All Chapters of 娘が死んだ後、クズ社長と元カノが結ばれた: Chapter 1031 - Chapter 1040

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第1031話

「病人がどうかしたの?」遥樹は逆に彼女の手を引き寄せ、くすっと笑い、からかうような視線を向けた。「本当はさ、同じベッドで寝たら何か起きるんじゃないかって心配してるんだろ?」図星を突かれ、蒼空は眉をわずかに動かし、きちんとした口調で言い返す。「何を言ってるの。私はただ、寝ている間にあなたを押しつぶしたら困ると思っただけよ」遥樹の目には笑みが浮かび、事情は分かっていながらも、あえて話を合わせた。「はいはい、じゃあ俺の考えすぎってことで」彼は彼女を引き寄せ、ベッドの縁に座らせる。「ほら、ベッド以外にどこで寝るつもりなんだよ。ここで寝ようぜ。付き添いだと思えばいい。寝てて俺を押しても平気だし、俺は丈夫だから文句言わない。ほら早く」蒼空はまだ迷っていて、動こうとしない。遥樹は彼女の頬をつまむ。「大丈夫、夜は絶対に何もしないから」蒼空は彼を一瞥し、ようやく決心して靴を脱ぎ、ベッドに上がった。その際、小さくぶつぶつ言う。「そんなこと考えてないから......」気温が低かったため、今日は遥樹の誕生日パーティーにスカートではなく、コートにセーター、ジーンズというしっかり防寒した格好で来ていた。暖かくて動きやすい。遥樹は思わず笑い、布団を引き上げて彼女の太ももにかけた。「はいはい、俺の考えすぎだった」そう言いながら、甘えるように頭を寄せてくる。蒼空は小さく「......もう」と声を漏らした。病院のベッドは広くなく、大人二人が並んで寝るには少し窮屈だった。肩が触れ合い、太ももも自然と重なる。同じ布団に遥樹と入るのは、蒼空にとってこれが初めてだった。彼女は唇を結び、何も言わなくなる。遥樹の点滴はまだ終わっておらず、蒼空には処理しなければならない仕事もあった。彼女はスマホを手に取り、いくつか仕事のメッセージに返信し、書類を真剣に確認する。遥樹は手持ち無沙汰で、ちらりと彼女のスマホを覗いたり、彼女の横顔を見たりしながら、満足そうに口元を緩めていた。蒼空は仕事をするのに彼を避ける様子もなく、好きに見させている。それは信頼だった。遥樹を満たしてくれる、確かな信頼。蒼空が仕事を一段落させると、遥樹が口を開いた。「やっぱり、今夜のことはちゃんと話しておきたい」蒼空はスマホ
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第1032話

蒼空は表情をほとんど変えず、ただじっと遥樹を見つめていた。遥樹は言い終えると、しばらく蒼空の反応を待った。だが蒼空は何の反応も示さず、ただ静かに彼を見ているだけだった。遥樹は軽く咳払いをする。「......スマホ見てもいいんだぞ」蒼空は相変わらず何も言わず、動きもしない。遥樹は急に不安になり、手を伸ばして蒼空の頬を軽くつねった。「何か言えよ。そんな目で見るなって」蒼空はスマホを握ったまま、ぷっと吹き出した。目を細め、眉尻まで笑みが広がっている。その瞬間、遥樹はようやく気づき、呆れたように笑いながらも、胸をなで下ろした。「わざとだろ」蒼空は腰を折るほど笑いながら言う。「だって、あまりにも真剣に言うから......我慢できなくて」彼女はスマホを握ったまま、肩を震わせて笑い続けた。遥樹は歯を食いしばり、手を伸ばして彼女を抱き寄せる。わざと凶悪そうな表情を作り、蒼空の柔らかな頬をつねった。「俺をからかうとは、いい度胸だな」蒼空は彼の腕の中に倒れ込み、口元に笑みを残したまま首を振って逃げようとするが、結局は遥樹の手から逃れられなかった。遥樹はもともと蒼空の頬をつねるのが好きで、この機会とばかりに何度もつねり、存分に満足した。力加減は程よく、痛くはないが、つねられ続けて蒼空は不機嫌になる。彼女は唇をきゅっと結び、負けじと手を伸ばして遥樹の髪をぐしゃぐしゃにした。遥樹は笑いながら彼女を抱き寄せ、そのまま好きにさせてやる。さきほど遥樹が彼女の手に押し込んだスマホは、いつの間にかベッドの上に落ちていたが、二人とも気づいていなかった。蒼空は手を止め、遥樹の頭に残った自分の「作品」を満足そうに眺め、うなずく。「できた」遥樹はベッドのヘッドボードにもたれ、片手を無造作に彼女の腰に置いたまま、眉を伏せ、笑みを含んだ綺麗な目で彼女を見ていた。蒼空は遅れて、今の二人の体勢がどこかおかしいことに気づく。片手は遥樹の肩に置き、もう一方は彼の頭の上に伸ばしている。遥樹が後ろにもたれているせいで、彼女は腕を伸ばさなければ届かず、重心が不安定で、何かに寄りかからなければ体を支えられない。つまり、彼女は遥樹に寄りかかるしかなく、二人の体はぴったりと密着していた。その姿は、どう見ても蒼空
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第1033話

