Semua Bab Pale Moon〜虚無の悪魔と蒼月の女神〜: Bab 41 - Bab 50

59 Bab

Nox.XI『狂皇の眷属』III

女神の流した涙より生まれたとされる海は、すべての生物の命の源だ。 同時に海は、罪人には最期に赦しの機会を与えるとも神話では伝えられていた。 海の底に人は身体を捨てることで真の意味での自由を手にすると。 そして〝魂〟となりて神々の御座す|天界《カエルム》へと還る。 王国を代表する美術館にも、この伝承をもとにした名画が多数所蔵されていた。 〝『入水するアンリとマルグリット』『現世からの解放』『罪なき子への慈悲』〟 だが、伝承には必ず負の側面が存在し、それは決して美しいものではない。 女神の管理する秩序から外れて〝進歩〟の道を歩み出した人類の魂は、俗世の中で穢れていった。 自分の罪を背負いきれなくなった罪人たちは、最後の希望を求めて海の中へとその身を沈めた。 彼らを受け入れ続けた海は、本来あったとされる輝きを失ったという。 本来の海は|蒼玉《サファイア》のように青い輝きを放ち、その美しさは今の人類が見る海からは想像できぬほどに神聖で特別な場所だったとされている。 『|慈愛と慟哭より創造されし蒼き抹消世界《カエルレウス・オルビス・ルクトゥオース》』 神話の時代に存在した宝石そのものと見紛うほどに輝く海を天空へと再現して、女神の慈悲が込められた涙を雨として降らす。 レイフの目前では、こちらへと進撃してきていた騎士たちが満ち足りた表情で寝息を立てている。 この雨は魔術の発動者へと敵意を向ける者を、|醒《さ》めることのない安らぎの世界へと連れ去る。 今の魔術で騎士団は全勢力の三分の一近くを失っただろう。 だが、クロヴィスの顔からは涼しげな笑みが消えていなかった。 剣を持たない左手を顎へと当てて、思案を巡らす素振りを見せる。 「いやぁ、お見事! これはしてやられたねぇ。さて、ここからどう――」 クロヴィスの表情が一瞬、硬直した。 次の瞬間、|紫色《ししょく》の閃光が宙を一直線に駆け抜け、それはクロヴィスを目掛けて、神速の勢いで襲いかかる。 「おっと――!?」 宙を駆け抜けた閃光が、即座に体を横へとズラしたクロヴィスの右頬をかすめた。 滴り落ちる血を左手で|掬《すく》いあげると彼は、獰猛さを感じさせる笑みを浮かべる。 即座に二射目、三射目の閃光が宙を駆けた――。 「ぐぁっ!!」 「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-11
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Nox.XII『受け継がれる想い』I

 ◆◇◆◇  前線ではエマニュエルが率いる部隊が、騎士たちと激しく切り結んでいた。 その数に最早ほとんど差はなく、戦い慣れした死神たちに優位に戦況は進んでいた。 |細剣《レイピア》を構えるエマニュエルの身体が、|紫色《ししょく》の光に包まれて消えた。  いや、消えたのではない――。  閃光そのものと化した彼は、瞬く間に前方に立つ男性騎士の前に移動し、その胸を貫いていた。 ぐったりと身体を折る騎士の顔に一瞥を送った|後《のち》、即座に彼は細剣を引き抜き、新たに迫っていた騎士の目前に移動し、その首を突き刺した。 次の瞬間――後方から迫る気配を感じ取り、振り向けば大斧を振り上げた金髪の女性騎士が、勇ましい雄叫びをあげながら宙より迫っていた。 風を受けて|金色《こんじき》の髪が、獅子の立髪のように揺れる。  勢い良く振り下ろされる大斧の風圧が、エマニュエルを頭上から圧迫してゆく。  襲い来る圧に歯を食いしばり、回避行動に移ろうとすると、それを待たずに〝蒼炎〟が女性の首へと喰らいついた――。  わずかに、くぐもった声が響く。 次の瞬間にはエマニュエルの視線の先に、身体を震わせながら地面に倒れる女性騎士の姿があった。「うぅっ……」 か細い声と、モノを〝咀嚼〟する醜怪な音が響き渡る。 獰猛な唸り声をあげる|黒狼《べオルグ》が、口元から|薔薇《バラ》の|花弁《かべん》を、すり潰したような鮮やかで淫猥な|色彩《いろ》を纏う雫を垂らしていた。 ――やはり、ウルバノヴァ様の鬼才は戦場において圧倒的だな。 視線を周囲へと向ければ、黒狼の群れが前線へと介入し、その牙と爪でひとり、またひとりと騎士たちの命を刈り取っていた。「――カルロス、グィネヴィア!!」 エマニュエルの声に反応し、少人数の|部隊《チーム》を率いて騎士たちを迎撃していたカルロスたちが視線をこちらへと向ける。「君たちは、ウルバノヴァ様の護衛に向かってほしい! ウルバノヴァ様が、やられれば形成は一気に逆転する。それに……なにか嫌な予感がするんだ」「了解だ!」「……このように順調な時こそ、背後には気をつけなければいけませんね」 エマニュエルの言葉に、二人は即座にヴィオレタのもとへと踵を返した。 多くを伝えずとも、こちらの意図を汲み取ってくれる頼りになる仲間に感謝しつつ、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-12
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Nox.XII『受け継がれる想い』II

