All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1271 - Chapter 1280

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第1271話

真衣はハンドルをぎゅっと握りしめ、視線は吹雪でかすむ前方の道を死に物狂いで見据えていた。しかし背中からは、礼央の温かい体温がはっきりと伝わってきた。後ろに座っている礼央の大きな手が、真衣の細い腰をしっかりと抱きしめていた。耳元には風の轟音が響き、後方から迫る追手の怒号が吹雪に乗って、鋭く聞こえてくる。「彼らの狙いは明らかに私たちだわ!」真衣は続けた。「スノーモービルを取りに観測所に戻ったの。道はわかる?道案内をお願いしたいんだけど」猛烈な吹雪の中、真衣の耳元に、礼央の声が微かに響いた。礼央は先日の高熱で体力を奪われており、話すのも辛そうだった。「南西だ。あそこの林なら、地形が複雑で、追手を振り切れる」真衣が返事しようとした途端、礼央の手が滑り落ち、彼はぐったりと彼女の背中にもたれ、彼の額は焼けるように熱くなっていた。真衣は慌てて礼央に言った。「礼央、寝ちゃダメよ、しっかりして!」礼央は返事をせず、青白い唇を固く引き結んだ。礼央の微かな吐息が真衣の首筋を撫でた。しばらくして、礼央はかすれた声で言った。「真衣……もし俺が動けなくなったら、俺のことは気にせず、お前だけ逃げるんだ……」「黙ってて!」真衣は礼央の言葉を遮った。真衣は歯を食いしばりながら、片手でリュックのサイドポケットから予め用意しておいた登山用のロープを取り出した。掌に伝わるロープの感触が、真衣に勇気を与えた。「礼央、手を出して。身体を縛るから」礼央はぼんやりとした目でロープを見つめ、何か言おうと唇を動かしたが、その途端激しく咳き込んだ。真衣はすかさず振り返り、ロープの一方を自分の腰に、もう一方を礼央の身体にしっかりと巻き付けて結んだ。粗い縄の表面が薄い生地に擦れ、浅い赤い痕を残した。礼央は真衣の背中を見つめ、胸が苦しくなり、言葉を詰まらせた。「意識を失っても、スノーモービルからは振り落とされないでね」真衣は続けた。「死ぬ時は、一緒よ」「生き残る時も、私たちは一緒よ」縄が締め付けられると、礼央の身体が微かに震え、彼は力を込めて、もう一度真衣の腰を抱いた。しかし、追手はすぐに二人に接近してきた。追手は援軍を呼んだらしく、辺りにエンジンの轟音が響き渡った。ヘッドライトの光が吹雪を突き抜け、氷原に揺れる影を落とし
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第1272話

「真衣……」礼央はかすれた声で言った。「俺はこの世でお前に出会えただけで十分幸せだった。後悔はしていない」礼央の言葉を聞いて、真衣は息ができないほど胸が苦しくなった。真衣は歯を食いしばり、気持ちを抑えて言った。「今はそんなことを話している場合じゃないでしょう」「ここを離れたら、いくらでも話を聞いてあげるから!」真衣はアクセルを全開にし、スノーモービルの速度を上げた。しかし、追手は執拗に二人を追いかけながら叫んだ。「高瀬社長、逃げてみろよ!どこまで逃げられるか見物だな!」真衣は歯を食いしばった。手のひらはすでに冷や汗でびっしょりと濡れていた。真衣は目指す林がそう遠くないことに気付き、林に入れば、まだ希望の光があると思った。しかしその時、背後から冷笑する声が聞こえた。先頭の男は二人の姿を確認すると、唇に不吉な笑みを浮かべた。男はゆっくりと手を挙げ、手に持っていた拳銃の銃口をこちらに向けた。「バンッ――」突然、銃声が鳴り響いた。真衣の身体は、まるで凍り付いたかのように硬直した。真衣はその瞬間、空気を切り裂くような銃声をはっきりと聞いた。「彼らは銃を持っているわ!」真衣は背筋が凍り付き、手足が震えた。礼央が耳元で囁いた。「ここでは……銃の所持が認められているんだな……」彼が話し終える前に、別の銃声が響いた。放たれた銃弾が礼央の肩をかすめて、そばの雪原に命中し、雪飛沫が上がった。銃弾によって巻き上げられた雪飛沫が礼央の身体に降りかかったが、彼は気に留めず、力を振り絞って真衣を引き寄せた。真衣の瞳は収縮し、恐怖が潮のように押し寄せていた。ハンドルを思い切って切ると、スノーモービルは鋭く旋回し、かろうじて銃弾を避け、林へと突っ込んだ。真衣は言った。「礼央、しっかりして。もうすぐ着くから!」林の中は木がまばらに点在しており、枝は分厚い雪に覆われ、木々の間を走るたびに車体が激しく揺れた。背後では銃声の音が続き、銃弾が次々と木の幹に当たり、鈍い音を立てながら、木屑と雪飛沫が混じって辺りに散った。礼央は真衣の背中にぐったりともたれており、呼吸音がどんどん弱くなっていった。真衣は必死でハンドルを握りながら、目に涙を浮かべた。真衣は歯を食いしばり、涙で視界がぼやけながらも、全力で林
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第1273話

