火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける のすべてのチャプター: チャプター 441 - チャプター 450

527 チャプター

第441話

「では、手持ちの株式を一銭も残さず、全て真衣に譲るとしたら?」「私たちがこう要求すれば、彼もそうするだろう。萌寧のためなら、きっと承諾するはずよ」「こんな不倫女のどこがいいのかね。彼があれほど大騒ぎする価値があるとは思わないけどね」これは現状において良い方法だ。真衣が訴えを取り下げるしかない。さもなければ萌寧のキャリアに傷がつく。彼女がこの業界で生き残ることは不可能だろう。だから礼央はどんな代償を払ってでも彼女を守ろうとする。安浩はお箸を置き、ゆっくりと言った。「たとえそうでも安全とは限らない」真衣は深く息を吐き、安浩と同じ考えを抱いていた。「確かにそうね。彼が簡単に会社を譲るはずがないわ」礼央は常に緻密に計算を巡らせる狡猾な男だ。絶対的な利益の前では、それは深い罠に等しい。特にワールドフラックスのような大企業なら尚更だ。沙夜は眉をひそめた。「また何か謎かけをしているの?私の言っていることは間違っているの?株式を完全にあんたに譲渡して、100%あんたが会社を支配すれば、彼に何の手立ても残されないはずよ」安浩が口を開いた。「手段はいくらでもある。ビジネスは沙夜が思うほど単純ではない。たとえ彼が完全に株式を手放しても、会社には他の株主がいる」「ビジネスで重要なのは相手を握って離さないことだ。会社の幹部が残っている限り、会社は礼央さんのものになる。株式は単に配当と利益の権利を失うだけだ」「礼央さんのような男にとってこれは一時的なものに過ぎず、いずれ会社を取り戻すだろう」彼には合法的に会社を取り戻す手段が山ほどある。沙夜はそんな話を聞いて。「この畜生!このクソ野郎、本当に狡猾だね」真衣は昨夜、多くのことを考え、こうした可能性も想定していた。礼央のものは、確かに簡単には手に入らない。彼と結婚したことで、自分は2回命を失った。「だから、私が承諾しなければ、彼は別の理由で接触してくるわ」礼央は必ず萌寧のためにこの問題を解決するだろう。安浩は頷いて言った。「この件は弁護士に任せればいい。彼に会社を取り返される可能性を一切残さないように」「萌寧を救いたいなら、彼は身を削る覚悟が必要だわ。そんなに簡単には済まないわ」もし彼が会社全体を差し出す気なら、こちらも契約書を作成する人間を手配
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第442話

安浩はこの時、視線を真衣に向けた。「どう思う?」真衣は水を一口飲み、指先で軽くテーブルを二度叩いた。「利益の最大化を優先するわ」申し分ない大企業が目の前にあるのだから、選ばない理由はない。会社を手に入れ、萌寧を潰す。一石二鳥の好機、やらない手はあるのかしら?沙夜は顎を支えて考え込んだ。「私たちが考えつくことを、礼央が考えつかないはずがないでしょう?」安浩はそれを聞き、意味深に笑った。「もちろん彼もわかっている。ただ仕方がないのだ」「彼は外山さんを愛しているし、家庭の立場上、彼女を救うためには犠牲を払うしかない」高瀬家という名家。彼らの一挙一動は常に世間に監視されている。高瀬家の失脚を願う者や、暗に潜む敵は数知れない。弱点を握られることが、取り返しのつかない事態を招く。礼央は選ばれし者で、外から見れば高嶺の花だが、本当に自由なのか?このような家柄でビジネスをするのは、常人以上に困難を極める。おそらく普通の人々よりも苦しい生活かもしれない。だが礼央は愚か者ではない。全てを表向きにし、合法で適正な手続きを踏む。彼の背後には高瀬家がいるから、家族を賭けには出さない。真衣は高瀬家に嫁いで長年、このことを熟知していた。安浩が言った。「決断がついたなら、そちらに連絡して弁護士も交えて、しっかり話し合おう」沙夜は思わず笑みを浮かべた。「礼央は萌寧に最高の弁護士を付けたと言っていたけど、彼らのチームに勝算がないと判断したからこそ、裏ルートを選んだんじゃないの?」真衣は唇を軽く噛んだ。「彼の行動パターンからすれば、最終的には被害最小化の選択しかない」彼は常に慎重で、萌寧にはことさら優しい。自分が犠牲になっても、萌寧を傷つけたくないのだ。安浩は鼻で笑った。「たった一人の美女を得るために、ここまでやるとは……男として敬意を表するよ」沙夜は口を尖らせ、また肩をすくめた。「賢い男はバカな女が好きなんでしょ?」「幼馴染で一緒に育った男は、自分の初恋の人をいつまでも忘れられないものさ」萌寧は礼央の初恋の人であり、当然のことながら甘んじて受け入れていた。真衣はにっこり笑って、それ以上は何も言わなかった。安浩は実地テストから帰ってきたあと、第五一一研究所で報告を行い、探査衛星の完成に向け
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第443話

