火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける のすべてのチャプター: チャプター 401 - チャプター 410

527 チャプター

第401話

礼央はこれらの言葉を聞いて、足を少し止めた。「あの方は病院の医者で、真衣のおじさんの病気について治療方針を相談しているんだ」礼央は静かな目で友紀を見つめた。「彼女に対して何か偏見でもあるの?」この一言に、友紀はぽかんとした。彼女は呟いた。「最初からあの子と結婚しないようにって言ったよね。あなたが嫌なら、あの子を高瀬家に嫁がせない方法なんていくらでも思いついていたのに」「萌寧の方がよっぽど良かったわ。あなたたちは幼馴染で一緒に育ったんだから、お似合いのカップルよ。それに、萌寧は優秀で、高瀬家の嫁としても恥ずかしくない子だわ」「今すぐ真衣と離婚して、萌寧を嫁として迎えなさい。あの子はまだあなたに気があるみたいだし、あなたたちはずっといい感じじゃなかった?」ニュースは見ていたが、見て見ぬふりをしていただけだ。友紀にも、礼央が萌寧のことが好きなのはわかっていた。でなければ、どうして様々な重要な場に萌寧を連れて行ってるのよ?礼央がこんなに優秀な才女を放っておいて、真衣のことを好きになるなんて、ありえないじゃない?友紀は深く息を吐き、どうしても礼央のために嫁を替えたいと思った。彼女は続けた。「母さんもこの件で激怒していて、あなたと萌寧は距離を取るべきって言ってたわ。正直に私に言いなさい、あなたの心の中にはまだ萌寧がいるんでしょ?」礼央は友紀の言葉を聞き、静かな目で彼女を見た。「俺の人生を全部母さんが決めてしまうなら、俺は何のために生きるんだ?」彼の声と目は静かだったが、骨まで凍るような冷たさが滲んでいた。友紀は言葉に詰まった。「私はあなたのためを思って言ってるだけよ――」礼央は、「俺には自分の考えがある」と返した。友紀は一瞬喜んだ。この言葉は、彼が確かに萌寧を迎え入れるつもりがある証拠だ。友紀は萌寧と良い関係を保てばいいだけだ。「とっくにそうすべきだったわ」-礼央が去っていったあと。総士は目を細め、真衣を見た。「どうやらあなたたちはかなり親しい関係のようですね。恨みでも抱いているんですか?」真衣は視線をそらした。「以前の関係がどうであれ、今はもうどうでもいい人です」今最も重要なのは、修司のために治療計画を立て、臓器移植を行うための準備を精一杯行うことだ。真衣は病院で総士と修司
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第402話

真衣と宗一郎は同じホテルを予約した。二人とも同じ階の部屋を取り、打ち合わせがしやすいようにした。沙夜はこの知らせを聞くと、真衣を空港まで送った。千咲は慧美に二日間預けることになった。「山口社長と二人きりだよ~これは千載一遇のチャンスだから、大事にしなよ〜」沙夜はイタズラっぽい笑顔でそう言った。「今回の出張には技術部門のメンバーも同行するわ」沙夜は眉をつり上げて、「その言い方、なんだか残念そうに聞こえるけど?他のメンバーがいるから何よ?山口社長と二人っきりの時間を過ごせないって思ってるの?」真衣は目を伏せ、沙夜を一瞥した。真衣はとても残念そうにため息をついた。「沙夜、私は今恋愛するつもりはないの。今回の出張はあくまでも仕事だからね」沙夜は彼女の堅苦しい言葉を聞いて、退屈そうに手を振った。「はいはい、わかったわ。ちょっといじっただけよ」沙夜は真衣に腕を絡ませ、唇を尖らせて言った。「人生は短いんだから、パートナーを見つけた方がいいと思うわ」「それにね、あんたと礼央の結婚生活のことを思うと、本当に辛くなるの。良い人に巡り会えなかったし、あんたがもう愛に絶望して、この先ずっと一人で寂しく生きていくことになるんじゃないかって……本当に心配なのよ」沙夜は確かに真衣を気の毒に思っていた。礼央との結婚生活でさんざん苦しんだからだ。「恋愛するつもりはない」と真衣に言われると、沙夜はますます心配になった。山口社長のような優れた男性さえ真衣の目には止まらない。恋のときめきすら感じないのなら、この先真衣はどうするつもりなのかしら……?真衣はスーツケースを押しながら歩みを止めた。深く息を吸い、真剣な表情で沙夜を見た。「沙夜、あなたが私と礼央の結婚生活を心配して、私がもう愛に絶望するんじゃないかって気にかけてくれているのはわかるよ」「でもね、人生には恋愛や結婚以外にも大切なことがたくさんあるの。これらは別に人生の必需品じゃないし、なくても幸せでいられる。だから、私を哀れんだり心配したりしなくていいのよ」それに、真衣自身も恋愛は無理をしてまでするようなものではないと思っている。ときめかない人にはときめかないから、あとは自然の成り行きに任せればいい。真衣はわざと男性を避けて恋愛をしたくないわけではなく、むしろもし
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第403話