天よりクロヴィスの背へと降り立った竜は、首をゆっくりと動かすと、その場に存在する全てを|睥睨《へいげい》した。 爬虫類のような金色の瞳を向けられた者は、例に漏れることなく身体を震わせ、言葉すらも発することができずにその場にへたり込む。 ヴィオレタによって召喚された冥府の眷属達さえも、この竜の前には萎縮してしまっている。 唯一、漆黒の鱗を身体に纏う大蛇――ハイドヴェルズだけが、ヴィオレタを庇うような位置に立ち、上空で巨体を鞭のようにしならせる竜を睨みつけていた。 ――『こうして呼び出されるのは、いつぶりか――。いや、これも所詮は〝紛い物〟の記憶か……』 |大蛇《ハイドヴェルズ》の視線を意にも介さず、竜は厳かな声音で独白を始める。 竜が視線を下げれば、そこには悠然と宙に立つ、クロヴィスの姿があった。 「そのとおりだ。君は、かつて女神が産み落として使役したとされる竜の|一柱《ひとはしら》。それを受け継がれてきた記述をもとに僕が再現しただけの存在だ」 『くくく、紛い物の神族と、死神という存在の枠は出ようとも神にはまだ届かぬ〝半端者〟か――』 「あぁ、そうだよ。だからこそ、|愉《たの》しいんじゃないか。そんな僕たちが、神々が創造された、この不完全で美しい世界を壊そうと言うんだ」 両手で自らの身体を抱きしめ、恍惚とした表情でそう語るクロヴィスに、竜は呆れたような嘆息を漏らす。 『|汝《なんじ》は、この世界を〝美しい〟と評するか……』 「あぁ、間違いなく美しいよ。誰もが、心の内側に〝欲望〟を〝狂気〟を〝劣情〟を抱えて生きているのに、自分を正常だと思い込みたがっている。そして|教義《ドグマ》と|信仰《フィデース》、他者にすがることで正しく生きようと、必死にもがいているんだ。あの|歯車《システム》であろうとする女神が生み出した箱庭とは、とても思えない。実に醜悪で滑稽――だからこそ美しいんだ」 『その〝神〟に至ろうとする者にしては、実に俗物的な思考だ。美しいと思うならば、汝は何故それを壊そうとする?』 「ふふふ、僕はね……花をただ植えただけでは満足できないんだ。その中に飛び込んで匂いを嗅いで、じっくりと愛でて、そして自分の気分で摘み取る。〝|法《レックス》〟という仕組みがあるからやらないだけで、縛るものさえなければ、本当はすべての
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Nox.XII『受け継がれる想い』III

