All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1241 - Chapter 1250

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第1241話

その時、他のメンバーたちも現れ、口々に礼央の提案に従うよう真衣を説得した。真衣は皆の真摯な眼差しを見つめ、再び礼央の方へ視線を移した。これ以上反論しても、礼央をさらに苦しめるだけだと真衣は悟っていた。「わかった、避難するわ」真衣は静かに言った。「でも約束して。絶対に安全に気をつけて、自分を大切にしてね」礼央は頷いた。「わかっている。心配するな」「嵐が過ぎ去ったら、俺が迎えに行く」会議が終わると、礼央はすぐに時正を呼び、真衣の送迎を手配した。相変わらず冷静沈着な時正は真衣に対し、恭しく言った。「寺原さん、準備は整いました。今すぐ出発できます」真衣は簡単な荷物をまとめ、礼央の前に立ち、ピンクの手袋を差し出した。「これを。南極は寒いから、必ず着けて」「それと、薬を忘れずに。私と千咲を心配させないで」礼央は手袋を受け取ると、指先に触れた柔らかな毛糸に心が揺れた。「ああ。お前も身体に気をつけろ」礼央はかすれた声でそう伝えた。真衣は頷き、深く息を吸い込むと、時正に付き添われて観測所を後にした。外の風はさらに強まり、雪の粒が顔に刺さるように痛かった。真衣は振り返り、観測所の入口で見送る礼央の姿を一瞥した。真衣は心の中で、嵐が早く過ぎ去ること、礼央とメンバーの無事を静かに祈った。車はゆっくりと観測所を離れた。車内にて。車内は水を打ったように静かだった。時正は相変わらず無表情で、始終集中してハンドルを握っていた。彼は黒い防寒服を着て、姿勢よく運転席に腰掛け、近寄りがたいオーラを放っていた。かつて麗蘭のボディーガードをしていた頃と、ほとんど変わらない様子だった。真衣はためらいがちに尋ねた。「あなたはもう麗蘭さんの側にはいてあげないの?」時正はかつて麗蘭が最も信頼する人物で、長年にわたって彼女の身辺警護を務めており、二人の暗黙の絆は周囲の誰の目にも明らかだった。真衣も、時正がずっと麗蘭の側にいると思っていたが、まさか、礼央に命じられて南極まで自分を迎えに来るとは思っていなかった。時正がハンドルを握る手が、微かに震えた。しかし、彼はすぐに平常心を取り戻し、淡々と言った。「はい。私はもうボディーガードではないので」時正の声には一切の感情の起伏がなく、まるで自分とは関係のない些細
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第1242話

車はしばらく走ると、別の基地に到着した。相変わらず、氷原の荒涼とした風景が広がっていた。分厚い防寒着を着た人々が忙しそうに行き交っている。車は基地の前で止まった。時正が車から降りてドアを開けると、比較的穏やかな冷気が顔を撫でた。真衣は深く息を吸い、彼について基地に入って行った。基地の中は暖かく明るかった。時正は基地のメンバーに事情を説明していた。真衣は窓の外の雪景色を眺めながら、少し離れた場所に立っていた。その後、時正は真衣を部屋の前まで案内した。「寺原さん、何かあれば電話して下さい。私は隣の部屋にいますので」「礼央さんから言われているんです。嵐が収まるまで、あなたを守るようにと」「ありがとうございます」真衣は頷いた。「お疲れ様です」時正はそれ以上何も言わず、軽く会釈すると去っていった。真衣はドアを開け、部屋に入った。簡単に身支度を整えると、真衣は急いで携帯を取り出し、自宅に電話をかけた。電話はすぐに繋がり、電話から千咲の声が聞こえた。「ママ!」「千咲、ママにもう会いたくなったかな?」「うん!今すぐにでも会いたい!」千咲は少し心配そうに尋ねた。「ママ、南極にはもう着いたの?寒くない?ペンギンはいる?」「ママはまだ南極の観測所には着いてないの。今は近くの基地にいて、天気が良くなったら向かうわ」真衣は千咲を心配させまいと笑いながら言った。「寒いけど、厚着してるから全然平気よ」「ペンギンを見たら、写真を撮っておくわね」「うん!」千咲は嬉しそうに言った「ママ、おばあちゃんがカレーを作ってくれたの。ママが帰ったらまた作ってくれるって」「そう。楽しみにしてるわ」真衣の目に涙が浮かんだ。「千咲、おばあちゃんの言うことをよく聞いてね。ちゃんとご飯を食べて、後藤先生とお勉強するのよ?」「わかったよ、ママ!」千咲は素直に返事をした後で尋ねた。「ママ、パパは?」「パパはママと一緒にいるの?私が買ってあげた手袋と帽子、ちゃんと着けてくれてるかなあ?」真衣は胸が急に締め付けられ、笑顔が薄らいだ。真衣は少し間を置いて言った。「パパはお仕事中なの。飛行機のテストで忙しいから、終わったら会いに来てくれるわ」「千咲が買ってくれた手袋と帽子、すごく喜んでたわよ」「よかった!」千咲は目を細
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第1243話

