火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける のすべてのチャプター: チャプター 1101 - チャプター 1110

1206 チャプター

第1101話

真衣は二晩続けて精神的に張り詰めた状態が続いたため疲れ果てており、目の下のクマはコンシーラーでも隠し切れなかった。真衣は目を閉じて少し休んでから、車から降り、重い足取りでエレベーターに向かった。エレベーターのドアがゆっくりと開くと、中に黒のスウェットを着た見知らぬ男が立っていた。真衣は驚いて足を止め、数秒ためらったが、勇気を出して中に入った。エレベーター内の空気は重く、機械音だけが響く中、俯いたまま立っている男を見て、真衣の心はさらに不安になった。真衣はエレベーターの階数の数字をじっと見つめながら、早く目的のフロアに着くことを願った。ついに「チーン」と音がして、エレベーターのドアが開いた。真衣はほとんど反射的に外へ出ると、ほっとしたのもつかの間、エレベーターの前に朝食を持って立っている安浩の笑顔が目に入った。「やっと来たね」安浩は近づき、手に持っていた朝食を渡した。「千咲ちゃんを送っていたら、朝食を食べそびれただろうと思って」「すぐ近くのカフェで買ったサンドイッチだけど、よかったら食べて」真衣が受け取ると、できたてのサンドイッチはまだ温かく、指から伝わる温もりに、外の寒さや不安な気持ちが少し和らいだ気がした。心配そうな眼差しを向ける安浩を見つめながら、真衣はかすれた声で言った。「ありがとう、先輩」「お礼なんていいよ」安浩は真衣の顔色が優れないことに気付いて眉をひそめた。「どうかした?顔色が悪いよ。昨日はよく眠れなかった?」真衣は首を振り、昨夜のことは話さず、「大丈夫、少し疲れているだけ」と言った。「オフィスに入りましょう。確認したい提携の詳細がいくつかある」安浩はそれ以上は聞かず、頷いて真衣と一緒にオフィスへ向かった。一日中、真衣は仕事に集中した。退社時間になり、家に帰ろうとすると、また不安が込み上げてきた。真衣は必要以上に怖がる必要はないと、自分に言い聞かせた。昨日はお酒を飲んでいたから、赤い点や他人の足音はただの幻覚だったのかもしれない。深く息を吸い込み、真衣は鞄を手に取ると、速足でエレベーターに向かった。車でマンションの地下駐車場に戻った時には、すっかり日が暮れていた。駐車場の照明は青白く、がらんと静まり返った通路を照らし、足音がひときわ響いた。真衣は車をロック
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第1102話

真衣は頭が真っ白なり、一刻も早く駐車場を出て、人がいる場所へ行きたいと思った。真衣は前を確認する余裕もなく、急いでエレベーターに向かって走った。角を曲がった途端、真衣は誰かの硬い胸にぶつかった。真衣を胸に抱き、しっかりと彼女の腕を支えるその人物からは、懐かしい香りがした。礼央だった。真衣の心臓は飛び出さんばかりに激しく鼓動し、彼女は恐怖に震えながら顔を上げた。青白い顔に冷や汗が浮かび、瞳には未だ消えぬ恐怖が宿っていた。真衣は無意識に後ろを振り返った。真衣を追っていた人影はすでに消え、広々とした駐車場には誰もいなくなっており、ただ青白い照明が辺りの地面を照らしていた。礼央は眉をひそめながら真衣を見下ろし、心配そうに尋ねた。「どうした?」真衣の鞄のストラップを握る手がまだ震えていた。真衣は深く息を吸い込み、気持ちを落ち着かせようとした。「どうしてここに?」真衣は礼央の質問には答えず、逆に彼に尋ねた。今ここに礼央がいる以上、真衣は安全だった。彼女を追っていた人影は、消えたようだった。「千咲に届け物をしに来たんだ。先週、欲しがっていた宇宙船の模型が届いたから」礼央は真衣の異変に気付き、視線を駐車場の通路へ向けた。「身体が震えているぞ?」真衣は唇を動かした。喉が何かで塞がれたように、言葉が出てこなかった。真衣は千咲が一人で通学することを考えると、また恐怖心に駆られ、心臓が締め付けられたように不安な気持ちになった。もしあの人影が狙っている標的が千咲だったらどうしよう?真衣は恐怖でそれ以上考えられず、拳を強く握りしめた。真衣は目の前にいる、千咲の父親である礼央を見つめ、複雑な気持ちになった。以前、危険に遭遇した時、真衣が真っ先に思い浮かべたのは礼央だった。でも今、彼はもう、赤の他人になっていた。真衣は無意識に後ずさりして、礼央と距離を取った。真衣はこめかみを押さえながら、礼央の視線を避けるように言った。「何でもないわ」こんなこと、警察に通報しても意味がない。具体的な証拠は何もないし、ただの根拠のない憶測や恐怖に過ぎないのだから。真衣は、自分と千咲だけでうまくやっていけると思っていた。でも、やはりこんな時に、家には男の人がいた方が安心できると思った。真衣は思った、新しい恋
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第1103話