蒼空は歯を食いしばり、彼の指をぎゅっと掴んだ。「まだ病人のくせに」遥樹の顔から笑みが少し薄れ、ゆっくりと蒼空の首元に顔を埋める。蒼空は少し驚き、問いかける前に、遥樹のほとんど甘えるような声が耳元で聞こえた。「蒼空......つらいよ......」遥樹は腕に力を込めて彼女を抱きしめ、頬を深く埋める。「ちょっとくらい同情してもいいでしょ。俺、けっこう可哀想だろ?」わざと甘えているのは分かっていても、蒼空はゆっくりと手を上げ、そっと、やさしく遥樹の後頭部を撫でた。蒼空は低い声で言う。「さっきまで謝ってたのに、もう甘えてる」遥樹は満足そうに彼女を抱きしめる。「彼女なんだから、甘えていいだろ」蒼空の目には呆れが浮かびつつも、結局は許してしまう。遥樹は顔を上げ、軽い吐息が蒼空の首元や横顔にかかる。蒼空は一瞬動きを止め、視線を落とすと、遥樹が彼女の頬や首元にキスしているのが見えた。彼女は手を伸ばし、遥樹の髪を掴んで軽く引き、低く叱る。「まだ点滴してるでしょ。おとなしくして」遥樹は彼女の首元に顔を埋め、深く息を吸った。――満足した。彼は蒼空を離し、ベッドのヘッドボードにもたれかかる。蒼空は横目で彼を一瞥し、乱された服を整え始めた。今夜の遥樹はすでに満たされていて、笑みを含んだまま彼女を見ている。視線を落とすと、蒼空のそばに落ちているスマホが目に入った。それを拾い、蒼空に差し出す。「......見る?」蒼空は服を整え終え、座り直してから布団をかけ、ようやくゆっくりと遥樹の手を押し戻した。遥樹は眉を上げる。「見る気ないのか?」蒼空は淡々と答える。「興味ない」遥樹はわずかに眉をひそめた。「なんで?」蒼空は顔を向け、遥樹の顎を軽く撫でる。「あなたが本気で私を裏切ろうと思ったら、止めようとしても止められないし、スマホを調べたところで防げるものでもないでしょ」遥樹は少し不満そうに眉を寄せる。「ずいぶん割り切ってるな」蒼空は微笑んで言った。「別に?もし裏切ったのを見つけたら、絶対に許さないつもりだけど」それを聞いて、遥樹は悔しそうな顔をし、蒼空の服の裾をそっとつまんで揺らす。「......どうやって許さないつもり?」蒼空はその様子に耐えき
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第1034話