礼央の息からは血の匂いがした。「奴らは元から同類だ。何の違いもない」真衣は心が重く沈み、ハンドルを握る手に力が入り、指の関節が白くなった。「救援航空機のプロジェクトは……あの時の真実に関わっている」礼央の声は次第にか細くなった。「埋もれていた事実が明るみに出つつあり、奴らは焦っているんだ……そして真衣、お前のことも」礼央は一呼吸置いて、最後の力を振り絞って、口調を強めて言った。「奴らが最も手に入れたいのは有能なエンジニアなんだ」礼央の言葉を聞いて、真衣の全身が凍り付いた。つまり最初から、真衣と礼央は相手にとってみたら、まな板の鯉だったのだ。その時ふと、真衣は背中に違和感を感じた。背中に熱く、べとつくような感覚が伝わってきた。真衣の心に、不吉な予感が広がった。震える手をハンドルから離し、後ろに手を伸ばした。指先に触れた生温かい液体を見ると、血が雪あかりの元で赤黒く光っていた。「礼央!」真衣は震える声で叫んだ。しかし、背後から返事はなく、腰を抱いていた腕もぐったりとして力を失っていた。真衣は全身の力が抜け、やっとの思いでハンドルを握った。歯を食いしばって運転を続けたが、抑えきれない涙に視界がぼやけた。その時、追手のクラクションが吹雪を突き破って響いた。「寺原真衣!止まれ!お前達はどうせ逃げられない!止まらなければ、今日が高瀬礼央の命日になる!」男は続けた。「逃げられたとしても、彼はもう撃たれている。もう長くはもたない!」「しかし今止まれば、最高の医療設備を提供し、彼の命を救ってやれる!」「どうするべきか、答えは自ずと出るはずだ!奴の死体を引きずりながら逃げ続けたくはないだろう?」その言葉は真衣の心をえぐった。真衣は速度を緩めた。ハンドルを握る手が微かに震えていた。そうだ、生きていれば希望はある。たとえ一時的に敵に捕らわれても、礼央が生きていさえすれば……真衣がためらった瞬間、すぐ傍から「逃げて!」という声が響いた。真衣ははっとし、声のした方を振り向くと、時正が数人の仲間を連れて林から飛び出してくるのが見えた。「私が援護しますので!」吹雪の中、時正の声は力強く響き渡った。余韻も消えやらぬうちに、時正は仲間を率いて追手の隊列に突入した。突如にして、激しい戦闘が勃発
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第1274話

