All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 411 - Chapter 420

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第411話

風にずっと当たっていると、風邪を引きやすくなる。真衣は軽く「はい」とだけ返事した。彼女が顔を上げると、また礼央と視線が合った。その目には深く暗い感情が渦巻いており、真衣が読み解けるものではなかった。しかし、そこには果てしない冷淡さがあることだけは、はっきりとわかっていた。また真衣が、自分の大切な人を冤罪にかけたと礼央は思っているのだろう。真衣は歩き出し、萌寧の横を通り過ぎるとき、わざと肩で強くぶつかった。萌寧はこの突然の攻撃に驚き、心臓が跳ね上がり、体がよろめいた。礼央がそばにいたので、彼女はすぐに彼の手を掴んだ。「礼央、助けて!」礼央は眉をひそめ、萌寧をしっかりと掴んで引き戻し、噴水に落ちるのを防いだ。引き戻された萌寧は、まだ恐怖で震えていた。真衣は冷ややかにこの様子を見て、ただ滑稽だと感じた。なんて仲がいいんだろう。「寺原さん――」萌寧の心臓はまだドキドキしていた。「仕返しのつもり?」「仕返し?」真衣が聞き返した。「さっきあなたはわざとじゃないって言ったでしょ?私のことがただ見えていなかったって。これが仕返しなわけないでしょ?」萌寧はその場で固まった。真衣は元から口が達者で、口論になると勝ち目がなかった。萌寧は歯を食いしばった。「さっき私を冤罪にかけようとしたくせに。私に対していつも偏見を持っているから、仕返しに決まっているじゃないの」「あなたがこんなにゲスい女だとは思わなかったわ」その時、真衣は少し頭を下げてこめかみを揉んだ。全身がびしょ濡れで、この仕草は彼女をより虚弱で可哀想に見せた。真衣は申し訳なさそうな声で、「さっき転んで、ちょっとめまいがして、道がよく見えなかったの。だからわざとじゃないの」萌寧は一瞬、言葉を失った。彼女はこの言葉にぐうの音も出なかった。あんなに派手に転んでしまった人に、これ以上責めるのは気が引けると萌寧は思った。「寺原さん――」この状況では、監視カメラを見返しても、わざとかどうかは判断できない。幸い、萌寧は噴水に落ちずに済んだ。萌寧は無理やり怒りを飲み込んだ。「いいわ、私は男のように寛大な性格の持ち主だから、あなたのような女とはもう争わないわ」「たとえ今日あなたが私を噴水に突き落としたとしても、あなたがそれで喜ぶなら私は構わ
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第412話

人影を見た瞬間、真衣は一気に目が覚めた。彼女は慌てて目を見開いたが、何もないことに気づいた。薄暗い部屋には明かりがついておらず、真衣はベッドに手をつき、警戒しながら起き上がった。部屋には誰もおらず、がらんとしていた。誰も入ってきていないことを確認すると、真衣はほっと安堵のため息をついた。我に返ると、額にびっしょりと冷や汗をかいていることに気がついた。噴水に落ちてから、彼女は軽い風邪をひき、全身にだるさを感じていた。このリゾート地で、真衣は落ち着いて眠れていない。目が覚めてからは、真衣は再び眠ることはなく、夜が明けるまで起きていた。翌朝。宗一郎は深津市に戻る予定で、彼らは別々で帰路につくことになった。「一緒に空港まで行こう」荷物をまとめた宗一郎は、真衣の顔色が悪いのを見て、「昨夜はよく眠れなかったのか?」と尋ねた。真衣は首を振った。「大丈夫です、飛行機の中で少し休めますから」宗一郎はしばらく黙り込んで真衣を見つめた。ふと、彼は穏やかに笑いながら言った。「このホテル、何かがおかしいよね?」「二日間とも夜寝る時に怖い夢を見て、全然眠れなかったんだ」真衣はその言葉を聞いて、確かにそうだと感じた。昨夜も彼女は落ち着いて眠れず、夜に見た人影は、きっとただの見間違いだと確信していた。何せ、目を開けて明かりをつけた途端、人影は消えてしまっていたからだ。真衣は全ての調査データをまとめ、第五一一研究所に送った。帰宅後、真衣が最初にしたことは、千咲を迎えに行くことだった。千咲は真衣の帰りを見ると、べったりとくっついてきた。「ママ、会いたかったよ」「私はもうすぐ夏休みに入るし、新学期からは小学一年生になるんだよ。そうすればママは毎日送り迎えで大変じゃなくなるよ」千咲はよくわかっていた。ママは自分を幼稚園に送るために、朝早く起きて朝食を作って、仕事もしている。いつも朝起きたとき、すでにママは朝食を作ってくれている。自分ですらまだ眠くてたまらないのに、夜遅く寝て朝は早起きしているママがどれだけ眠いかと思うと頭が下がる。千咲は真衣の首に抱きつきながら言った。「ママ、私たちはもうあの家にいないんだから、自由に暮らせるんだよ。別にママは毎日料理しなくてもいいし、朝は時間を節約するために、外で朝食を食べ
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第413話