蒼空は仕事のメッセージに返信しながら、ぼんやりと顔を上げて彼を見る。「私?何が?」遥樹は彼女を見て言った。「蒼空のスマホ。それと、俺の誕生日プレゼント」蒼空は一瞬間を置き、まず一つ目に答える。「私のスマホを調べたいの?」遥樹は眉を上げた。「だめ?」蒼空は少し考えてから言う。「ちょっと待ってて。まだ仕事の返信中だから」それを聞いて遥樹は身を寄せ、不満そうに言った。「こんな時間なのに、まだ連絡してくるのか?」そう言いながら、彼は蒼空のスマホ画面を覗き込み、何か言いがかりをつけそうな様子だ。蒼空は文字を打ちながら答える。「数件だけよ。すぐ終わるから」数件と言いつつ、遥樹は、蒼空が何人もの相手と仕事のやり取りをして、きっちり十分もかかっているのを目の当たりにした。十分後、ようやくすべて返信し終えた。遥樹は黙って蒼空の手の甲を撫でる。「お疲れさま。家を支えるスーパー関水社長」「からかわないで」蒼空は肩をすくめ、遥樹の頭を軽く押した。そう言ってから、蒼空はスマホを差し出す。ロックもかけていない。「どうぞ」遥樹は眉を上げて受け取り、蒼空のウィーチャットのメッセージを確認しながら言った。「で、俺の誕生日プレゼントは?」蒼空は横で、遥樹が自分のスマホを調べている様子を見ていた。遥樹は一件一件丁寧に見ているようだったが、連絡先の大半は仕事関係で、特に探るようなものはない。そのことは遥樹も分かっていて、確認自体は早かった。それでも彼は妙に真剣で、まるで本当に蒼空が何か後ろめたいことをしている証拠を探しているかのようだった。蒼空は少し居心地悪くなり、言った。「誕生日プレゼントはパーティー会場に置いてあるわ。明日取りに行きましょう」遥樹は軽くうなずく。「分かった」スマホの確認に集中していて、その返事はどこか上の空で、誕生日プレゼントのことなど気にも留めていない様子だった。蒼空は違和感を覚える。「何を探してるの?」そう言ってから、口調を変えた。「誰を探してる?」遥樹は一瞬止まり、顔を上げて蒼空を見る。「別にお前を疑ってるわけじゃない。お前の周りに、よからぬ男がいないか確認してるだけだ」蒼空は少し呆れ、苦笑する。「そんな人いないわ
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第1035話

遥樹は、蒼空の距離を保った丁寧な口調に、ようやく少し気が収まったのか、軽く鼻を鳴らし、柊平の件はそれ以上追及しなかった。その後、蒼空は、遥樹が柊平とのトーク画面を閉じ、再び検索するのを見た。今度入力されたのは――「松木瑛司」。蒼空は眉を上げる。今回は、柊平のとき以上に、遥樹の様子が明らかに違った。警戒態勢そのままに、瑛司とのチャット画面を開く。蒼空はふと、わずかに後ろめたさを覚えた。遥樹が、以前から瑛司の存在を気にしていることは分かっている。このところ瑛司はずっと首都に滞在しており、彼が蒼空を助けたこともあって、やり取りが増え、履歴もそれなりに溜まっていた。とはいえ、やましい気持ちはほんの少しだけだ。実際のところ、メッセージは瑛司から一方的に送られてくるものが多く、蒼空の返信は控えめで、距離もきちんと守っていた。越えてはいけない線は踏んでいない。――それでも。画面いっぱいに並ぶ瑛司からのメッセージを目にした瞬間、遥樹の顔色は一気に曇った。蒼空の胸が、理由もなくざわつく。彼女は、遥樹が無言で、少しずつチャット履歴を遡っていくのを見つめていた。自分の返信は節度を保ったものばかりで、大半は瑛司の体調を気遣う内容だ。丁寧で、どこかよそよそしい。一方、瑛司からのメッセージは量が多く、距離感も曖昧だ。蒼空自身、それには気づいていたが、深く気に留めてはいなかった。キーボードを打っているのは瑛司で、何を書くかまでは止められない。例えば、こんな内容だ。【もう仕事終わった?】【今日はちょっと君に会いたくて。顔を見に来てくれない?】【蒼空、そんなに冷たくしないでくれないか】【今日は傷口が少し痛むんだ。来てくれたら嬉しい】【今日はだいぶ良くなったよ。介護士を手配してくれて、ありがとう】――そんなメッセージが、毎日何通も届いていた。蒼空の返事は、だいたい決まっている。【まだ仕事中】【今日は時間がありません。ごめんなさい】【しっかり療養してください】【今は忙しいので、何かあれば介護士の方に聞いてください】【分かりました。介護士の方に高評価を入れておきます】要するに、蒼空としては、十分に礼儀正しく、かつ距離を保った対応をしているつもりだった。それに、遥樹から
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第1036話