足元が滑り、二人は雪の中にドサっと倒れた。冷たい雪が衣類を濡らし、刺すような寒さが襲ってきたが、真衣は気にしなかった。真衣は、礼央の傍に駆け寄ると、震える手で血に染まった彼の襟元を開いた。傷口からはまだ血が流れ出ており、周囲に積もっていた雪を赤く染めていた。礼央の顔は青白く、血の気がなく、四肢は恐ろしいほど硬直しており、呼吸は微かでほとんど感じられないほどだった。辺りの雪を染める赤い血や、生気のない礼央の顔を見つめ、真衣の今まで溜め込んで来た恐怖と絶望が一気に爆発した。真衣は堪え切れなくなり、礼央の身体を抱きしめ、声を上げて泣き崩れた。真衣の声をかき消すように、吹雪が唸りを上げた。氷崖の風裏に積もる雪は、まるで固まった鉄のように冷たかった。真衣は無力感と絶望感に襲われ、礼央の身体を強く抱きしめた。まるで前世で千咲を失った時のように、心が握りつぶされたような痛みで麻痺し、息をするのも苦しいほどだった。結局いつもこうなのだわ。運命は何度も何度も、自分の大切な人を深淵の縁へと追いやり、自分はただ力なくその場に立ち尽くすしかない。彼女は震える手でリュックを開け、救急キットを出すと、消毒薬やガーゼが散らばった。真衣は刺すような寒さも顧みず、不器用ながらも礼央の胸の傷の手当てをした。傷口から血が激しく流れ、真衣はガーゼを何層にも重ねて傷口に当てた。携帯を取り出すと、微かだがアンテナが立っており、真衣は泣きながら麗蘭に電話をかけた。「麗蘭さん!助けて!礼央が銃で撃たれたの!血が止まらないの!」真衣は混乱していた。「今、南極の氷原にいて、どうすればいいのかわからないの」麗蘭は落ち着いた声で、止血のための圧迫箇所を一つ一つ指示し、救急キットの止血剤を使うよう伝えた。真衣は震える手で、慌てふためきながら麗蘭の指示通りに処置をした。しかし礼央はその場に横たわり、生気が感じられないままだった。礼央の顔は雪のように青白く、唇は紫がかり、四肢は恐ろしいほど硬直していた。呼吸音も微弱になっていた。真衣は礼央の息を確認するため、震える手を彼の鼻先に伸ばしたが、指先に伝わるのは氷のような冷たさだけだった。礼央が息絶えてしまったのか、それとも極度の寒さで身体が硬直しているだけなのか、真衣にはわからなかった。
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第1275話

氷崖の風裏から吹いてくる冷たい風が、骨の髄までじわじわと伝わってくる。真衣は次第に冷たくなる礼央の身体を抱きしめ、麗蘭の言葉に耳を傾けていた。真衣の指についた血はまだ乾ききっておらず、彼女は拳を握りしめて涙を堪えた――今、自分はしっかりしなければならない。この世で彼を救えるのは自分だけ。真衣は麗蘭が指示した箇所を圧迫した。止血剤が少しずつガーゼから染み込み、傷口から流れる血が次第に止まり、症状が落ち着いた。しかし、それでも礼央は目を閉じたままで、顔面は蒼白だった。真衣は何度も指を彼の鼻先に近づけたが、やはり呼吸も確認できない。「時正さんはきっと……まだ追手の相手をしているから、彼の安否がわからないの」真衣は麗蘭に、涙声で話した。麗蘭はさっきまで落ち着いた口調で礼央の傷の手当てについて真衣に指示していたが、『時正』という名前を聞いた途端、身体を硬直させた。麗蘭は驚いたように尋ねた。「時正が?彼も南極にいるの?」「うん」真衣はぽかんとして尋ねた。「知らなかったの?彼が突然現れて、援護してくれたの。だから私は礼央をここまで連れて逃げて来られたの」麗蘭は長い間沈黙し、彼女の息遣いだけが聞こえた。真衣は思った。麗蘭はきっと、彼のことが心配で動揺しているのだろうと。真衣は、麗蘭と時正の関係や、最近時正が婚約したことで二人が疎遠になったことを知っていたが、まさか時正が麗蘭に何も知らせずに、南極に来ているとは思っていなかった。「位置情報を送って」麗蘭は言った。「今すぐ向かうわ」真衣は震える手で携帯で位置情報を開き、座標を送信した。電話を切った瞬間、彼女はもう耐えきれず、顔を礼央の冷たい首筋に埋めた。抑えきれないすすり泣きは、吹雪にかき消されていった。真衣には礼央を運ぶ力もなく、この氷原では行き場もないし、暖を取れる場所もない。骨まで凍るような寒さと無力感の中、時間は途方もなく長く感じられた。彼女は礼央の青白い顔と、乾ききらない血痕を見て、心臓が見えない手で締め付けられるように、息もできないほどの痛みを感じた。真衣は思いつく方法がなく、ただ彼を抱きしめることしかできなかった。その時、重々しい足音が、積もった雪を踏みしめながら、遠くから近づいてきた。真衣は慌てて顔を上げ、警戒しながら音のする方へ目を
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第1276話

