All Chapters of Pale Moon〜虚無の悪魔と蒼月の女神〜: Chapter 21

21 Chapters

Nox.Ⅳ『死神のデビュタント』I

 ヴィオレタとのある意味、いつものやり取りを終えたレイフは、彼女から|死神《リーパー》や|冥界《オルクス》といった、知っておくべき知識についての解説を受けていた。 話を聞くレイフの表情は真剣そのものだ。  まずは状況を把握した上で、今後の指針を決めなければいけないだろう。 ヴィオレタの説明は意外なほどに丁寧なものだった。  もしも少しでも彼女に〝やる気〟というものがあるならば、意外と教師という仕事は向いているのかもしれない。 「なるほどな……。いろいろと理解が追いつかねぇってのが本音だが、人が死んだあとに行く、|冥界《オルクス》って場所があるってことで良いのか?」 「えぇ、死後に肉体から離れた魂が辿り着くのが〝冥界〟。そこで善良と|見做《みな》された魂は、神々の暮らす世界〝|天界《カエルム》〟へと昇っていくわ……。でも、悪しき魂は冥界から出ることを許されず、犯してきた罪の重さに相応しいだけの時間、裁きを受けることになる」「その冥界を管理して守護するのが、あんたら〝|死神《リーパー》〟ってわけか」「〝あんたら〟じゃなくて、〝貴方〟もよ……」 ヴィオレタは呆れたようにレイフのことを指差してくる。 「人を指差すな」と軽く払うと、彼女はムッとした|表情《かお》をしてみせる。 いつもどおりのくだらない戯れ合いがはじまりそうになった、そのとき、ヒューッと静かに吹き抜ける秋風に乗せて、女性のものと思われる悲鳴が|微《かす》かに響いた。 気怠げな雰囲気を|纏《まと》っていたヴィオレタの表情が一瞬にして、真剣なものへと様変わりする。「かなり遠くから聞こえたな……」「死神の聴力は人間のそれよりも遥かに優れているわ。そしてこのタイミング……」「さっきのあいつらか?」「えぇ、あなたにはちょうど良い練習相手かもしれないわね。説明の続きは移動しながらするわ、戦ってもらうわよ……。覚悟はいいかしら、新人くん?」「はっ! 当然だ!!」  レイフとヴィオレタは、夜の街を屋根|伝《づた》いに駆け抜け出す。「っ――!?」  人間だったときには、とてもではなかったが、出せなかった速度や跳躍力にレイフは思わず息を呑んだ。 だが、動揺したのも一瞬のこと――身体の軽さに慣れてくればそれを楽しむ余裕も生まれてきた。 視線を下へと向ければ、煌びやかな夜のアル
last updateLast Updated : 2025-07-25
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