遥樹の口調はひどく真剣で、眉間には怒りと必死に抑え込んだ感情が滲んでいた。手のひらでスマホを強く握りしめ、指先は白くなり、手の甲には青筋が浮き上がっている。まるで縄張りを侵されたトラのようで、全身が張り詰めていた。蒼空は、もし本当に遥樹を行かせたら、彼と瑛司が殴り合いになってもおかしくない、と直感的に思った。そうなれば、収拾がつかなくなる。遥樹は考えれば考えるほど確信を深めていく。ちょうどその日の朝、瑛司から蒼空に一通のメッセージが届いていた。蒼空は、まだ返信していない。瑛司【そろそろ帰る。時間があれば一度会えないか?】遥樹はスマホを蒼空の前に差し出した。「こいつと約束しろ。俺が会いに行く」蒼空は小さくため息をつき、スマホを受け取って画面をロックし、そのまま横に置いた。遥樹は目を見開く。「ちょっ」蒼空は、彼が再びスマホを取ろうとする手を押さえ、軽く叩いて言った。「いいから。何怒ってるの。あの人のことなんて気にしなくていいのに。私は会いに行かないから、安心して」遥樹は俯いたまま、眉を寄せ、明らかに怒りを押し殺している。蒼空はもう一度、彼の手の甲を軽く叩いた。「遥樹?聞いてる?」すると遥樹は突然手を伸ばし、蒼空を抱き寄せた。顔を伏せたまま、くぐもった声で言う。「......あいつは、そんな簡単に諦めるタイプじゃない。前に調べたけど、ここであいつが処理しなきゃならない仕事なんて、本当はほとんどないって。むしろ松木の本社のほうに戻らなきゃいけない案件があるのに、あいつは戻らずにここにいる。下心丸見えじゃねえか」蒼空は眉を上げた。「え......知らなかった」彼女は本当に、松木側の動きについて詳しくは知らなかった。ただ、瑛司がずっとここに留まっているのは確かに不自然で、彼が何度も曖昧で距離感を欠いた言葉を投げかけてきたのも事実だった。遥樹は彼女を抱いたまま、さらに低く重たい声で言った。「前途多難だな......」時友家の混乱、そして松木瑛司。蒼空は彼の背中を軽く叩き、淡々と言った。「私を信じてよ」遥樹は即座に否定する。「蒼空のことは信じてるよ。でもあいつ......松木が狡猾すぎるんだ」蒼空は軽く鼻を鳴らした。「私が分からないとでも思ってるの
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第1037話

彼女は遥樹の手を握った。「だから、もう心配しないで。私と瑛司がよりを戻すなんてことは、あり得ないから」遥樹の目がわずかに揺れた。だが、最初に気にしたのは復縁のことではなかった。「その夢を見たのは、いつ?」蒼空は少し考えてから言った。「数年前かな。まだ松木家にいた頃だと思う。正確な時間はもう、あまり覚えてないけど」あれほど強くて芯のある蒼空が、ここまで鮮明に覚えている夢――遥樹の胸に、言いようのないためらいが生まれ、漠然とした嫌な予感が広がった。彼は手を上げ、指の腹で蒼空の頬にそっと触れ、低い声で尋ねた。「......どこで、海に飛び込んだの?」何年経っても忘れられない「夢」。それは、もしかすると現実だったのではないか。その可能性が頭をよぎった瞬間、遥樹の心臓はぎゅっと縮み、胸の奥からひそやかな痛みが滲み出た。蒼空は瞬きをし、胸の奥が少し沈むのを感じながらも、わざと軽い調子で笑みを浮かべた。「夢の中の海なんて、現実にあるわけないでしょ。たしか、ドアを開けたらいきなり海が見えた、みたいな感じだった気がする......そんな場所、きっと存在しないよ」その言葉を聞き、遥樹はどうにか胸のざわつきを抑えたものの、眉間にはまだ不安が残っていた。蒼空は彼をなだめるように言った。「大丈夫だよ。夢と現実は逆だって言うでしょ。夢の中では不幸で、自殺までしたんだから、現実の私はきっと幸せに生きて、天寿を全うするの」遥樹はしばらく黙って彼女を見つめ続けた。蒼空が眉を上げる。「なに?」遥樹は声を落とした。「分かった」蒼空が尋ねる。「まだ引っかかってる?」遥樹は唇を引き結び、答えなかった。蒼空はお手上げとばかりに、背を向けてベッドヘッドにもたれた。「勘弁してよ。もう疲れたの」遥樹は機嫌を取るように近づき、頭を彼女の肩にすり寄せた。「疑ってるわけじゃない。ただ松木のやつがあまりにも狡猾だから、警戒せざるを得ないんだ」蒼空は不機嫌そうに彼を睨んだ。コンコンコン。二人同時に視線を向けると、ドアの前に女性の看護師が気まずそうな顔で立ち、点滴台を押していた。「すみません、点滴の交換です......さっきからノックしてたんですけど、聞こえていないみたいだったので、勝手に入っ
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第1038話