「また会ったね」黒の装いに身を包んだ宗一郎は、どこか優雅な雰囲気を漂わせながら、当たり前のように真衣のスーツケースを受け取った。宗一郎は元から紳士的な人だから、真衣は彼の言動について特に深く考えたりはしなかった。宗一郎はスーツケースを引きながらホテルへ向かい、今後のスケジュールを説明した。「明日の朝7時に車でホテルを出発し、ベイキャッスルリゾートの近くで測量作業をする。だから今夜は現地で前泊するかもしれない。宿泊の用意を忘れずにね」今回の3日間の出張だ。真衣はうなずいた。「わかりました、種々ご調整ありがとうございます」「……」彼女の一言で、話題はそこで途切れた。二人はホテルの部屋の前に到着した。真衣は宗一郎からスーツケースを受け取った。「山口さん、こんな夜遅くにホテルまで迎えに来てくださり、ありがとうございます」「もう時間も遅いので、お早めにお休みください。明日の朝にまたお会いしましょう」宗一郎が口を開いた。「明日の朝、一緒に朝食でもどう?」彼の問いかけは優しく紳士的だった。仕事で一緒だから、朝食も共にし、一緒に出発すればいい。真衣は軽く頷き、微笑んだ。「では、明日の朝にまた連絡しますね。霧丘市には名物の朝食があると聞いていますから、ご馳走させてください」宗一郎は眉を吊り上げた。「楽しみにしてるね」-翌朝。真衣と宗一郎は一緒に朝食を食べに行った。霧丘市は観光地としても有名で、多くの人がわざわざ名物の朝食を味わいにここに訪れてくる。朝食を食べ終えると、二人は車に乗り、ベイキャッスルリゾートの方へ向かった。「寺原さんはこの辺りに詳しいんだね」宗一郎は彼女を見つめながら言った。「今日の朝食、とても美味しかったよ」真衣は宗一郎の隣に座り、タブレットで資料を確認していた。宗一郎の言葉を聞いて、彼女はタブレットから顔を上げた。「気に入ってくださって何よりです」真衣は続けた。「先日、深津市では色々お世話になりましたので、朝食だけでしたが、山口さんをおもてなしできてよかったです」彼女は礼儀正しく返事した。その笑顔もまた、優しく穏やかだ。ただ、目には見えないが、彼女のまわりには人を寄せつけない壁のようなものがあって、誰も近づくことができない。まるで誰も真衣の世界に一歩も踏み
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第404話