真衣は目を伏せた。「私たちの間に、もう話すことは何もないでしょう」真衣の声はとても小さかった。礼央は真衣の表情から何かを読み取ろうとするように、黙って彼女を見つめた。礼央は口を開いた。しかし結局、礼央は静かに頷くだけで、それ以上は何も言わなかった。二人はただ立ち尽くし、言葉もなく互いを見つめ合った。まるで時間が止まったように思えた。礼央はじっと真衣を見つめていた。その視線には、微かに複雑な感情が漂っていたが、彼女は目を逸らしてその場を去った。真衣は背を向けると、穏やかな足取りでエレベーターへ向かった。礼央はその場に立ち、真衣の後ろ姿がエレベーターの中に消えるまで見送ると、ようやく視線をゆっくりと逸らした。礼央の胸に鋭い痛みが走り、彼は眉間を押さえた――エレベーターの中、真衣は壁にもたれ、目を閉じて心の動揺を鎮めようとした。先ほどの恐怖がまだ完全に消えていないのに、礼央の誤解で苛立ち、真衣は疲れ果てた。今はただ早く家に帰り、千咲の顔を見て、心を落ち着かせたかった。家のドアを開けると、慣れ親しんだ温もりが押し寄せてきた。千咲はリビングのカーペットに座り、手にクレヨンを持って夢中で絵を描いていた。ドアの音に気付くとすぐに顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。「ママ、おかえり!」真衣の張り詰めた神経が一気に緩み、急いで近寄ると、娘の横に座って頭を撫でた。「今日は学校でお利口にしてた?日比谷さんが迎えに来てくれた時もちゃんとお礼を言った?」「とってもお利口にしてたよ」千咲は自慢げに画用紙を差し出した。「ママ見て、これは私たち、翔太と宗一郎おじさん、みんなで遊園地に行った時の絵だよ!」画用紙には、四人が手をつなぎ、観覧車やメリーゴーランドが鮮やかな色彩で描かれ、まるで童話の世界のようだった。その絵を見ると、真衣の顔に自然と笑みがこぼれ、心の苛立ちも和らいだ。しかし次の瞬間、駐車場で自分を追いかけてきた人影や、昨夜開けっ放しになった窓など、心から離れない不安を思い出した。ここはもう安全ではない、自分は千咲を守らなければならない。真衣はそっと千咲を抱きしめ、おでこにキスをした。「千咲はお絵描きしてて。ママ、りんごを洗ってくるから」キッチンに入ると、真衣は携帯を取り出し、画面をスワイ
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第1104話

