~」 可愛らしく唸りながら、ふたたび布団の中がモソモソ動く。その数秒後、ジーパンが飛んできた。それをタイミングよくキャッチして足元に放り、また人差し指を動かして、次を要求する。「な!?」 「まだ脱いでねえだろ? それとも……」  ベッドに近づき、布団の隙間から見える涼一の顔を覗く。
last updateHuling Na-update : 2025-07-07
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ピロトーク:久しぶりに重なる肌

「あー……いつの間にか、寝ちゃってたのか」 左手は涼一が握りしめて幸せそうな顔で寝ていたので、右手で枕元に置いてある時計を引き寄せる。(――午後4時過ぎ、か。普段の疲れもあっただろうが、久しぶりに肌を重ねることができたゆえに、無駄に頑張ってしまった……)「なんてったって浮気してないって証拠を、これでもかと見せつけなきゃならなかったもんな」 枕元に時計を戻し布団に入り直すと、涼一が肩口に頬をすりりと寄せてくる。「んっ…郁也さん、大好き……」 ほかにも何かブツブツ呟いて、微笑みながら眠り続ける涼一が可愛らしくて仕方ない。「寝ながら、俺を翻弄するんじゃねぇよ、まったく……」 涼一から発せられる愛の言葉に相変わらずテレてしまい、頬が赤くなってしまう自分。いつになったら、これに慣れるんだろうか。 普段は冷たいクセに無防備でいる俺に対して、涼一は絶妙なタイミングで投げつけてくる言葉の数々――。「そのたびに赤面して、どう返していいかわからなくなっちまうんだよな……」 いや……感謝の言葉や愛の言葉を、素直に言ってやればいいだけなのだが。気の利いた言葉を言ってる自分を、もうひとりの自分が見ていて、なにをカッコつけてるんだ! なぁんて批判するから、余計に言えなくなる。「バカみたいだ、ホント……」 「誰がバカだって?」 その声に驚き横を見ると寝ぼけ眼の涼一が、俺の顔をじっと見ているではないか。「!!」 「僕の悪口、言ってたんでしょ。昼間っからあんなCD、大音量で流しやがってって」(これって、寝ぼけているんだろうか? それとも文句が言いたくて、ケンカをわざわざ吹っかけてきているのか?) コイツのツンデレ補正は、相変わらず見極められないな。「涼一のことじゃない、俺自身のことだって」 「郁也さんのどこが、バカなのさ?」 責めるような口調なのに、相変わらず眠そうな表情を崩さない。 ――やっぱ寝ぼけてる?「俺はもっとお前に思ってることを、積極的に言ったほうがいいのかなと思ったんだ。どんな言葉を言ってほしい、涼一?」 「さっき聴いてた、ドラマCDみたいなヤツ」 「ぶっ!?」 いきなりの即答に、投げられる難題! ちなみに聴いていたエロCDのピロトークは、もっと内容が甘いもので、二回戦ヤっちゃうぞって感じだったような――?「ヤることヤってるのに
last updateHuling Na-update : 2025-07-07
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ピロトーク:ゲイ能人の 葩御稜(はなお りょう)

「おーい、桃瀬。ちょっといいか?」 朝、いつものようにデスクに着き、作家の締め切りやら諸々、今日のスケジュールを入念に確認していると、三木編集長が銀縁メガネを格好良く上げながら、おいでおいでと手を振ってきた。 その顔色はちょっと冴えないもので、あまりよろしくない話であるのが見てとれる。(イヤだなぁ。ただでさえ忙しいのに、厄介な仕事を割り振られそうな予感が、満載じゃないか――) 深いため息をついて、かけていたメガネを外しドナドナ状態で、隣の会議室に連れた。「桃瀬ってば、そんなイヤそうな顔をするなよ。話し難くて、しょうがないじゃないか」「それは、こっちのセリフです。朝からそんな顔した編集長なんて、俺は見たくなかったです」 お互い渋い顔をして、相手を見やる。 