All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1391 - Chapter 1400

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第1391話

翔太は抱き合う二人を見て、「そうだね」と言った。午前中いっぱい遊んで、子供たちは疲れていた。礼央はうとうとしている千咲を抱き、真衣は翔太の手を引いて、一緒にホテルに戻った。真衣は早速キッチンに立ち、簡単な料理を作って、みんなでお昼を食べた。礼央は傍らで真衣の手伝いをし、料理を運んだり、お皿を洗ったりと、手際よく動いていた。食事を終えると、子供たちは昼寝をした。真衣と礼央はリビングのソファに座り、雪景色を眺めながら、リラックスしていた。礼央は突然手を伸ばし、彼女の手を握り、「真衣、ごめんな」と囁くように言った。真衣は彼の方に向き直り、首を傾げた。「以前お前にたくさんの辛い思いをさせて、ごめんな」礼央の声は低く、かすれていた。彼の目には後悔の色で満ちていた。「わかっている。ただの『ごめん』じゃ、お前に与えた傷を癒せないのは分かっている」「でも、俺は一生かけて償うつもりだ」真衣の目元が少し赤くなり、彼女は彼を見つめ、そっと首を振った。「もう過ぎたことよ」「いや、違うんだ」礼央は彼女の手を強く握りしめ、「あの時お前に与えた傷を、俺は今後も一生覚えているだろう」「もう二度とお前を悲しませないし、辛い思いもさせない。真衣、もう一度チャンスをくれないか?」真衣は彼を見つめ、心の中にあったわずかな隔たりが、ついに完全に消え去った。彼女は鼻をすすり、頷きながら、声を詰まらせて言った。「うん」礼央は嬉しさのあまり、激しく彼女を抱きしめ、その唇に優しくキスをした。キスはしばらく続いた。まるで失ったものを取り戻したかのような愛おしさと愛情に満ちていた。-翌日。スキー場にて。真衣は礼央に手を引かれながら、ゆっくりと滑っていた。彼女は体を少し前傾させ、彼の手をしっかりと握りしめていた。耳元では、吹き抜ける風と、彼の低く優しい声が聞こえる。「リラックスして、膝を少し曲げて、俺のリズムに合わせて」礼央は微笑みながら、掌でしっかりと彼女を支え、転ばないように気を配っていた。真衣は唇を噛み、体のバランスを保とうと必死だった。彼女は礼央のことを見やった。紺色のスキーウェアを着たその姿は、どこか頼もしく見えた。「やっぱり転ぶのが怖いわ」彼女は小さく呟き、手のひらに汗をにじませた。「俺がい
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第1392話

真衣はここでエラにバッタリ会うとは思ってもいなかった。礼央の表情も一瞬で曇り、目元の優しさは瞬く間に消え、代わりに距離を置くような冷淡さが浮かんだ。彼は真衣の手を離し、冷たい口調で言った。「エラさん、これはこれは、奇遇ですね」エラは、さっきまで2人が握り合っていた手を見て、目にわずかな嫉妬の色が浮かんだ。彼女は微笑み、礼央に視線を向けた。「ここのスキー場はとてもいいと聞いて、遊びに来たんです」「高瀬社長にお会いできるとは思いませんでした」「実は私、スキーがあまり得意ではなくて……もしよろしければ、少しだけ教えていただけませんか?」エラは少し間を置き、暗示するような口調で付け加えた。「もし教えて頂ければ、レンコーグループと高瀬グループの協業案は、すぐにまとまると思いますよ」「高瀬グループにとっても、今回の協業はとても魅力的なはずです」この言葉に、真衣の表情はさらに険しくなった。エラが協業を盾に礼央を脅すとは思わなかった。礼央の目元に冷たい光が一瞬よぎったが、真衣は先回りして彼のそばに歩み寄り、腕を組んだ。彼女の顔には礼儀正しさと、どこか距離を感じさせるような笑顔が浮かんでいた。「エラさん、申し訳ありません」「礼央は今日、私と子供たちと遊びに来ているので、スキーを教える時間はないようです」彼女は少し間を置き、続けた。「でも安心してください。ここのスキー場には腕のいいコーチがおりますので、ご紹介しますよ」「きっと上手く教えてくれますよ」エラの表情が一瞬凍りついた。彼女は真衣が礼央の腕を組んでいる手を見て、心の中の嫉妬がさらに強くなった。彼女は鼻で笑い、真衣に視線を落とし、少し嘲るように言った。「寺原さん、高瀬社長のことがそんなに好きなんですね?」「ずっとしがみついていると、かえって逃げられちゃいますよ」この言葉はまるで棘のように、軽く真衣の心に刺さった。彼女は体をわずかに震わせ、無意識に礼央の腕を強く掴んだ。礼央は真衣の異変に気づき、すぐに手を伸ばして彼女の手を握った。彼は目を上げてエラを見た。「エラさん、協業は両社の誠意によって成り立つものであって、こんな小手先の脅しによるものではありません」「協業について話し合いたいのなら、ぜひあなたの誠意を見せてください。スキーを教えるこ
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第1393話

