All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1281 - Chapter 1290

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第1281話

千鶴は時正の視線を追うように、目の前にいる麗蘭を見て微笑んだ。千鶴は時正の腕を軽く揺すりながら言った。「あら、二人は知り合いだったのね」「さっき思ってたの。綺麗な人だなあって。ねえ、二人はどんな関係なの?」千鶴の質問は一見何気なく聞こえたが、的確に急所を突いていた。千鶴は時正の性格を知っている。冷淡で無口な彼がここまで取り乱して空港まで来るなんて、ただの友人ではないはずだ。時正は眉をひそめて、しばらく沈黙した後、ようやく絞り出すように言った。「ただの友人だ」その言葉は麗蘭の心をえぐった。麗蘭はスーツケースのハンドルを持つ手に力を込めた。彼女は顔を上げると、失望に満ちた目で時正を見つめた。ただの友人。長年苦楽を共に過ごしてきた時正の目に、自分はただの友人としか映っていなかった。千鶴は二人の間に漂う重苦しい空気に気づかないふりをして、頷きながら意味深に笑った。「なんだ、元カノかと思っちゃった」その言葉で、気まずさが一気に膨らんだ。麗蘭は気持ちを抑え、口元に冷たい笑みを浮かべた。彼女は時正と千鶴を見ることもなく、スーツケースのハンドルを強く握りしめ、空港の外へ向かって歩き出した。麗蘭は背筋をピンと伸ばし、未練など微塵も感じさせなかった。空港の外の強い風が彼女の髪を撫で、瞳に残っていた最後の温もりも吹き飛ばした。駐車場の方では、予約した車がハザードランプを点滅させて待っていた。目の前で少しずつ遠ざかる麗蘭の姿を見つめると、時正は胸が締め付けられたように苦しくなり、拳をそっと握りしめた。時正はその場に立ち尽くし、辺りには重苦しい空気が漂っていた。落胆したような時正を見て、千鶴はからかうように言った。「もうとっくに姿は見えないのに、まだ何を見ているの?」「好きなら、追いかければいいじゃない」時正は冷たい視線で、千鶴を一瞥した。彼は、千鶴の嘘を見抜いていた。彼の婚約者は、想像以上に手強い。細貝家と三橋家は利害関係からこの縁談を進めたが、千鶴は独占欲が強く、時正が他の女性に心惹かれるのを大人しく見ている性格ではなかった。さきほど言った言葉は、麗蘭に対する時正の気持ちを確かめるためのものに過ぎなかった。時正は何も言わず、自分の腕を組んでいた千鶴の手を払いのけた。時正は再び、
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第1282話

時正は、さきほど自分が言った「ただの友人」という言葉が、恐らく麗蘭を傷つけてしまっただろうと感じていた。だが、他に選択肢はなかった。麗蘭が宗一郎の権力が深く根付くこの地に足を踏み入れた時点で、危険が潜んでいた。もし自分が彼女と親しくすれば、宗一郎に目をつけられてしまうだろう。-麗蘭はタクシーに乗っていた。長時間の移動の疲れと、先ほどのやり取りが彼女を落ち着かなくさせていた。車がオーロラホテルの前を通りかかった時、ドライバーが歩行者を避けて減速し、麗蘭はふと窓の外に目を向けた途端、心が沈んだ。ホテルの入り口で、時正と千鶴が並んで立っている姿が見えた。千鶴は甘えたように時正を見つめながら、彼の腕を組んでいた。時正は俯いて、微かに微笑みながら千鶴を見つめていた。二人の睦まじい姿は、まさに理想のカップルのようだった。麗蘭が指先に力を込めると、掌に爪が食い込み、ズキズキと痛んだ。なるほど、と麗蘭は納得した。麗蘭は、時正があの時何も言わずに去ったことや、今まで彼が自分に冷たく接していた理由がわかった気がした。時正はハンサムで家柄も申し分ない。これほどつり合いの取れた縁談を断る理由なんてどこにもないだろう。彼にとっての自分はどういう存在だろう?きっと、取るに足らない存在であり、彼にとって自分はもうすでに過去の産物なのだろう。タクシーがゆっくりと走り去り、二人は麗蘭の視界から消えた。麗蘭はシートにもたれ、目を閉じた。予約していたホテルに着いた頃には、もう深夜になっていた。麗蘭は、ふらつく足取りで部屋に入ると、電気もつけずにソファに倒れ込んだ。携帯に真衣からの連絡はなく、こちらからかけても、常に通話中の状態だった。礼央の安否も、真衣の行方もまだ分からず、時正の態度はまるで他人行儀のようなものだった……一つ一つの出来事が、まるで重い石のように麗蘭の心にのしかかり、息が詰まりそうだった。麗蘭は、携帯の秘密の連絡グループを開き、散らばったメッセージから宗一郎の拠点についての手がかりを探ろうと入力を始めた。どれくらい経っただろうか。麗蘭の集中力が切れ、諦めかけたその時、突然、ドアのノック音が聞こえた。ノック音は穏やかだったが、静まり返った部屋の中、はっきりと聞こえた。麗蘭はハッとし
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第1283話