相変わらず頭はボサボサヘアで、ヨレヨレのスーツからは、哀愁がひしひしと漂ってきているように感じてしまった。 三木編集長はタバコに火をつけ、上目遣いで俺を見て、ぽつりと呟くようにゆっくりと話しはじめた。「――お前、なにか良いことがあったろ?」 唐突に投げかけられた言葉に、はてと首を傾げる。「顔は若干やつれてはいるが、雰囲気がウキウキした感じ。例えるなら一週間苦しんだ便秘が、スッキリと解消されたみたいな」 「アハハハ……それに近いかもしれませんね」 このオッサン、すっげぇイヤだ。どうして見ただけで溜まっていたモノを、吐き出したのがわかったんだよ!? ウキウキなんて、ひとつも醸してないぞ!「それはさておき、僕たちの見えないトコで、一気に話が進んでしまった仕事がある」 「あー、いつものでしょ。上の決めた方針に逆らうことなく従ってね、ホスト・ジュエリーさんって」 三木編集長が来てから、編集者のイケてるレベルが一気に上がったため(一応女性もいるのに)余所の部はその様子を、ホスト・ジュエリーと名づけ、上層部からは大変愛でられている状態だったりする。「ホスト・ジュエリーよりも、ホスト桃瀬に対してだよ」(涼一のオカンである俺なんて、どうか放っておいてください!)「再来月に発行される、小田桐先生の初の文芸のオビの文章を書いてくれる人が、残念なことに、ガラリと変わってしまった」 「はぁ!? 数字が入ったとあるアイドルグループの可愛いコを使えって言って、俺が小説と合わないから嫌だと散々揉めたあれが
last updateHuling Na-update : 2025-07-08
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ピロトーク:ゲイ能人の 葩御稜(はなお りょう)②

「郁也さんお帰りなさい。あれっ、取立てはうまくいかなかったの?」 ただいまと帰ってきた郁也さんの顔色が、えらく冴えないもので、思わず言葉に出してしまった。「あー……いや、そういうんじゃないんだ」 しかも、すっごく歯切れが悪い。心配事かなぁ、それとも隠し事なのかなぁ。「あのね郁也さん、原稿進んだんだけど、ちょっと相談したいことがあるんだ」「そうか、へぇ」(ちょっと待って。反応、超うすっ!) なんなんだよ。せっかく原稿が少しでも締め切りに間に合うように、頑張って進めてみたのにさ。 みるみる機嫌の悪くなる僕を郁也さんはじっと見て、苦笑いを浮かべてから頭をくしゃりと撫でてくれた。「原稿の相談の前に、ちょっと話がある。そこに座ってくれないか」 そう言われたから向かい合わせでダイニングテーブルの椅子に、渋々座ったんだけど――眉間に深いシワを寄せながら黙りこくっちゃって、なかなか話そうとしない。もしかして……。(原稿の締め切りを結構破りまくってるから、呆れ果てた末に別れ話を切り出そうとしているのかもしれない……) それを言ったらきっと僕が傷つくと思って、別のところから理由をもってこようとして、アレコレと考えてる最中だったりして。それに家事だって一日中家にいる身なのに、全然お手伝いをしていない僕。愛想を尽かされるネタは、ホント山ほどあるよ。どうしよう……。「涼一、あのな――」「ごめんなさいっ! これからはちゃんと締め切りを守る努力をするし、余裕があれば掃除とか料理のお手伝いもする。お願いだから郁也さんっ、僕を見捨てないでください!」 テーブルにゴンッと、頭をぶつけながら謝ってみた。「見捨てないでくださいって……。俺がお前を、見捨てるワケないだろう? なにを考えてるんだ、バカだな」 さっきまでの神妙な顔は、どこへ――それはそれは優しい目をして、郁也さんは僕を見つめた。「涼一がボケをかましてくれたおかげで、肩の力がいい感じで抜けまくった。サンキューな」「…………」 僕は一切、ボケたつもりはない。真剣に普段の行いをしっかり反省し、本当に悪かったなぁと心の底から反省したうえで、必死こいて謝ったのに。(――これじゃあ、謝り損じゃないか!) しかも郁也さんが嬉しそうな顔をしてるもんだから、怒るに怒れないというオマケつき。「涼一あのな、もうコレほぼ