 少女は桃色の長髪を左右の高い位置でまとめ、|二本の尻尾《ツインテール》のように肩で垂らす。 愛らしい外見と対照的に、その|金糸雀色《かなりあいろ》の挑戦的な瞳は蠱惑的で、どこか世慣れした雰囲気を漂わせている。――「おいおい、なんだ結局失敗しちまったのか。キャンディッド」 快活な声が響いたかと思うと、少女の背に濡羽色の長髪を腰まで伸ばした理知的な顔立ちの死神が立っていた。  だが、その容姿もまた徐々に変貌してゆく――。「貴方は――!?」 真っ先に驚愕の声音を上げたのは他ならぬヴィオレタだ。「よっ! ヴィオレタ、昨日ぶりだな」 |燕尾服《テイルコート》だけを残し、そこには先ほどまでとは別人の|精悍《せいかん》な顔立ちの男性が居た。 朝日に煌々と輝く手櫛で整えただけのような黄褐色の髪、その内面を映したように意志の強そうな|黄赤色《クロムオレンジ》の瞳が特徴的な男――ルーカス・クラインだ。「っ……」  彼の登場にヴィオレタは続く言葉を発することもできず、露骨に動揺した様子を見せる。 「どうした? 俺を、あの世に送る覚悟はまだできてねぇのか?」 その様子にルーカスは、挑戦的に獰猛な笑みを浮かべる。「ねぇ、あんな女、さっさと殺しちゃおうよ? それで……私と気持ち良いことしよ、ね?」 背伸びしてルーカスの腕に抱きついたキャンディッドと呼ばれた少女が、艶かしい声音で誘う。「おい、俺は|子供《ロリ》に興味は、ねぇって言ったはずだぞ」「むぅ! これはあくまで入れ物の仮の姿だし! そんなに綺麗なお姉さんが良いなら、ほら」  キャンディッドが指を弾くと、その姿が一瞬にしてヴィオレタとよく似た容姿の女性へと変貌した。「うわ! やめろ! その姿で抱きつくな!!」「えぇ〜、何よ、もう!!」 ルーカスに振り払われたキャンディッドが、露骨に不満げな表情で、もとの姿へと戻る。 自身の姿を変えて死神に紛れていたのは彼女の能力、そして風に乗って忍び寄ったのは昨日見せたルーカスの力だろう。 一度、嘆息した後に身なりを正したルーカスが、再びヴィオレタへと視線を向ける。「さて、んじゃまぁ始めるか。お前とやるのは久々だな。ヴィオレタ――」 にんまりと不敵な笑みを口元に浮かべたルーカス。  次の瞬間、その両手に握り手の付いた棍棒――〝|旋棍《トンファ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-14
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Nox.XII『受け継がれる想い』Ⅳ

レイフは鎖を引き、地面へと埋まっていた大鎌の刃を再び宙へと放つ。 勢いそのままに腕に力を入れ鎖を廻せば、鋭利な風切り音が空間を支配するように響き渡る。 レイフが見据えるのは、|旋棍《トンファー》を構えて迅雷の如き勢いで迫り来るルーカス。 「斬り裂けえぇぇ――!!!!」 瞬く間に両者の距離が詰まるなか、慈悲なき死神の刃がルーカスの頭上へと振り下ろされる。 「ついてこれるか――俺の|速度《スピード》に?」 ルーカスは口角を三日月のように上げた後に、雄々しく荘重な旋律を奏でてゆく。 〝|夜の湖面に見えた其方の姿は 陽炎のように《Quasi Imago Fragilis Super Undas Nocturnas Fluitans》 |吹きつける嵐は 剣のように《Velut Procella Acerba, Tanquam Ensis Fulminans》 |この身を削る痛み それさえも我が歩みを阻むことなく《Etiam Dolor Corporis Meum Exhauriens Iter Meum Non Retinet》 |夜霧に攫われた 其方の香りを探る《Quaero Odorem Tuum, Quem Nebula Noctis Rapuit》 |再び手を繋がん 白白明ける陽の下で《Iterum Manus Teneamus Sub Luce Diei Alboris》 〟 ――『|西風の牙《ゼフィロス・グレイガ》』!! 碧い風が、絹の衣のようにルーカスの身体に纏わりつき、上空より飛来した刃を〝受け流した〟。 「なっ――」 驚愕にレイフの目が見開かれる。 彼に続く言葉を発する間も与えず、ルーカスの姿が消えた。 |否《いや》、消えたのではなく〝移動〟したのだ。 一瞬にしてレイフの正面へと――。 目前にルーカスの姿が現れたかと思った瞬間には、既にレイフの腹部へと旋棍が打ち込まれていた。 「かはっ――!?」 「レイフ――!!!!」 暴風と言って良い風を纏った旋棍の一撃が、易々とレイフの身体を吹き飛ばしてゆく。 冷たい地面が無情に背を削る。 ヴィオレタの悲痛な叫びが、レイフの耳朶を打つ。 「大丈夫だ……」 何度か咳を出した|後《のち》に、レイフは駆け寄ろうとするヴィオ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-15
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Nox.XIII『黑蛇の女王と偽神の白竜』I

