和彦は車内に座り、火をつけていない煙草を指先に挟んだまま、電話の向こうから警察官・佐々木修一(ささき しゅういち)の声を聞いていた。窓は半分ほど開いており、冷たい風が車内へ吹き込む。額にかかる髪がわずかに揺れたが、その硬い横顔に変化はなかった。「秦美羽は相当頑固でな。今朝からずっと取り調べているが、有用な情報は何一つ口にしない」修一の声にはわずかな疲労が滲んでいた。背景には、取調べ室特有の金属音がかすかに響いている。「唯一の条件が、お前に会うことだ。お前に会えなければ、何も話さないと言い張っている。分かっているだろうが、あの島に関する核心情報はまだ彼女が握っている。我々も時間を無駄にはできない」和彦は黙ったまま、煙草の箱の縁を親指でなぞった。美羽がここまで執着することは予想していた。だが、ここまで追い詰められてなお「面会」を最後の切り札にしようとしているとは思わなかった。「全体の状況を考えれば、お前が一度来るのが一番いい」修一の声が少し柔らぐ。「頼みだと思ってくれ。手がかりさえ引き出せれば、あとはこっちで処理する」しばらくの沈黙の後――和彦は指に挟んでいた煙草を握り潰した。声は氷のように冷たい。「場所を送れ」四十分後。和彦は警察署の取調べエリアへ足を踏み入れた。廊下の照明は青白く、黒いコートに身を包んだ彼の存在感をいっそう際立たせる。圧迫感すら感じさせる雰囲気だった。修一が取調べ室の前で待っており、一枚の書類を差し出した。「室内はすべて録画されている。余計なことは聞かなくていい。彼女が口を開くのを待てばいい」和彦は書類を受け取らず、そのままドアを押し開けて中へ入った。取調べ室の中では、美羽が金属製の椅子に座っていた。両手には手錠。髪は乱れているが、背筋は依然としてまっすぐ伸びている。和彦の姿を見た瞬間、彼女の目に複雑な光がよぎった。そしてすぐに、皮肉めいた笑みを浮かべる。「あなたは一生、私に会いに来ないと思ってた」和彦は何も言わない。向かいの椅子を引き、静かに腰を下ろす。体をわずかに背もたれへ預け、両手を重ねて膝の上に置いた。視線は淡々としている。まるで、まったく無関係な他人を見るかのようだった。その沈黙は、叱責よりも美羽を苦しめた。彼女は指を強く握りしめ、爪が掌に食い込
Read more