All Chapters of 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~: Chapter 101 - Chapter 110

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第101話:帰還の鐘と、焼きたての約束

どうも、エリシアです。神の旋律を取り戻して数日。世界は少しずつ静けさを取り戻していた。……うん、あれだけ大騒ぎしたのに、今は嘘みたいに穏やか。「それにしても、王都の空が青いって素晴らしいね〜!」私はパンを両手に持って空を見上げる。神殿の上空には薄い雲がかかり、太陽が金色に揺れている。「暴君、食うか見るかどっちかにしろ」隣でカイラムがあきれ顔。でもその声は優しい。「両方大事でしょ!」私が胸を張ると、リビアがくすりと笑った。「平和とは、パンを食べながら空を見上げられる時間のことだな」「いいこと言ったリビア!」——神殿回廊の封印が解かれた翌朝。世界中の祠に光が走り、風が柔らかくなり、海が穏やかになった。人々が「何かが戻った」と噂していた。“神の旋律”が再び流れ始めたのだ。王都では急遽「帰還祭」が開かれることになり、私たちは名誉ゲストとして招待されることに。「……また祭りか。前もパン投げ大会になってなかったか?」カイラムが呆れたように眉をひそめる。「それはそれ!今度は“祝パン焼きコンテスト”なの!」「名前からしてすでにお前の企画だな……」——その夜。街の広場には灯りがともり、屋台の匂いが風に乗って流れる。パン、スープ、焼き菓子、肉の香り。人々の笑い声が響く中、鐘楼の上でレオニスが鐘を握っていた。「この鐘は、神殿の音を再び世界に響かせるためのものだ。……行くぞ!」カン——カン——。その音が夜空に広がり、空気が少し震えた。「いい音……」私は思わず呟いた。「この音を聞くと、不思議と泣きたくなるな」ユスティアが微
last updateLast Updated : 2025-10-07
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第102話:穏やかな日々と、静かな風の囁き

朝。風がやけに優しい。窓の外には市場の声が響いて、パンの香りが家中に漂っている。「……うん、これこれ。この匂いで目が覚めるのが一番幸せ」私はベッドの上で伸びをした。昨日までの“神の旋律”騒動が嘘みたいに静かな朝だ。「おはようございます、お嬢様」扉の向こうから、リビアの声。「おはようリビア〜。今日の予定は?」「午前は王都からの使者が来訪、午後は市場の視察、夜は……」「夜は?」「“パン焼き対決リターンズ”だそうです」「また!?」——最近、グランフォードでは定期的に“パン大会”が開かれるようになっていた。発案者はもちろんこの私、そしてちゃっかり主催を引き受けたのがカイラムである。「暴君が“パン女王”を名乗ってる時点で終わってる」「うるさいわね!パンは国の文化なの!」そんな軽口を交わしているうちに、グランフォードの街が見えてきた。畑には麦が風に揺れ、通りには焼き菓子屋や新しい屋台が並ぶ。子供たちがパン屑を拾って笑っている。この光景が、私は大好きだった。「……エリシア」横から声がした。カイラムだ。「お前、顔がにやけてる」「にやけてないわよ!」「にやけてる」「……ちょっとだけ、かも」あははと笑うと、カイラムも少し笑った。そういえば彼の笑顔、昔よりずっと柔らかい。あの尖ってた魔王少年が、今はすっかり頼れる宰相で……でも相変わらずちょっとツンデレ。「さて、午後の視察行くよー!」私はパンをかじりながら広場へ向かった。広場の中心では、ユスティアが子供たちに読み書きを教えている。「文字は心の形。声にすれば、誰かに届く」彼の言葉に子供たちが「はーい!」と元気に返事する。その後ろで、レオニスが木陰で音を聞いていた。「お前の言葉は不思議だな」「え?」「どんなときも、風みたいに笑ってる」「それ褒めて
last updateLast Updated : 2025-10-08
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第103話:砂上の祠と、風を継ぐ翼