蒼空の手は、まだ遥樹に半ば強引に彼の頬へと押し当てられていた。掌に伝わる体温はじわじわと上がっていき、まるで出来上がりのパンを握っているかのようだった。蒼空は鼓動が早まるのを感じつつ、何事もなかったように手を遥樹の手から引き抜き、布団の中へ戻した。「......何見てるの。もう寝るよ」そう言って、彼女は少し身体を横にし、遥樹に背を向けた。背後で、遥樹がくすりと笑う。その笑い声には、からかいがたっぷり含まれていた。蒼空は目を閉じたまま、少し腹立たしくなる。次の瞬間、遥樹が急に距離を詰めてきた。目を開けなくても、彼の気配がゆっくりと近づいてくるのが分かる。蒼空は低い声で言った。「なに?」「蒼空」遥樹が名を呼んだ瞬間、彼がどれほど近くにいるのかを、彼女ははっきりと実感した。言葉と一緒に吐き出される熱が、ほとんど顔にかかるほどだった。蒼空は思わず肩をすくめる。すると遥樹が低く囁いた。「耳、すごく赤いって知ってる?」病室のベッドは決して広くはない。大人二人が横になるだけで精一杯で、蒼空が少し動くだけでも遥樹の身体に触れてしまう。ましてや、彼はわざと距離を詰めてきている。この距離、この声、この曖昧な空気――危険すぎる。男女二人きりで病室にいて、同じベッドに横になり、同じ布団をかけている。どう考えても、危なすぎる。このままでは、先のことは自分では制御できない。蒼空の心拍はさらに速まり、咄嗟に布団を引き上げて顔まで覆い、身体と肩を縮めた。「だめ。本当に寝るんだから」布団越しに、遥樹の低い笑い声が伝わってくる。蒼空はむっとして、足で遥樹を蹴った。すると遥樹はすぐに笑うのをやめ、布団の上から優しく彼女の肩をぽんぽんと叩き、穏やかな声で言った。「はいはい、わかったよ。そんなに怒るなって。出ておいで、布団の中、苦しいだろ」蒼空は頭の上の布団を引き下ろし、遥樹を睨みつけた。布団を外した拍子に、髪が少し乱れてしまう。遥樹は手を伸ばして軽く整え、笑いをこらえながら言った。「安心して寝な」蒼空は何も言わず、布団の中から自分のスマホを探り出した。遥樹が尋ねる。「どうした?」蒼空は答えず、スマホの中からよく観ているバラエティ番組を選び、病室のテレビのリ
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第1039話