時正の目に微かによぎった困惑を見て、麗蘭は冷笑した。麗蘭は彼女を「ただの友人」と言った時正が、こんな夜更けに彼女を訪ねた理由を知りたいと思った。時正は両腕を組んでいる麗蘭を見つめ、目には複雑な感情が渦巻いていた。「ここは危険な場所なので、早く離れた方がいいです」麗蘭は時正を見つめ、よそよそしく言った。「私がここで何をしようと、あなたには関係ないでしょ」彼女は少し間を置いて続けた。「それに、私達はあなたの言った、ただの友人以下の関係よ」時正は麗蘭の言葉を聞いて、胸が何かで塞がれたように、重苦しく痛んだ。時正は握りしめた拳を緩め、低い声で言った。「その通りです、麗蘭さん」彼の言った「麗蘭さん」という呼び方は、カギのように彼女が封印した過去の扉を開いた。時正がボディガードだった頃、彼はいつもこうして恭しく麗蘭の名を呼んでいた。しかし今聞くと、ただただ果てしない隔たりだけが残っているように感じられた。「確かに私達は友人ではありません」時正は言った。「しかし、ここは本当に危険なんです。早くここを離れて下さい」「私はあなたに会いにここへ来たわけじゃないわ」麗蘭は一歩も引かず、時正の目を見つめて言った。「私の友人である、礼央と真衣に会いに来たの」「彼らは今、消息がわからない。彼らを放っておくことなんてできないのよ」時正の表情が曇り、重苦しい空気が流れた。時正は言った。「この件は複雑すぎて、到底あなたの手に負えるものではありません」「一時の衝動で、あなた自身や、川上家全体を危険に晒すなことはしないで下さい」宗一郎の手口は残忍で、背後には複雑に絡み合った勢力が存在している。時正は麗蘭をこの危険な駆け引きに巻き込みたくはなかった。「私がそんな臆病者なら、こんなところに来ていないわよ」麗蘭は冷ややかに言った。「それから、二度と私の名前を呼ばないで」彼女は続けた。「私たちの雇用関係はとっくに解消されている。もう何の関係もないわ」「他に用がないのなら、早く出てって」麗蘭はドアを閉めようとした。時正は手を伸ばし、ドアに押し当てた。時正が冷ややかな表情で何か言おうとすると、ポケットの携帯が鳴り出した。彼が携帯を見ると、榮太郎からLINEが届いていた。【麗蘭の身を護るんだ、必ずだ】時正は眉を
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第1284話