「……で、結局ここに来たわけだけど」乾いた風が頬を打つ。砂の大地がどこまでも続き、遠くの地平線は揺らめいている。私は日傘代わりの布を頭に巻きながら、思わず口を尖らせた。「暑い。パンが焼ける」「焼いてどうするつもりだ」横を歩くカイラムが呆れ声を出す。「だって、砂熱いし。うまくやれば自然発酵するかも」「……発酵と焼成の違いぐらいは学べ」「まぁまぁ」リビアが翼を広げて影を作る。「ここは“風祠の残響”が最も強く吹き溜まる地。油断は禁物だぞ」私たちは西の異変を鎮めた後、さらに西へと進んでいた。目的地は、“砂上の祠”と呼ばれる古代の神殿。かつて風神の眷属が最後に降り立った場所——らしい。「この祠には、“風を継ぐ者”が眠ると聞く」ユスティアが古びた地図を開く。「もし本当なら、まだ風の力を受け継ぐ存在がいるはずです」「風を継ぐ者……」レオニスが小さく呟く。「かつて王家の伝承にもあった。“翼を持たぬ風の王子”の話だ」「なんかカッコいい!」「いや、おとぎ話だ」「夢のない王子め!」そんな軽口を交わしていた矢先だった。——風が、変わった。温かい砂風から、一瞬で凍りつくような冷風へ。空が曇り、細かな砂粒が逆流する。「来るぞ!」カイラムが剣を抜く。砂の中から、巨大な影がせり上がった。翼を持たぬ巨鳥——だが、全身が砂でできている。その瞳の奥には、かすかな蒼光。「……まさか、風神鳥の“核”……!?」リビアが息をのむ
last updateLast Updated : 2025-10-09
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第104話:風車の丘と、帰り道の約束

「ねぇカイラム、パンが回ってる!」「……だから何だよ」「いや、すごくない? 風で! 勝手に! 焼けてるのよ!」私は丘の上で両手を広げ、風に舞うパン生地を見上げていた。風祠の異変を鎮めてから一週間。グランフォードの丘には、風の国から受け継いだ風車が建てられた。正式名称「風導炉(ふうどうろ)」――要するに、風力オーブンだ。リビアが羽で風向きを調整し、ユスティアが焼き加減を記録する。ヴァルターは試食係(勝手に決めた)で、カイラムは監督(仕方なく承諾した)。「……俺たち、何してるんだっけ」「国家建設よ!」「そうだったな……」レオニスが少し離れた丘の下で、村人たちと風車の基盤を点検している。彼の表情は穏やかで、かつて王だった頃の影を感じさせない。「風の国の技術がこんな形で生きるとはな」「いいでしょ?」私は胸を張った。「これで風とパン、両方の神に愛される国になるのよ!」「それパン信仰国家じゃないか」「否定はしない!」丘の上は笑い声で満ちていた。風が優しく吹き抜ける。その流れの中に、どこか“懐かしい音”が混じっていた。「……風、歌ってる?」私が耳を澄ますと、リビアも羽を止めた。「確かに。これは……祠の風ではない。もっと遠い、古の響きだ」ユスティアが記録帳をめくりながら言う。「おそらく“南の祠”の残響です。まだ眠っているはずの場所が……呼んでいる」「呼んでる?」「ええ。『次の風を運べ』と」私たちは顔を見合わせた。カイラムがぼそりと呟く。「せっかく平和になったと思ったのに……また旅か」「うん!」私は迷わず答えた。
last updateLast Updated : 2025-10-10
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第105話:潮風の港と、青の記憶

海——それは、私がずっと夢見ていた“次の大地”だった。「うわぁぁぁぁっ! 本当に海だぁぁぁぁっ!!!」 叫びながら、私は崖の上で両手を広げた。 風が頬を打ち、潮の香りが肺に満ちる。 目の前にはどこまでも広がる青。波が陽を反射して、まるで世界が光っているみたいだった。「暴君、はしゃぎすぎだ」 後ろからカイラムの声。 「だって! だって! 海よ!? この世界に海があるなんて思わなかったんだもん!」 「お前の世界だって海はあっただろ」 「でも異世界の海だよ!? テンション上がるでしょ!?」リビアが肩の上に降り、羽をたたんだ。 「潮風が柔らかい。ここが“青の祠”の地、間違いないな」 「海の祠……風祠、火祠、氷祠に続く、四つ目の祠か」ユスティアが記録帳を開く。 「ここには“潮の守り人”が眠ると伝えられています」「潮の守り人……魚の神様的な?」 「厳密には“海の旋律を記す者”だそうです」 「なんかお洒落!」丘を降りると、海沿いの小さな港町が見えてきた。 白い石造りの家々、風に揺れる布の日除け、そして魚とパンの香り。 「パンの匂い!? 海でもパン文化!? グランフォードの影響力すごい!」 「……いや、たぶんお前が広めたんだ」カイラムがため息をついた。町の入り口で、老人がこちらに気づき声を上げた。 「おお……! あなた方が“風の国”の方々かい?」 「そうですが……」 「よかった……! ずっと海が泣いていたんです。波の音が止まらなくて……」私たちは顔を見合わせた。 波の音が止まらない? 確かに、聞いてみると……波が、まるで「助けて」と言っているように聞こえる。「これは、祠の異変ね」 リビアが低く呟く。 「祠が呼んでいる。潮の流れが乱れ、海が迷っているのだ」「祠の場所、わかりますか?」 ユスティアが問うと、老人は海辺の岩場を指さした。 「この先に、“潮の洞(しおのほら)”がある。そこに祠があるはずだが……誰も近づけない。 潮が狂って、引き込まれてしまうんです」「なるほど……つまり、泳げないとダメってことね」 私は腕を組み、意気揚々と言い放った。 「よし、みんな! 海水浴の時間だ!」 「待ておい暴君!」 「えっちょっと、溺れ死ぬ未来が見える!」ユスティアが全力で止める。 「リビア、あんた泳げる?」 「羽で
last updateLast Updated : 2025-10-11
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第106話:蒼き大陸と、沈まぬ旋律