この中にはきっと礼央の意向も働いている。真衣はこうしたことで彼らと言い争いをするつもりはなかった。どうでもいいことなら、彼女も気にしない。その時。真衣はまた良い知らせを受け取った。彼女が新たに発表した論文が、科学技術情報データベースに掲載されたのだ。江村と加賀美先生はこのことを知ると、すぐに真衣に電話をかけて祝福した。彼女の人生の新たな1ページが始まった。この論文は以前発表したものの続編と言える。より内容もブラッシュアップされ、かつ革新的だ。業界ではすでに多くの人がこの論文を読み、学術的な議論を交わしている。真衣はこの知らせを聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。彼女は深く息を吸い込んだ。彼女が窓の外に目を向けると、木々の緑が生い茂り、鳥や虫の声が響いていた。夏の熱気が活気にあふれ、すべてが新たな始まりを告げているようだ。-高瀬グループの創立記念日当日。各界の大物がこぞって参加する。あらゆる業界の大物がこのパーティーに訪れるため、人脈を広げるにはもってこいの場だ。公徳もこのパーティーに参加するために、出張から戻ってきた。真衣はその日の朝、ある郵便物を受け取った。精巧に包装されたギフトボックスを見て、彼女は眉をひそめた。自分は何も買っていないはずだわ。次の瞬間、礼央から電話がかかってきた。礼央の声は落ち着いていた。「お前が創立記念日で着る衣装と身につけるアクセサリーを準備しておいた」「1時間で支度を済ませろ。すぐに運転手が迎えに行く」彼は真衣がパーティーに参加するかどうかを尋ねもせずに、勝手にすべてを手配していた。相変わらずの強引さだ。真衣は俯いて手元のギフトボックスを開けた。ボックスには淡い青色の美しいドレスが入っていて、細部まで丁寧に仕立てられている。「わかったわ」真衣は軽く返事した。-礼央が手配した車はすぐにきた。真衣は乗り込み、パーティー会場に到着した。萌寧はとっくに到着しており、憲人と高史もいた。意外なことに、宗一郎や恭之助、それに総士も全員いた。真衣は一瞬、固まってしまった。礼央は真衣が乗っている車が止まるのを見て、視線を彼女の方に向けた。彼女は、礼央が準備したドレスとアクセサリーを身につけていなかった。代わりに赤いドレ
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第414話