時正は続けた。「それに、あなたはもう私の顔を見たくないと仰っていましたので」彼はそれ以上は話さず、黒木に言った。「川上さんを頼む、片時も目を離すな」「何かあれば、すぐに報告してくれ」「はい、承知しました」黒木は恭しく応えた。時正は去り際、複雑な気持ちで麗蘭を見つめた。しかし、結局彼は何も言わず背を向けて廊下を颯爽と去って行った。足音は次第に遠ざかり、やがて廊下の闇に消えていった。人気のなくなった廊下を見つめると、麗蘭の胸は苦しくなった。麗蘭は苦笑いし、小さな声で呟いた。「もっともらしい立派な口実ね」麗蘭はわかっていた。時正は婚約者の機嫌を損ねないために、自分と距離を置きたいだけなのだと。体裁を取り繕いながら関係を断ち切ろうとするなんて、本当に見掛け倒しの偽善者だわ。-その時。もう一方では。病室はひんやりと寒く、消毒液の匂いが充満していた。宗一郎は病室の入り口に立ち、ベッドに横たわる男を見つめていた。五日目の朝。モニターの規則的な音の中に、ついに微かな異変が生じた。礼央のまつ毛が微かに震え、彼はゆっくりと目を開いた。ぼやけた視界が徐々に鮮明になり、最初に目に入ったのは宗一郎の笑顔だった。彼はベッドの脇で、くつろいだ姿勢で座っていた。「目が覚めたか?」宗一郎が感情のこもらない声で言った。「さて、条件について話し合う時間はたっぷりある」彼は元来回りくどいことを好まず、単刀直入に、露骨な脅しを込めて言った。「死に場所を望むのなら、一つ提案がある」「私の要求をすべて満たせるのなら、君が愛する女と娘の無事を保証する」礼央は乾いた唇を動かし、冷笑した。礼央は目覚めたばかりだったが、その瞳は依然として鋭く、彼は宗一郎を睨みつけた。宗一郎は礼央の視線を全く気に留めずに言った。「救援航空機のプロジェクトを、全てバンガードテクノロジーに譲渡してほしい」彼は貪欲で残忍な本性を露わにした。「さもないと、高瀬グループが持っている全ての株式を、私に譲渡してほしい」「君が頷けば話は終わる」宗一郎は続けた。「寺原さんと千咲ちゃんを解放し、二人の安全を保証しよう」宗一郎は礼央の顔をじっと見つめた。宗一郎は陰険な笑みを浮かべながら、最後の一言を言い放った。「条件を呑まなければ、何を
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第1285話

宗一郎の足音が廊下の奥に消えた後。病室は静まり返っていた。礼央はベッドに横たわり、天井の白熱灯をじっと見つた。刺すような眩しい光が、彼の目の奥にひりつくような痛みをもたらした。胸の傷はまだじんわりと痛み、息をするたびに骨を引き裂くような激痛が走るが、その痛みも心の焦燥には及ばなかった。真衣は?千咲の安否は?宗一郎は二人に何かするつもりなのか?礼央は宗一郎を野放しにして、死を待つことなどできなかった。礼央はゆっくりと手を上げた。彼は手の甲に刺さった点滴針をつかむと、ためらわずに引き抜いた。針を抜く瞬間、手に鋭い痛みが走った。手の甲から温かい血が流れ、白いシーツに赤い染みをつくった。彼は腕で身体を支え、起き上がろうとした。しかし、身体は鉛のように重く、すぐに胸が激痛に襲われ、礼央はベッドの上に倒れた。息は荒く、額には冷や汗が滲んだ。礼央は再度起き上がろうとしたが、やはり激しい痛みにベッドに倒れ込んだ。身体にはもはや、起き上がる力さえ残っていなかった。その時、病室のドアが開き、二人の看護師と主治医が入って来た。礼央の手の甲の血痕と床に落ちた点滴針を見て、一同は表情を曇らせ顔を見合わせた。「高瀬さん、何されているんですか?」看護師が急いで近づき、綿棒で針穴を押さえた。「重傷なんですから、安静が第一です。動いてはいけませんよ」医師は礼央を診察し、彼の傷を見て眉をひそめた。「今の状態から見ても、激しい動作は禁物です」「ここの警備は厳重です。外には出られませんよ。早く回復できるよう、一緒に頑張りましょうね」礼央はベッドにぐったりと横たわった。医師の言葉は事実なのだろう。今の状態では、この厳重な警備を突破することはおろか、病室を出ることさえ叶わぬ望みだった。礼央は目を閉じ、深呼吸して絶望感を抑えながら尋ねた。「真衣はどこにいる?彼女に会いたい」点滴を再度取り付けていた看護師が目を泳がせ、手を止めた。彼女は彼の視線を避けて言った。「高瀬さん、ご安心ください。寺原さんは無事です」「彼女に会いたいんだ」礼央は繰り返し言った。自分の目で真衣の無事を確認しなければ、安心などできない。看護師は首を振った。「申し訳ありません、高瀬さん。病院の規則を違反することになってしまうので、彼女に
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第1286話