「真衣、俺はお前のそばを決して離れたりなんかしない」「過去の誤解やわだかまりも、少しずつ解けてきたと思う」「俺はいつだってお前と千咲、そして翔太を守っていく」彼は腕に力を込め、彼女をより強く抱きしめた。「エラの言葉は気にしなくていい。協業の件は、俺がなんとかする」「彼女の助けがなくても、高瀬グループは十分発展できる」真衣は彼の胸元に寄りかかり、彼の力強く安定した心臓の鼓動を聞きながら、心の不安が徐々に消えていった。彼女は手を伸ばし、彼の腰をしっかりと抱きしめ、声を押し殺して言った。「わかってるけど、やっぱり心配なの」礼央は低く笑い、彼女の額に優しくキスをした。「俺がいるから、怖がらなくていい」夕日が次第に沈み、空は徐々に暗くなっていった。千咲と翔太は遊び疲れて、お腹が空いたから夕飯にしようと両親にせがんだ。真衣と礼央は顔を見合わせて微笑み、二人の手を引いてホテルの方向へ歩き出した。ホテルに戻った頃には、すっかり日が暮れていた。ホテルは明るく灯りで照らされていた。真衣が子供たちとお風呂に入っている間、礼央はキッチンで夕食の準備をした。彼の料理の腕は意外といい。彼は子供たちと真衣の大好物の料理を作った。千咲と翔太は夢中になって食べていた。真衣は彼らの様子を見て、思わず笑みがこぼれた。礼央は彼女の隣に座り、料理を取り分けてあげていた。食事は和やかな雰囲気で進んだ。食事を終えた後、子供たちは部屋に戻ってアニメを見ていて、真衣と礼央はリビングのソファに座り、窓の外の雪景色を眺めていた。「協業の件はどうするつもり?」真衣は彼の肩にもたれかかり、小声で尋ねた。「なるようになるさ」礼央は彼女の手を握り、指先で優しく手の甲を撫でた。「レンコーグループの資金力は魅力的だが、もし彼らが引き続きつまらない手段で俺を脅すつもりでいるなら、これ以上話をする意味はない」「別にいくらでも他の企業と協業できるからな」真衣は温もりを感じながらうなずいた。礼央が自分を安心させるためにそう言ったことを、真衣は知っていた。ちょうどそのとき、礼央の携帯が鳴った。安浩からの電話だった。彼は電話に出て、驚きのこもった口調で言った。「急にどうした?」電話の向こうから安浩の困ったような声が聞こえ
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第1394話