宗一郎は薄ら笑いを浮かべた。「その状態じゃ、すでに……死んでいる可能性もあるけどな」「デタラメを言わないでください!」真衣は唇を噛みしめながら宗一郎を睨みつけた。「山口社長、あなたの目的は何ですか?」「簡単なことだ」宗一郎はタバコで一服し、ゆっくり煙を吐き出した。「彼を助けたければ、私について来て」彼の言葉を聞いて、真衣の心は沈んだ。真衣は気付いていた。宗一郎が求めているのは彼女自身ではなく、彼女の知識や持っている技術、07プロジェクトの機密事項、そして過去に埋もれた真実なのだ。しかし今、瀕死状態の礼央を抱えている真衣には彼に従う以外、選択の余地はなかった。宗一郎は真衣の迷いを見透かしたように笑った。「嫌なら、別に構わんが」「こちらの指示に従わないのなら、それ相応の覚悟を持つことが必要だ」言葉が終わらないうちに、彼は手を上げた。すると、近くに複数のボディガードたちが現れた。彼らは礼央の傍へ駆け寄り、真衣の制止を振り切って、彼を引きずり上げた。「やめて!彼を放して!」抵抗する真衣を二人のボディガードが押さえ、彼女は身動きが取れなくなった。生気を失った礼央が、まるで人形のようにボディガードたちに乱暴に担がれる姿を見て、真衣の目から涙が溢れた。「山口社長!彼に手を出したら、絶対に許しませんよ!」宗一郎は真衣を見ることもなく、近くに停めていたヘリコプターに向かって歩き出した。冷たい風に混じって彼の声が聞こえた。「連れて行け」ふいに、誰かが乱暴に真衣の腕を掴んだ。彼女はもがいたが、抵抗の甲斐なく、後ろに引きずられた。頭を黒い布で覆われ、視界は瞬時に暗闇に包まれた。耳元には、ヘリコプターのエンジン音と、ボディガードたちの足音が響いていた。真衣の頭は混乱していたが、必死に冷静さを保ち、足音の強弱や風向きの変化を手がかりに、彼らのルートを探ろうとした。しかし、彼らはわざと遠回りしているようで、平坦な場所を歩く時もあれば、ガタガタな道を歩く時もあり、結局丸一日かけても目的地には到着しなかった。真衣は気付いていた。宗一郎はわざとそうしているのだ。彼は彼女がルートを覚え、誰かに助けを呼ぶことを恐れているのだ。長い間の揺れと飢えで、真衣の身体はほぼ限界に達していた。真衣は歯を食いしばりながら
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第1277話

宗一郎の冷徹な目を見て、真衣の心は絶望感で満たされた。彼との駆け引きは、恐らく南極に足を踏み入れた時から始まっていたのだろう。また礼央の命は、この危うい均衡の上に吊るされており、少しでも油断すれば、取返しのつかない事態を招いてしまう。そして、宗一郎は最初から最後まで無実の人の役を演じ続けていた。最初の出会いから全てが計算されていた。真衣が九空テクノロジーにいた頃から、いや、国際宇宙設計大会の時から、彼の計画はすでに始まっていたのだろう。彼らは計算高く、常に先を見越して準備を進めていた。時には防ぎようのない事態が起きる。こんな風に生きるのは、本当に疲れる。真衣は深く息を吸った。薄暗い部屋の中、空気は氷のように淀んでいた。真衣は冷たい床に座っていた。コートの裾には礼央の血が付着している。真衣は宗一郎を見上げ、冷ややかに言った。「一体何を手に入れたいんですか?」宗一郎は口を歪めながら、手に持っていたライターを弄んだ。「分かっているでしょう。救援航空機のコアデータを引き渡すこと、そして当時の林家に関する一切を公の場で釈明し、全ての責任をあなたが被ることです」真衣は指先に力を込め、拳を握った。真衣は宗一郎の言葉を無視して尋ねた。「礼央の容体はどうなってしますか?」宗一郎は嘲笑して言った。「今、あなたに他人の心配をする余裕があるのか?」彼が言い終えると、ドアのノック音がして、お手伝いさんが湯気の立つ、できたての食事を運んで来た。真衣は食事に見向きもせず、じっと宗一郎を睨みつけた。「よく考えて」宗一郎は立ち上がり、真衣を見下ろして言った。「あなたが条件を呑めば、我々はあなたを解放し、高瀬社長に最高の治療を提供することを約束する」宗一郎は一呼吸置き、ゆっくりと真衣の前に歩み寄って言った。「しかし、もし断れば――」「千咲ちゃんがどうなっても知らないよ?」真衣は顔が青ざめ、身震いした。宗一郎は微笑んで言った。「千咲ちゃんは今頃、翔太と仲良く遊んでいるでしょう」「ご存知の通り、翔太は今私の息子だ」その言葉は真衣の心を抉った。呆然とする真衣の脳裏に、千咲の愛らしい笑顔がよぎった。「だから、よく考えて欲しいんだ」宗一郎は背筋を伸ばし、スーツの裾を整えながら淡々とした口調で言った
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第1278話

