病院を出た美夜は、昇の送りの申し出を断った。蓮の側から特に強制されていたわけでもなく、美夜の拒否に昇も無理強いはせず、付き添っていたボディーガードたちに退くよう指示し、彼女をそのまま駐車場から送り出した。美夜はバス停の方へ向かったが、数十メートルも歩かないうちに、背後から誰かの駆け寄る足音が聞こえた。昇の差し金か、それとも蓮が急に会いたいとでも?立ち止まり、美夜はすぐさま振り返った。往来のあるアスファルトの道に、白い服の人影が見え、こちらに向かって勢いよく駆けてきていた。走る姿勢がどこか不自然だった。肩の高さが左右で不揃いで、走り方も一般的とは言えない。まるで、足に障害でもあるかのようだった。ぼんやりと見つめていた彼女の目の前に、利晴が走り寄ってきた。予想外の人物に、美夜は驚きながらも、表情には機械的な微笑みを浮かべた。「森先生、こんにちは」「美夜……」利晴は息を切らしながらも彼女の前に立ち止まり、どれほど走ったのか、言葉もうまく整わない。「ごめん、美夜。僕が配慮に欠けていた。さっき、酒井教授のオフィスであんなふうに話すべきじゃなかった。本来なら、二人きりのときに伝えるべきだった……」美夜は彼の言いたいことがすでに読めていた。すぐに口を開いた。「先生のお気持ちはわかっています。でも、その話はもうしないでください。私は、もう誰の助けも必要としていません」「いや、僕が言いたいのはお金のことだけじゃない。君に伝えたくて……陸野のこと、僕なりに調べた。彼は本当に、君にとって……」「頼るに値しない、とでも?」美夜は静かに言葉をさえぎった。「善意で心配してくださって、ありがとうございます。私とはなんの縁もないのに」その冷たい言い回しに、利晴は眉をひそめながらも穏やかに返した。「美夜、そんな言い方はないよ。縁もゆかりもないなんて……確かに親族じゃないし、君の中では友達とも呼べないのかもしれない。でも、旧友ぐらいの関係にはなれたはずだ。僕は本気で、君の力になりたいと思ってる。君が僕の前では、気を張る必要なんてない。ただ……昔、君が僕にくれた励ましを、今返したいだけなんだ」覚えてるよ、君が持ってきてくれたクッキーやせんべい。『お母さんの手作りだ』って笑ってたろ?あれは、君の気持ちだった。だ
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