Semua Bab Pale Moon〜虚無の悪魔と蒼月の女神〜: Bab 31 - Bab 40

59 Bab

Nox.VII『放課後の密会《デート》』III

  レイフは手元に続けて三枚のカードを出現させると、先ほどの一枚とともに空へと放った。 カードは意思を持つかのように四方へと散ると、瑠璃色の魔法陣を展開する。 間髪を容れず魔法陣からは漆黒の鎖が生み出され、一斉にクロヴィスを拘束しようと迫った。「甘いよ!」 クロヴィスは、前方に右手をかざす。  瞬く間に、|金色《こんじき》の光が出現し、それは彼の身体を守るように障壁へと変化した。 パリン、と硝子が砕け散るような音が響き渡る。 次の瞬間には障壁へと衝突した鎖は宙に弾け飛び、塵となり霧散していた。「カルロス、グィネヴィア――|行《ゆ》きなさい!!」「「はっ――!!」」 ヴィオレタの号令を受け、二人の|死神《リーパー》が駆け出す。 カルロスと呼ばれた赤毛の大柄な男は、手元に巨大な|戦棍《メイス》を出現させると、それに|焔《ほむら》を纏わせてゆく。「はあぁぁっ――!!!!」 怒声とともに空中へと飛び上がったカルロスは、背後よりクロヴィスの頭部へと戦棍を振り下ろす。「ふふっ――」 瞳を閉じて宙へと静かに佇むクロヴィスの口角が、わずかに上がる。  次の瞬間、彼の姿は茜色の空に消失した――。「なっ!?」 カルロスの真紅の双眸が、大きく見開かれた時には既にクロヴィスの姿は彼の背にあった。「遅いよ」  瞬く間に移動したクロヴィスは、腰元の剣の柄へと手をかける。 だが、その手が|剣《つるぎ》を抜くことはなかった。「おや、これはこれは……」  剣と彼の手が、時の流れから隔離された彫像のように凍りついていたからだ。 ――「そうは、させない」 凛とした冷たい声音が響き、彼の隣へと|白縹色《しろはなだいろ》の閃光が飛来した。 グィネヴィアと呼ばれた女性の死神だ。 動けずにいるクロヴィスの至近距離へと接近した彼女は、腰元から剣を引き抜く。 それは流麗な反りと、白い光を帯びた波紋が特徴的な東方の国々で〝刀〟と呼ばれるものだった。   首を狙った完璧な一閃が放たれる――。 白金色の髪が宙を舞い、クロヴィスの頬から紅い飛沫が飛んだ。「おぉ、怖い怖い!」  ぺろりと、艶やかな|虞美人草《ひなげし》のような舌で頬から垂れる血を舐めとると、彼は後方へと距離を取って躱した勢いのままに、背に月白色の光翼を生み出し飛び立つ。 光
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-30
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Nox.VII『放課後の密会《デート》』Ⅳ

「おう、俺だ!ってのも変だが……お前の上司だったルーカスだ。本物だぜ? 一応な」 男――ルーカスの返答にヴィオレタは、しばらくの間、続く言葉を発することができずにいた。 柳眉を伏せ、ほっそりとした肢体を振るわせ、杖を頼りに彼女は何とか立っていた。「なんで……なんで、生きていたなら言わないのよ」「あぁ、厳密に言えば生きてたってわけじゃねぇ。まぁ、いろいろ複雑で……大体は、あいつのせいだ」 ルーカスが視線を向けた先に居るのは、無邪気な微笑みを口元に携えたクロヴィスだ。「あぁ、そうそう。ルーカスくんを責めないであげてね。ほら、彼は僕の|離魂剣《アエテリス》によって死んだだろ? だから、その魂は剣に吸収されたわけだよ。そして身体の方は|死霊庁《プルガトリオ》に回収された」「まさか……」 クロヴィスの話に、ヴィオレタの双眸が大きく見開かれる。「あはは、流石に勘が良いね。ご明察、偉大なる冥王家の御歴々は、こう考えたわけだよ。離魂剣で吸収した魂を、もとの身体に戻すことは可能かってね――」 「魂を管理する立場にありながら、恥知らずの俗物どもが……」「いやぁ〜、本当に笑っちゃうだけどさ、そもそも本来は天界に還るべき魂を喰らう離魂剣こそが許されざる魔剣なわけじゃん? それから魂の解放を試みるってのは、あながち死神としては間違ってないと思うよ。まぁ、そもそもその魔剣を創った本人が言うなって話だけどさ〜、あはは!!」 ひとしきり手を叩いて笑った後、クロヴィスは、まるで教師かのように指を立てて周囲を見渡す。 「さて、ここからが大切なお話だよ。彼らに提案された僕は、もちろん快諾した。なんと言っても、おもしろそうだったからね〜。でも、この試みは原理的には可能だったんだけど、大半の死神は生き返った後に精神が壊れちゃって使い物にならなくなっちゃったんだ。やっぱり魂を弄ぶのは禁忌に触れることなのではないのかと、実験に率先して参加していた死神たちまで日々おかしくなっていく姿は傑作だったなぁ」「大概イカれてんぜ。あんた……」 「ふふふ、褒め言葉と受け取っておくよ」 当時を想い出して破顔するクロヴィスに、レイフは嘆息するしかなかった。 純粋な好奇心を行動原理にしている分、この男の悪意は見えにくい。 男の名は――ルーカスと言った。 その名にレイフは覚えがある。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-31
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Nox.VIII『絆の道標、再び逢うときまで』I

