All Chapters of あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を: Chapter 21 - Chapter 30

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ゲーム

夫の不倫相手から届いた気味の悪い段ボール箱は、物置の奥に仕舞ったまま、埃をかぶっている。明穂はそれをゴミステーションに持って行こうかと何度も考えたが、玄関の扉を開けるたび、紗央里が冷たい目で待ち構えている気がして、足がすくむ。吉高に問いただす勇気もない。夜中、物置からかすかな物音が聞こえるたび、明穂の心はざわつく。不気味な予感が消えず、彼女は眠れぬ夜を過ごす。箱はただそこにあるだけで、家庭の空気を重くする。ある日、明穂は意を決して箱に近づいたが、冷や汗が背筋を伝う。紗央里の薔薇の香水の匂いが、微かに漂う気がした。結局、箱はそのまま物置に残り、明穂の心に暗い影を落とし続ける。いつか向き合わねばならないと知りながら、彼女は物置の扉を閉めた。(それに、この箱も不倫の証拠になる筈だわ) しかも紗央里がこれを持って来たという確固とした証拠は何処にも無い。ただの無作為な悪戯だと言われればそうかもしれない。また、荷物を運んで来たドライバーの顔も薄ぼんやりとしか見えておらず、無表情で特徴が掴めなかった。(怖い) 家のまえを通り過ぎる車の気配が、昨日の恐怖を思い起こさせた。明穂は玄関扉の施錠を確認すると、チェーンを掛けリビングのカーテンを閉めて階段を駆け上がった。(どうして) 明穂は寝室のベッドに寄り掛かり、なにも見えない天井に問いかけた。(私のなにがいけなかったの?) 不倫をした吉高も悪いが自身にも至らなかった点があったのでは無いかと明穂は胸を痛めた。(・・・・やっぱり目が不自由だから?) この2年間吉高は優しい夫だったが、たまの休日に旅行に出掛けても反応が薄い明穂に辟易し、日常生活でも気遣ってばかりで息苦しかったのだろうか。(でもそんな事、最初から分かっていたんじゃないの?)実は、吉高には弱視の明穂と結婚する覚悟など端からなかった。ただ弟の大智に負けたくないその一心で、大智の初恋の相手だった明穂にプロポーズをした。そんな吉高の軽率な行動を明穂が知る由もなかった。彼女は吉高の甘い言葉や優しい仕草に心を許し、共に未来を夢見て笑顔で日々を過ごしていた。だが、吉高の心は冷たく、結婚はただのゲー
last updateLast Updated : 2025-07-31
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京土産

京都の学会から帰宅した吉高は、どこかぼんやりと惚けた顔をしていた。 リビングのソファにどさっと腰を下ろすと、脱ぎ捨てたスーツが床にくしゃりと落ち、ふわっと独特の香りが漂ってきた。それはまるで、真新しい畳の清々しい青さと、薔薇の香水のような甘く濃厚な匂いが混ざり合ったような、不思議な余韻を残すものだった。 明穂は鼻をひくつかせ、ちらりと吉高を見やった。おおかた、学会の合間に紗央里と京都の風情ある日帰り旅館にでも寄って、二人きりでしっぽりとお愉しみでもしていたのだろう。吉高のそんな浮ついた雰囲気が、なんだか妙に生々しく感じられた。 それでも彼は、いつも通りの平然とした顔で、「はい、お土産だよ」と軽い調子で言った。手に渡されたのは、京都の老舗の名菓が詰まった、風呂敷に包まれた菓子箱だった。明穂は箱を受け取りながら、ふと吉高の目を見た。そこには、京都の雅やかな街並みや、紗央里との秘密めいた時間が映っているような気がした。 「ありがとう」 その瞬間、吉高の指が明穂の手に軽く触れ合い、明穂は言い知れぬ寒気を覚えた。それは一瞬の接触だったが、まるで冷たい水が背筋を滑り落ちるような、得体の知れない感覚だった。菓子箱を受け取ると、そのずっしりとした重さが掌にずんと響き、まるで吉高と紗央里がひそかに分かち合った時間の重さ、隠された罪の深さを象徴しているかのようだった。 風呂敷に包まれた箱の冷ややかな感触が、明穂の指先に妙に現実味を帯びて感じられた。部屋の空気は一瞬にして張り詰め、静寂が二人を包んだ。明穂の胸の内で、疑念が黒い霧のようにゆっくりと広がっていく。吉高と紗央里が京都のどこかで過ごした時間は、ただの気まぐれな寄り道だったのか、それとも何かもっと深い秘密を孕んでいるのか。吉高はソファにもたれたまま、穏やかな微
last updateLast Updated : 2025-08-01
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