「よかった」真衣はほっと息をつき、安心して言った。「無理はしないで、安全第一でいてね」伝えたいことは山ほどあるのに、言葉がうまく出てこなかった。「ああ」礼央は微かに震える声で続けた。「お前も気をつけろ。俺のことは心配要らない」「嵐が過ぎたら、迎えに行くから」「うん」真衣は頷いたが、その先の言葉が出てこなかった。「他に用はないか?」礼央が優しく尋ねた。「うん、仕事に戻っていいよ」真衣は言った。「薬、飲み忘れないでね」「ああ、それじゃあ切るぞ」通話を終えても、真衣はまだ携帯を握りしめていた。胸のモヤモヤがなかなか晴れない。-南極の夜は格別に早く訪れ、観測所の外では極寒の嵐の前触れが静かに現れ始めていた。猛烈な風が雪を巻き上げながら、まるでこの鉄の要塞を引き裂こうとするかのように、激しく外壁を打ちつけた。一方、観測所の中央実験室は明るく照らされていた。内部の温度は精密に制御され、外の極寒とはまるで別世界のようだった。礼央は白い実験着をまとい、目の前の精密機器に集中していた。救援航空機のコアチップがテスト台に固定され、周囲には各種センサーと冷却装置が配置されていた。画面にはびっしりとデータが流れ、チップのパラメータがリアルタイムで表示されている。「第一段階の冷却を開始」礼央は冷静な声で助手に指示した。予定通り、チップの前処理は段階的冷却方式を採用し、零度からマイナス四十度まで二時間ごとに温度を下げていく。これにより急激な温度変化によるチップパッケージの割れを防いで、内部の残留応力を効果的に除去でき、その後の過酷な環境テストの基盤を築くことができるのだ。助手がすぐに装置を操作し、画面の温度表示が零度からゆっくりと下がり始めた。礼央はテスト台に身を乗り出し、チップの状態を注意深く観察しながら、指先で時折記録板に重要なデータを素早く書き留めていた。静まり返った実験室で時間がゆっくりと流れ、機器の微かな作動音とデータ更新の通知音だけが響いていた。礼央は三十分ごとに、冷却プロセスが順調に進み、データ収集が正確に行われていることを確認するために装置の状態を点検した。礼央の顔色は相変わらず青白く、目の下には薄い隈ができていた。しかし、彼の動作は依然として正確で無駄がなかった
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第1244話