目を上げると。萌寧と礼央が親密そうに並んで歩いているのが見えた。真衣はちらりと見ると淡々と視線をそらし、見なかったふりをした。礼央は、萌寧が会社の創立記念パーティーの企画を担当することを断った。萌寧の性格からすると、当然少しは不機嫌になるだろう。だから、礼央は萌寧をリゾート地に連れてきて、リフレッシュさせることにした。ここまで溺愛していれば、結婚もそう遠くないだろう。宗一郎はポケットに手を突っ込みながら、二人を見ていた。彼が先に二人に声をかけた。「高瀬社長、外山さんと旅行でもきたのか?」礼央は足を止め、真衣と宗一郎の方へ視線を向けた。萌寧は真衣を見て、口元をわずかに歪めた。自分と真衣の争いにおいて、礼央は常に自分の味方をしてくれた。だから自分と真衣の間では、常に自分は勝ってきた。結局のところ、真衣はあれだけ長い間礼央に尽くしてきたのに、何の見返りもなかった。離婚しても、大したものは何ひとつ手に入らなかった。一方で、礼央は自分のどんな要求に対しても、喜んで実現してくれる。真衣が何年も費やしてきた努力なんて、自分が帰国してからのたった二ヶ月にすら敵わなかった。「うん」礼央は淡々と答えた。「山口社長は忙しいようだな。現場の業務まで見ているからな」スケジュールが許す限り、どこにでも出向く。宗一郎が言った。「高瀬社長みたいに家業を継承できる立場とは違うからね。しかも政府の高官である父親が後ろ盾としているしね。私たち働き者の百姓には高瀬社長の足元にも及ばない」宗一郎は礼儀正しく、穏やかに言った。「私が高瀬社長の立場だったら、私も今頃は女性を連れて旅行しているだろうな」萌寧は目を細めた。この言葉はどう聞いてもどこか皮肉が込められているようだった。ただ、何か反論できる点も見当たらなかった。「私と礼央はただの親友で、恋人同士ではありません。山口社長が想像するようなロマンチックな関係とは無縁です」彼女は、他人に自分のことをただの恋愛や情事にふけるような女だと思われたくはなかった。礼央の隣に立つ彼女が求めているのは、彼と同じ名声を持ち、共に成功の階段を登り、共に同じ座につくことだ。男に頼って成功する女のイメージではなく。宗一郎は表情を変えずに萌寧の言葉を聞いていた。彼は相変わらず穏
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第405話

翔太は高瀬家の跡継ぎとして、彼の実の母である萌寧が高瀬家に嫁ぐのは時間の問題に過ぎない。真衣は、萌寧とはまったく違う世界の人間だ。萌寧は潔く、言葉に一切の曖昧さを残さずに話した。完全に真衣の顔を泥の中に踏みつけるようなものだ。かつて梶田(かじた)夫人とした萌寧には何の価値もなく、誰一人として彼女を尊重したことはなかった。真衣は萌寧の言葉を聞いて、ただ可笑しく思った。真衣は萌寧の言葉の裏にある意味を理解できなかったわけではない。真衣に対する萌寧の挑発は、真衣が礼央とまだ離婚していない時からずっと繰り返されてきた。今となっては、萌寧と礼央の間がどんな関係であろうと、もう真衣には関係ない。今の萌寧の挑発的な態度は、真衣にまるで滑稽なピエロを見ているような気分にさせた。真衣にはそんな余計なことに構っている暇はない。彼女は宗一郎を見て、「山口さん、まだ道具を整理する必要がありますので、先に入りましょう」と言った。ホテルの正面には巨大な噴水がある。宗一郎は真衣のスーツケースを持ち、彼女自身は多くの道具とバッグを持っていた。ここで地質調査を行い、新素材の研究をする。彼女は調査に使う多くの道具を持ってきており、どれもかなり重い。「持てないならそこに置いておいて。後でチームメンバーが来て上まで運んであげるから」宗一郎は彼女が苦労しているのを見て言った。「わざわざ頼まなくても、私一人で大丈夫です」礼央は俯いて、彼女が力を込める腕に浮き出た血管を見た。確かに重たそうだ。礼央は手を伸ばし、直接彼女から荷物を受け取った。「何階だ?」礼央が真衣を手伝いたがっていることは明らかだった。彼は口で言うのではなく、直接行動するタイプだ。真衣は彼が軽々と重い道具を持ち上げるのを見て、特に拒まなかった。彼がどんな目的で手伝っているのかはわからないが、とにかく運んでもらえればいい。「18階」真衣が口を開いた。「見返りは何もないよ」礼央は深淵のような黒い瞳で真衣を見た。「そんなに警戒してるのか?」礼央はほとんど二人だけに聞こえるほどの声でかすかに言った。「用心するべき相手には、まったく無防備なんだから」礼央のこの言葉に、真衣は深く考え込むこともなく、彼と謎かけをする気もさらさらなかった。そもそも
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第406話