留美はハイヒールを鳴らしながら病室に入って来た。白いワンピースが、彼女の肌を引き立たせていた。彼女は、複雑な笑みを浮かべていた。留美はベッドの脇に歩み寄り、礼央を見下ろしって言った。「礼央、まさか自分にこんな日が来るなんて思わなかったでしょ?」礼央がまぶたを伏せると、長いまつげが目の下に影を落とした。礼央は留美の顔を見ず、彼女の言葉にも全く反応しなかった。留美は礼央の態度を気に留めず、ベッド脇の椅子に腰かけて言った。「あなたが狡猾に私を陥れ、偽りの婚約で私を利用し、林家の権力を足掛かりにした時、まさかこんな結末が待っているなんて思いもしなかったでしょうね?」留美は微かに震える声で続けた。「あの時の決断を後悔したことはある?」「私に対して、ほんの少しでも心が動いたことはある?」それは、ずっと棘のように留美の心に突き刺さっていた疑問だった。そう。喜びに満ちた婚約をした時から、真実を知って悲しみに暮れた日々。そして、このような彼の惨めな姿を見る今に至るまでずっと。憎しみ、怨み、そして認めたくない未練。複雑な感情が留美の胸に渦巻いていた。しかし礼央は、留美の話が自分とは無関係であるように、ただ眉をひそめただけだった。留美は礼央の反応を見て、腹立たしく思ったが、すぐに気持ちを抑えた。彼女は深呼吸し、口調を和らげながらも、少し自嘲気味に言った。「私はあなたを哀れに思うし、理解もできる」「家族の利益と自分の感情の間で、身動きの取れなくなる人が大勢いる。私もそうだった」留美は少し間を置き、礼央の青白い顔を見つめた。「でも、家族かあなただけとなると、私はどちらか一方しか選べなかった」この言葉が、ようやく礼央の心に届いたようだった。礼央はゆっくりと目を上げた。瞳には何の感情もなく、彼は静かに留美を見つめて言った。「つまり、君は家族を選んだ」彼は疑問ではなく、事実を口にした。留美の心がぎゅっと締め付けられたように痛んだ。礼央の冷たい瞳を見て、留美は慌てて言った。「あなたが私を選ばなかったからよ!」「私たちは伴侶として、共に風雨に立ち向かい、共に足場を固められたはずなのに!」「でもあなた結局、私を利用することしか頭になかったのよね」留美はヒステリックに言った。「あなたは私の信頼を、私の感情を、林家の
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第1287話

留美は礼央の青白く厳しい横顔を見つめた。胸に湧きあがる複雑な感情を抑え、留美は最後の切り札を投げ出した。「あなたが望むなら、ここから出してあげる」留美は続けた。「あなたが林家の婿でい続けるならね。ここに閉じ込められているよりずっとマシだと思うけど?」留美は、礼央がこの条件を呑むだろうという自信を持っていた。林家の足場は安定している。礼央が林家に戻れば、宗一郎の脅威は恐れるに足らず、かつての栄光と地位を享受できるはずだ。礼央はゆっくりと目を上げ、嘲笑するように唇を歪ませた。礼央は留美をじっと見つめ、嘲笑するように言った。「君はこれからもずっと、そうやって感情に依存して生きて行くのか?」「一度騙されたのに、学習もせず、また同じ罠にかかるつもりか?」礼央が淡々と言った言葉は、留美の心を切り裂いた。留美は顔面蒼白になり、胸に小さな痛みが広がるのを感じた。「礼央!」留美は怒りに満ちた声で言った。「せいぜい後悔しないことね。私はもうあなたにチャンスを与えたんだからね!」礼央は留美を見て、冷笑した。彼はそれ以上何も言わず、疲れたようにゆっくりと目を閉じた。礼央の軽蔑したような表情を見て、留美の胸は怒りと憤りでいっぱいになった。留美は深呼吸した。これ以上ここにいても、さらに屈辱を受けるだけだ。彼女は立ち上がり、病室のドアに向かって猛然と歩き出した。しかしドアを開けた瞬間、留美は足を止めた。宗一郎が廊下に立っていた。彼は険しい表情で両手をポケットに入れていた。彼は病室から出てきた留美を見つめ、冷ややかに言った。「全く愚かだな」「ここまで来て、まだ妥協の余地があるとでも思ったのか?」留美は反射的に反論した。「信じれないのです。彼が私を一度も愛していなかったなんて」今までの自分の想いが全部、無駄だったなんて。今までの関係が全て計算によるものだったなんて、留美は信じたくなかった。宗一郎は嘲笑して言った。「これだから女性と組んで仕事をしたくないんだ。大抵の女性はすぐ感情に流されるからな」彼は一歩前に出て、留美に詰め寄った。「事実は明白に目の前にあるのに、君だけが信じようとしない。他人が何を言っても無駄だろう?」「君が愛した高瀬社長に、真心なんてないんだ」宗一郎の眼光は鋭く、まっすぐ
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第1288話