「千咲は、大きなお家に引っ越したい?あなた専用のアトリエもあるし、小さな庭もあって、好きなひまわりを植えられるよ」千咲は目を輝かせて、力強く頷いた。「うん、アトリエのあるお家がいい」千咲の期待に満ちた瞳を見ると、真衣の胸は温かくなった。真衣は、引っ越しは多少面倒かもしれないと思っていた。今の生活リズムが少し乱れるかもしれないが、千咲の安全のためには必要なことだ。-翌日。真衣は安浩に物件について尋ねてみた。真衣が不動産アプリの物件情報を見ながら眉をひそめていると、すぐに携帯が鳴った。着信は沙夜からだった。「安浩さんから聞いたけど、引っ越すんだって?」真衣は答えた。「うん、まだ探しているところで、なかなかいい物件が見つからなくて」「探すもなにも」沙夜が続けた。「うちの隣の別荘が空いてるよ。最近改装したばかりで家具や家電も全部揃ってる。近くに住めば、何かあった時に私が千咲の面倒も見られるし、食事やショッピングにも一緒に行けるじゃない」真衣の心が動いた。沙夜が住む別荘地は静かで警備も厳重だし、今のマンションより確実に安全だ。しかし、真衣は沙夜に迷惑をかけたくないと少しためらって言った。「でも、迷惑じゃない?」「何が迷惑なのよ。まだ私に遠慮しているの?」沙夜がそう言ってくれたことや、安全な場所で暮らしたい思いから、真衣は結局頷いた。「わかった、今から向かう」-電話を切り、真衣は家政婦に連絡して千咲の面倒を見るよう頼んだ。真衣は鞄を手に取ると、沙夜の別荘地へ車を走らせた。沿道に緑が生い茂る別荘地に入ると、警備員が駆け寄り、入念に身分証を確認してから通行を許可した。至る所に安心感が漂っていた。沙夜はすでに別荘の入り口で待っており、真衣が車から降りるのを見ると、すぐに駆け寄り、彼女の手を取って家の中へ案内した。「早く中を見て、絶対気に入るから」別荘は二階建てで、リビングは広く明るく、フロアの窓の外には小さな庭が広がっており、陽当たりもよく、居心地が良かった。二階には三つの寝室があり、そのうちの一つには独立したアトリエも付いていて、ちょうど千咲が絵を描くのにぴったりだった。新しい家を目の前にし、真衣の心の迷いは徐々に消えていった。ここは確かに真衣が今住んでいる家よりもずっと
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第1105話

「このまま終わらせちゃダメよ。誰の仕業か、ちゃんと調べさせるわ」「ちょっと落ち着いて」真衣は慌てて沙夜を引き止めた。「証拠もないのに警察に通報しても意味がない。相手を下手に警戒させたら、却って危険だわ。引っ越して、遠くに逃げればいいの」沙夜は真衣の青白い顔を見て胸が痛み、優しい声で言った。「それなら尚更、ここに引っ越して。ここは警備が厳重だし、家のボディーガードにも注意を払わせて、千咲とあなたの身の安全を保証するから」真衣は沙夜の決意に満ちた瞳を見て、胸が温かくなった。心細い時に、こんな友人がそばにいてくれて本当によかった。真衣は頷いた。「決めた、ここに引っ越すわ」沙夜は真衣の肩を叩き、笑いながら言った。「そうこなくちゃ。安心して。私がいる限り、あなたと千咲を危険な目に遭わせたりしないから!今から千咲の好きなぬいぐるみを選びに行こう。彼女の部屋を可愛く飾り付けてあげようよ」-二人は車でデパートへ向かった。ちょうど来週にはパーティーがある。沙夜は真衣の手を引いて高級ドレスショップに入った。手には来週開催されるチャリティーディナーパーティーの招待状を持っていた。「この店にオートクチュールの新作が入荷したそうなの。あなたがパーティーの主役になれるように、私がドレスを選んであげる」真衣は苦笑しながらも、沙夜にドレスを選んでもらった。沙夜の隣に引っ越すと決めたことで、真衣の不安はほとんど消え、久しぶりに買い物を楽しむ気分になっていた。店員が熱心に勧める中、沙夜はシャンパンカラーのストラップレスドレスに目を留めた。生地には小さなダイヤモンドが散りばめられ、照明の下で柔らかな光を放っていた。「これ、あなたにぴったりよ。早速試着して」真衣はドレスを手に試着室に入り、着替えて鏡を見つめた――ストラップレスのデザインが真衣の首筋を美しく引き立て、美しいドレープが下腹部を巧みにカバーしていた。彼女のクールな雰囲気とドレスの華やかさが見事に融合していた。真衣は深く息を吸い、少しドレスの裾を整えると、試着室のドアを開けた。「すごく綺麗!」沙夜は目を輝かせ、素早く近寄りベルトを調整した。「だから似合うって言ったでしょ?そこら辺のモデルよりずっと綺麗よ」店員も続けて褒めた。「お客様はスタイルが良く
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第1106話