宗一郎が去った後、真衣は一睡もできなかった。翌朝。彼女の体に付いた血はすでに乾き、褐色のかさぶたとなって衣服に張り付き、消えない生臭くも甘い匂いを放っていた。真衣の頭は混乱していた。礼央は今どうしているだろう。救急室にいるのか。銃弾は心臓を貫いたのか。真衣には彼の安否が全くわからなかった。ちょうどその時。ドアのカギが解除される音が響いた。見ると、宗一郎がドアから入って来た。彼は部屋の隅にうずくまる真衣を見て言った。「考えはまとまったか?」真衣はゆっくりと顔を上げた。目は充血していて、顔も青白くなっていた。真衣は痺れた体を無理矢理起こした。「このプロジェクトは私のものではありませんので、私の一存で決められることではありません」「重要な技術資料やアクセス権限は、全て礼央が握っています」真衣は宗一郎を見つめて続けた。「彼が生きていなければ、あなただって損をするよ」宗一郎は眉を吊り上げ、少しだけ意外そうな表情を浮かべたが、すぐに冷笑して言った。「あなたは本当に頭の切れる人だ」彼はソファに腰かけて言った。「彼の処置は今も続いている。銃弾が心臓の近くをかすめ、もう少しで命を落すところだった」宗一郎は少し間を置いて続けた。「彼は私の長年のライバルだ。こんな風に逝ってしまったら、私もむしろ残念だよ」彼の言葉を聞いて、真衣の心は急激に沈んだ。真衣は早足で宗一郎に前に来て言った。「彼を助けてくれるなら、私は何でもします」「資料も、釈明も、全て協力します」「ただし、これだけは約束して下さい。彼と千咲に危害を加えないと」宗一郎は真衣を見つめて言った。「余計な小細工はしない方がいい」彼は淡々と続けた。「千咲ちゃんの命は今、私の手中にある」「自分の立場をわきまえろ。あなたには私に条件を提示する資格はない。あなたはただ、私の命令に従うしかないのだから」そう言うと、宗一郎は立ち上がり、襟を少し直して、真衣を見ることもなく、まっすぐにドアに向かって歩き出した。真衣は深呼吸をした。しかし、胸の苦しさは消えなかった。真衣は絶望感に包まれ、これから歩むべき道を見失ってしまった。もしできるなら、彼女は全てのために命を捧げるだろう。しかし、宗一郎の計画は国家の安全を脅かす可能性がある。-一方
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第1279話