安浩は笑いながら、スーツケースを二つ持って入ってきた。沙夜も笑いながら部屋に入り、「本当にツイてないわ。部屋を予約しておけばよかったわ」と愚痴をこぼした。「スキー場のホテルはどこも満室だったから、あんたたちの所なら空いてるかなあって思ってね」真衣は笑いながら彼らにお茶を注いだ。「大丈夫よ、このスイートルームは広いから」「ちょうど空いている部屋が一つあるから、そこに泊まって」沙夜が口を開こうとした瞬間、安浩はため息混じりに言った。「わかった。悪いね」「もっと前もって予約しておけばよかったよ」「私もこんなに混むとは思っていなかったわ」真衣が言った。「ハイシーズンだから仕方ないよ」安浩は苦笑しながら言った。「このスキー場も近年人気が出てきているから、すぐに予約が埋まるんだろうな」「でも君たちの部屋に泊まれて、本当によかったよ」安浩は安堵するように息をついた。「でも、俺はソファで寝れるから大丈夫。沙夜がベッドで寝るよ」礼央は彼の肩を軽く叩き、笑いながら言った。「心配しないで、部屋にあるベッドは十分大きいから、二人で寝れるよ」安浩は口元を引きつらせ、何も言わなかった。真衣は彼らを部屋に案内した。部屋は広く、居心地の良い上品な内装で、真ん中に大きなダブルベッドがあり、その横にソファがあった。「どう、悪くないでしょ?」真衣は笑いながら言った。「アメニティは全部揃っているから、安心して」沙夜はゆっくりと部屋に入り、大きなダブルベッドを見つめた。彼女は小さく頷き、「ありがとう」と呟いた。「どういたしまして」真衣は微笑んだ。「じゃあ、ゆっくり休んで」そう言うと、彼女は静かにドアを閉めた。部屋には安浩と沙夜の二人だけが残され、一瞬にして空気がぎこちなくなった。二人はその場に立ち尽くし、2人とも口を開かなかった。曖昧な雰囲気が漂っていた。しばらくして、安浩は咳払いをして、わざと落ち着いた様子で言った。「沙夜はベッドで寝て。僕はソファで寝るから」沙夜は安浩をちらりと見上げ、彼の顔にわずかなぎこちなさが浮かんでいるのを見て、心の中の気まずさも幾分か和らいだ。彼女は笑って言った。「大丈夫よ、ベッドは広いんだから、一緒に寝ても平気だわ」安浩はぽかんとし、彼女がそんなことを言うとは思っ
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第1395話

ベッドは広く、彼と沙夜の間には、かなりのスペースがあった。彼は天井を見つめながら横になっていたが、どうしても眠れなかった。そばからは、沙夜の均等な呼吸音が聞こえてきて、ほのかな香りも漂っていた。彼は思わず体を沙夜のに向け、彼女の後ろ姿を見つめた。彼の心拍は、なぜか制御できないほど速くなっていた。沙夜とは長年の知り合いで、ずっとこのまま親友でいるだろう思っていた。しかし今夜、目の前にいる彼女の後ろ姿を見て、彼の中でこれまでにない感情が心に芽生えた。彼は軽くため息をつき、目を閉じて落ち着こうとした。気がつくと、彼はうとうとと眠りに落ちていた。一方、リビングのソファでは、真衣は礼央の胸元に寄りかかっていた。「先輩と沙夜、本当に恋に落ちたりしないのかな?」真衣が小声で尋ねた。礼央は低く笑い、彼女の額にキスをした。「こればかりはわからないね」真衣はうなずき、彼の胸元に寄りかかって目を閉じた。翌朝、千咲と翔太は早く目を覚ました。二人は興奮しながら安浩と沙夜の部屋のドアをノックした。沙夜はノックの音で目を覚まし、飛び起きると、隣で眠る安浩を見て頬を真っ赤に染めた。安浩も目を覚ました。彼は目をこすりながら、沙夜の赤らんだ頬を見て、心の中に湧き上がる違和感がさらに強くなった。二人は慌てて着替えて、ドアを開けた。すると、千咲と翔太が小さな顔を上げ、満面の笑みで言った。「常陸おじさん、沙夜姉さん、スキーに行こうよ!」沙夜は二人のピュアな笑顔を見て、心のきまずさが一瞬で消えた。彼女はうなずき、笑いながら言った。「いいわよ!」安浩も笑い、手を伸ばして千咲の頭を撫でた。「おじさんが遊びに連れて行ってあげるよ!」安浩は2人の子供たちをスキーに連れて行き、沙夜と真衣はそばの休憩スペースで彼らを見ていた。「昨夜はよく眠れた?」真衣が笑いながら尋ねた。沙夜はうなずいた。「ぐっすりね」真衣は彼女を見て、思わず笑みをこぼした。「先輩はあなたに気があるみたいだよ」「冗談言わないでよ、私たちはただの友達だから」真衣は笑って、それ以上は何も言わなかった。愛は、ゆっくりと育まれていくものでもある。遠くでは、礼央と安浩が子供たちと楽しそうに遊んでいた。千咲の笑い声は鈴のように澄んでいて、翔太の
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第1396話

