風の国を後にして、数日。リオニエ号は西の大陸に向かって進んでいた。空気が変わった。潮の香りが薄れ、代わりに草と土の匂いが混ざってくる。「ふぅー……この香り、懐かしいなぁ」私は甲板に寝転びながら空を見上げる。「まさか地上の匂いを恋しく思う日が来るなんて」「人間は土の上で生きるものだからな」カイラムが隣で腕を組む。「空は良いが、やっぱり地に足がつかないと落ち着かん」「そうそう!やっぱり大地にドンッと立って“今ここにいます!”って感じがいいよね!」「それ、叫ばなくても伝わる」リビアが翼をばさりと動かして笑った。「地上の空気も悪くない。羽を休める木もあるしな」「あなた、いつも甲板のマストで寝てるじゃない」「風が柔らかいからな。下界の木の枝より寝心地がいい」「鳥基準!?」ユスティアが地図を持って近づいてくる。「皆さん、あと一日ほどで“翠の大地(ミルティア)”に到着します」「翠の大地?」「ええ、かつて“生命の祠”があったと言われる地域です。 自然そのものが強い魔力を持ち、古代では“森が祈る”とまで呼ばれていました」「森が祈る……いい響きね」「けれど、今は“忘れられた森”と呼ばれている。 あまりにも長く、人が踏み入らなかったために、 魔力と生態系が独自の進化を遂げているらしい」カイラムが眉をひそめた。「つまり、魔獣だらけってことだな」「ええ、ですが目的はあくまで“祠の調査”です。 あの風の国での共鳴波が、どうやらこの森に届いていたようなのです」「じゃあ……この森にも、“音”があるんだね」「はい。生命の旋律。あるいは――“大地の呼吸”と
Last Updated : 2025-10-27 Read more