雪乃はそういう女を見下している。名家の世界では、どんなに顔が綺麗でも意味はない。目上の人の顔を立てることが大事だ。真衣は自分がどんな安っぽいドレスを着ているのかもわかっていないようだわ。よくもこんな格好でパーティーに来れたわね。富子は真衣が来るのを見て、満面の笑みで迎えた。「千咲は一緒じゃないの?」こういう場に、真衣は千咲を連れてきたくなかった。何しろ、高瀬家と千咲は、もう何の関係もないから。「今日は授業があるんです」真衣は適当な理由をつけてごまかした。富子もそれ以上は何も言わなかった。真衣がゆっくりと会場に入ると、多くの人が彼女の元へ挨拶に来た。そして、九空テクノロジーの最近のプロジェクトの進捗について尋ねた。九空テクノロジーは現在、業界内で最も注目されている存在だ。みんなこぞって協業したがっている。萌寧は淡いアイボリーの中性的なスーツに身を包み、その佇まいは実に洗練され、きびきびとした印象を与えていた。彼女はずっと礼央のそばに立っていた。真衣は会場に入ってから今に至るまで、多くの人たちのヒソヒソ話を耳にしていた。みんな口を揃えて、萌寧が高瀬夫人だと言っていた。今日の創立記念パーティーも、萌寧が企画したものだと言う人もいた。周囲の視線はほとんど真衣に集中しており、ときおり萌寧の方へと目を向ける人もいた。そして、その件について、萌寧と礼央は終始無言だった。説明しないと言うことは、黙認するのと同じことだ。真衣は礼央とすでに離婚しており、こうしたことには全く興味がなかった。真衣は、知らない間に多くの人に囲まれていた。九空テクノロジーとの協業について話をしたい人たちでごった返していた。萌寧は眉をひそめた。高史は萌寧を見た。「九空テクノロジーは私たちと協業したおかげでこんなにも業績を伸ばしているのに、なんで全部の手柄が彼女ひとりのものになってるの?」「本当に厚かましい女だな」高史は軽蔑するように言った。「萌寧も真衣の方に行ったら?技術的な質問に彼女が答えられずに、俺たちの評判を落とすようなことがないようにしないと」萌寧は軽く頷いた。確かにその通りだ。何といっても彼らは今や協力関係にあり、同じ船に乗っているようなものだ。協業関係もまだ解消されていない。真衣たちは
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第415話

真衣は、礼央のために来たのではないと言いたかった。真衣が礼央が準備したドレスを着る必要もない。礼央は、真衣はブルー系のドレスを好んでいると思い込んでいる。しかし、実際はそうではなく、それは単に真衣が高瀬家の審美観に合わせていただけだ。礼央はこれらの言葉を聞き、表情には大きな変化はなかったが、ただ深淵のような瞳で真衣をじっと見つめていた。彼はしばらく無言だった。真衣もこれ以上彼の相手をしたくなかった。結局。礼央は再び口を開いた。「パーティーが終わって、夕食を食べてから部下に家まで送らせるよ」真衣は携帯を取り出して時間を確認した。「もう少ししたら帰るわ」彼女はこの後仕事があるので、一日をここで費やすわけにはいかない。彼女が来たの、富子の顔を立てるためだけにきた。決して高瀬家のためではない。ましてやこのような場において、彼女が人脈を広げることは決して悪いことではない。礼央がどう高瀬家に真衣との関係を説明するかは、それは礼央の問題だ。「礼央、ちょっと来て」萌寧が少し離れた場所から手招きしている。礼央は眉をひそめ、真衣を一瞥すると、すぐに萌寧のところに向かって歩いて行った。礼央が去ったあと、真衣の耳に多くの噂話が聞こえてきた。高瀬夫人はしっかりしていて、礼央とお似合いだと。「私はむしろあの赤いドレスの女性の方が高瀬社長とお似合いだと思うけどなあ」「デタラメを言うな。高瀬社長はまるで見知らぬ他人と接するように彼女と接していたぞ」真衣は聞こえないふりをした。高史が通りかかり、嫌味たっぷりに真衣を見た。「もう離婚したくせに、よくこんな場にそんなドレスを着て来たな。恥を知れ」真衣は高史を見上げ、口元を歪めて冷笑した。「あなたが来られるなら、私が来られない理由はないでしょ?」高史は目を細めて真衣を見た。真衣という女はなかなか棘があると感じた。よそ者が図々しく居座るだけでも問題なのに、その立場を利用して好き勝手にしやがって!「母さん」桃代と景司が一緒にやってきた。萌寧が桃代を「母さん」と呼ぶのを見て。周囲の誰もが状況を理解した。高瀬夫人が「母さん」と呼ぶなら、それは高瀬社長の義母に違いない。萌寧は礼央と一緒に桃代たちを出迎え、礼央は淡い笑みを浮かべていた。一瞬にして
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第416話