留美の顔は青ざめ、瞳は曇り、彼女は身体を震わせた。宗一郎の言葉は、彼女のプライドや、今まで大切にしてきた思いを完全に打ち砕いた。彼女を見つめる宗一郎の目に同情の色は微塵もなかった。宗一郎は振り返って立ち去り、留美はただ一人その場に立ち尽くした。留美はついに悟った。今までのこだわりは、ただの滑稽な自己欺瞞に過ぎなかったのだと。自分を愛してくれたと思っていた礼央は、一度も自分を心にかけたことがなかった。巨大な喪失感と絶望が、波のように彼女を呑み込んだ。彼女じゃ冷たい壁にゆっくりと寄りかかり、肩を激しく震わせながら、ついに涙がこぼれ落ちた。留美はずっと自分のことを欺いていた。二人の婚約が策略の一部だと気づいていながら、礼央が真衣を愛していると気づいていながら、彼の心の片隅には自分の居場所があるはずだと信じていた。もしかしたら、とある夜にかけられた優しい言葉かもしれない。或いは危機的な状況で差し伸べられた手かもしれない。留美はそんな些細な痕跡から「愛」をかき集め、自己欺瞞という名の幻想を紡いできた。しかし、礼央の冷淡な態度や、宗一郎の痛烈な言葉が、重い槌のように彼女の想いや幻想を粉々に打ち砕いた。かつて、礼央からもらった温かい情も、彼の目的を果たすための計画の一部に過ぎなかった。留美が誇りにしてきた家柄や才能は、礼央の目からしたら、取るに足らないものだった。礼央はずっと一途に真衣を想い、留美はあくまで駒の一つでしかなく、いつでも捨てられる存在だったのだ。自己の慰めは滑稽で、固執は愚かさの証明になった。礼央は、最初から冷血で情け容赦ない人間だった。留美は深く息を吸い、涙を拭って、決意を固めた。留美は、自分が最も正しい決断をしたと実感した――それは、宗一郎と手を組んだこと。宗一郎は率直で、回りくどい言い方はしない。少なくとも彼は礼央のように偽りの優しさで彼女の真心を消耗させるようなことはしない。留美は、さきほど病室で彼に同情したことを、恐ろしくすら感じた。もし、礼央が頭を下げて懇願し、留美に甘い言葉をかけたら、彼女は衝動的になって宗一郎を裏切り、こっそり二人を逃がしていたかもしれない。留美の礼央に対する執着は、救いようのないほどに深まっていた。しかし、礼央はそうしなかった。彼は明らか
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第1289話