「やぁ、見事な戦いぶりだったよ、レイフ! まさか、あのルーカス君を倒しちゃうなんてね」 邪気を一切感じさせない心からの賞賛。 クロヴィスは柔和な微笑みを浮かべて、レイフへと拍手を送った。「クロヴィス・リュシアン・オートクレール――貴方との500年以上に渡る因縁、ここで断ち切らせてもらうわ」 レイフが言葉を発するよりも先に、杖を構えたヴィオレタが前へと出た。 その表情には既に迷いも憂いも存在しない。 はじめて見たとき、彼女は濃密な死の気配を人を寄せつけない|荊《いばら》のように、その全身に纏わせていた。 それは本当は、いとも簡単に折れてしまう儚い花が、必死に棘を見せることで自らの身と心を守ろうとするように。 だが、今の彼女はもう違う。「ヴィオレタ先生、あんたはここで戦いの指揮をしてくれ。あんたが倒れれば、今の戦線は維持できない。あんたは最高戦力であると同時に、全員の心の支えなんだ。クロヴィスは俺が倒す――」 「ちょっと! 何を言ってるの!! 貴方、一人で勝てるわけがないでしょ!?」 いつになく慌てた様子を見せるヴィオレタの手が、レイフの袖を縋るように掴む。 その握り締める力の強さに、波紋の広がる湖面のように澄み切った震える紫紺色の瞳に、剥き出しの彼女の想いを見た気がして、こんな時にも関わらず、レイフは笑いが込み上げてきてしまった。 頼りなさげに袖を掴むヴィオレタの左手に、レイフは自身の右手を重ねる。 ゆっくりと優しく、握りしめたヴィオレタの手をレイフは自らの頬に重ねた。 「ありがとな、あんたの想い確かに受け取った。でも教師なら、自分の生徒を信じろ。俺は、死神になってもやりたいことがいくらでもあるんだ。こんなところで終わる気はねぇよ」 彼女を安心させたい。 自分を信じてほしい。 だから、たっぷりの自信と、ありったけの強い意志を込めてレイフは笑う。 白雪のような真っ白で、ほっそりとして手を通して伝わる、心地良く力強い熱が、いくらでも自分を奮い立たせてくれた。「私も……私も、貴方のせいで、まだ生きてみたくなってしまったわ。ルーカス達の分までね。あと、一応伝えておくけど、貴方は私にとって、ただの生徒では――っ!?」 それ以上の言葉をヴィオレタが紡ぐことはなかった。 その桔梗の花弁のような唇を、レイフが自らのもので塞いでいたから
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-16
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Nox.XIII『黑蛇の女王と偽神の白竜』II

「っ――!!」 暴風の直撃を受けたレイフの身体が、ハイドヴェルズの頭部から転落してゆく。「くそっ! こんなところで!!」 落下してゆくレイフは、右手の鎖を勢いよく上空へと放った。 それは八つの首を持つハイドヴェルズの中央の頭部に巻きつき、レイフの身体は宙ぶらりんの状態となる。『まぁ、無礼な少年ですね!』「こんな状況なんだ! 仕方ないだろ!!」『魔法陣を出して、飛べば良いじゃないですか! あの騎士たちや死神たちもしているでしょう』「あ、その手があったか」『はぁ……全く! フンッ!!』 「う、うあぁぁっ――!!!!」 不機嫌そうにハイドヴェルズが首を思いっきり振るえば、レイフの身体は宙で勢いよく回転し、ハイドヴェルズの首へと豪快に投げ出された。「も、もう少し丁寧に扱いやがれ……」 『地面に投げ出されないだけ有り難く思いなさい。さぁ、お喋りしてる時間はありませんよ』 足を、がくがくと震わせながらレイフが立ち上がれば、それを待ちかねていたクロヴィスが、|剣《つるぎ》を優美な所作で振り抜いた。「さぁ、たっぷりと死合おうじゃないか――」  月白色の光を纏わせた斬撃が、三発連続で放たれた。 それらは上空と左右から包囲するようにレイフのもとへと迫りくる。「ったく、こっちはまだ頭が|振動《シェイク》された|衝撃《ショック》が抜けきってねぇんだよ……!!」 まずは右手側から迫る斬撃に、レイフは鎖分銅を投げて冷静に対処する。 鎖分銅に激突した斬撃は、|硝子《ガラス》が割れたような音を放ち、宙に霧散した。 衝突とともに、視界の端で散った光を確認した|後《のち》に跳躍――左手側からの斬撃を躱し、最後に上空の斬撃を大鎌で迎撃する。 宙で勢い良く鎖を引けば、一撃目の斬撃を防いだ鎖分銅がレイフの手へと引き戻されてゆく。 鎖を引いた|後《のち》、レイフは即座に手を離し、懐から漆黒のカードを束で引き抜き、すかさず上空へと放つ。  あの男――ルーカスが指摘していたように鎖鎌の|弱点《デメリット》は、鎖を引き戻す間に生まれる隙だ。 レイフの指から弾かれたカードは、空へと自由気ままな軌道で飛び去ってゆく。 それはクロヴィスを乗せた白竜を囲むように、展開され瑠璃色の魔法陣を生み出す。 魔法陣から出現したのは、古めかしい赤銅色の〝|小銃《ライフル》
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-17
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Nox.XIII『黑蛇の女王と偽神の白竜』III