しかし、真衣の心には何の波風も立たず、彼女は礼儀正しく言った。「おめでとうございます」礼央は最初から最後までその場に立ち尽くし、真衣を見つめたまま、沈黙を貫いていた。ストラップレスドレスを着た真衣は、今まで見た中でも、一段と美しかった。礼央は唇を動かし、何か言おうとしたが、言葉が出る前に留美の声にかき消された。「礼央、寺原さんが着てるこのドレス、少しサイズが合っていないと思わない?」留美は礼央の腕を引っ張り、わざと彼に話を振った。「もう少し小さいサイズに替えてもらったらどうかしら?」「でも……小さいサイズだと、今度はお腹まわりがきつくなるかしら?だって、手術をしてまだ間もないしね」留美の意図は明らかだった。真衣の体型の崩れを暗に嘲り、手術のことをわざと持ち出して、彼女を辱めようとしている。沙夜は我慢できず、真衣の前に立ちはだかった。「林さん、余計なお世話よ。私たちが選ぶドレスのサイズが、あなたになんか関係ある?それよりあなた、礼央と婚約できたことがよっぽど嬉しいのね?」留美は血相を変え、礼央に向かって悔しそうに言った。「礼央、そんなつもりじゃ……私はただ親切心から寺原さんに言っただけなのに」礼央は複雑な表情で真衣を見たが、結局留美にこう言うだけだった。「もういい。ウェディングドレスを見に行こう」留美は唇を噛み、それ以上は何も言わず、真衣を睨みつけてから、礼央についてウェディングドレスコーナーへ向かった。沙夜は二人の後ろ姿を見て、腹立たしさに声を上げた。「何なのあの女、嫌な感じ!」真衣は沙夜の腕を軽く引っ張り、平静な声で言った。「相手にするだけ無駄よ、私たちは自分のドレスを選びましょう」真衣の傍をウェディングドレスを持って通りかかった店員が、小さな声で呟いた。「あのお客様のドレス、本当によくお似合いだわ。高瀬夫人よりずっと品があるし」真衣は店員に微笑みかけた。真衣が鏡の前でくるりと回ると、ドレスの裾に散りばめられたスパンコールが灯りにきらめき、まるで星が降り注ぐようだった。沙夜が彼女のそばに歩み寄り、笑いながら言った。「くだらないことは気にしないで。来週のパーティーにはこれを着ましょう。きっとみんなの視線が釘付けになるわ」真衣は淡々と言った。「衣装で周りの目を引く必要なんてない。ミスコンじ
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第1107話

沙夜は留美を鼻で笑いながら言った。「本当におかしな人がいるものね。自分たちの婚約に無理やり他人を巻き込むなんて。真衣の面目にすがれば、婚約パーティーの格が上がるとでも思ってるのかしら?自分の身の程もわきまえることね」そう言うと、沙夜は留美に反論の余地を与えず、真衣に言った。「真衣、ここで時間を無駄にするのはやめて、他の店に行きましょう。ここにいても、気分が悪くなるだけだし」真衣は沙夜に従って背を向け、留美を見ることなく、沙夜と店の外へと歩いて行った。礼央の傍を通り過ぎる瞬間、真衣と彼の視線が交わった。彼は複雑な目をしていたが、結局何も言わず、ただ黙って立ち尽くしていた。二人の姿が店の入り口から消えた途端、留美の表情は急変し、さきほどまで無理に保っていた優しげな笑顔は一瞬で崩れた。留美は礼央の腕をぎゅっと抱き、力強く足を踏み鳴らしながら、声に悔しさを滲ませた。「礼央、今の見たでしょ。松崎さんの言葉は辛辣で、寺原さんはずっと私を無視してた。どう見ても私の面目を潰そうとしているのよ!」礼央は感情のこもらない声で言った。「自ら面倒を買いに出る必要はないだろう」礼央の言葉は、留美の怒りの半分を消し去ったが、同時に彼女の憤りを募らせた。留美は礼央の行く手を遮り、問い詰めるような目で言った。「礼央、私はあなたの将来の妻で、私たちはもうすぐ婚約するのよ!それなのに、あなたはさっき私を助けず、あの人たちの味方をしてた。これは一体どういうことなの?」店内にぎこちない空気が流れ、周囲にいた店員たちは、二人の言い争いに巻き込まれないよう、仕事をしているふりを装った。礼央は俯いて留美を見て言った。「留美、お前はもう少し言動を控えるべきだ」留美は目を赤くして言った。「何を控えろって言うの?寺原さんは明らかにあなたの気を引こうとしているじゃない。いつも、あなたの視線は彼女を追いかけて離れない。私はあなたの婚約者なのよ?嫉妬する権利ぐらいあるでしょう?」礼央は答えず、そっと留美の手を払いのけ、店の外へ向かって歩き出した。「ウェディングドレスは自分で決めろ。俺は用事があるから先に帰る」留美はためらうことなく去っていく礼央の背中を見つめ、その場に立ち尽くしたまま、ついに涙をこらえきれなくなった。婚約すれば真衣の立場を完全に奪い、礼央の
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第1108話

