和彦はベッドのそばまで歩み寄り、静かに声をかけた。「……おばあ様」華子は彼を見た。一瞬きょとんとしたあと、次の瞬間、目を大きく見開く。「和彦?もうこんなに大きくなったの?」和彦がわずかに固まる。明らかに、予想外の反応だった。だが華子は彼の表情など気にも留めず、くるりと美穂のほうへ向き直り、手をぎゅっと握った。目をきらきらと輝かせている。「ねえ、いい子。あなたと和彦、結婚したんでしょう?」「……」美穂は言葉に詰まった。「結婚した」と言えば、事実だ。だが今は離婚手続きの最中。「してない」と言えば、法律上は嘘になる。答えを探しているうちに――「結婚してる」和彦が淡々と言った。華子が笑顔を浮かべた瞬間、彼が付け加えた。「……ただ、今は離婚手続きの最中だ」華子の表情が瞬時に崩れる。眉間に皺を寄せ、和彦をきっと睨みつけた。「このバカ!ほんとに情けない子だね!」そして美穂の手を軽く叩きながら、懐かしそうに語り出した。「あなたが小さい頃のこと、今でも覚えてるよ。二つ結びにしてね、おじいちゃんの後ろをちょこちょこついて回って、『華子おばあちゃん』って呼んでくれて。目が星みたいにキラキラしてて……あの時、おじいちゃんに言ったんだ。『この子は本当に可愛い。大きくなったら孫娘としてぴったりだ』って」美穂の体が、ぴたりと固まった。――小さい頃?自分の記憶では、陸川家との関わりは結婚してからだ。それ以前といえば、十七歳の時、自殺しようとした自分を偶然通りかかった和彦が助けた。それだけ。陸川家の人間と会った記憶は、他にない。だが華子の目はあまりに真剣で、作り話には見えなかった。……自分が忘れている?それとも、誰かと勘違いしている?例えば――幼なじみとして育った美羽、とか。和彦も眉をひそめた。明らかにこの話を聞いたことがなかった。探るような視線が向けられる。けれど、美穂はそれどころじゃなかった。華子は今も美穂の幼い頃の面白い話を延々と語り続けている。おせんべいが大好きだったこと、雷が鳴るとソファの後ろに隠れていたこと。これらの細かい記憶はまるで他人の話のように感じられた。美穂は深く息を吸い込み、渦巻く思いを押し殺し、震える指先で静かに尋ねた。「おばあ様……私、本当に小さい頃よく陸川家に来
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