宗一郎は鼻で笑った。「林さん、あなたはあの男と家族のどちらかを選ばなければならない」「林家が崩壊するのは時間の問題だ」宗一郎はタバコを一口吸い、こう続けた。「私はどちらでも構わないけど、林家に彼に握られている弱みがどれだけあるか、知っているのか?」留美は眉をひそめた。「彼の容体はどうですか?」「良くはないな」宗一郎は言った。「だが、それはあなたが気にする問題ではない」そう言うと、宗一郎は電話を切り、タバコの灰が風に吹かれて冷たい地面に散らばった。-その時。南極の氷原の端にある仮設キャンプでは、吹雪がまだ荒れ狂っていた。時正は広々とした雪原に立ち、身にまとった黒い防寒服にはまばらな雪の跡がつき、顔色は陰鬱だった。彼は仲間と共に宗一郎の手下と長く戦い、ようやく突破口を開いたが、気付くと礼央と真衣は姿を消しており、辺りには痛ましいほどの血痕が残っているだけだった。「時正さん、どうしますか?」彼の部下は畏怖の念を滲ませた声で言った。国外で強大な勢力を保持し、表と裏、どちらの世界をも手中に収めている時正が、まさか彼らを取り逃がしてしまうとは。時正の拳は固く握られ、指の関節が白くなり、冷たい風が彼の顔を撫でた。時正は冷ややかに言った。「探せ。地を這ってでも、奴らを見つけ出すんだ!」宗一郎がどんな手を使おうと、彼が守る者に手を出した以上、代償を支払わせなければならない。その時、一人の部下が慌てて走り寄って言った。「時正さん!千鶴さんがキャンプの外でお待ちです!」時正は眉をひそめ、冷たい口調で言った。「構うな」三橋千鶴(みつはし ちずる)家族が強引に決めた婚約者だ。わがままで気まぐれで、面倒を起こすことしか能のない女だ。時正は千鶴に対して、嫌悪しか抱いていなかった。部下は苦渋に満ちた表情で言った。「時正さん、千鶴さんは麗蘭さんのために来たと仰っています」その言葉を聞いて、時正は動きを止めた。「麗蘭さんはすでに南極に向かってすでに出発したそうで」「千鶴さんは、麗蘭さんが衝動的に行動しないよう、空港へ足止めしに行ったそうです!」麗蘭!彼女の名は、時正の心を鋭く貫いた。彼女は昔から衝動的だ。しかし、時正は彼女がまさか危険を承知で南極に足を踏み入れようとするとは思っていなかった。
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第1280話

麗蘭は足を止めた。少し離れた窓際に立つ、華麗な女性の姿が見えた。彼女はキャメル色のカシミアのロングコートを着て、詮索するような、嘲笑するような表情を浮かべてこちらを見ていた。目が合うと、彼女は口元に意味深な笑みを浮かべた。麗蘭は眉をひそめた。ここはトランジットで訪れた空港で、知り合いはいないはずだが、彼女はぶしつけなほどこちらに視線を送ってくる。麗蘭が深呼吸をして、彼女に話しかけようとしたその時、誰かに突然手首を掴まれた。馴染みのある感触と、少し冷たい体温。そして骨まで刻み込まれた馴染みのある匂い。麗蘭は驚いて、ゆっくりと振り向いた。黒いトレンチコートを着た時正が彼女の後ろに立っていた。彼は疲労と不安を滲ませた目で、麗蘭を見つめ、湧き上がる怒りと疑問を抑えながら尋ねた。「なぜここに来たのですか?」麗蘭には彼に言いたいことが山ほどあったが、言葉が詰まって出てこなかった。麗蘭はその場に立ち尽くし、ただ時正の顔をぼんやりと見つめた。「時正」窓際に立っていた女性が、彼の名を呼びながら、優雅な足取りで近づいてきた。彼女は手を伸ばすと時正の腕を組んで身体を寄せ付け、色っぽく囁いた。「来てくれないと思ってたわ」時正は彼女を一瞥して表情を和らげた。それは今まで麗蘭が見たことのないような表情だった。時正は女性の手を軽く叩いて、麗蘭に向かって言った。「何かあるなら私に言ってくださいよ?なぜ空港なんかに来たりしたのですか?これからどこに行くつもりなんですか?」二人のやり取りは、不快なほど親密だった。麗蘭は目の前の光景を見て、胸がチクリと痛み、息苦しく感じた。鋭い痛みが心臓から四肢へと広がり、麗蘭の指先が微かに震えた。麗蘭は昔のことを思い出した。時正がまだ自分のボディガードだった頃。時正はいつも自分の傍におり、無口で鋭い眼差しで、自分に近づこうとする不審者を全て遮っていた。あの頃の時正には、女性の影すらなかったのに。自分はまた酔った勢いで彼の袖を掴み、「ずっと私の側にいてくれる?」と聞いた日のことを覚えていた。時正は何も答えず、黙って上着を掛けてくれた。あの頃の自分は、時正が永遠に自分のものだと、本気で思っていた。彼は大木のように、永遠に自分を雨風から守り、決して離れることないと
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