  上空へと掲げた手をレイフが振り下ろせば、生み出された武具たちが疾風の勢いでクロヴィスへと放たれる。 だが――。 先行する二本の|剣《つるぎ》を驚異的な身体能力で左右へと躱したクロヴィスは、目前へと迫っていた三撃目の鎗を離魂剣で上空へと弾く。 そして次にクロヴィスが取った行動は、レイフを驚愕させるものだった。  クロヴィスは、迫り来る二本の鎗を前に離魂剣を上空へと放り投げた。  頭部を狙った鎗の一撃を、身体を後方へと曲げることで躱すと、クロヴィスは即座に体勢を立て直して、その鎗を〝掴んだ〟――。 胸元を狙い飛来した三本目の鎗を、冷静に右手に掴んだ鎗で弾く。 そして宙を回転するそれを、彼は自身の左手に収めた。 次の瞬間――二本の槍から瑠璃色の電撃のようなものが発生し、クロヴィスは顔を微かにしかめるも、すぐに不敵な微笑みを浮かべてみせる。「いたた……。なかなか強情だね。|好《い》いよ、少し試してみるとしようか」 クロヴィスの身体から白金色の光が発生し、それは両手に握られた二本の鎗へと吸い込まれてゆく。 瑠璃色の電撃は徐々に勢いを|窄《すぼ》めてゆき、最終的には完全に消滅した。 それに代わり、今は白金色の光の帯が、鎗を包み込んでいる。「あんた、一体何をした……?」「ふふふ、女神の子である人の魂は|冥界《オルクス》に送られると同時に女神との繋がりが絶たれる。でも、離魂剣によって多くの人間の魂を喰らってきた僕には、人の身体に微量だけ含まれる女神の力が流れ込んでいる。僕の今の身体は死神よりも寧ろ、神族のそれに近づいているんだ」 そう語るクロヴィスは、両手で回転をつけながら風を斬るかのように、素早く華麗な鎗捌きを披露する。  まさに〝流麗〟――それは、すべての無駄を削ぎ落として至る武の極地。 少女のようにさえも見えるその身体のどこに、このような力と技量が備わっているのか。「冥界の空気に染め上げられた武器は、余所者を嫌ってね。だからさっきみたいな抵抗も見せるわけだ。それでも強引に神族の力を、こうして流し込んであげれば、武器を浄化して支配権を書き換えることだって可能ってわけさ」 茶目っ気たっぷりに、お気に入りの|玩具《おもちゃ》を自慢するように語るクロヴィス。 一瞬の後に、その双眸が鋭さを増した。『っ!? 〝レイフ〟――!! くっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-18
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Nox.XIII『黑蛇の女王と偽神の白竜』Ⅳ