続けて、一通の電話をかけた。電話の向こうで長い間呼び出し音が鳴り、ようやく出た。「考えはまとまったか?」礼央の声が携帯から聞こえてくる。その声はいつもよりかすれ、ぼやけていた。まるで起きたばかりのようだ。しかし、真衣はそんな細かいことにはこだわらず、彼が向こうで何をしているかも気にしなかった。真衣は手すりにもたれ、外の夜景を見ながら、ゆっくりとした口調で言った。「うん、時間がある時に、条件について話し合いましょ」礼央は腕時計を見て言った。「今、時間ある?」とても急いでいた。真衣はそれを感じ取った。彼はこの件をできるだけ早く解決し、真衣に訴えを取り下げさせたかった。だから株式譲渡の部分については、できるだけ早く片付けたいと考えていた。「弁護士に確認してから、改めて連絡するわ」-真衣は酒井弁護士に電話をかけ、彼が今空いていることを確認した。彼らはとあるラウンジバーで会うことにした。双方とも弁護士を連れてきた。真衣が到着した時、礼央はすでに来ていた。彼が真衣より先に来ることはめったになく、離婚届に署名する時も遅れてやって来た。しかし、萌寧の件を解決することに対しては、彼は積極的だ。彼は椅子に座り、手に書類を持って俯きながらめくっていた。物音を聞いて顔を上げた。真衣と酒井弁護士がドアから入ってきた。真衣は淡々と、彼と視線を合わせた。双方の顔には何の感情も浮かんでいなかった。真衣が口を開いた。「待たせたわね」礼央は向かいの席を見て、簡潔に言った。「座れ」双方の弁護士が簡単に自己紹介した。礼央の弁護士は、弁護士界隈でも有名な人物だ。礼央は手に持っていた書類を真衣の前に差し出した。「これは糸井(いとい)弁護士が作成した株式譲渡契約書だ。追加が必要な条項があれば、相談に乗る」真衣は書類に目を通した。条項はどれもはっきりと分かりやすく書かれており、すでに会社内部の審査も通過している。礼央が保有する70%の株式を、すべて譲渡する。彼が70%もの株式を保有していることに、真衣は驚きを隠せなかった。上場企業であれば、株式はより分散しているものだ。それなのに彼は事実上の支配株主に近い状態だった。彼女は条項の中に、自分にとって不利な点は一切見当たらなかった
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第444話