-礼央が店から出て駐車場へ向かおうとしたその時、背後から聞き覚えのある声がした。「あら礼央、もう帰るの?」麗蘭はポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくりと近づいてきた。隣には時正もいた。彼は首を傾げながら礼央を探るように見て言った。「本当に寺原さんを諦めるんですか?」礼央は足を止め、振り返って淡々と言った。「真衣のそばには安浩がいる。幸せに暮らしているんだから、わざわざ邪魔する必要はない」「幸せ?」麗蘭は鼻で笑った。「『幸せ』だと思うのなら、なぜあなたは先週、彼女のマンションの下で真夜中まで待ち、無事に部屋に入るのを見届けてから帰ったりしたの?礼央、いつまでそうやって自分を騙すつもり?」礼央は反論せず、ポケットからタバコの箱を取り出し、指先でくるりと回した。麗蘭には隠せないとわかっていた。幼なじみ同士、お互いの心の中をある程度読めてしまう。麗蘭は礼央が沈黙するのを見て、声を和らげた。「あなたは留美さんと、本当に結婚するつもりなの?前回の婚約パーティーが中止になったのは、偶然じゃないんでしょ。あなたが裏で手を回したに決まってるわ」「確かに偶然ではない」礼央はようやく口を開いた。麗蘭は眉をつり上げたが、特に驚いた様子はなかった。一方、時正はわずかに目を見開いた。麗蘭は口元を引き締め、一歩近寄って声を落とした。「それは、恩師の件があったから?当時、あなたの恩師の研究成果が林家に横取りされ、あなたの恩師は汚名を着せられた挙句、命まで失った。今、あなたが留美さんと付き合っているのは、恩師の復讐のため?」礼央は手を止め、表情を曇らせた。「復讐は、あくまで全体の一部に過ぎない」礼央はそれ以上は語らず、否定もしなかった。確かに林家は礼央の恩師の冤罪に関わっている。留美に近づいたのは、当時の真相を明らかにするためであると同時に、本来恩師に属していたものを取り戻すためでもあった。しかし、他にも理由がある。麗蘭は目を細め、瞬時に礼央の考えを理解し、隣にいる時正をちらりと見た。時正は意を悟り、落ち着いた口調で言った。「林家は人脈が複雑で、手段を選選べません。一人で対処するのは危険過ぎますよ。何か手伝えることがあれば、いつでも言って下さい。全面的に協力します」時正は警備と情報調査に長けており、かつて礼央
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第1109話

