【|冥界《オルクス》】 明けることなき夜――|菫色《ヴァイオレット》の空が支配する、幽玄なる幻想美の世界。 天を貫かんばかりの壮麗な尖塔をいただく城、古代の神殿を想起させる濡羽色の柱が連なる霊廟――|黒瑪瑙《オニキス》に酷似した鉱物を利用して創造された建築群が、夜の闇と星の光を閉じ込めた墓標のように建ち並んでいる。 この地には|天界《カエルム》へとゆくことが赦されなかった罪深い魂が、|行《ゆ》き着く。 ここで己の罪を償い、魂を浄化しなければ天界へと旅立つことはかなわない。 その機会さえも与えられない穢れた魂は、永劫に封印されることになる――。 ◆◇◆◇ 窓から射し込む、わずかな薄明かりが照らす静謐な空間。 |燕尾服《テイルコート》に身を包む傷だらけの男女の集団が、温度を感じさせない|黒瑪瑙《オニキス》の床に転がっていた。 「や、やっと着いたぁ〜!」 「私達、生きてるのよねっ!? これ夢じゃないのよねっ!??」 「厳密には死んでいるかと……」 「今は、そんな冥界ジョークはいいのよっ!!」 ——「はぁ〜、三百年ぶりの来客かと思えば……。冥王も、ずいぶんと騒がしい犬どもを送りつけてきたわね」 艶やかさを纏う気怠げな声音が聞こえたのは、遥かに上方から。 床に倒れる男たちの目前には、一段一段が彼らの半身ほどもの高さを誇る黒瑪瑙に酷似した鉱物で作られた階段が、そびえ立っていた。 階段の上へと視線をやれば、背の高い濡羽色の椅子があるのが見える。 椅子の背と座板には深い菫色のベルベット素材が使われ、古めかしい気品が漂う。 一国の王が腰掛ける玉座のように優美な椅子には、声の|主人《あるじ》であろう女性が、肘を突いて優雅に腰掛けていた。 腰下まで伸ばされた紺青色の髪の奥からは、精気を感じさせない|灰簾石《タンザナイト》のような紫紺色の瞳が、男たちを|睥睨《へいげい》している。 光沢感のある濡羽色のドレスから惜しげもなく、白雪のように純白のほっそりとした肢体を晒す姿は、あまりにも冷艶で、男たちは思わず息を呑んで、その場に立ち尽くした。 「それで……はぁぁ〜。貴方たちは、何の用があって来たのかしら?」 優美な仕草であくびを漏らすと、いかにも退屈なものを見る目で、女性は男たちを見つめ直す。 性別を問わず、人々を
Terakhir Diperbarui : 2025-07-07 Baca selengkapnya