玲子は呆れたように首を振り、しずくの額を指で軽く突いた。「やめてよ。今は九条蓮のことを考えるだけで、頭が痛くなるんだから」メイクを終え、純白のウェディングドレスに身を包むと、玲子は深呼吸をひとつ落とした。階段を一歩ずつ降りるたび、白いドレスの裾が波のように揺れ、周囲の視線が彼女に注がれる。その姿を見つめていた宗一郎は、老いた目尻を緩め、静かに涙を拭った。「御神木家は悪くない避難所だ。今度こそこの機会を掴め。これ以上、朝霧家もお前自身も、無駄に傷つけるな」「わかってるわ、おじい様」玲子が微笑むと、目がわずかに潤んだ。その時、外から大きな声が響いた。「迎えの車列が到着しました!」「行くがよい。わしもすぐに行く」重厚な門を出ると、漆黒の高級車が連なり待機していた。しずくは何も言わず、玲子を後部座席へ乗せた。玲子は車内を見渡し、運転席以外に猛の姿がないことに気づいた。「猛さんは?いらっしゃらないの?」「御神木様は急用で、先に玲子様を式場へ送るよう仰せでした」しずくが不満そうに顔をしかめた。「え、何それ?こんな大事な日に適当すぎるでしょ」玲子は気に留めなかった。ただ、結婚式が無事に進行することだけを願っていた。「大丈夫よ。行きましょう」車列は静かに動き出し、車窓を流れる見知らぬ景色を眺めながら、玲子は胸の奥にかすかな違和感を覚えた。やがて車は人里離れた道で停車した。問いかける暇もなく、ドアが勢いよく開かれる。乗り込んできたのは――猛ではなく、蓮だった。「……蓮?どうしてあなたがここに?」蓮は静かに首を傾け、真剣な眼差しで玲子を見つめた。眉間に淡い影を落としながら、白いベールへそっと手を伸ばすと、一言ずつ噛みしめるように告げた。「玲子。言っただろ?お前を御神木猛には渡さないって」玲子の血の気が引いた。「嘘でしょ……この車列、御神木家のものじゃなかったの!?全部、あなたが仕組んだことだったの……!?」玲子はようやくすべてを悟った。猛がいなかったのは、急用ではなかったのだ。蓮がこの全てを計画していたのだと。「やっと気づいたか。だが、もう遅い」蓮の瞳の奥に、ぞっとするほど深い独占欲が宿っていた。「蓮、今すぐ降ろして!さもないと、御神木猛が黙っていない
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