◆◇◆◇ クロヴィスとルーカスは、ともにレイフ達の前から姿を消した。 眷属の蛇によって、丁寧に地上へと下ろされたヴィオレタの瞼はわずかに腫れていた。 蛇の頭部は、それをどこか気遣わしげに見つめている。 そうしていると、どこか娘を見守る母親のようでもあった。 どこか張り詰めていた空気がなくなり、脱力したレイフはその場にぐったりとしゃがみ込んだ。 だが、その後はまた別のものが場を支配する。 まるで嵐が過ぎ去ったかのような静寂と、どこか居た堪れない重苦しい空気がレイフとヴィオレタの間に漂っていた。 こんなとき、一体何を話すのが正解だというのだろうか。 本当は聞きたいことが、たくさんある。 ヴィオレタは明日、ルーカスと向き合い戦うことができるのか。 いや、そんなことは別に重要なことではなかった。 仮に彼女が戦えないのだとすれば、そんな重荷は自分が全部背負えば良いだけだ。 どれだけ、かっこつけたことを言ったとしてもヴィオレタにとって、ルーカスはどういう存在なのか――結局はそれが一番、自分の中では引っかかっていた。 彼女と居て、このような空気や気持ちになるのは初めてのことだ。 否、こんなことはレイフの人生において初めてのことだった。 「貴方も今日は、もう帰って眠りなさい」 「お、おう。でも、あんたは……」 当のヴィオレタの言葉により、レイフの意識は思考の渦から強制的に引き戻された。 「私は……こちらはこちらで準備があるわ。明日は陽が昇る前に――【聖クロワ教会】で落ち合いましょう」 「わかった……」 「今は一人にしてちょうだい。考える時間が必要だわ」 レイフが続く言葉を発する時間は与えられなかった。 ヴィオレタの言葉と視線が、それを制したためだ。 「貴方にも、まだ別れを告げないといけない相手が残っているでしょ? 今日を逃せば、もう会えないわよ。だから悔いは残さないようになさい」 陽が沈みきる前のわずかな時間、空を満たす瑠璃色の光――それさえもカーテンで隠してしまうように。 ヴィオレタは感情の温度を排した冷たい声音で、レイフにそう告げると背を向けて歩き出す。 その淋しげな背にかけるべき言葉を、今のレイフは持っていなかった。 ◆◇◆◇ 陽が沈み、蒼白い月明かりが左右対称の巨大な庭
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-02
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Nox.VIII『絆の道標、再び逢うときまで』II