last updateHuling Na-update : 2025-07-08
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ピロトーク:ファーストコンタクト

 葩御稜と対談する――この事実が俺たちにいろんな意味で重く圧し掛かり、暗い雰囲気を脱すべく、徒歩十五分のところにある、ファミレスへ行くことした。騒がしいところに身を置けばお互いに自然と、会話が弾むだろうと思ったからだ。 店内に入ると金曜の夜を満喫すべくお客が結構いて、席があまり空いてなかった。「禁煙席でしたら、ご案内できますが?」「ああ。タバコ吸わないのでお願いします」 そんなやり取りを経て、スムーズに着席することができたのだけれど――。(なんだろう? 店内全体が、どうも浮き足立っているように感じる)「僕いつもの、おろしハンバーグ定食で」 そう言い残して、涼一はトイレに行ってしまった。その背中をなんの気なしに、視線で追いかけてみる。そして気がついた。客の視線がある一定のところに、チラチラと向けられているのを。 腰を上げて、その方向を目で追って見ると――。「なっ!?」 今、逢いたくない人間ナンバーワンの葩御稜が、誰かと楽しげに食事しているではないか! テーブルに頬杖をつき、フライドポテトを口にしながら嬉しそうな顔して、なにかを喋っていて。周りの視線をこれでもかと一身に浴びている状態なのに我、関せずといった様子で向かい側にいる男に、へらへらと笑いかけていた。 テレビで見るよりも胸クソ悪くなるくらい、甘い顔をしてやがる。相手の男は、恋人だろうか――って、俺には関係ない。 バッドタイミングでここに来てしまったけど、ヤツらの席からここは遠く離れているので、すれ違うことも、話しかけられることもないだろう。 安堵のため息をついて、窓の外をぼんやりと眺めた郁也。 一方トイレで用を済ませ、店内の浮き足立った様子にまったく目もくれず、席に戻る道すがら、お子様用の椅子に座り、無邪気に喜んでいる子どもに、心が囚われていた涼一。「郁也さんが小さいときって、どんな感じのコだったんだろう」 小学生のときは間違いなく責任感を求められる、学級委員長をやっていそうだよなぁ。僕は転校生で、お世話されちゃう設定なんだ。 なぁんてニヤけながら歩いていたら、大きなものに思いっきりぶつかってしまった。「すみません……」 退きながらぺこぺこと頭を下げて、慌てて謝る。よそ見をして人とぶつかるなんて、なにやってるんだろ。 内心、自分に呆れ果てていたら……。「いえ、こちらこ
last updateHuling Na-update : 2025-07-09
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ピロトーク:ファーストコンタクト②

 ムカつく――助けに入ったハズなのに、なぜだかうまく助けられてしまったのは、俺のほうだ。そんな不甲斐ない自分が、ムカついて堪らない。 しかも涼一が頼りにしたのが、あの葩御稜の恋人だった。だって視線が俺じゃなく、克巳と呼ばれた人に、しっかりと向けられたからな。『俺って、頼りにならない男なのかよ』 そう言いかけそうになり、慌ててグッと言葉を飲み込む。あの場をなんとかするには――そう考えて瞬時に判断し、涼一がセレクトした結果だ。 葩御稜が恋人に対し、グサグサとモノを申しながら、俺にもちゃっかり口撃してきた。そのせいで簡単に頭に血が上ってしまった、冷静でいられない俺は使えないと判断した涼一を、これ以上責めるのは、筋違いなんだよな。「……葩御稜、すごかったね」「んあ?」 イライラしながら考えごとに没頭していたせいで、唐突に告げられた言葉の意味が、まったく理解できない。「だって僕の顔を知っていたのって、ビックリだと思わない? 公にしてない情報なのに、どうやって調べたんだろうね」 ――確かに。