オフィスのドアが再び閉まり、外の物音が遮られた。和彦はだらりと椅子にもたれ、指で眉間を軽く揉んだ。明美がこの時間に来る理由など、どうせまた深樹のことだ。案の定、次の瞬間ドアが押し開けられ、明美が入ってきた。その後ろには、薄いブルーのパーカーを着た青年がついている。深樹だった。深樹はどこかぎこちない様子で、両手を脇に下ろして立っていた。大きく澄んだ目は、明るく素直そうに見えた。和彦と一瞬目が合う。だがすぐに視線を落とし、まるで和彦を怖がっているようだった。「ずいぶん忙しくなったものね」明美はソファに腰を下ろし、皮肉を混ぜた声で言う。「この母親が息子に会おうとするだけで、秘書を通して取り次いでもらわないといけないなんて」和彦はその言葉には応じず、グラスを手に取って一口飲んだ。「それで、何の用だ」「他にあるわけないでしょう?」明美の視線はオフィスを見回し、最後に深樹へ向いた。声が少し柔らぐ。「全部、深樹のためよ。あなたが認めようが認めまいが、この子はあなたの弟。もう大きいんだから、いつまでも下の部署に置いておくわけにはいかないでしょう。この前話したこと、考えてくれた?取締役会に入れて、少しずつ学ばせるのよ」和彦はグラスを置き、指先で縁を軽く叩いた。「無理だ」言葉はきっぱりしていて、交渉の余地はない。「たとえ彼の姓が陸川でも、陸川家とは何の関係もない」「何が『関係ない』のよ!?」明美はすぐに反論した。「この子はあなたの弟なのよ。少しくらい助けてあげてもいいでしょう!言っておくけど、和彦。今日は絶対に答えてもらうわ。深樹を取締役会に入れるって。そうじゃなかったら――」「母さん」和彦は静かに、まっすぐ明美の目を見た。「無理だと言った」明美は和彦の冷たい横顔を見つめ、怒りがさらに膨らんだ。ただ深樹を取締役会に入れてほしいだけ。和彦が一言言えば済む話だ。それなのに、なぜ拒むのか。深樹が、あの男の実の息子じゃないから?でも、この子は自分の子だ。自分の腹から生まれた子なのだ。それじゃダメなのか?明美は諦めきれなかった。深樹は、自分にとって唯一の頼みの綱。どうしても陸川家の中で立場を固めさせなければならない。「そんなに深樹が気に入らないの?」彼女は問い詰めた。「この子も私の息子よ。
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