その場にいたほぼみんなが、公徳が呼んだのは萌寧だと思っていた。そして、萌寧はこの言葉を聞くと、無意識に礼央の方を見た。礼央の顔には冷ややかさと静けさが漂い、その表情は読めないほど陰りを帯びていた。萌寧が視線を合わせても、礼央の目には何の変化もなかった。萌寧は心の中で、礼央の眼差しに特に変化がなければ、それは黙認していることを意味すると考えた。そしてそれは、礼央がすでに事前に公徳と話をし、会社の創立記念パーティーの場で萌寧を自分の嫁として認めることを意味している。すべての人の視線が自然と萌寧の方に向けられた。高瀬家の人たちと、一部事情を知ってる人たちだけが、真衣の顔を見ていた。真衣はこの言葉を聞いて、わずかに驚いた。真衣は意外に思った。実際のところ、公徳は真衣に何かを命じるようなことは決してなかった。お茶を淹れたりするのも、ただ真衣が自分から進んでしていただけで、真衣が望まない限り、公徳は決して彼女に強要しなかった。ましてや今日は――このような場で、はっきりと真衣にお茶を淹れさせるようなことは、公徳のやり方ではないはずだ。どうやら、公徳は意図的にこうしたことをしようとしているようだ。真衣はその場にじっと座り、静かに場の様子を見ていた。しかし、萌寧がこの時に動いた。彼女はお茶を一杯公徳のところへ持って行った。公徳は淡々と萌寧を見て、そのまま彼女の横を通り過ぎた。「真衣、こっちへ来なさい」公徳は直接真衣に向かって手招きした。公徳は萌寧の手からお茶を受け取らなかった。彼女は完全にその場で固まってしまった。萌寧は手を引っ込めることもできず、差し出したお茶も誰も受け取ってくれず、みんなの前で公徳に完全に無視された。公徳は彼女に恥をかかせた。まる萌寧が勝手に勘違いしていたかのようだ。彼女は助けを求めるように礼央を見た。礼央はうつむいて携帯を見ており、彼女のことなど気にしていないようだ。「彼女は高瀬夫人じゃないみたい……しかも高瀬社長は全く気にかけていないようだ」「そうだね、たとえ高瀬夫人でなくても、知り合いだったら高瀬社長は挨拶ぐらいするはずだ」「実は全くの赤の他人じゃないのか?」周囲の人々はこの状況を見て、ざわめき始めた。真衣は公徳の言葉を聞きながら、こうした場で彼の面子
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第417話

「特に変わらずだね」礼央が口を開いた。「父さんがもし俺たちの結婚生活に興味があるなら、別荘に監視カメラを設置して、24時間人を張り付かせればいいじゃん。父さんのやり方にぴったりだ」公徳はこれらの言葉を聞いても、特に表情に変化はなかった。友紀は公徳が帰ってくるのを見て、おどおどしながら隅の方に隠れ、少し怯えていた。公徳が家にいないと、友紀はまるで自分が一番偉いかのように振る舞い、威張り散らかす。公徳が家にいる時は、友紀はおとなしくしているしかない。彼は、自分の家族がいかなる過ちも犯すことを許さなかった。「高瀬さん――」この時、誰かが近づいてきた。「寺原さんは、高瀬社長の奥様ですか?」公徳は何も言わず、ただタバコに火をつけた。彼は沈黙し、権力者としての威圧感が滲み出ていた。眉間の静けささえも人を震え上がらせるほどだった。公徳は煙を吐き、萌寧を見た。「真衣は我が高瀬家に嫁いできた、礼央の嫁だ」「どうして最近、真衣以外の女が礼央の嫁だっていう噂ばかりが聞こえてくるんだ?」萌寧はこの一言で、全身の力が抜けるほど驚いた。彼女の頭の中は真っ白になった。この場で公徳が真衣が礼央の嫁であることを認めれば、ほぼ全員が萌寧が礼央の嫁の座を狙って成り上がろうとしていることを知ることになる。何しろ、今日のパーティーの企画の段階で、萌寧はすでに来場するゲストたちに情報を流していた――礼央の嫁は自分であると。礼央も、公徳がパーティーに参加するとは一言も言っていなかった。萌寧は今日のパーティーで、自分の運命を変えられると思い込んでいた。桃代と景司の顔も同様に引きつっていた。正式に高瀬家と関係を持つことになると考えていたが、結局期待とは裏腹に、手ひどく面目を潰されてしまった。彼らは、その場で穴を掘って入りたいほどだった。萌寧は強く手を握りしめ、深く息を吸った。「公徳さん、おそらく誰かが誤解して、デマを広めているのでしょう。こんな噂を気にする必要はないと思います」公徳の目には何の感情の変化もなく、ただ淡々と彼女を見て聞き返した。「つまり、俺の判断に問題があると言いたいのか?」たった一言で、圧倒的な威圧感を放っていた。人々は一斉に驚いた。公徳はその場で真衣を礼央の嫁だと認めた。みんなびっくりして、
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第418話