真衣は病室にいた。突然、何者かがドアを押し開けて入って来て、彼女を別の部屋に連れ出した。「何をするの?」「上からの指示だ、大人しくしていろ」次の瞬間。真衣は真っ暗な部屋に押し込まれた。彼女は冷たい鉄製のベッドに座らされ、手首は荒い縄で縛られていた。どれだけ時間が経ったか。ドアの鍵が「ガチャ」と音を立てて開き、留美がハイヒールを鳴らしながら入ってきた。留美は完璧なメイクを施し、高価なベージュのコートを着ていた。留美は不吉な笑みを浮かべながら、真衣の前に立ち、彼女を見下ろしていた。「ねえ、知ってた?」「礼央の生死は、私の一言で決まるのよ」留美は真衣の青白い頬をなぞりながら言った。「銃弾が彼の心臓のすぐ傍をかすめたの。あと少しで彼は死ぬところだったんだから」「医者は、彼が助かるかどうかは彼の生きる意志次第だって言ってたけど、その意志は私の手中にあるのよ」真衣は顔を上げず、抵抗もしなかった。真衣の喉は焼けるように乾いて痛んだが、それでも彼女はかすれた声で、力強く言った。「彼が生きていれば、それでいいわ」生きてさえいれば。礼央が生きている限り、自分は希望を持ち続ける、形勢を逆転させることができるわ。礼央の命は、自分の命よりずっと大切に思えてきた。「生きていればいいって?」留美は声を上げて笑った。彼女の甲高い笑い声は病室に響き渡り、真衣の耳はつんざくように痛んだ。留美は突然真衣の顎を猛然と掴み、顔を上げさせた。「寺原さん、あなたにそんなことを言う資格があると思ってるの?」「あなたは今、まな板の上の鯉よ。どう料理するかは私次第なのよ!自分の命さえ守れないくせに、他人のことを気にかける余裕はあるの?」真衣の顎に激痛が走ったが、彼女は眉一つ動かさず痛みを堪えた。真衣は留美の瞳に渦巻く憎悪と嫉妬を見て、彼女を哀れに思った。「私を恨んでいるの?それとも、彼が一度もあなたを愛さなかったことを恨んでいるの?」その言葉に、留美の顔は一瞬にして歪み、瞳の狂気はもはや隠しようもなくなった。留美は真衣の頬を平手打ちした。真衣の頬は焼けつくように熱く、唇の端から血の筋が滲んだ。「私はあなたが憎いの。彼の気持ちを独り占めしているあなたが憎くて仕方ないの」留美は叫んだ。「私は家柄だって容姿だ
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第1290話

そう言い終える前に、留美は鞭を真衣の背中に容赦なく叩きつけた。「ビシッ!」鞭が衣服を引き裂いて皮膚に食い込み、引き裂かれるような激痛をもたらした。想像を絶する激痛に、真衣は身体を激しく震わせたが、歯を食いしばって痛みを堪えた。しかし、猛烈な痛みに、背中の傷が疼いた。留美は真衣の様子を見て、異様な快感を感じた。彼女は狂ったように、真衣の背中や腕、脚に何度も鞭を振るい、彼女の身体は傷だらけになった。「許しを乞いなさいよ!私に懇願しなさいよ!」留美は血走った目をしていった。「私に許しを乞いなさいよ!礼央を解放してくれと懇願しなさいよ!跪いて頼めば、やめてやるわ!」激しい痛みに、真衣の意識は次第に朦朧とし、目の前が暗くなっていった。それでも真衣は歯を食いしばり、血まみれの唇を動かして言った。「絶対に……しないわ」留美は完全に逆上した。彼女は鞭を投げ捨て、真衣の前に歩み寄ると、彼女の髪を掴んで無理やり顔を上げさせた。真衣の瞳に宿る不屈の精神と、頑なな表情を見て、留美の心は憎悪で満たされた。「礼央が助けに来るとでも思ってるの?」留美は冷ややかに言った。「彼は今危篤状態で、ベッドから起き上がる力もないのよ」「あんたが私に痛めつけられてることにも、彼は気付かないのよ。寺原さん、これが私の男を奪った報いよ!」留美が手を放すと、真衣はベッドの枠に頭をぶつけた。真衣は目を閉じ、ついに堪えきれず涙がこぼれた。涙は唇の血液に混じって零れ落ち、シーツを鮮やかな赤色に染めた。背中の傷はまだ血が滲んでおり、呼吸をするたびに、引き裂くような痛みが走った。しかし、真衣の心は身体の傷よりもずっと痛んでいた。真衣は死を恐れていない。恐れているのは、礼央が留美の言う通り、ただ彼女の死を目の当たりにしながら、何もできないことだ。留美は真衣が涙で顔を濡らす様子を見て、ようやく満足げに笑った。留美はまるで壮大な復讐を成し遂げたかのように、自分のコートの裾を整えた。彼女はベッドにうずくまる真衣を見下ろしながら言った。「簡単に死なせはしないわ」「私と礼央の婚約を見届けるまで、あなたを生かしておいてあげるわ」「最初から、あなたが邪魔な存在だったと思い知らせてあげるわ」そう言うと、留美は踵を返し、ヒールの音を響かせ
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