真衣からのメッセージを見ると、礼央は微笑み、身体の疲れが少し和らいだように感じた。礼央はすぐに返信した。【現在第二段階の冷却中で、全て順調だ。温度はマイナス十度まで下がり、データも安定している】送信し終えると、彼は少しためらいながらさらにメッセージを送った。【こんな遅くまでまだ起きてるのか?】真衣もすぐに返事をした。【気がかりで眠れなかったの。進捗のことも、あなたのことも】礼央は複雑な気持ちになり、携帯を力いっぱい握りしめた。【大丈夫だ。計画通りに進んでいるし、隈川もいる。何も問題はない】礼央はできるだけ軽い口調に聞こえるようにメールを打った。メッセージを送ってから数分後、真衣からようやく返信が来た。【本当にあなたのことが心配なの】真衣は続けた。【ただでさえ寒い南極で嵐が来ているんだもの。あなたは身体がまだ完全に回復していないし】【そういえば、薬は飲んだ?】メッセージを見て、礼央の胸は締め付けられるように痛み、言葉にできない感情が込み上げてきた。確かに薬を飲み忘れていた。チップの前処理に忙しく、最も重要なことを忘れていたのだ。携帯を強く握りしめ、ためらいながら返信した。【飲んだよ。心配要らない】真衣に心配をかけたくなかった。しばらくして、礼央はまたゆっくりとメッセージを打った。【真衣、そこまで俺を気遣う必要はない。俺にそこまでの価値はない】送信し終えると、なぜか手のひらに冷や汗が滲んでいた。その言葉が少し残酷だとわかっていながら、それでも言いたかった。自分は真衣にあまりにも多くの借りがある。過去の誤解や傷つけたこと、今も心配をかけていること。だから彼は彼女のそんな深い愛情や心遣いに値しないと思っていた。真衣は礼央が突然そんなことを言うとは思っていなかったようで、長い時間を置いてようやく返信した。【私にとって、あなたは十分に価値がある人よ】真衣からの返信を読んで、礼央の目頭が熱くなった。礼央は深く息を吸い込み、返信した。【お前の気持ちはわかる。俺達がやり直して、千咲に温かい家庭を与えてやりたいんだろう】【でも、よく考えた方がいい。俺なんかに本当にそんな資格があるのかどうかをな】【あの時、俺は身勝手な思い込みでお前を誤解し、傷つけ、流産の苦しみを一人で背負わせ、根も葉もない中傷ま
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第1245話

礼央の胸が高鳴った。「高瀬社長!高瀬社長!大変です!」ドアの外から慌ただしい声がした。礼央の胸に嫌な予感が広がった。礼央は携帯で素早く返信をした。【緊急事態が発生したようだ。後で詳しく話す】送信を終えると、礼央は防寒服を掴んで外へ飛び出した。ドアを開けると、隈川の焦燥感に満ちた顔が目に入った。彼は異常に慌てているようだった。「高瀬社長、大変です!」「どうした?落ち着いて話せ」礼央は防寒服を着ながら落ち着いて尋ねた。「テストチップが!テストチップが消えました!」隈川は震える声で続けた。「トイレに行ったほんの数分ほどの間に、チップがなくなっていたんです!」「何だって?」そのチップは救援航空機の技術を担うだけでなく、研究者たちの心血の結晶だった。内部に含まれる各種データは国家機密に関わり、万一漏洩すれば、取り返しのつかない事態になる。「直ちに全員を召集し、観測所を封鎖しろ。誰も出入りさせるな!」礼央は冷たい声で続けた。「実験室、廊下、各部屋を徹底的に調べろ。通気ダクトや物置もだ。あと、全ての監視カメラの映像を確認し、特に実験室周辺と出入り口に重点を置け」「はい、すぐ手配します!」隈川は躊躇せず、通信室へ向かって走り出したが、慌てすぎて転びそうになった。礼央は深く息を吸い込んだ。観測所の警備は厳重で、研究チームのメンバーと常駐スタッフ以外に外部の者はおらず、チップが忽然と消えるはずはなかった。内部で何か問題が起きたに違いない。あるいは誰かが最初から計画していたのだ。礼央の頭に武彦の名前が瞬間的に浮かんだ。最近の複雑な情勢の中、武彦は救援航空機に虎視眈々と狙いを定めていたが、まさか……考える暇もなく、礼央は急ぎ足で実験室へ向かった。吹雪はますます激しくなり、狂ったように吹き荒れる風が観測所の外壁を叩きつけていた。階段を出ると、骨まで凍るような寒風が吹きすさび、雪が痛いほど冷たく、視界もぼやけた。「高瀬社長、なぜ外に?」周辺を調べていた作業員たちが礼央を見て、心配そうに駆け寄ってきた。「実験室周辺の様子は?異常はなかったか?」礼央は尋ねながら、周囲の雪原に目を走らせ、不審な足跡を探そうとした。「今のところありません。雪が激しく、足跡はすぐに消えてしまいます」作
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第1246話