言われてみたら、そうだよな。涼一の過去のことを考え、顔写真については、一切隠しているのだから。「もしかしたらって、いろいろ考えたんだけど、あの人は僕らが思っているよりも、仕事熱心なのかもなって」「どうして、そう思った?」「ん~。やっぱり対談するったら、必要最低限のプロフィールを調べなきゃって、僕も思ったし。それこそ僕の情報なんて、一般人並のことしかわからないワケでしょ。それを徹底的に調べ上げた上に写真まで確認してることは、すごいと思ったんだ」 涼一の考えに頷きながら、内心驚かされた。あの短いやり取りの中で、コイツはそんなことを感じていたんだなって。俺は自分のことにいっぱいいっぱいで、そんなことすら気づけずにいたっていうのに……。「涼一は一般人並じゃないって。しっかり作家として盛大にデビューして、頑張っているんだから」 態度が悪かった自分をきちんと反省し、やっと微笑むことができた俺を見て、向かい側にいる涼一も、ふわりと笑ってくれる。「だけどこんな場所で逢うなんて、本当にビックリしちゃったね。ビックリついでに、お腹が空いちゃった。まだかなぁ?」「……悪いな、気を遣わせて」「なに、言ってるの郁也さん。助けられたのは僕なのに、ありがとう」「だが――」 実際に
last updateHuling Na-update : 2025-07-09
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ピロトーク:それぞれの想い

「本当にごめんなさーい。渋滞的なものにハマって、イけなかったの♪」(渋滞的なものって車の渋滞じゃないのかな? ほかになにがあるんだろ) 不思議に思って郁也さんを見上げると、眉間に深いシワを寄せて睨み付けるように、葩御稜を見ていた。 この日が訪れるまで、彼らの話題をあえて避けて神経を遣っていた日々――郁也さんがもう、えらく機嫌が悪くなるからだ。「初めまして、編集長の三木と申します」 三木編集長さんが爽やかに挨拶をしながら、彼らとにこやかに握手をした。(――僕らも進んで挨拶すべきだよね?) 郁也さんを肘でツンツン突くと、すごくおもしろくなさそうな顔して、プイッとそっぽを向く始末。人見知りの激しい僕から挨拶なんて無理だよ。 大人気ない郁也さんの態度に困り果てていると――。「ちょっ、桃ちゃんおひさ~♪」 芸能人スマイル全開の葩御稜が目ざとく郁也さんを見つけ、首に腕をぎゅっと絡めて、いきなり抱きついてきた。隣にいた僕はその様子に驚きつつ、じりじりと後退せざるをえない。「やっ、いきなり抱きついてこないでくださいっ」 すごーく顔が真っ赤になってる。もちろん、郁也さんが怒っているからではない。「だってぇ桃ちゃん、すっげー怒ってるんだもん。俺が待たせたから、寂しくなっちゃった?」 「んなワケないですって! 離してください」 「やぁだ♪ 機嫌が直るまで、このまま抱きしめちゃう」 葩御稜に楽しそうに抱きしめられている、真っ赤な郁也さんを複雑な心境で眺めながら、少し離れたところにいる克巳さんをちらりと横目で捕らえた。 スタッフの人とほほ笑んでなにかを話しているようで、さりげなくふたりの様子を見ている感じに見えた。 恋人が芸能人でああいうパフォーマンスが日常だと、見慣れちゃうのかな。どうしてあんなふうに、平気な顔して笑っていられるんだろう。僕は今の郁也さんの現状に、かなり落ち込んでいるというのに。 自分の感情との違いに内心気落ちしている僕の肩を、誰かがそっと叩いてきた。あたたかい手のひらから、安心感みたいなものがじわりと伝わってくる。 置かれた手を追って隣を見ると、三木編集長さんがなにやら目配せして、イチャイチャしているふたりの方にゆっくりと歩いて行ってしまった。「すみませんねぇ。時間が押してるんで、そろそろ桃瀬を解放してやってはくれませんか?」
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