会計監査については、引き継ぐ前に必ず確認しておく必要がある。万が一、大きな落とし穴があるかもしれない。礼央は足を組んで、平静な口調で言った。「いいよ」真衣は立ち上がった。「監査が終わり問題がなければ、契約にサインするし、訴訟も取り下げるわ」真衣はシゴデキだ。話が終わると、未練もなければ社交辞令もなかった。真衣は酒井弁護士と一緒にすぐに立ち去った。糸井弁護士は彼女らが去るのを見送った。そして、礼央の方を見た。礼央の表情は深く沈んでいた。「本当に譲ったのですね?」糸井弁護士はこれに理解を示せなかった。大企業で、半生をかけてここまで築き上げたもの。それをあっさりと譲ってしまうとは。そして今日の真衣には、糸井弁護士も目を見張るものがあった。自分の夫が萌寧に深い愛情を注いでいるのに、真衣の顔には怒りの色さえなかった。そして今日、彼は真の愛とは何かをまざまざと見せつけられた。誰もここまで寛大にはなれない。そして誰もここまでの犠牲を払わないだろう。ただ、礼央が高瀬家の人間だからこそ。礼央の表情は淡々としており、ゆっくりと立ち上がり、タバコに火をつけた。「ただの利益交換だ。お互いの合意のもとだ」糸井弁護士は結局何も言わなかった。彼は驚いた。真衣がワールドフラックスで働いていた時は、全く高瀬夫人らしいところを見せなかった。誰も彼らが夫婦だとは思わなかった。今日の一件で、糸井弁護士はなぜか大体わかった。礼央は真衣を愛していなかった。彼女は確かに結婚生活の中で弱い立場にある。彼女の夫の好意はすべて他の女性に向けられた。彼女はなんとそれに耐えることができたのだ。-翌日。真衣は、監査チームと共に、ワールドフラックスの経理部門に訪れた。経理部門は昨日その知らせを受け、一晩ですべての帳簿を整理した。監査が開始された。大企業の場合、通常1日や2日以上かかってしまう。みんな連携しながら監査を進めていく。真衣が会社に到着したとき、そこには馴染みのある顔がたくさんいた。真衣がくるという知らせを聞くと、みんな真衣に自分たちの以前の行いについて謝罪しに来た。彼女は今やその会社の筆頭株主になろうとしており、誰かを解雇したいと思ったら、彼女の一言で済むことだ。
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第445話

礼央の声は落ち着いていた。疑問形ではなく断定形だ。彼は心の中でわかっていた。真衣は皮肉としか思えなかった。もう離婚したのに、こんなことってもはや重要なのかしら?自分が礼央をどう思おうと、離婚する前は重要じゃなかったし、離婚した今となっては、こんな話をする必要もない。自分は彼を心から愛し、どんな苦しみも甘んじて受け入れていた。今となっては、過去の自分が愚かで哀れに思えるだけだ。二人の距離が近く、真衣は彼から漂う爽やかで懐かしい香りを感じた。真衣は声色を変えずに一歩下がり、かすかに微笑んだ。「こんなに重要なことかしら?礼央」彼女の態度はよそよそしく冷淡で、まるで礼央と同じようだった。こうして、二人の間には確かに見知らぬ他人の壁ができた。礼央は真衣を淡々と見つめ、冷たい口調で言った。「確かに、重要ではない」-監査チームは引き続き作業そ進めていた。そして二日後。監査が終わると真衣に電話が入り、特に問題がなく、財務状況は芳しいという報告があった。真衣は了解したとだけ伝え、電話を切った。電話を切った直後、礼央からワールドフラックスで契約書に署名するよう連絡が来た。安浩と沙夜は帳簿明細を見て驚きを隠せずに瞬きを繰り返した。「これがお金持ちの会社なのか。何をまだ悩む必要があるのよ?」棚からぼたもち、しっかり受け止めるだけだ。沙夜は顎に手を当てて言った。「礼央は人間としてはクソ野郎だけど、ビジネスの手腕に関しては、確かに才能があるね」安浩は思わず感嘆の声を漏らした。礼央は確かにビジネスセンスに優れていた。彼の頭脳は明晰で、どの業界にいても輝く存在だろう。以前は航空宇宙分野の天才でもあった。彼の恩師が亡くなった後、起業して転身し、高瀬グループを引き継いだ。この世界でトップ層になれる人は、運の良さも一部を占める。しかしどの業界であっても。トップに上り詰められるのは実力者だけだ。真衣は唇を噛み、この話題には口を挟まず、意見も述べなかった。礼央がどういう人物か、彼女は知っている。もしこの男に取り柄がなかったら、彼女はここまで狂おしく愛したりしない。今となっては、全てのことはまるで過ぎ去った雲のようだ。-真衣はワールドフラックスへ向かい、契約書にサインした
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第446話