礼央は荷物を18階に置いた後、萌寧と一緒に去っていった。礼央と真衣の間には特に余計な会話もなかった。まるで偶然知り合った他人が、気まぐれに手伝ってくれたようだ。宗一郎は礼央と真衣の関係を見て、眉を吊り上げた。宗一郎は真衣を見つめて言った。「あなたと高瀬社長は結構親しそうだね。彼が誰かの荷物を運ぶのを見たことがないからな」真衣は目を伏せて荷物を部屋に運び込み、宗一郎の言葉には特に気にとめなかった。真衣はただ淡々と答えた。「それほど親しくはありません。礼央はただ人助けが好きなだけだと思います」宗一郎はその返事を聞き、それ以上は何も言わず、彼女の荷物を部屋に運ぶのを手伝った。「今夜何か手伝いが必要なら、いつでも電話してくれ」宗一郎は念を押した。「ここはリゾート地で、今はオフシーズンだから人も少ない。一人で部屋に泊まるなら、安全に気をつけてね」リゾート地は大抵辺鄙な場所にあり、観光シーズンでなければ人はほとんど来ない。辺鄙で人気が少ないほど危険だ。「ホテルの中に大人しくいます」真衣は笑いながら宗一郎を安心させた。宗一郎が少し考えすぎているように思えた。宗一郎は軽く頷いた。「何かあったら電話してくれ。一緒に出張で調査に来ている以上、寺原さんの安全を守る必要はあるからな」「お気遣いありがとうございます」真衣は礼儀正しくお礼を言い、「時間も遅いですから、そろそろ山口さんもお休みになった方がいいですよ」と言った。今日は宗一郎が真衣をいろいろと助けてくれた。真衣は、宗一郎が少し積極的すぎると感じた。真衣は実際、男性からそんなに積極的にされるのに慣れていなかった。普段の生活で、真衣が出会う異性もごくわずかだ。真衣の関心はすべて礼央に向いていたため、他の男性にはそれほど注意を払ってこなかった。宗一郎は軽く頷くと、背を向けてその場から去っていった。彼が去ると、部屋には真衣一人だけが残された。真衣は今日一日中移動していたので、疲れが溜まっていた。部屋のドアを閉めると、鍵をかけた。彼女は自分の服を片付けて、シャワーを浴びた。浴び終わると、ドライヤーを持って髪を乾かした。部屋全体が静まり返り、ドライヤーの音だけが響いていた。部屋の中は、いつもよりもひどくがらんとしていた。外もすでに真っ暗な闇に
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第407話

窓に少し隙間が開いていた。冷たい風にあおられて、レースのカーテンが静かに揺れている。部屋の中には、薄暗い灯りがひとつともっていた。そんな環境がかえって寂しさを際立たせ、幾分か不気味でもあった。真衣は眉をひそめ、さっと起き上がって窓を閉め、遮光カーテンを引いた。遮光カーテンを引き切ろうとした瞬間、彼女の手がぴたりと止まった――彼女はまるで化石にでもなったかのようその場に固まって立ち尽くし、見ていた方向をじっと見つめ直した。夜空に赤く点滅する光の点のようなものが見えたような気がした。しかし、よく見ても特に何か問題は見当たらなかった。真衣はこめかみを揉み、ここ数日の疲れがたまっているせいだと思った。彼女は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、一気にカーテンを閉めた。くるりと向き直ってベッドに倒れ込んだ。ただ、その後も彼女は何度も寝返りを打ち、なかなか寝付けれなかった。彼女は元から感受性が強く疑い深い性格で、あの正体のわからない赤い点について、心の中に疑念を抱いていた。まるで形がない目が自分をじっと監視しているようだった。このホテルに泊まっていると、彼女はどこか不気味な気持ちになった。朝を迎えたが、彼女はほとんど一晩中眠れなかった。真衣は外が明るくなるのを見てベッドから起き上がり、カーテンを開け、昨夜見た赤い点の方向に目を向けた。それは、電柱に設置された監視カメラだ。ホテルの防犯設備だ。カメラはホテルのあらゆる方位を監視している。真衣はそれが監視カメラだとわかると、ほっと胸を撫で下ろした。少なくとも、誰かが密かに自分を監視しているわけではないことがわかった。自分は誰にも恨まれるようなことをしていないから、自分を狙う人もいないだろう。「コンコン――」その時、ドアが激しくノックされる音がした。真衣は考え事をしていたので、その音にびくりと驚いた。「どちら様ですか?」「私だ」宗一郎は穏やかに口を開いた。「朝早くから申し訳ないけど、昨晩ホテルに泥棒が入ったと聞いたんだ。ちょうど寺原さんのお部屋の近くだったそうで、何か異常は感じなかったか?」「心配で居ても立っても居られなかったから、直接ドアをノックしてしまった」その言葉を聞いて、真衣はハッとした。「少々お待ちください」真
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第408話