  白竜の顎から再び、太陽さえも凌駕する熱光線が放たれた。 ハイドヴェルズは、その場から動くことができずにいる。「くっ……」 意識が朦朧とする。 血を大量に失ったせいだろう。 レイフは左眼だけを開き、身体が落下していくなかでハイドヴェルズを見下ろす。 一瞬の後――まばゆい光が|天《そら》へと広がり、爆風がレイフの身体を遥か後方へと吹き飛ばした。 白竜の顎より放たれた熱光線が、ハイドヴェルズの身体を光の中に呑み込んだのだ。 声にすらならない形容し難い悲鳴が響き渡る。 八つの爬虫類の顔に煌めく、|紫水晶《アメジスト》の瞳が一つずつ光を失ってゆく。 中央の蛇のみは、今も回転を伴いながら前方へと動き続ける槍を力強く噛み締め、身を焦がす熱に抗い続けている。「ふふふ、さすがは〝|彼女《ヴィオレタ》〟の切り札といったところか。その闘志に敬意を払おう」 大気が凍りつくほどに冷たい微笑みを浮かべ、|曹柱石《マリアライト》を想起させる|幽邃《ゆうすい》な瞳に輝きを宿したクロヴィスが、右手で長鎗を逆手に構えた。  一瞬の後――回転をつけた長鎗が天空へと解き放たれる。 鎗は一条の閃光となり、空の彼方へと射上がり、そして消失した。「穿て――」  クロヴィスの声に呼応し、空に白の魔法陣が出現する。 そして間髪を入れることなく、ハイドヴェルズの頭部へと向けて、一条の光が堕ちた――。『っ――――』「ばいばい、蛇の女王様」  光はハイドヴェルズの頭部を貫きながら地面へと落下すると、そこに巨大な|大穴《クレーター》を作り出した。  どこか蠱惑的な美しさのある鮮血が、頭部を貫いた鎗の穂先を伝い、地面へと吸い込まれてゆく。 力を失ったハイドヴェルズの顎に挟まっていた、最初に投擲された鎗が自発的に宙へと射出される。 「蛇子姐さん――!!!!」  レイフの必至の叫びも虚しく、|紫水晶《アメジスト》の瞳からは完全に光が失われ、黒煙をあげながら、その巨体は地上へと落ちていった。 「てめぇ……クロヴィス――!!!!」 レイフの怒号に呼応するように足元に瑠璃色の魔法陣が展開される。  咆哮とともに大鎌を構えたレイフは上空より、クロヴィスへと突撃してゆく。 クロヴィスはまるで王子を出迎える姫のように両手を広げる。「さぁ、ここからが|第二幕《ア
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-19
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Nox.XIV『蒼月の女神からの招待』I

◆◇◆◇ 堕ちてゆく――。  暗闇のなかで最初に感じたのは、冷たく頬を撫でてゆく風だった。 風に攫われた自身の銀糸が、鼻先を掠めてくすぐったい。 そのとき、はじめて自分にまだ〝感覚〟というものが、存在していることに気がつく。 落下してゆく身体が、なにか冷たい硬質なものに受け止められて止まった。 あの高さから落下したというのに、おとずれるはずの痛みや衝撃はほとんどない。 「ここは……」 真紅の双眸が開かれ、レイフの目に真っ先に入ってきたのは蒼白い幽玄な光を放つ、石材の床だった。 床に使われている石材は、|月長石《ムーンストーン》に酷似している。 腹部にあったはずの痛みもなく、自分の身体が動くことを確認して視線を上げれば、そこには果てを見ることもかなわない巨大な白銀の螺旋階段があった。 階段の先にあるのは、まるで夜空をそのまま被せたような暗闇だ。 どうやら自分は、どこか巨大な塔の中に居るらしい。 周囲を見渡せば、瑠璃色の石材で造られた夜の海を想起させる壁が、八メートルほど先に見える。 死神として強化された身体能力で、レイフは即座にその距離を詰めた。「っ――!?」  いくつも並ぶアーチ型の巨大な窓のひとつ――そこから外の世界を覗き、思わずレイフは息を呑んだ。 そこに広がっていたのは、まさに〝星の海〟だった。 〝紫紺色〟と形容するのがおそらくは最も近い夜空には、砂金を撒いたように煌々と輝く星々が、帯状に広がっている。 さらに星の海を泳ぐように――有翼の白馬、月白色の粒子で構成された鯨、蒼い|焔《ほのお》を纏う蝶といった幻想生物がたゆたう。「なんなんだ、この世界は……」――「気に入っていただけましたか、私の城は?」「っ――!?」 夜空の深みに溶け入るような静謐さと、聞く者を屈服させるような冷然さを内包する声音が、脳に直接語りかけるかのように響く。 頭から杭を打ち込まれたかのように、レイフはその場から動けなくなる。 直感的に、この言葉の|主人《あるじ》は人間とも死神とも異なる、自分たちとは〝別の世界に棲む存在〟であると理解させられる。「私は最上階で待ちます。そちらに階段があるでしょう、登ってきなさい。〝レイフ・ヘーデンストローム〟――」「なんで俺の名を……。ってか、この階段を登れって嘘だろ?」 レイフは改めて、ここ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-20
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