彼女は落ち着きを取り戻し、唇を噛んで、「口先だけじゃないことを願っているわ」と言った。「わかっているよー」安浩はわざとらしく語尾を伸ばし、からかうような口調で返した。沙夜は軽く彼のことを押した。「こっちは真面目に言ってるんだからね!」安浩は笑って頷き、手を伸ばして沙夜の手首を握った。掌は温かく乾いていた。「体を下げて、膝を曲げて、僕のリズムに合わせて」彼はとても優しい声で辛抱強く教えた。「緊張しないで、体重を後ろにかけてゆっくりやって」沙夜は指示通りにしたが、足元のスキー板がまるで自分の意思を持っているかのように動いた。わずか二歩ほど進んだところで、彼女は突然コースから外れてしまったのだ。彼女は息を呑み、体が前に倒れそうになる。安浩は素早く反応し、すぐに手を伸ばして彼女の腰に腕を回し、支えようとした。慌てた沙夜は、スキーポールを乱暴に振り回し、バランスを崩してしまった。「バンッ――」二人は雪の上に激しく倒れ込んだ。沙夜は安浩の腕の中に倒れ込み、鼻が彼の胸にぶつかり、呼吸しづらくなっていた。彼女は顔を上げて、笑っている安浩の目と合った。彼女は一瞬、その目を見てうっとりしていた。安浩は彼女の腰をしっかりと抱き寄せ、二人はぴったりと寄り添い、吐息が混ざり合っていた。彼の体から漂うシダーウッドの香りに、陽だまりのような匂いが混ざり合い、それが沙夜の鼻先にまとわりついた。すると、彼女の心臓鼓動は、抑えきれないほど速くなった。「大丈夫か……?」安浩の声は少しかすれていた。彼は腕の中の沙夜を見下ろした。彼女は寒さで頬が赤くなり、鼻先も赤くなっていた。まるで怯えた子ウサギのようで、とても可愛らしかった。彼はより強く腕を締め付けた。沙夜はぼんやりした状態から目が覚め、突然彼の腕から抜け出した。彼女は必死に起き上がろうとしたが、まだスキー板を履いているのを忘れていて、立ち上がった途端、また転びそうになった。安浩は素早く反応し、手を伸ばして彼女を引き寄せ支えた。「意外と不器用なんだな」彼は揶揄うように言った。沙夜は彼を睨みつけたが、言い返す力もなかった。彼女はウェアについた雪を払ったが、指先にはまだ彼の手のひらの温もりが残っていた。彼女は顔を上げずに言った。「あなたのせいよ。教
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第1397話

安浩と沙夜が滑り終わると。真衣は千咲の手を繋ぎ、礼央はその後ろから翔太と一緒に歩きながら、一行はホテルへ向かった。沙夜と安浩はともに雪まみれになってしまい、鼻先を真っ赤に凍らせていたが、2人とも先に口を開こうとしなかった。空気には、言い表せないほどの曖昧さが漂い、耳元をかすめる風の音さえ、どこか甘ったるい響きを帯びていた。「あの……」沙夜が沈黙を破り、風で乱れた髪を整えながら、足元の雪に視線を落とした。「さっきはありがとう。おかげさまでひどい転び方をしなくて済んだわ」安浩は彼女の横顔を見た。街灯の光が彼女の顔に落ち、柔らかな顎のラインを浮かび上がらせていた。彼は思わず笑みを浮かべ、低く心地良い声で言った。「無事でよかった。僕たちはもう友人同士じゃなくて、籍を入れた本物の夫婦なんだから、遠慮しないで」「誰が本物の夫婦よ」沙夜は彼を睨みつけ、「家族のためについた嘘に過ぎないわ」「嘘?」安浩は眉をつり上げ、歩調を緩めて彼女の横にきた。「じゃあ、この嘘の関係を本物にしてみるのはどうだい?」沙夜の足は突然止まり、心臓が何かにぶつかったように高鳴った。彼女は顔を上げると、安浩の深い瞳に捉えられ、そこに浮かぶ笑みには幾分かの真剣さと戯れが混ざり、本気かどうか見分けがつかなかった。「あなた……」沙夜は続けた。「何を言ってるのよ」安浩は低く笑い、彼女の肩に積もった雪を払った。彼の指先が彼女の首筋に触れ、かすかなくすぐったさを残した。「僕は本気だからね」安浩がそう言い終わると。「沙夜姉さん!常陸おじさん!早くしてよ!みんなでお鍋を食べに行くよ!」向こうで千咲と翔太が叫んだ。沙夜は「今行くわ!」と急いで返事をした。彼女は安浩の目を見る勇気もなく、速足で前へ進んだが、心臓の鼓動は相変わらず激しかった。安浩は彼女が逃げるように去る後ろ姿を見て、瞳の奥の笑みをさらに深めた。彼は自分の下顎を撫で、自信に満ちた笑みを浮かべた。ホテルに戻ると、子供たちは疲れ果ててソファに倒れ込み、早くお風呂に入りたいと騒いでいた。真衣と礼央は子供たちのパジャマを探すのに忙しく、一方、沙夜と安浩は自分の部屋に戻ろうとした。部屋のドアが開いた瞬間。中央にある大きなダブルベッドは、暖かい光に照らされ、曖昧な空気が一瞬漂った
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第1398話