真衣は手を振って、「大丈夫です、お手数をおかけしてしまいますし」と言った。宗一郎は彼女が自分の提案を拒んだのを見て、唇を軽く噛んだ。「じゃあ、必要ならいつでも電話してくれ」彼は常に紳士的で礼儀正しく、節度をわきまえている。拒否されたらそれ以上無理強いはしない。真衣はこのことについて特に気に留めなかった。外出中は何かとトラブルに遭うものだが、人が無事であればそれでいい。彼女と宗一郎は技術部門のメンバーを連れて、近くの山で測量を行った。山の中は湿った冷気が漂っていたが、真衣は軽装だった。「寒いのか?余分に上着があるから、車から持ってこようか?」真衣は腕を組みながら軽く手をこすった。「すみません、お願いします」そう言うと、彼女はすぐに目を伏せてメモを続けた。彼女は仕事に対して人一倍真剣で、あらゆる箇所を自ら細かく調査していた。宗一郎は部下に上着を持ってこさせ、真衣に羽織らせた。今回の調査は大成功に終わった。調査が終わった時はもう午後6時近くになっていた。空はすでに夕焼けでオレンジ色に染まっていた。寂しい場所ではあるが、なんだか不思議と美しいと真衣は思っていた。彼女は思わず携帯で写真を二枚ほど撮った。「ここの風景が好きなのか?」宗一郎は真衣の横顔を見つめていた。「実はこのリゾート地には他にもきれいな景色がたくさんあるんだ。せっかく出張で来たんだから、もう少しいて遊んでいったらどうだ?」真衣は携帯をしまいながら軽く首を振った。「いいえ、帰ったらやることがたくさんありますので」今日がここに泊まる最後の夜で、明日の朝一の飛行機で北城に戻る。彼女が一番気がかりなのは、家にいる千咲のことだった。彼らは一緒に車に乗り、ホテルに戻った。-ホテルにて。高史は彼らがここに来ていると聞き、駆けつけてきた。礼央は仕事関係のことをしていた。萌寧はホテルの下のカフェでコーヒーを飲んでいた。高史は彼女の向かいに座っていた。「真衣が山口社長と一緒に出張でここに来ているって聞いたけど?」高史はとんでもない冗談を聞いたような気がした。真衣のような女に何ができるんだ?彼女は今や本当に自分をこの業界の大物だと思い込んでいる。「そうよ」萌寧はコーヒーを一口飲んだ。「私も今、彼女がどれほどの実力が
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第409話