真衣はよく知っている。公徳は公平性を重んじ、正義感のある人であることを。しかし、真衣は礼央がどういう手段に出るかもよくわかっている。公徳がずっと真衣を守り続けることはできない。一方で、礼央は報復を望み、いつでも真衣に手を出せる。二人の間には事前の取り決めがあった。こんな状況でリスクを冒す必要はない。「特にないです」真衣は目を上げて答えた。彼女がそう答えたとしても。その場にいる賢い人たちは、真衣が明らかに脅迫されていることを知っていた。一方で、萌寧は紛れもなく真衣と礼央の結婚生活を破壊した張本人だ。その事実を、公徳によってこの場で決定的に証明された。萌寧は終始顔色がひどく、彼女の姿はまさに笑い者のピエロそのものだった。今日は彼女にとって、輝かしい一日になると思われていた。結果的に、萌寧は今日はみんなの目の前で徹底的に恥をかいた。今後どのようにしてみんなと接すればいいんだろう?その時、礼央はみんなが見ている中、真衣の方に向かって歩き出した。そして、大きな手で彼女の手を握った。真衣は瞬間的に礼央の掌の温もりを感じた。しかし、次の瞬間、真衣の胸には嫌悪感が渦巻いた。真衣は礼央の手を振り解くこともできなかった。礼央は穏やかな笑みを浮かべ、公徳を見て、「俺と真衣は仲良くやってるから、父さんは心配しなくていいよ」彼は丁寧に、二人の結婚生活には何の問題もないことを証明した。萌寧の顔は真っ青になり、礼央のこの行動は、まるで無言のうちに彼女に平手打ちを食らわせたようだ。萌寧は必死に手を握りしめ、冷静さを保とうとした。礼央も自分のためを思ってのことでやっている。自分は不倫相手という立場を確定させるわけにはいかない。今の自分は立場がはっきりせず、発言にも説得力がない。萌寧は深く息を吸い、自身の潔白を証明した。「誰がこんな噂を流したのか知りませんが、礼央と私はただの幼馴染みです。私の大雑把な性格のせいで親密に見えるだけで、これはただ悪意のある人にデマを流されているだけです」「もし犯人を見つけたら、法的措置に出ます」彼女の表情は驚くほど早く変化した。場内の誰もが苦笑した。さっきまで高瀬夫人を気取っていたのに、今更噂のせいにするのか?ただのアホだ。公徳は笑った。「事実であれ
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第419話

