礼央さんは寺原さんの前にいる時でさえ、何度も萌寧と一緒に公の場に現れていた。これは完全に寺原さんを人間として扱わず、少しも尊重せず、妻の顔に泥を塗りつけている行為だ。ここまで図々しく振る舞う権利が果たして礼央さんにあるのか?安浩でさえ真衣が不憫に思えた。だが、真衣はとっくに諦めていた。「訴訟で円満に離婚できれば、礼央を怒らせる必要もない」そもそも二人は秘密結婚だった。礼央と萌寧は幼なじみで、あるちょっとした予想外の出来事がきっかけで、仕方なく自分と結婚した。原因を辿れば、極めて複雑な事情に行き着く。それに、もし礼央の愛人の存在を公表でもしたら、それは礼央に対する公然たる侮辱になる。そうなれば、礼央はきっと九空テクノロジーと青木家に報復するだろう。自分はそんな余計なトラブルを起こしたくなかった。因果応報。復讐は焦らず、機が熟すのを待つものだ。翼がまだ十分に育っていないうちは、自分は無謀なことはしない。真衣と安浩が着席したすぐのこと。萌寧と礼央を取り囲む人々が近づいてきた。真衣の席に来た主催側のスタッフは、真衣の見慣れない顔に一瞬戸惑った。主催側のスタッフは慎重に尋ねた。「失礼ですが、こちらはVIPエリアでございまして……お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」萌寧は淡々と真衣を見つめ、目元に笑みを浮かべていた。この業界では実力が全てだ。真衣は九空テクノロジーに入社したとはいえ、まだ無名の身分である。ハイテク人材が集うこの業界で、真衣の名はまだ知られていない。真衣は自己紹介をした。主催側のスタッフは安浩に気づき、挨拶を交わした。真衣を安浩のアシスタントか秘書だと勝手に決めつけた。一般的にアシスタントや秘書には席が用意されていないが、真衣はもう座ってしまったので、追い払うのも気が引ける。主催側のスタッフは、礼央を真衣の隣に座らせ、萌寧を礼央の隣に座らせた。真衣と萌寧は礼央を挟んで左右に座っていた。真衣は本当に気分が悪かった。憲人が会場内から出てくると、自ら礼央の方へ挨拶しにきた。軽く挨拶を交わした後、憲人の視線は真衣の顔に止まり、次の瞬間、目線を逸らした。憲人は淡々と隣にいる安浩を見て、「常陸社長、ようこそいらっしゃいました」と言った。安浩は憲
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