「実験室に何の書類を取りに行った?なぜ報告しなかった?」礼央は鋭い視線で菊池を見つめ、彼の表情から何かを読み取ろうとしていた。「わ、私は……チップのテストパラメータのファイルを取りに行ったんです。前に隈川さんから整理するよう言われていたのですが、忘れていたことに気付いて取りに戻ったんです。すぐに戻られると思ったので、報告する時間がありませんでした」菊池の声は少し震えていた。「書類はどこにある?」礼央が詰め寄った。菊池は慌てて鞄から書類を取り出し、礼央に手渡した。「こちらにあります。高瀬社長、私は本当に書類を取りに行っただけです。チップには触っていません!信じてください!」礼央は書類を受け取り確認すると、書類は確かにチップのテストパラメータのファイルだった。礼央はしばらく菊池を見つめた。緊張していたが、嘘をついているようには見えなかった。「とりあえず戻って調査に協力する準備をしておけ」菊池は釈放された囚人のように頷き、モニター室を後にした。緊迫した雰囲気の中、調査は続いた。外の吹雪は激しさを増し、極寒の嵐がいつ襲ってきてもおかしくない状況だった。チップの行方は依然としてわからず、観測所には重苦しい空気が漂い、皆が不安そうな表情を浮かべていた。一方、基地で真衣は不安を募らせていた。礼央とのメッセージのやり取りが急に途切れたことが、彼女を不安にさせていた。真衣は携帯で南極の気象予報を何度も更新した。幸い、嵐による警報は一時的に解除されていたが、吹雪は依然として激しかった。真衣は礼央のいる観測所で何が起きたのか、気がかりでならなかった。礼央にメッセージを送ったが、返信はなかった。電話をかけても、彼は出なかった。時間は一分一秒と過ぎていき、一分が一世紀のように長く感じられた。真衣は部屋の中を行き来し、最悪の事態を思い浮かべた――観測所でトラブルが起きたのかしら?誰かが怪我をしたとか?それとも、チップのテストに問題が発生したのかしら?真衣は考えれば考えるほど不安になり、座っていることさえできなくなっていた。真衣はコートを手に取り、急ぎ足でドアに向かった。観測所に戻り、何が起こったのか確かめなければならない。しかし、真衣がドアを開けた瞬間、大きな影が彼女の前に立ちはだかった。
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第1247話

真衣は気持ちを落ち着かせようと深呼吸したが、落ち着きは取り戻せないままだった。「。彼に一体何が起こったの?どうして電話に出ないの?なぜ返信しないの?」「具体的な状況は私にも分かりません」時正はありのままに答えた。「高瀬社長は電話で、あなたを基地から出さないようにしっかり見張るよう言っていただけなので」「おそらく、心配をかけたくないのでしょう。事態が収まれば、必ず連絡してくるはずです」真衣は黙り込んだ。時正の言うことは一理あったが、どうしても不安を拭えずにいた。真衣は、窓の外の吹雪を見つめながら、心の中で礼央の無事を祈り、全てがうまく解決するよう願った。真衣は部屋に戻ると、窓際に座って、携帯の画面をじっと見つめた。時間が過ぎ、窓の外は次第に明るくなったが、吹雪はまだ止む気配がなかった。礼央からは、依然として何の連絡もなかった。真衣は、観測所で何が起こっているのか、礼央が無事なのか、気になって仕方なかった。-一方、観測所では、礼央は十数時間連続で働き続け、顔色はますます青ざめていた。調査は依然として進展がなく、チップはまるで蒸発したかのように忽然と消えてしまった。「高瀬社長、全員を調査しましたが、不審な人物は見つかりませんでした。チップも未だ見つかってはいません」隈川は疲れた様子で、声には落胆が滲んでいた。礼央は重圧を感じ、眉間を揉んだ。チップは国家機密に関わるもので、漏洩は絶対に許されることではない。もしチップが見つからなければ、救援航空機のテストに深刻な影響が出るだけでなく、重大な安全保障問題を引き起こす可能性もある。「もう一度調べろ」礼央は言った。「調査範囲を広げ、全員の荷物と私物をチェックしろ。それから、外部に連絡して、南極から出る全てのルートを封鎖し、チップの流出を防ぐんだ」「はい」隈川は頷き、再び点検作業に戻った。-翌朝。真衣は携帯を手に天気予報を更新し、画面に表示された「暴風雪警報解除」の文字を見て、ようやく少し安心した。しかしすぐにまた、強い焦燥感に駆られた――礼央からの連絡は依然として途絶えたままだった。「時正さん、車を準備して。観測所へ向買うわ」真衣は隣の部屋に電話をかけた。三十分後、車は再び氷原へ続く道を走った。吹雪は嵐には発展しなかった
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第1248話