当時、彼はいつもいろんな女の子に囲まれていたので、彼女は自分の気持ちを胸に秘めておくことしかできなかった。その後、家族から結婚を迫られ、彼女は安浩の偽装結婚の提案に同意するしか選択肢がなかった。彼女は、二人は名ばかりのカップルとして永遠にこのままでいるだろうと思っていた。しかし、スキー場での転倒と彼が言った言葉によって、彼女はひどく動揺していた。沙夜は頭を振って、混乱した考えを頭から追い出そうとした。彼女はパジャマを手に取って浴室へ向かった。温かいお湯が体を包み、疲れや寒さをすべて取り除いてくれた。沙夜はシャワーしている時に目を閉じたが、頭の中には依然として安浩の姿が浮かんでいた。シャワーを浴びて出てくると、安浩はすでに戻ってきていた。彼はソファーで本を読んでいた。照明の暖かい光が降り注ぎ、彼の端正な顔立ちを際立たせていた。足音が聞こえると、安浩は顔を上げた。沙夜はバスローブを着て、髪は濡れていた。頬は赤く、目は澄んでいて、そんな彼女の姿を見て、彼は思わずドキドキしてしまった。安浩は本を置いて立ち上がった。「じゃあ次は僕が入るね」「うん」沙夜はうなずき、彼を見ようともせず、すぐにベッドに座った。安浩が浴室に入ると、すぐにシャワーの音が聞こえてきた。沙夜はベッドに座り、シャワーの音を聞きながら、心臓がドキドキしていた。しばらく経つと、浴室のドアが開いた。安浩は灰色のバスローブを着て出てきた。彼の髪は濡れていて、水滴が髪を伝って首元に落ちていた。沙夜は思わず彼の方を見てしまい、頬がさらに赤くなった。彼女は急いで頭を下げ、枕を整えるふりをしたが、心臓が喉から飛び出しそうなほど激しく鼓動していた。そんな彼女を見て、安浩の笑みはさらに深まった。彼はベッドまで歩み寄り、少し距離を置いて彼女の隣に座った。かすかなボディーソープの香りが辺りに漂い、息苦しいほどの曖昧な雰囲気が漂っていた。「あの……」最初に沈黙を破ったのは沙夜で、彼女は指でベッドのシーツをしっかりと握りしめながら言った。「今日はスキーを教えてくれてありがとう」「楽しめて何よりだ」安浩は彼女の方を見ながら、「沙夜は元からセンスがあるんだよ。ただ緊張しすぎていただけだと思う」沙夜は軽く頷き、それ以上は何も言わなかった。部屋
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第1399話