◆◇◆◇ フランとまるで本当の兄妹のような戯れ合いを満喫したレイフは、珍しく父と母、そして姉との四人での|夕食《ディナー》を囲んでいた。 普段レイフは両親とは時間をずらして一人で食べるか、姉と二人だけの食事をしている。 レイフの目前には、癖毛風に整えられた白銀の髪と、程よく鍛えられた細身の身体を持つ40代半ばの美丈夫が座っていた。 レイフの実父であるヴィーダル・ヘーデンストロームだ。 母であるイングリッド・ヘーデンストロームは、北国の朝に見える霜のような輝きを放つ白銀の髪を、さらさらと揺らめせ、鋭い真紅の双眸をわずかに不満げに尖らせていた。 口元に常に笑みを携えて柔和な雰囲気を纏うスカディを除けば、ヘーデンストローム家は全員が、故郷イスダルール帝国の主要民族であるネヴェリム民族の特徴が外見によく表れていた。 ヴィーダルの容姿と所作から醸し出す雰囲気は、そこら辺の国々の王侯貴族よりもよほど凛々しいものだ。 イングリッドも同様に怜悧な美貌に相応しい気高さと傲慢さ、そしてそれ以上の気品を備えていた。 両親の出自は決して身分という点で言うならば、誇れるものではない。 だが、何も知らずに高貴な一族に連なる者と言われてしまえば疑う者はいないだろう。 まさに今の食事の席は、悪の大帝国を支配する皇族の夜会として後世に絵を残しても良さそうな一場面だった。 こうして家族四人が揃っても決して大した会話があるわけではない。 スカディとヴィーダルが事務的に意見を交わしながら仕事の話をする。 イングリッドが社交界での愚痴を話し出せば、ヴィーダルは煩わしそうにそれを聞き流す。 夫の冷たい反応に、さらに気を悪くした彼女が、次に狙いを定めるのはスカディだ。 母の扱いを心得ているスカディは、笑顔で相槌を打ちながら所々で上手に質問を差し込む。 今日が特別というわけでもなく、これはいつもの見慣れた光景だった。 時折、スカディはレイフにも話を振るものの、場の空気のせいか、彼は家族での食事の席となると、つい素っ気ない返事をいつも返してしまっていた。 両親から優しさや愛というような温かな感情を感じたことは、今まで一度としてない。 自分を家族として扱ってくれたのは、スカディとフランだけだった。 今日まで自分が何不自由なく生きて
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-03
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Nox.VIII『絆の道標、再び逢うときまで』III

◆◇◆◇ 二階にある自室の|露台《バルコニー》に一人立つレイフの視線の先には、蒼白く淡い輝きを放つ蒼月と、その周りに貴婦人のドレスのように広がる星々があった。 澄んだ秋の空気が、身体に染み込んで今日という一日で疲弊した身体と心を癒してゆく。 ――「さっきはびっくりしたわよ」 柔和な声音に声音に振り返れば、背に漆黒の|夜会装束《ナイトドレス》を身に纏わせたスカディが立っていた。 シースルー素材の袖からは、皺も傷もひとつとして存在しない純白のほっそりとした手が覗く。 血の繋がった姉弟と頭では理解していても、思わず目を逸らしてしまいそうになるほど、月と星の灯りを一身に受けて立つ今宵の彼女は魅惑的だった。 髪を軽く払うような仕草のひとつさえも、たおやかで、|艶《あで》やかで――思わずレイフは息を呑んだ。 レイフの隣へと歩いてきたスカディは、露台の手すりへと手を添えて夜空を見上げる。 「でも嬉しかったわ。レイフが二人をお父さん、お母さんなんて呼んだの本当にいつぶりだったかしらね」 「それはもう言うんじゃねぇ。……何も聞かないのか?」 「あら、私から聞いた方が良いのかしら?」 視線を隣へとずらせば、互いの真紅の双眸が溶け合うように重なり合う。 彼女は、いつだって誰よりも自分に優しく、そして厳しい。 今の自分が置かれているあまりにも特殊な状況、これをどう説明すれば良いのだろうか。 そして胸中に溢れる、たくさんの彼女への想い――。 それは、まるで砂時計のようにレイフには思えた。 時間は刻一刻と残酷なほどの速度で過ぎ去ってゆくのに、きらきらと色をつけて伝えたい想いは積もってゆく。 溺れてしまいそうなほどに。 ――もしも、姉貴に俺が最後に誠意を示せるとするならば、それは誤魔化しの言葉や下手くそな美辞麗句などではないはずだ。 「姉貴、今からめちゃくちゃなこと言うぞ」 そう前置きした後、一度大きく深呼吸をすると、一息にレイフは続く言葉を言い切った。 「学校に新しく来た怠け者の歴史教師が死神だった。どうやら冥界の偉いヤツがこの世界を侵略して、女神達の世界にまで喧嘩を売りにいこうとしてるらしい。んで、いろいろあって、俺も死神ってやつになっちまった。だから、ちょっとそのクソ迷惑な悪巧みしてるヤツをぶっ飛ばしに
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-04
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Nox.IX『決戦前夜』

