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ピロトーク:郁也さんの特技⑨

Author: 相沢蒼依
last update Huling Na-update: 2025-07-20 19:30:59

***

 印刷所に寄った帰り道、桃瀬スペシャル片手に周防の病院をくぐる。待合室はいつもどおりり、満員御礼状態。しかしいつもとどこか違うことに、素早く気がついた。

 待合室の中央、なにかを囲うように子どもたちの塊ができている。

(――何だろう?)

 首を傾げて近づいていくと、太郎がそこにいた。手にはスケッチブック、それを子どもたちが、ワクワクした様子で覗いている。

「よぉ太郎、元気そうだな」

 俺の掛け声に、太郎が視線だけで見た。

「ああ……」

 相変わらずの素っ気なさ。俺になんて、牽制しなくてもいいのにな。

 そんなことを考え肩を竦めて通り過ぎ、診察室に行くと周防が柱の陰に佇んでいた。なぜか難しい顔して、太郎のことをじっと見ている。

「周防、なにやってんだ、こんなところで」

「ももちん、いらっしゃい。今日はどうしたの?」

 俺を一切見ずに、視線は太郎に釘付けのまま訊ねた。

「バテる前に周防スペシャル、打ってもらおうと思ってさ。お礼にならないかもしれないが、涼一と作った餃子、勝手に冷蔵庫に入れておくぞ」

「ありがと。なんだか、愛情がこもってる気がする。ご馳走様」

 苦笑いをしながらやっと俺を見る顔は、どこか疲れているように見受けられる。

「顔色があまりよくないな、大丈夫か周防?」

 着ている白衣と顔色が、どことなく比例していた。そのことを心配して、まじまじと見つめると、周防は困った表情を浮かべて顔を俯かせる。

「いろいろ考えることがあってね。困り果てたら、ももちんに相談するよ」

 無理やり笑顔を作って、診察室の中に消えてしまった。

 逃げるように去って行く親友の背中を、なにも言えずに視線で追うことしかできない。

「きっと太郎とのことだな、涼一には手を出すなって言われてるけど」

(あんなつらそうな顔した、周防は見たくない――)

 ため息をついて階段を上がり、周防の自宅に入って行った。そして冷蔵庫に餃子を入れて、さっさと病院に戻る。診察の順番が来たら呼ばれるので、それまで待っていようと待合室に来たのだが。

 相変わらず太郎は、子どもたちに囲まれてなにかを描いていた。気になって背後から覗いてみると、そこには――。

「スポーツカー?」

 カッコイイ形をした車が、ものすごく上手に描かれていた。

(――なんだよ、これくらい。俺にだってきっと描ける!)

 人物以外描いたことはなか
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