人生には近道もある。見つけたら、その道を歩けばいい。ただ、それぞれ努力する方向が違うだけだ。口ではそう言い、道理を分かっていても、高史は依然として真衣を見下していた。多くの女は男に寄生して這い上がる。そんな女こそ最も軽蔑に値するのだ。高史たちの周りでは、そういう女は最も見下される存在になる。自分には何の実力もなく、ただ男に寄生するだけの女。高史はコーヒーを置き、萌寧を見て言った。「こんな不吉な女の話はもうやめよう。どうせ彼女は萌寧にとって何の脅威にもならないから」「我々が共に進めているプロジェクトも完成間近だ。数日後には協業先の募集説明会が開かれる。これからもしっかり計画を立てていこう」高史は萌寧と一緒に仕事をすることを、案外楽しんでいるようだ。萌寧のような女性と組めば、スムーズにプロジェクトが進む。彼女の能力の高さが、多くの手間を省いてくれるからだ。萌寧は俯き、スプーンでコーヒーをひたすらかき混ぜた。「プロジェクトの完成は確かに喜ばしいけど、母さんの会社が心配だわ」彼女は深く息を吐いた。「プロジェクトが終わったら、母さんのことを考えないと。あれは外山家の財産だからよ」今や慧美と恭之助の会社はすでに協業関係にある。あの二人が組めば、どんな企業も太刀打ちできない。萌寧は何とか策を講じなければならない。萌寧のプロジェクトが華々しく完成したら、恭之助はビジネスマンだから、ちゃんと彼女を立ててくれるはずだ。高史が言った。「礼央に相談するといいよ。彼はそういう部分において経験豊富だから」「うん」萌寧は軽く頷いた。彼女は立ち上がり、微笑んだ。「そろそろ帰るか。礼央の仕事が終わったら、食事に行きましょう」とにかく。真衣は自分にとって問題になるほどの存在ではなく、自分の地位を脅かすこともできない。所詮は色仕掛けで成り上がった女に過ぎない。山口社長と一緒にいたからってどうってことない。年老いて色気がなくなった時でも、今のような輝きを保てるだろうか?色仕掛けは長続きしない。その下には中身のない空っぽの殻があるだけ。でなければ、こんなにも長い年月、礼央はなぜ真衣を無視し、冷たくあしらってきたのだろう?礼央のような男性が好む女性は、中身があり、実力も備わっていて、タフな女性に違いない。
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第410話

宗一郎は真衣をほぼ抱え込むようにして噴水から上がってきた。全身が水に濡れると、衣服は一層重たく感じられ、宗一郎はびしょ濡れで不快だった。真衣は水を飲んでしまったせいか、むせこみ、激しく咳き込んだ。白い小さな顔は、咳で真っ赤になっていた。宗一郎は眉をひそめ、軽く真衣の背中を叩いた。高史は彼女を見て、「そんなにか弱いんだ?ただ落ちただけじゃないか?大袈裟だな」「山口社長は随分と女性に優しいんですね。今までこんなに女性に優しくした姿を見たことがありませんでしたので」高史は言った。「忠告しておきますが、こいつはろくでもない女ですよ」「どの口を叩いているんだ?」宗一郎は冷たく高史を見た。「余計なお世話だ」「高瀬社長のところのグループ会社のトップはこの程度か?」宗一郎は嘲笑した。「考え方があまりにも低レベルだ」「こんな幼稚なクソ野郎を会社のトップにするなんて、高瀬社長らしくないな」礼央の全身からは異様な冷たさが漂い、いつも以上に冷徹な空気をまとっていた。高史はこれらの言葉を聞いて、たちまち顔を曇らせた。「良かれと思って忠告しただけなのに、感謝もせず逆ギレするんですか?」萌寧は唇を噛み、「大丈夫です。山口社長はきっと寺原さんの本性をいずれ見抜けます。あとは時間の問題です」所詮は真衣は色仕掛けで這い上がった女に過ぎないが、山口社長は賢いから、時が経てば、中身のある人間なのかどうかは自然とわかる。あとは時間の問題だわ。真衣は少し落ち着いてきたタイミングで、直接萌寧を見つめて聞いた。「なんで私をつまずかせたの?」萌寧は、真衣がそのように聞いてくるとは思ってもいなかった。萌寧は呆然とし、突然の質問に一瞬たじろいだ。確かに自分はわざとつまずかせた。真衣がこの世に存在するだけで、自分の目は穢れる。真衣の母親もそうだし、真衣もそう。真衣は自分にとって何の脅威でもないけどね。だけど、彼女は自分と何でもかんでも取り合っていて、まるでハエのように自分をイライラさせている。真衣は自分より能力が劣っていて、自分自身の力では何も勝ち取れないのに、なぜか運が良く、全てを手に入れてしまう。萌寧の俯いた瞳には、冷たい光が浮かんでいた。再び目を上げると、萌寧は無実な表情を浮かべて、すぐに言い訳を始めた。「見えて
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