◆◇◆◇ 王都アルジュリュンヌは、かつての女王より名をとったマリーヌ川によって右岸と左岸に分断されている。 右岸には歴史的・伝統的価値の高い建造物が多く今も残されており、日々観光客が絶えない。 右岸側の四区に位置する【|エティエンヌ大聖堂《カテドラールサン・エティエンヌ》】は、女神の代弁者と称される【|聖血教会《マゼンタ》】の総本山だ。 荘厳で煌びやかなこの大聖堂と対照的に、川を挟んで左岸の五区に位置する【|聖クロワ教会《エグリーズサント・クロワ》】は、退廃的な空気を漂わせる。 古色蒼然とした|橙色《オレンジ》の屋根と|鐘楼《しょうろう》を持つ石造りの古びた教会だ。 多くの歴史的価値を持つ古書や〝|女神の忘れ形見《ルナステア・メモリー》〟と呼ばれる神話の時代の武器や|宝物《ほうもつ》は、既にエティエンヌ大聖堂へと移されている。 だが、聖クロワ教会は今も世界遺産として各国からその価値を認められている。  何よりも王国の|敬虔《けいけん》な信徒達にとっては、ここはエティエンヌ大聖堂に劣らずと特別な場所だった。 長きに渡り、風や雨にさらされて風化の進んだ教会。 |軋《きし》む音のする古びた扉を開き、小さな祭壇へと目を向ければ、こちらに穏やかな微笑みを浮かべる老神父と視線が合う。 質素に昔のままの姿を残した教会内部は|静謐《せいひつ》な空気を|纏《まと》い、多くの信仰に人生を捧げた先人の軌跡を感じることができる。 エティエンヌ大聖堂が聖血教会の威光を示し、新たな未来へと続く力の象徴ならば、クロワ教会は信徒達が今に至るまで積み上げてきた歴史の象徴と言えるだろう。 大気中の温度が下がる秋の夜空は、どこまでも澄んでいる。 空をたゆたう蒼月は、ただただ幽玄な存在感を放っていた。 月明かりが、クロワ教会の鐘楼にひとりの女性の影をおとす。 美しい女性だ。 彼女は身体の線の細さを強調する漆黒の|燕尾服《テイルコート》を身に纏い、ただ静かに夜空を見上げている。 蒼白い光に照らされた色素を排したような女性の横顔は儚げで、精気を感じさせない無機質な瞳は宇宙を映すかのように神秘的な紫紺色。 彼女は月夜を支配する女王のような冷艶さ、そして同時に雲が月を隠したならば、ともに消えてしまうのではないかとさえ思わせる儚さを醸し出していた。 ふと、空想にも耽りたく
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-05
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Nox.X『冥界の守護者たち』I

◆◇◆◇ 夜は静かに明ける――。 王国屈指の名門と名高いヴァルメール学院。 その広大な並木道の庭園には、漆黒の|燕尾服《テイルコート》に身を包む男女の集団が詰めていた。 その人数は50人を少し超えるほどだろう。 彼らの容姿は肌や髪、瞳の色に統一性はなく、さまざまな民族が|混淆《こんこう》としていることがわかる。 一見して年代にも同様に統一性がないが、容姿は彼らの年齢を探る上では当てにならない。 冥界の護り手である|死神《リーパー》に転生するには、いくつかの条件がある。 第一には、その心根が〝純粋〟なものであることだ。 そして学識の高さ、弁舌、身体能力など何かの分野において高い才を有している必要がある。 その条件さえ満たせるのならば、そこに生まれなどは関係ない。 レイフはヴィオレタに引き連れられる形で、クロヴィスとの決戦に備えて準備をする彼らの様子を見て回っていた。 大きな決戦を前にしても彼らに動揺した様子はない。 クロヴィスと、その軍勢を迎え撃つには、やや心許ない人数であることは否定できない。 それだけ今の冥界が、クロヴィスの手によって混乱している証だろう。  だが、ここに居るのは少数精鋭の実力は折り紙付きの死神たちだ。「レオニダス……良い選別をしたわね」「ん? 誰のことだ?」「貴方も冥界に行けば、すぐに会うことになるわ」 「そっか」 満場一致で、この戦いにおける指揮はヴィオレタが取ることになった。 当の本人はというと、誰がそんなめんどくさいことをするかと渋っていたが、結局は自分が指揮するのが最も効率的だと判断して仕方なく引き受けていた。 そもそも、かつてのクロヴィスとの戦いに参加して勝利を収め、冥界ではその功績から爵位まで持つ彼女のような人物に気後れせずに指示ができるような死神は、ここにですら居ないのだ。「そこの貴方――」「はっ」  ヴィオレタは前方で複数の死神に指示を出していた|壮年《そうねん》の男性を呼びつけた。  濡羽色の髪を後ろに|撫《な》でつけ、スクエア型の眼鏡をかけた落ち着いた印象の男性だ。 レイフは燕尾服を着て外見を整えても、どことなく夜の仕事をする者特有の香りが漂う。 それに比べると、この男性は、しっかりと理知的な若い執事という雰囲気を漂わせていた。「首尾はどうかしら?」 「既に
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-06
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Nox.X『冥界の守護者たち』II