真衣が足早に実験室へ向かうと、礼央がモニターのデータを前に眉をひそめている姿が目に入った。礼央は足音を聞きつけて顔を上げると、真衣を見て驚いた表情を見せた。「どうして来たんだ?」「手伝いに来たの」真衣は彼のそばに寄り、スクリーン上のデータに視線を走らせた。「今の状況は?手がかりは?」礼央が答えようとしたその時。傍にいた隈川が突然口を開いた。「寺原さん、なぜ突然戻ってこられたんです?」「昨日、観測所を離れたのはあなただけです。しかもあなたは派遣要員で、我々の正式なチームメンバーではありません」真衣は驚き、信じられないという表情で隈川を見た。この緊急時に、隈川が疑いの矛先を自分に向けてくるとは夢にも思わなかった。「隈川さん、それはどういう意味ですか?」真衣の声は冷え切っていた。「別に深い意味はありません。今はチップの行方が不明で重大な事態なんです。誰にでも嫌疑はあるでしょう」隈川は眉をひそめ、強硬な口調で続けた。「あなただけが観測所を離れた上、身分も特殊です。疑わざるを得ません」「重大な事態だからと言って私を疑うんですか?」真衣は鼻で笑った。「私が観測所を離れたのは避難のためで礼央に言われたからです。時正さんも同行していたし、基地の滞在記録もあります。どうやってチップを盗む機会があったというんですか?」「外部と最初から通じていた可能性はないんですか?」隈川はしつこく食い下がった。「派遣要員という身分自体が怪しいのです。あなたが潔白だということを、誰が保証できるんですか?」「隈川」礼央の声が突然響いた。「言葉の選び方に気をつけろ」隈川は歯を食いしばり、冷ややかに言った。「高瀬社長、寺原さん個人を責めてるわけじゃありません。だが今は特殊な状況です。疑わしい点は全て洗う必要があります」要するにこれは誰かが仕組んだ罠で、決して彼の監督が行き渡っていないのではないのだと言いたいのだ。「チップは国家機密に関わります。慎重に進めなければなりません」真衣は深く息を吸い、心の怒りを抑え込んだ。今は対立している場合ではない。今大切なのはチップを見つけ、真相を解明することだ。「あなたの意見に反対はしません」真衣の声は極めて平静だった。「確かに、チップが行方不明になった今、誰もが疑わしいです。私もあなた
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第1249話