蒼空はびくっと身を強張らせ、布団の中で一気に目を開いた。視界はまだぼんやりしていたが、意識ははっきりしていて、遥樹が布団をめくるより先に自分から布団を跳ね上げ、不満と警戒を隠さず、目を見開いて遥樹を睨みつけた。遥樹は手を引っ込め、肩を揺らして笑った。「冗談だよ。何もしないって」蒼空は勢いよく身体を起こし、力の抜けた目で遥樹を一瞥したあと、また目を閉じ、俯いたままうとうとし始めた。しばらくして、遥樹が彼女の髪に手を置き、指先でゆっくりと整えているのを感じる。「もう8時半だ。洗面所に使い捨ての洗面セットを用意してある。顔を洗ってきなよ。朝ごはんも来てる、早くしないと冷めるぞ」蒼空は布団を引き寄せ、顔を埋めて深く息を吸った。少し目が覚めたところで顔を上げると、遥樹はすでに身支度を整え、きちんとしたスーツ姿でベッド脇に座っていた。髪も整えられ、非の打ちどころがないほどきちんとしていて、はっとするほど格好いい。蒼空は遥樹が用意してくれたスリッパを履き、尋ねた。「どこ行くの?そんなにきちんとした格好して」遥樹は一瞬視線を揺らし、やがて軽く笑った。「ちょっと厄介なクライアントに会いに行く予定なんだ」蒼空は少し不思議に思った。遥樹が「厄介」だと言う相手など、今まで見たことがない。洗面所へ向かいながら言った。「どれくらい厄介なの?」遥樹は即答した。「相当だ。性格は悪いし、気分屋で......」ためらいもなく、瑛司をこき下ろす。容赦はなかった。「品性が最低で......」――平気で他人の恋人に手を出そうとする、道徳心の欠如。「図々しくて......」――何度拒まれても引き下がらず、執拗に彼の恋人へ嫌がらせを続ける。そこまで聞いて、蒼空は少し驚いた。遥樹はもともと穏やかな人だ。長年一緒にいても、彼が怒る姿などほとんど見たことがないし、他人の悪口を口にするのを聞いたこともなかった。とても率直で懐の深い男だ。そんな遥樹の口から、他人への否定的な評価を聞くのは初めてだった。蒼空は、いったい誰がここまで遥樹を怒らせたのか、純粋に気になった。思わず聞く。「......それ、誰なの?」遥樹は微笑みを崩さず答えた。「蒼空が知る必要はないよ。大したことないから、俺が
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第1040話

黎はへへっと笑い、遥樹に聞いた。「どう?さっきの呼び方」遥樹は眉を上げ、満足そうに言う。「悪くない」蒼空は耳のあたりが少し熱くなり、遥樹の表情を見上げた。遥樹は満足げな顔で、視線を落としながら彼女に向かって眉をひょいと動かす。黎はまた笑い、蒼空に言った。「じゃあ、遥樹は俺が先に連れてくね?」蒼空はうなずいた。「ええ、じゃあ」遥樹は手を伸ばして彼女の頬を軽くつまみ、少し身を屈めて低く囁く。「離れても俺のことを考えるんだぞ」蒼空が返事をする前に、向こうで黎が歓声を上げた。蒼空は唇を結び、遥樹の手を叩き落とす。「早く行って。待たせてるでしょ」黎は地獄耳のようにすぐ反応した。「大丈夫だよ、俺は急いでないから。二人でゆっくりどうぞ」遥樹はくぐもった笑いを漏らす。「聞いた?急いでないってさ」蒼空は即答した。「私が急いでるの。仕事、遅れそうなの」遥樹はさらに眉を上げる。「珍しいな。社長が遅刻を気にするなんて」蒼空は目を細めた。「上に立つ者の手本ってやつ。ちゃんとしなきゃ」遥樹は腕を組み、「はいはい、行ってらっしゃい。スーパー社長。あとで俺を養ってくれるのを楽しみにしてるよ」蒼空はくっと笑い、ドアを閉めると窓を下げ、斜めに彼を見て言った。「私に養ってほしいなら、もっと努力しなさい。私は腹筋が八つに割れた若いイケメンが好きなんだからね」そう言い終えると、彼女はすぐに窓を上げ、車を発進させた。その場に残された遥樹は、信じられないという顔で彼女の車の後ろ姿を見送る。少しして、遥樹は肩を落とし、苦笑しながら首を振った。向こうから黎が呼ぶ。「遥樹、何してんだよ。もう行ったぞ、早く来いって」遥樹は気だるげに答えた。「分かってる」車に乗り込み、シートベルトを締めながら、自分の腹部に目を落とす。――腹筋は八つある。今年で25歳だし、まだ若い部類だろう。蒼空の条件、十分満たしてるはずだ。車が走り出し、街並みが後ろへ流れていく。黎が言った。「まだ彼女のことを考えてんの?もうだいぶ走ったぞ」遥樹は思考から戻り、だらりと座って言う。「悪い?俺の彼女なんだから、少しくらい考えてもいいだろ」黎はしばらく無言になり、やがて言った。
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