◆◇◆◇ レイフとヴィオレタは、再び死神たちの様子を見て回り、積極的なコミュニケーションも重ねてゆく。 多くの死神たちは心を落ち着けるためか武器の手入れをしたり、自分の役割を改めて確認しているようだった。――「よっ! お二人さん、楽しんでるかい?」「っ!?」 突如としてレイフの肩に太い腕が回され、慌てて視線を声の方に向けるとレイフよりも、わずかに高い位置に視線のある大柄な男が立っていた。 |焔《ほむら》を想起させるような真紅の髪と、同色の瞳を持つ筋骨隆々とした男性だ。「……えっと、あんた誰? 馴れ馴れしいな」「っておい! 昨日会っただろうが!!」 レイフの気のない返事に、男が紅毛を逆立てる勢いで怒声をあげる。「あぁー、うるせぇうるせぇ! 耳元で怒鳴んな、昨日出てきてあっさりぶっ倒されてたヤツだろ?」「それは、お前もだろうが!!」 するりと、男の腕から抜けたレイフが耳を押さえながら言い捨てると、男の顔が一層と赤く染まってゆく。 どうやら見た目どおりのわかりやすい性格をしているようだ。「……カルロス、大人気ないわ。相手は先日、死神になったばかりの|新人《ルーキー》よ。対する私達は、もう数十年は死神として経験を積んできているのに、クロヴィス達には手も足も出なかった」 若葉から滴り落ちた露が弾けたような清麗な声音に振り返れば、白銀の長髪を後ろでまとめた菫色と真紅の|双眸《オッドアイ》を持つ、怜悧な雰囲気の女性がそこに立っていた。 カルロスとグィネヴィア――昨日、クロヴィスとの戦いにおいて共闘した二人の死神だ。 グィネヴィアという女性の話のとおりであるならば、彼らもまた外見どおりの年齢ではないのだろう。「はぁ、わかってる。昨日は悪かったな、死神の先輩としてお前のことも護ってやりたかったんだが。ったく、俺達としたことが不甲斐ねぇぜ」 頭をガシガシと掻くと、カルロスはレイフに、ぶっきらぼうな態度で謝罪をした。  そう素直に言われてしまえば、レイフもこれ以上、からかう気分にはなれず少しばつが悪くなる。「貴方たち……意外と似たもの同士で気が合いそうね」「そうか?」「そうっすかね?」 数秒、顔を見合わせた|後《のち》、ヴィオレタへと視線を向けて全く同じ反応をする二人。 そんな彼らにヴィオレタと、グィネヴィアも顔を見合わせて嘆息するこ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-08
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Nox.XI『狂皇の眷属』I