「友達は助け合うためにいるんだから、一人で抱え込んじゃダメよ。林家の件が片付いて、寺原さんを取り戻したくなったら、私と時正でまた相談に乗るわ」礼央は返事をしなかった。「まだ用があるから、先に失礼する」礼央は二人に会釈すると、駐車場に向かって歩き出した。麗蘭と時正は彼の後ろ姿が街角に消えるのを見送り、顔を見合わせた。麗蘭はため息をついた。「彼はいつもそう。何でも自分の胸にしまい込んでしまうの」時正は頷いた。「まず寺原さんと千咲ちゃんの安全を確保しましょう。あとは、彼自身が気づくのを待つしかありませんね」-後日。九空テクノロジーと宗一郎の会社の協業は重要な段階に入っていた。会議室にて。真衣はプロジェクターに映し出された技術案の詳細を説明し、落ち着いた口調で話していた。宗一郎は真衣の隣に座って時折補足を付け加えた。二人の息はぴったりで、会議は効率的に進んだ。会議が終わり、メンバーが次々と退出する中、宗一郎は真衣を呼び止めて尋ねた。「寺原さん、今夜時間があれば、食事でも一緒にどう?翔太が以前あなたに言ったことを反省し、謝りたいと思っているようで、あなたに会いたがっているんだ」真衣は書類を持つ手を止めた。真衣は前に翔太が千咲に言った言葉を思い出した。心にわだかまりはあったが、子供の心は純粋で、大人の影響を受けたものだと理解していた。ましてや、萌寧は今刑務所にいて、桃代は翔太に無関心で、彼は確かに可哀想だった。真衣は少し沈黙した後頷いた。「分かりました。ちょうど今千咲を迎えに行く時間ですし」二人はまず千咲の学校へ車を走らせた。学校前で、千咲は真衣と宗一郎が一緒に来るのを見ると、目を輝かせて走り寄り、真衣に抱きついた後、宗一郎に向かって「宗一郎おじさん、こんにちは!」と挨拶した。「千咲ちゃんは本当にお利口さんだね」宗一郎は微笑んで千咲の頭を撫で、車から小さなプレゼント箱を取り出した。「プレゼントだよ、開けてごらん」千咲はプレゼントを受け取ると嬉しそうに「ありがとう、宗一郎おじさん」と言った。そして喜々として箱を開けると、中には彼女がずっと欲しがっていた漫画本が入っていた。-夕食はファミリーレストランで、雰囲気の良い場所を選んだ。翔太はすでに座って待っており、真衣と千咲を見る
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第1110話

「千咲、沙夜姉さんのところに行ってて。ママはパパと少し話したら、すぐに行くから」千咲は礼央と真衣を見て、大人しく頷くと、振り返って家に駆け込んだ。千咲の姿が見えなくなるのを待って、真衣はようやく礼央を見て言った。「何か用?」礼央は車のドアを開けて降り、真衣の前に歩み寄って言った。「人の本性は変わらない。お前は人が良すぎる。簡単に他人を信じるな」真衣は眉をひそめた。「礼央、私が誰と付き合い、誰を信じようと、私の勝手でしょ。あなたには関係ないわ。それに、なぜあなたはここにいるの?私を尾行してたの?」以前尾行されたことを思い出すと、真衣の心に不安が広がり始めた。まさかずっと、礼央がこっそり自分を追っていたのかな?礼央が言った。「俺は喧嘩をするためにここに来たわけじゃない」真衣は目を閉じた。「前に、私がちゃんと話そうとした時、あなたは話さなかったでしょう。今になって、話すことなんてないわ」真衣は礼央を見て続けた。「たとえ、冷静に話し合えたとしても、私たちの間にまだ信頼があると思う?」二人に最も欠けていたのは、信頼だった。親密な関係において、信頼がなければ行き詰ってしまう。そして二人は今、友人でいることですら難しい関係だった。礼央は言った。「信頼はあると思う。少なくともお前は俺を完全に信頼できる。俺はお前を傷つけたりしない」真衣は心の中で失笑した。礼央は自分と娘を散々傷つけていたではないか。礼央は言った。「お前が安浩と付き合っていて、流産したが子供がいたことも知っている」子供の話になると、真衣は下げた手をぎゅっと握りしめた。心に針で刺されるような痛みが走った。真衣は歯を食いしばり、何も言わなかった。礼央は冷たくなった真衣を見て言った。「お前を傷つけるつもりはない。ただお前に俺を信じてほしいんだ」「可笑しいと思わない?それなら、どうしてもっと早くそう言ってくれなかったの?」真衣は礼央を見つめて言った。「人の神経をすり減らして、まだしつこく追いかけてきて、何が楽しいのよ?私たちはお互い分別のある大人でしょ。あなたは私がもう二度とあなたを信じないことに気付いているはずだわ。今更来ても無駄なの」礼央は眉をひそめた。「真衣、お前の言う通り、俺達は大人だ。だから正しい選択をすべきなんだ
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