礼央の目はまるで深淵のように暗かった。「車で送らせる」こんな状況でも、礼央の感情を読み取ることはできなかった。萌寧は信じられないというような表情で礼央を見つめた。彼女の心は、まるで重い石を詰め込まれたように奈落の底へと沈んでいった。もし今日このまま去れば、業界内での評判は完全に失墜してしまう。しかし、一つだけ確かなことがある。真衣と礼央の夫婦仲は円満で、愛人が入り込む隙などないように見えた。ただ、萌寧が愛人だと誤解されていただけだ。まだ挽回の余地は残されている。ただ、全てを実行するには少々手間がかかる。萌寧は今日のパーティーで、みんなの目の前で追い出されるような形になった。自分はこれからエレトンテックの社長として、どうやって商売を続けていけばいいのだろう?礼央は自ら萌寧を見送ることはせず、秘書に彼女たち一家を送り出させた。萌寧と桃代の顔色はどちらもひどく悪かった。翔太は傍らで一言も発することができなかった。彼は礼央よりも公徳を恐れている。公徳は誰も逆らえない存在だ。翔太は、公徳に話しかけることさえ恐れていた。だから、公徳が萌寧を叱責していた時、翔太には理解できなかった。口を挟むことも、萌寧のために正義を訴えることもできなかった。しかし、公徳の言葉によれば、萌寧は多くの過ちを犯したようだ。結局、翔太はただ萌寧が追い出されるのを目の当たりにするしかなかった。萌寧は翔太を深々と見つめた。そして、真衣を恨めしげに睨んだ。全ての元凶は真衣だ!その憎しみに満ちた視線は、真衣をしっかりと捉えていた。萌寧は全ての過ちを真衣のせいにした。最終的に、萌寧は悔しさを噛みしめながら会場から去っていった。真衣は、萌寧が哀れでかわいそうに思えた。すべての希望を男に託しているのだから。萌寧は明らかに優秀で、自分の力でやっていけるのに、あえて多くの近道を選んだ。上流社会に飛び込むのも、十分に自力でできたはずなのに。なのに、萌寧は必ず男に頼ろうとする。景司は追い出されなかった。公徳の目には、景司は親族として映っていたからだ。しかし、彼はその場に長くは留まらなかった。「覚えてろ」萌寧たちが去った後、景司は真衣に捨て台詞を吐いた。そして、萌寧の後に続いて去っていった。
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第420話

真衣はゆっくりと目を上げ、淡々と静かに彼を見た「今日この結果は、私が引き起こしたとでも思っているの?」萌寧が去った後、噂はさらに飛び交った。公徳が人を追い払い、礼央は引き留めず、場にいた誰一人として萌寧を庇う者はいなかった。明らかなのは、萌寧が厚かましい女だということだ。礼央は、萌寧との将来のためにあらゆる策をめぐらせ、正々堂々と一緒になれるように道を整えていた。今や萌寧の行動によって、すべてが水の泡となった。しかし、礼央は何も言わなかった。真衣の視線は冷ややかで、彼女は今この瞬間、彼が何を考えているかを自然と理解していた。ただ、萌寧に我慢をさせたと思っているだけだ。真衣は冷たく笑った。「私はあなたたちの滑稽な姿を見るつもりはない。ただ、礼央がアホな女が好きだとは知らなかっただけよ」礼央が真衣を愛していないのは、確かに真衣のせいではない。ましてや、真衣は離婚を望まなかったわけではなかった。しかし、礼央はあえて急いで萌寧と一緒にくっつこうとした。特別に愛されているという確信が、萌寧を無敵にした。その愛は、片時も離れられないほど強かった。それとも、彼らは本当に親友のような関係で、ただ真衣が誤解しているだけなのか?どっちであれ、真衣が深く追及することではない。礼央は淡々と言った。「お前はそう理解しているのか?」真衣は、自分がどう理解しようと、重要ではないと感じた。彼らの間のことは自分に関係なく、これも重要ではない。「真衣、ちょっとこい」公徳がこの時、真衣に向かって手招きした。真衣は礼央と話を続けず、そちらへ歩いて行った。「お義父さん」「ああ」公徳は彼女にある人を紹介した。「君が九空テクノロジーで働いていると聞いたよ。こちらは宇宙航空研究開発機構の理事長の上林隆(かんばやし りゅう)だ」真衣はぽかんとした。宇宙航空研究開発機構は、国の宇宙開発の方針や研究計画、それに海外協力などすべてをとりまとめている機関だ。公徳の声は落ち着いていた。「今後何か仕事のことで相談したければ、上林さんに連絡してもいいぞ」隆は真衣の顔を見て、非常に穏やかな表情をしていた。「九空テクノロジーに優秀な人材がいるとは聞いていたが、まさかあなたの息子の嫁だとはな」真衣は唇を噛み、すぐに口を開いた
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