空白の子が姿を消してから、三日が経った。 けれど王都は落ち着くどころか、むしろ“警戒の膜”が張りつめたように静かだった。影王の脅威でもなく、光の王の覚醒でもなく―― いま私たちが恐れているのは、ただひとりの“名なき子ども”。『……ママ……』ルーメは私のそばを離れず、不安の色が消えない。 遊ぶ時も、ごはんの時も、寝る時も、ずっと手を握っている。「ルーメ、少しでも怖い?」『……コワイ……。アレ……キライ……。ママ……トラレル……』その言葉に胸がぎゅっと痛む。「大丈夫。絶対に離れないから」ぎゅう、と抱きしめると、ルーメの光がやっと温かさを取り戻した。でも――その安心がいつまで保てるかはわからない。◆◆◆執務室には、異様な空気が漂っていた。 テーブルの上には書類、古文書、星図、空白波動の観測記録が山積みになっている。ユスティアは目の下にクマを作りながら解説していた。「こちらが空白波動の解析結果です……」レーンが思わず突っ込んだ。 「寝てないのか!? 目の下に世界地図できてるぞ!?」「……これは、努力の地図です……」「いや寝て!!」カイラムはユスティアの肩に手を置き、強制的に座らせた。「少し休め。お前が倒れても困る」「は、はい…………」リビアは資料をめくりながら、重い声で言った。「空白の子が残した波動……やはり“魂”の性質に近いものじゃ」「魂?」ユスティアが弱々しく頷く。「はい……転生や死後の魂の循環に関わる“基底層”の波動です。 つまり、あの子は……エリシア様と同じく、転生に関わる存在……」「同じ……?」胸の奥がひりつく。 だって私はただの一般人だった。 前世で特別なことなんてなにも――「主殿」リビアが静かに言った。「“転生者が一人とは限らぬ”……そういうことじゃ」「えっ……」レーンが身を乗り出す。 「もう一人の転生者ってことか?」カイラムは首を振る。 「いや、違う。もし単なる転生者なら“空白”にならない」「じゃあ何なの……?」カイラムは少しだけ間を置いて言った。「“途中で途切れた転生”だ」「途切れた……?」リビアが続ける。「要は……何らかの理由で転生が不完全なまま、魂だけが世界に落ちた。 記憶も形も持たず、ただ“求めるもの”だけを強く残して……」求めるもの。空白の子が求めていたもの。――私
Last Updated : 2025-11-29 Read more