蒼空は鼻で笑った。「またそんなこと言うなら、ほんとにうんざりして、もう答えなくなるよ」遥樹は口を開く。声が少し乾いていた。「......蒼空」「なに?」遥樹は視線を落とした。「......お前はあいつのこと、好きだったのか?」この問いは、ここ最近ずっと彼を苦しめてきた。眠れない夜が続き、頭がおかしくなりそうなほど知りたかった。蒼空と瑛司の間に何かあったのか、兄妹以上の関係に発展したのか。蒼空はしばらく黙った。答えない。遥樹は心臓がゆっくり沈んでいくのをはっきり感じた。喉が詰まり、息が苦しい。やがて、蒼空の声が聞こえた。その答えを耳にした瞬間、遥樹は、自分の聴力なんてなければよかったと思った。――聞きたくなかった。でも、質問したのは自分だ。苦しい。でも知りたい。それが本音だった。「そうだよ」遥樹の心臓は、一気に底まで落ちた。口を開こうとしたが、声が喉につかえる。呆然と蒼空を見つめるしかできなかった。ずっと恐れてきた事実が、現実になった。しばらくして、やっと言葉が漏れた。「......そう。じゃあ、お前たちは......」「ないよ」蒼空はきっぱり言う。「私と彼は何もない。付き合ってもないし、進展もない。好きだったのは昔のこと。変な想像しないで」遥樹はまったく安心できなかった。無理やり冗談めかして言う。「ならよかった。あいつに得させるのだけは嫌だし」車内に沈黙が広がる。どういう顔をすればいいのか、どう向き合えばいいのか分からない。蒼空が瑛司を好きだった――松木家で一緒に過ごした数年の間に、自分の知らないことがたくさんあったことを、考えれば考えるほど......嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。そんな過去なんてなければよかったとすら思う。でも否定できない。松木家はあの頃、蒼空にたくさんの助けを与えていた。その事実は消せない。だからこそ、余計に苦しい。蒼空はふっと笑う。「なんだよ、その顔。魂抜けたみたい」遥樹の目は深く、うっすらとした悲しみが宿っていた。蒼空は一瞬息を呑む。――どうしてこんな表情を......眉を寄せて訊く。「遥樹、どうしたの?」遥樹は深く息を吸う。次の瞬間、寂し
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