All Chapters of あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を: Chapter 31 - Chapter 40

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ひまわりのバッジ

明穂はキッチンに立ち、ふと振り返って大智に尋ねた。 「珈琲と紅茶、どっちがいい?」 声は落ち着かせようと努めたが、どこかぎこちなかった。大智はソファにふんぞり返り、片手で乱れた髪をかき上げながら、 「いや、炭酸飲料でいいよ。コーラか何かある?」 と軽い調子で答えた。その声には、ニューヨークの雑踏を抜けてきたような、どこか大らかな響きがあった。明穂は一瞬眉をひそめた。ニューヨークで3年も過ごしたなら、きっと不摂生の極みだろうと想像していた。ハンバーガーショップのカウンターで、脂っこいフライドポテトをつまみながらコーラの飲み放題に溺れる大智の姿が頭に浮かんだ。だが、ちらりと彼を見ると、意外なことに肌艶は良く、頬に旅の疲れは見えるものの、目は生き生きと輝いていた。 ワイシャツ越しに見える腕や肩は、かつてのやんちゃな少年っぽさが消え、全体的に引き締まった身体付きに変わっていた。ニューヨークの喧騒が、彼をただの怠惰な男にしなかったらしい。明穂は冷蔵庫を開け、コーラの缶を取り出しながら、ふと大智の変化に心がざわついた。 あの3年間、彼は何をしてきたのか。コーラのプルタブを引く音が、静かな部屋に小さく響いた。缶を渡すと、大智は「サンキュ」と笑い、ぐいっと一口飲んだ。その喉が動く様子に、明穂はなぜか目を離せなかった。吉高の妻としての自分と、かつての大智との記憶が、炭酸の泡のように胸の中で弾けた。
last updateLast Updated : 2025-08-03
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