萌寧は礼央の努力が泡になったことだけを惜しんだ。「命さえあれば、またやり直せる。私は彼と一緒に再起するわ」真衣は唇を歪めて、「なら大人しくしていてね。また礼央の再起を台無しにしないようね」萌寧は青ざめ、「この女――!」と叫んだ。真衣は萌寧を無視し、ドアを押してオフィスに入った。萌寧は歯を食いしばり、激しく足を踏み鳴らして去った。彼女は対策を相談する必要があった。真衣がオフィスに入ると、礼央が窓際に背を向けて立っているのが見えた。礼央は長身で、背格好が高くすらりとしていた。彼はほとんどの時間をワールドフラックスに費やしていた。今や契約が結ばれ、会社全体が彼と無関係になった。もしかしたら、彼も少しは未練があるのかしら?礼央は背後からの物音に気づき、振り返って彼女を見た。「契約書は机の上だ」礼央が口を開いた。「疑問がなければ、サインしろ」真衣は歩み寄って契約書を手に取り、めくった。そこには、彼の署名が既にあった。力強く署名されている。真衣はかつて礼央の字が好きで、模写して学び、彼の字を真似たこともあった。こればかりはどう真似ても似つかわしくない。真衣は何も言わず、ペンを取って自分の名前をサインした。礼央は彼女がサインするのを見ていた。礼央の口調はゆったりしていた。「法務局の人とはもう約束した。株式変更の手続きに行こう」彼の表情にも口調にも、未練らしきものは微塵も見えなかった。自ら望んでいるようだ。真衣は思った。たとえ彼が本心でなくても、彼女にはわからないだろうと。萌寧を救うためには、当然取捨選択が必要だ。真衣は広大なオフィスを見つめた。まるで別世界のようだ。以前はどう考えても、ワールドフラックスが最終的に自分のものになるとは、真衣は思ってもいなかった。「うん」真衣は淡々と頷いた。「富子おばあちゃんが今夜実家で食事をしないかと言っている」真衣はペンを置き、彼を見た。「翔太と千咲が小学一年生になるお祝いについての相談だ」礼央が口を開いた。「富子おばあちゃんはお前がこの方面で才能があると思っている。お前のことを待っている」真衣は富子とこれらの相談をすることを拒まなかった。彼女は淡々と言った。「富子おばあさんが私とこれらのことを相談したいなら、後
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第447話

礼央は横目で真衣を見た。「おめでとう」真衣の方では、すでに同時に訴えを取り下げており、萌寧はこれ以上訴訟に巻き込まれることもなく、これに悩まされることもない。真衣は淡々と、「あなたもおめでとう、願いが叶ってね」と言った。二人がここまで愛し合っているとは、真衣もさすがに思っていなかった。これは彼女なりの、人を立てる行動だ。真衣と礼央は一緒に高瀬家の実家に戻った。道中、二人は言葉を発さず、車内の空気さえも凝り固まったように感じられた。運転手でさえ、空気が冷たく、重く感じれた。到着したとき、翔太が玄関で待っていた。真衣が車を降りると、翔太が駆け寄ってきて「ママ!」と叫んだ。真衣は長い間翔太に会っておらず、彼は随分と変わっていた。子供は一日ごとに様変わりするものだ。真衣は返事をしなかった。翔太は眉をひそめた。もし礼央と萌寧の教育がなければ、真衣をママと呼ぶことなどなかっただろう。真衣が反応しなかったので、翔太もそれ以上近づかず、ただ口の中でぶつぶつ言った。「おばさんは何を怒っているんだろう。僕のママが入ってきたら、この家におばさんの居場所なんてなくなるのに……」会話に出てきた言葉すべてが、一言も漏れずに真衣の耳に染み込んでいった。真衣は冷笑しながら、口端をわずかに引きつらせた。「早く入れ」礼央は手を上げて、軽く真衣の肩を抱き、自分の懐に引き寄せた。慣例通り、親の前では仲の良い夫婦を演じる。しかし今、真衣は演じたくない。彼女は礼央を押しのけ、冷たい表情で言った。「長年連れ添った夫婦だから、こんなに見せびらかす必要はないわ」一緒に帰宅したことが、もうすでに全てを物語っている。礼央は何も言わなかった。家に入ると、友紀は真衣を見て、歯を食いしばった。富子はまず真衣を呼び、パーティーの話をした。一方で、礼央は応接間でお茶を淹れ、優雅な趣を醸し出していた。富子は真衣を見て言った。「彼は今日、会社をあなたに譲渡したの?」「はい」真衣はうなずいた。「とっくにそうすべきだわ。夫婦間におけるお金の管理は、女性が握るべきものだからね」真衣は何も言わずにただ淡く微笑んでいた。友紀がこの時近づいてきた。彼女の表情は冷ややかだった。「真衣、公徳が書斎で待っている」彼女は立
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第448話