真衣はゆっくりと振り返り、まっすぐに礼央を見つめた。少し離れた場所に立つ礼央は、肩に降り積もる雪にも動じず、堂々としていた。「実は探す必要はないんだ」礼央は低い声で言った。「さほど重要なことじゃない」真衣は眉をひそめて言った。「どうして重要じゃないの?」「これは俺の問題だ」礼央は視線を落として言った。「真衣、お前は関わらなくていい」「関わらなくていい?」真衣はとんでもない冗談を聞いたかのように言った。「礼央、あなたはいつまでこんなに自己中心的でいるの?全てをいい加減に決めつけて、他人の人生を決め、他人の心を勝手に推し量って」「最初から最後まで、あなたは間違っていたの。まだ気づかないの?」礼央は遠くから彼女を見つめて言った。「だから俺は無情で冷血な人間なんだ」「いや、人間としても失格だろう」礼央は真衣をまっすぐ見つめて言った。「なぜ俺に関わろうとする?ここは危険だ。チップの失踪は広範囲に影響し、未知の陰謀が潜んでいるかもしれない」「お前には帰ってほしい。安全な場所にな」真衣は礼央が少なくとも自分の気持ちを理解し、一時の衝動ではなく、本当に彼と共に立ち向かいたいと思っていることをわかってくれると思っていた。しかし、礼央は依然として真衣を遠ざけ、彼女が守られるべき足手まといだと考えている。真衣は深く息を吸った。冷たい空気が喉を締め付けたが、同時に頭がすっきりと冴えた。真衣は下唇を嚙んで、顔を背けていった。「私は自分が正しいと思うことをする。あなたこそ、私に構わないで」そう言うと、真衣は振り返って歩き続けた。礼央は真衣の毅然とした態度を見て、胸が押しつぶされるように感じた。自分の言葉が彼女を傷つけたことはわかっていた。だが他に選択肢はなかった。チップの失踪は国家機密に関わり、背後には武彦の勢力が絡んでいる可能性が高い。真衣を危険な渦に巻き込むわけにはいかなかった。礼央はたとえ真衣に恨まれても、彼女に無事でいてほしかった。礼央は、吹雪の中を突き進む真衣の姿を彼女の姿をじっと見つめた。礼央は結局、傍観できなかった。彼は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。彼は真衣の後を追った。吹雪で長く引き伸ばされた礼央の影が、真衣の姿と共に銀色の雪原に映っていた。真衣は背後に足音を感じて微かに
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第1250話

「ここに何かあるみたいよ」真衣は小さな声で呟いた。礼央はすぐに近寄り、真衣が指す方向を見た。微かな痕跡だったが、引きずられたような跡が、近くの雪の斜面に向かって続いていた。「チップはここから持ち去られた可能性が高いわ」礼央は眉をひそめた。「斜面の下はクレバスだ。落ちたら取り返しがつかない」「でも、確認しに行くしかない」真衣は服についた雪を払った。「わずかな希望でも、諦めるわけにはいかない」「わかった」礼央は静かに頷いた。「だが、絶対に俺から離れるなよ」「クレバスは危険だ。少しの油断が命取りになる」真衣は言葉を返さず、ただ頷いて応えた。礼央が自分のことを心配してくれているのはわかっていた。二人は微かな痕跡をたどり、慎重に斜面へと向かった。斜面は急で、分厚い雪に覆われており、足元は滑りやすく、細心の注意が必要だった。礼央が先導し、時折振り返って真衣に注意を促し、手を差し伸べたが、真衣はさりげなくそれを避けた。礼央は真衣に無理強いせず、注意深く道を開いた。吹雪は一向に止む気配がなく、二人の姿は真っ白な雪原の中、ひときわ小さく見えた。斜面の下まで来ると、その痕跡はクレバスの縁で消えていた。裂け目は幅約2メートル、底知れぬ深さだった。真衣と礼央は裂け目の縁に立ち、深刻な面持ちで下を見下ろした。チップは落ちてしまったのか?それとも、チップを持ち去った者はここから脱出したのか?「下りてみる」礼央はそう言うと、安全ロープを装着しようとした。「ダメ!」真衣は即座に礼央を止めた。「下は危険すぎる。何があるかわからないでしょう?行くなら私も行く。一緒に行きましょう」礼央は真衣を見て、説得できないことを悟った。礼央は深く息を吸って、頷いた。「わかった、一緒に行こう」上に残っても、必ずしも安全とは言えない。「でも絶対に俺の後ろについてくるんだぞ。決して視界から離れるな」真衣は頷いた。今、礼央は真衣を拒否しなかった。二人は素早く安全ロープを結び、互いに確認し合った後、暗い氷河の裂け目に向かってゆっくりと降りていった。氷河の裂け目は暗く、上から差し込むわずかな雪明かりでかろうじて物が見える程度だった。冷たい空気が岩の湿気を伴って顔にぶつかり、骨の髄まで凍えるような寒
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