髪の間から礼央の手のひらのぬくもりが伝わり、ほのかなシダーウッドの香りを帯びていた。それで、真衣は一日中張り詰めていた神経が一瞬でほどけた。真衣は礼央の胸元に寄りかかり、軽く首を振った。「疲れてないわ。みんなが楽しそうにしてるのを見ると、私も嬉しくなるから」二人は顔を見合わせて微笑み、息を合わせるように足音を殺し、子供部屋から出ていった。リビングのソファに腰を下ろした途端、真衣の携帯が不意に鳴り響き、画面には「お母さん」の文字が表示されていた。彼女は一瞬たじろぎ、子供たちを起こさないよう急いで電話に出た。「もしもし、お母さん」真衣の声は極限まで抑えられていた。電話からは、疲れながらも安堵の混じった慧美の声が聞こえた。「いい知らせよ。景司が……離婚に同意してくれたの」真衣の心臓は一瞬強く震え、携帯を握りしめる指先がわずかに締めつけられた。彼女は一瞬自分の耳を疑った。「本当に?お父さんはなんか無理な条件とか言ってこなかった?」ここ数年、慧美と景司の結婚生活は形だけのものになっていた。景司は賭博に溺れ、貯金をかなり使い果たした上、慧美に嫌がらせをすることもしばしば合った。昔の情けとかがなかったら、慧美はとっくに彼の元を去っていただろう。以前真衣が慧美の離婚訴訟を手伝った時、景司はあらゆる手段で妨害し、法外な賠償金を要求していたのに、なぜか突然折れたのだ。「何も言ってこなかったわ」慧美の声は涙に咽びながらも、どこか解放されたような安堵がにじんでいた。「彼もさすがに疲れたんだろうね。今朝、市役所に行って手続きしたの」「お母さん、やっとこの日が来たね」真衣の目頭が熱くなり、長年胸につかえていた重い石がやっと消えた。真衣は鼻をすすりながら、声を震わせて言った。「よかったね、お母さん。これでやっと自分の人生を生きられるね」「これからは私と一緒に住むのも良いし、行きたいところに連れて行くよ。何でも言ってね」「ありがとうね。でも、私には私なりの考えがあるの」慧美は微笑み、自分と千咲の世話をしっかりするようにと何度も真衣に念を押してから、名残惜しそうに電話を切った。携帯を置くと、真衣は深く息を吐き、緊張していた肩の力がすっかり抜けた。彼女はこれまで何年も慧美の離婚のことで悩み続けていたが、今はすべてが解決した
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第1400話

真衣の声には一抹の不安が混じっていた。「さっき子供を寝かしつけてから、ずっと心がざわついているの。まるで窓の外から誰かに見られているみたいで」礼央は眉をひそめ、優しかった目は、警戒の色に変わった。彼は真衣の手の甲を軽く叩き、低く重い声で言った。「余計な心配はするな。ちょっと見てくる」そう言って立ち上がり、彼は窓辺に近づくと、まずはカーテンの隙間から外を覗いた。深い闇の中、ホテルの庭園だけが灯りに照らされ、スキー場はひっそりとして人影ひとつなかった。彼はカーテンを開け、窓を押し開けると、雪を伴った冷たい風が吹き込み、彼のもみあげを軽く揺らした。彼は窓の外をくまなく見渡した。遠くには山脈が見えるが、風が梢を揺らす音以外は、何も物音はなかった。「誰もいない」礼央は窓を閉めると、真衣のもとに戻り、彼女の頭を撫でながら言った。「きっと今日は疲れているんだ。慧美さんの離婚の話を聞いたばかりで、気持ちが動揺しているからだろう。そんな気にする必要はない」真衣は頷いたが、心のどこかでまだ不安を感じていた。自分が過敏になっているのはわかっていたが、誰かに見られているという感覚は、あまりにもリアルで、胸騒ぎがした。礼央は彼女の心を見透かしたかのように、身を屈めて彼女を抱き上げ、寝室へと向かった。「とりあえず寝よう」「俺がいる限り、お前や子供達を傷つけられる者はいない」彼の声は低くて力強く、安心感を与える響きだった。真衣は彼の腕の中で丸くなり、鼻先に漂う彼の匂いのおかげで、心の不安が少しずつ温かさに包まれていった。夜が明けて。朝になり。千咲と翔太は早くに目を覚まし、子供部屋で賑やかに騒ぎながら、まだぐっすり寝ていた真衣と礼央を起こした。身支度を整えた四人は、朝食をとりに下のレストランへ向かった。ホテルの朝食はビュッフェスタイルで、カウンターには様々な食べ物や飲み物が並び、食欲をそそる香りが漂っていた。千咲と翔太は小さな皿を持って、嬉しそうにお気に入りの食べ物を選びに行き、真衣と礼央は後ろから優しい眼差しでその様子を見守っていた。ちょうどその時、聞き覚えのある女性の声が、幾分かわざとらしい熱意が込められて聞こえてきた。「高瀬社長、寺原さん、奇遇ですね」エラはバッチリとメイクを決め、髪もきちんと結ばれて
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