海の祠の光が静まってから三日。私たちは港町を離れ、さらに南へと向かっていた。潮の守り人が残した言葉――「次の歌は、海の底で響く」。それを頼りに、私たちは“蒼き大陸”と呼ばれる海上遺跡を目指すことにしたのだ。「陸なのに海の底って、どういうこと?」「昔、この一帯は“海上都市”だったらしいです」ユスティアが記録帳を開きながら説明する。「沈まぬように魔力で支えられていたが、ある時を境に一部が沈み、その残骸が今の“蒼き大陸”だと伝えられています」「なるほど、つまり沈んでるのに沈んでないんだ」「語彙力が消えたな」カイラムがため息をついた。「だって異世界ってそういう理屈じゃん!」リビアが空を旋回しながら笑う。「確かに。理屈より伝承のほうが生きている世界だからな」波の上には、白い霧が漂っていた。その向こうに、青白く光る輪郭が見える。「見えた……!」レオニスが小声で呟く。そこには、巨大な海上建築の残骸があった。塔のような構造物が海から突き出し、潮に照らされて淡く光っている。「まるで……空に浮かぶ街の逆バージョンだね」「……なんか、不気味なくらい静かだ」カイラムが剣の柄に手をかけた。船を近づけると、波がゆっくりと引き、石畳が顔を出した。まるで「来い」と言わんばかりだ。「歓迎されてる?」「誘われてる、の間違いでは?」ユスティアが冷静に言う。「そうね。じゃあ招待状にサインしに行きましょう」「お前ほんと怖いことを軽く言うな」足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。海の匂いが薄れ、代わりに“湿った旋律”が流れ出す。まるで、誰かが見えないピアノを弾いているみたいな、低く優しい音。「……聴こえるか?」
last updateLast Updated : 2025-10-12
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第107話:砂の旋律と、眠れる大地

「見て、砂漠だあああああ!」風を切って丘を駆け降りながら、私は歓声を上げた。一面に広がる黄金の砂。どこまでも続く地平線。太陽が照りつけているのに、どこか静かで優しい。風が吹くたび、砂が波のようにうねって模様を描いていた。「……あっつ……」背後でカイラムがぼそっと呟いた。「黒の長袖で砂漠はやめとけって言ったじゃん!」「いや、これは俺の……威厳だ」「威厳は溶ける温度じゃないよ!?」ユスティアはというと、しっかりと帽子と日除けマント装備。「気温、四十度。湿度一桁。生物的には非常に過酷な環境です」「そんな事実報告いらない!」「いや、記録上必要です」「どこに提出してるの!?」そのやり取りを聞きながら、リビアは優雅に飛んでいた。翼の影が砂の上に落ち、まるで道を示すように揺れる。「この地の名は“アシュタル大砂原”。大地の祠が眠ると伝えられるが……砂に埋もれて久しい」「砂に埋もれるって、探すのめちゃくちゃ大変じゃん……」「まぁ、埋まってるから“眠れる大地”なんだろう」カイラムが汗を拭う。「なにその詩的なセリフ……似合わない……」「黙れ」歩くこと数時間。ようやく岩壁の影にたどり着き、一同は一息ついた。そこにはオアシスのような泉があり、涼しい風が吹いている。「……生き返るぅ……」私は靴を脱ぎ、足を泉に突っ込んだ。「やっぱり水って最高ね……」「おい、飲むなよ」「飲んでないってば! 足で感じてるの!」「……なんかやだその表現」
last updateLast Updated : 2025-10-13
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第108話:空の梯子と、天へ響く調べ