書斎にて。真衣が入ってくる。公徳は椅子に座り、手にティーポットを持っている。顔に淡い笑みを浮かべて、「座れ」と公徳は言った。公徳の顔は落ち着きがあり、長年の歳月を刻んだ痕跡があったが、あらゆるところに威厳が漂っていた。真衣が座り、「何かご用でしょうか?」と聞いた。公徳が口を開く。「大したことではない。君が高瀬家に嫁いでから、俺たち二人はゆっくり話す機会がなかった。高瀬家での生活がうまくいっているかどうかも、俺は尋ねたことがなかった」「今、聞きたいのだが、何か不満な点はあるか?」彼の問いかけは穏やかで優しい。前回の創立記念パーティーでは、公徳は真衣の見方になり、萌寧を追い出した。実に頭が切れている。真衣と礼央の間に問題があることは見て取れる。特に、公徳のような人なら尚更だ。帰ってきた瞬間、彼はすべてを見透かしていた。「以前、どんな悩みも富子に話すようにと言ったが、富子も年を取っているから、君も遠慮があったかもしれない。今は俺に話していいんだぞ」彼の一言一言には、人の心を落ち着かせる力がある。もし以前に彼が真衣をこうして話し合いに呼んでいたら。真衣はきっと心から彼と話しただろう。あの時は、本当に礼央と幸せに暮らしたいと思っていたから。しかし今は違う。公徳は二人が離婚したことを知らない。彼女は高瀬家では、どうあってもよそ者だ。公徳は高瀬家の主だ。今、真衣を呼んだのは、礼央を正すためだ。真衣は目を伏せ、冷静な声で、「不満な点はありません」と答えた。公徳は彼女の言葉を聞き、顔に浅い笑みを浮かべた。彼の声の調子は変わらない。「彼が外で愛人を作ったと聞いている。外山萌寧という女性で、堂々とうちに入り込み、親友の名目で君の前に現れたそうだな」「礼央が君を脅して、俺に話さないようにさせたのか?」公徳は真衣を見て言った。「今日君たち二人を呼び戻したのは、君たちの結婚について決着をつけるためだ。どんな不満でもいいから俺に話してくれ、必要に応じて君の味方になる」「離婚したいのか、礼央に跪いて謝罪させたいのか」公徳は言葉を区切りながら言った。「どちらも叶えてやる。俺は君の意思をすべて尊重する。彼が俺の息子だからといって決してえこひいきはしない」真衣は視線を伏せ、じっとその様子を見つ
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第449話

