*** ――月曜日―― 職場である編集部に出勤したら、そこは野戦病院と化していた。見間違え……いや幻かもしれない。 そう思って身を翻し引き返した瞬間、背後から肩を強く叩かれる。「諸悪の根源がぁ、逃げるなよ、桃瀬ぇ……」「ヒッ!?」 恐るおそる振り返ると、メガネの奥から恨めしそうに俺を見つめ、マスクを装着した編集長がいた。「お前が僕の忠告を聞かず、ずーっと残業したり無理をした結果、風邪を引いた挙句にマスクをつけず、周囲を見事に感染させた罪は、すっげぇ重いぞ」「( ゚-゚)( ゚ロ゚)(( ロ゚)゚((( ロ)~゚ ゚ナント!!!」 さっきは漂っていた雰囲気だけで逃げたのだが、目ん玉ひん剥いてよぉく見てみると、編集者全員マスクをしながら、書類と栄養剤を片手に仕事をしているではないか!「僕の予測では一日に一人ずつ、倒れると思うんだ。だから桃瀬、今日は早上がりしていいから、完璧に風邪を治せ。これは命令だぞ」 肩を掴んでいた手で背中を叩いて、フラフラしながらデスクに戻って行く編集長。言えなかった――完全に風邪が治っていること。言ったら間違いなく、いつも以上にこき使われるのが目に見えたから。 今日は明日のために、温存しながら仕事をしよう。早上がりできるついでに、周防のトコ寄ってお礼を言わねば。 この日は小さくなりながら、粛々と仕事に勤しんだ俺。早く帰りたい気持ちが満載だった。
Last Updated : 2025-07-15 Read more