美穂は靴を履き替え、バッグを玄関の棚に放り出した。「うん」ソファのそばに歩み寄って腰を下ろした。「……さっき、安里に会ってきた」峯は眉を上げ、煙草の火をもみ消した。「彼女が?何の用だよ。あの女、腹の中に計算しかない」「智也と梓花が三年前のヨットパーティーで人を殺した証拠を持ってるらしいわ」美穂は淡々と言った。「それをもみ消したのが静雄。柳本夫人が現場を目撃して、さらに安里がそのことを聞いて、録音までしていた。彼女は港市を出るために新しい身分を欲しがっていたけど……行方を隠すだけ手伝うって返した」峯の顔から遊び人のような軽さが一瞬で消え、眉間に深い皺が刻まれた。「またあの双子がやらかしたのか?しかも今度は殺人?」彼は冷たく笑った。「親父もよくそんなこと平然と隠すな。柳本家も大概だ。利益のためなら何でも隠蔽する」「あなたの家も似たようなものでしょう」美穂は横目で軽く睨んだ。峯はすぐにふざけた笑みを浮かべた。「俺の家はお前の家でもあるんだぞ。俺を罵るってことは、自分を罵ってるのと同じじゃない?」美穂が取り合わないと見ると、彼はようやく表情を引き締めた。「で、安里はいつ出るって?」「二日後」美穂は言った。「あなたが手配して。私は彼女の痕跡を消す人を用意する。それと、彼女を送り出したら、私たちも京市に戻るわ」峯は片手をひらひらさせて了承し、携帯を取り出して連絡を始めた。美穂はそのまま寝室に入り、荷物をまとめる。――二日後の深夜。港市の街は濃い静寂に沈み、海風さえ息をひそめている。美穂と峯は黒のセダンに乗り、柳本家別荘の裏路地に車を停めて待機していた。遠くのネオンが淡く車体を照らし、揺れる光が影を作る。やがて、別荘裏のドアがわずかに開き、壁沿いに細い影が滑り出てきた。安里だ。安里はだぼだぼの黒いパーカーに身を包み、深くかぶったフードとマスクで顔の半分を隠している。露出した目だけが怯えで揺れていた。何かに追われるように、ふらつきながら車へと急ぐ。美穂の視線が何気なく安里の背後に向けられ、ドアの隙間からメイドらしき人影がさっと引っ込むのを見た。暗がりで揺れたエプロンの紐が一瞬だけ光を反射した。再び安里に目を向けると、マスクの端に暗い赤色が染みている。どう見ても顔を殴られている。美穂は何も言わず、ただ
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