公徳は解決する意思も、後ろ盾になる意思も、事の真相を聞き出す意思もあった。彼はまさに正義を貫く男だ。たとえ自分の実の息子であっても、決してひいきはしなかった。これが真衣を非常に困らせるところだった。「こんなに長く黙り込んでいて、本当に何か気がかりでもあるのか?」公徳は深い眼差しで彼女を見た。「無理強いはしないが、俺の質問にはありのまま答えてほしい」「わざと困らせようとしているわけではない。礼央が何か手段を使って君に話させないようにしているかもしれないが、君もわかっているだろう、俺こそが君の問題を解決できる人物だと」「礼央の教育が行き届かず、君に申し訳ないことをした。俺がきちんと対処する」真衣は眉をひそめた。彼は確かに計画的に一步一步自分を誘導していく。彼女がこれらの質問にどう答えるか考えている時だった。「カタッ――」と音がした。ドアが外から開かれた。礼央が足を踏み入れ、ダルそうなに緩やかな笑みを浮かべていた。「真衣、ずっと探していたよ」彼は真衣の手を取った。「どうしてここにいるんだ?」公徳は礼央が入ってくるのを見たが、眉一つ動かさず、威厳に満ちた表情を保っていた。書斎全体が威圧的な空気に包まれていた。公徳は権力者として、その身にはさらに威厳がみなぎっていて、怒らなくても威圧感を放っていた。真衣は深く息を吸い込んだ。「お義父さんと少し話をしていたところよ」公徳には、礼央が今入ってきた理由がよくわかっていた。公徳は手にしていた湯呑みを置いた。「入ってきたのなら、二人のことについて一緒に話そう」「父さん」礼央は片手で真衣を抱き寄せた。「彼女とは何も問題ない」「将来仮に何かあったとしても、高瀬家の名誉や父さんの地位に影響は及ぼさないから」「父さんは安心してこれからも過ごせるよ」礼央の口調はことさら冷ややかだった。「どの口を叩いてるんだ?」公徳は目を細めた。「何様のつもりだ?」礼央は返事をしなかった。そして、真衣の手を引いてその場を離れた。公徳は二人が去っていくのを見ても怒らなかった。そして、静かに茶を一口飲んだ。-真衣と礼央は書斎を出た。「何を話していた?」礼央は冷静に尋ねた。「タイミングを見計らって入ってきたということは、今日何を話すか知
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第450話

礼央も真衣に対して、まったく信頼を置いていなかった。彼女は首を傾げ、車窓の外の景色を見ながら、嘲るように笑った。長年連れ添った夫婦だが、愛情はなく、すべては打算で成り立っていた。-進学祝いパーティーの当日。高瀬家はたくさんの人をパーティーに招いた。大家族ほどこうしたことを重んじ、子供の成長により一層注意を払う。早朝。礼央は真衣に電話をかけた。電話の向こうで淡々とした声がした。「準備ができたら、迎えに行く」真衣は拒まなかった。千咲と翔太の進学祝いは一緒に祝うので、二人は同時に出席すべきだ。礼央は今日自分で車を運転して来た。翔太は車の後部座席に座っている。真衣は千咲の手を引いて階段を下りた。礼央は車のドアを開けて降りた。彼は今日黒いスーツを着ており、一層落ち着いた冷たい雰囲気を醸し出していた。礼央の表情は冷ややかで、真衣を見てドアを開けた。「助手席に乗れ」真衣は助手席に萌寧が残したプレートがまだ明らかに残っているのを見た。礼央の視線は千咲の顔に移り、「翔太と後ろに座って」と優しく言った。翔太は後部座席で窓の外の景色を見ながら、あまり良い顔をしていなかった。彼は千咲が大嫌いだ。来るたびに自分のおもちゃや食べ物を奪いとる。千咲が高瀬家を去ってから、翔太は一人で気ままに贅沢に暮らしていた。たまに彼女の存在がないと落ち着かないこともあったが。それでもやはり一人の方が良い。千咲は俯いて黙ったまま、態度を示さなかった。しかし態度からは、彼女が翔太と後部座席に乗りたくないことがうかがえた。真衣は千咲の頭を撫でた。「私が千咲と一緒に後ろに乗るわ」「俺を運転手扱いするのか?」真衣は礼央を見て、少し面白がった。「自分から望んだことじゃないの?」朝早く電話をかけてきて、真衣たちを迎えに来ると言った。離婚を公表せず、仲の良い夫婦を演じるなら、これら全ては礼央の自業自得だ。「嫌なら、私が千咲を連れてタクシーで行くか、自分で車を運転してもいいわ」礼央は冷たい笑いを浮かべ、何も言わずに運転席に乗り込んだ。真衣は千咲と一緒に後部座席に座った。翔太は不満そうに言った。「窮屈だな、そっちに寄ってくれない?」千咲は眉をひそめた。真衣はすぐに千咲を窓際に抱き上
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