  クロヴィスは金色の|線《ライン》が入った漆黒の柄より、白銀の剣身、黒く鋭い|樋《ひ》が特徴的な片手剣を抜刀する。 クロヴィス自身が創り上げた魂を喰らう魔剣――|離魂剣《アエテリス》だ。 クロヴィスは手に収まった|剣《つるぎ》を|一暼《いちべつ》して小さな微笑みを浮かべると、それを天へと掲げた。「我がもとに|集《つど》え――【|白き黎明の騎士団《アルバ・アウローラエ・レギオ》】!!」 クロヴィスの雄叫びに呼応するかのように天空に無数の白金色の魔法陣が現れた。  その数は百を|優《ゆう》に超える。  次の瞬間、魔法陣からはクロヴィスと同様の白い燕尾服を身を|纏《まと》い、黄金の輝きを体から放つ一団が現れた。「なるほどね……。あの男が神に近付いたと自負するのも納得ね。気をつけなさい、彼らは私たちが死神が授けられる|鬼才《グロリア》に近いものをクロヴィスによって授けられているわ」 ヴィオレタの言葉に、その場にいる死神たちの表情が一層と険しさを増す。 「はっ! ずいぶんと派手な登場じゃねぇか。こっちが〝黒〟だったら、そっちは〝白〟ってわけかよ。やり合う前に|眩《まぶ》しくて目がやられそうだぜ」  レイフが吐き捨てるように放った|言葉《セリフ》に、クロヴィスは無言で笑みを浮かべた。 「騎士達よ――|拝聴《はいちょう》せよ。クロヴィス・リュシアン・オートクレールが、|神命《しんめい》をここに告げよう」 静かに振り下ろされたクロヴィスの|剣《つるぎ》が、レイフたちへと向けられる。 「あそこに立ちはだかるは我らが誇り高き敵達。だが、あれは〝古き世界〟そのものだ。新たなる世界を創造せんために破壊すべき古き〝|秩序《ちつじょ》〟――それと今、我々は|対峙《たいじ》している」 柔和な微笑みを浮かべていたクロヴィスの唇が、固く弾き結ばれる。 「だが、|其方《そちら》は決して負けはしない。常に時代とは新たなるものが古きものを|駆逐《くちく》し、|創《つく》り変えて行くのだ。今、どちらが革命の旗のもとに立っているか! 今、どちらが神々の祝福を受けているのか! 騎士達よ、その胸に誇りを抱け!! |其方《そちら》こそ、新時代の英雄なり!!!」 張り裂けんばかりの|喝采《かっさい》が、騎士達の拳と共に天空へと響き渡る。「無法者の集まりをこの短期間
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-09
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Nox.XI『狂皇の眷属』II

  クロヴィスは自分のもとを目指し、進軍する死神たちを見下ろし、蠱惑的な笑みを口元に浮かべる。「さぁ、諸君――この世界の未来を問う|聖戦《クルセイド》を始めようか!!」 クロヴィスが|剣《つるぎ》を振り下ろすと、百人に迫る騎士たちが白い魔法陣に足を乗せたままに、空から地上を目指し|飛来《ひらい》する。 上空へと視線を向けるヴィオレタは、髪を|気怠《けだる》げに払う。「作戦は当初の予定どおりよ」 風を受けて空を舞ったヴィオレタの髪を、朝日が蒼く輝かせる。「エマニュエルの前線部隊はそのまま突撃! ソーニャ、ハイネの部隊は中央より狙撃と魔術で前線を援護! イワン、アメリアの部隊は後方より前線及び中央部隊に交代で防御魔術を展開! サミュエル隊は奇襲に備えて、後方隊を護衛! 私達に退路は無い。ここで敵を殲滅するわよ!!」 ヴィオレタの指揮のもとに、死神たちは事前に決めていたとおりに動き出す。  執事風の死神――エマニュエルが|指揮《しき》するカルロスたちを含む前線部隊が20人。 中央に位置するのは、童顔の女性ソーニャが指揮する銃や杖で武装した遠距離攻撃部隊15人。 後方のイワンとアメリアと呼ばれた二人の死神が指揮する防御・回復魔術に特化した部隊が10人。 さらにその後方部隊の護衛に5人。 これに前線部隊と中央部隊の間で指揮を執るヴィオレタ、その護衛をするレイフという布陣だ。 エマニュエルが指揮する接近戦用の武器を構えた死神たちは、足元に即座に|紫色《ししょく》の魔法陣を展開させ、迫り来る騎士たちに応戦すべく上空へと|昇《のぼ》ってゆく。 白い燕尾服に身を包む騎士たちの中でも後方に待機する杖を持つ者たちは、両手で杖を垂直に構えて|詠唱《えいしょう》を唱え始めた。 〝|焔の鎧を纏いし戦王よ《Rex Bellorum Loricā Flammarum Indutus》   |雄大なる天を駆け抜けよ《Per Caelum Immensum Celeriter Volā》  |そのための翼は 我が胸の奥に《Alae Illius Cursus In Penetralibus Cordis Mei Latent》  |誇り高き義憤が あなたを燃やし尽くそうとも《Etiamsi Indignatio Superba et Justa Totum
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-10
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