「……見て! あれが空の祠(そらのしんでん)だって!」砂漠を越えた先、私たちの視線の先に“白い光”が浮かんでいた。雲を突き抜けるように天へと伸びる、巨大な塔。塔の周囲には、まるで音符のように浮遊する石の足場がいくつも連なっていた。「……階段が浮いてる」「正確には“音律浮橋(おんりつふきょう)”ですね」ユスティアが記録帳を開いて、淡々と解説する。「音の波長に反応して物質を浮かせる古代魔術。つまり、歌いながら登る必要があるということです」「うわぁ……地味に罰ゲーム……」「いや、お前それ得意分野だろ」カイラムが苦笑した。「歌うのは好きだけど、登るのは嫌いなの!」「子どもか」リビアが風をまといながら空へ舞い上がる。「塔の周囲は強い上昇気流だ。風を読まなければ登る途中で吹き飛ばされるぞ」「つまり、体力勝負と肺活量勝負のダブルコースね……」「お前の歌い方次第だな」レオニスが少し遠くからその光景を見上げていた。白い塔の頂上は、まるで“空そのもの”に溶けているようで、見上げるだけで首が痛くなるほど高い。「……ここが、古の“天の都”の残骸か。伝承では、この塔を登りきった者は“天空の音”を手にするという」「天空の音……! なんかロマンチック!」「ロマンより危険のほうが勝ってるな」カイラムがぼやく。◆◆◆私たちは風の祠で使った音律魔法を応用して、塔の基盤に立った。足元の石畳が“ドン”と音を鳴らし、淡く光る。どうやら“音”に反応して足場が現れるらしい。「じゃあ、行くよ!」
last updateLast Updated : 2025-10-14
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第109話:心の祠と、響きあう世界

——世界が静かだった。風も止まり、海も穏やかで、大地はやわらかく息づいていた。それは、すべての祠が共鳴しきったあとの“静寂”の時間。「……全部、動きが止まってるね」私、エリシア・グランフォードは空を見上げた。青く晴れた空には雲ひとつなく、ただ“世界そのものが考え込んでいる”ような不思議な空気が漂っていた。「空が沈黙するのは、次の音を待っている証拠だ」リビアが翼をたたみながら降り立つ。彼の琥珀色の瞳が、どこか遠い記憶を見ていた。「次の音?」「“心”の旋律。四つの祠が揃った今、世界は“心”を映す場所を探している」「“心の祠”……って、どこにあるの?」私の問いに、カイラムが肩をすくめた。「それがわかってたら苦労しねぇ。でも――あれを見ろ」彼が指さした先、地平線の向こうに、淡い光の柱が立ち上っていた。まるで大地の奥底から“息”が漏れているような光。「まさか、あれが……」「心の祠の“門”だろうな」ユスティアが帳面を閉じ、静かに言った。「ですが、“心”とは形のないもの。おそらく、この祠は人の記憶や想念を媒介に現れるはずです」「つまり、心の中を覗かれるってこと……?」「それもあるでしょう。あるいは――見たくない過去すら映し出されるかもしれません」みんなが黙った。風の音すら聞こえない。だけど私は、胸の奥で何かが疼いた。「……いいじゃない。心の祠が“心”を見せるっていうなら、逃げたらダメだと思う。だってそれは、この国の未
last updateLast Updated : 2025-10-15
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第110話:帰還と、新しい鼓動

――風の匂いが違っていた。大地の温度、草の香り、遠くの人々のざわめき。すべてが懐かしい。すべてが、少しだけ変わっていた。「……帰ってきたんだね」私は呟いた。目の前には、懐かしきグランフォードの街並み。石造りの家々の間を、麦色の風が抜けていく。子どもたちの笑い声、パン屋の鐘の音、遠くで鳴る鍛冶屋の金槌の音。あの日、勇者の末裔として家出してから、たくさんの旅をして、たくさんの音を集めて、やっと――ここに戻ってきた。「……で、なんで入口の門に“ようこそ偉大なる建国者さま!”の垂れ幕が出てるの?」「……誰の仕業だ」カイラムが目を細める。「見ろ、“祝・ご帰還!本日のパン全品半額!”って書いてあるぞ!」リビアが羽ばたきながら笑う。「やっぱり経済の中心がパンなのどうなの!?」「お前のせいだろ」門をくぐると、街の人々が一斉にこちらを見た。「エリシア様だ!」「ご帰還だ!」「建国者さまだー!」うわあああ、視線が熱い!「……なんか、王族とかより注目度高くない?」「事実上この国の王だからな」「えっ、それはちょっと責任が重いよ!? 私パン焼きたいだけなのに!」「それがこの国の政策の半分だ」「えぇぇ!?」レオニスが微笑を浮かべながら、街を見渡した。「だが……国が変わったな」「うん。建物が増えてる。前より明るい感じ」確かに、以前より活気に満ちていた。通りには旅人や商人が行き交い、魔族と人間が普通に肩を並べてパンを買っている。「“共存”が根付いたんだね……」私は思わず呟いた。
last updateLast Updated : 2025-10-16
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