All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 481 - Chapter 490

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第481話

礼央はようやくゆっくりと口を開いた。真衣は冷たい目をして、口元を歪ませて嘲笑った。「外山さんは私のところで嫌な思いをして、あなたに愚痴を言ったんでしょ?あなたは外山さんの無実を訴えにきたの?」自分はこの可能性しか考えられなかった。礼央が自分を訪ねる時は、必ず萌寧のことと関係する。礼央は用事がなければ自分に訪ねてこない。自分と礼央との間のことは、一度も話したことがない。そして、自分と礼央との間には、そもそも話すべきことなどもない。全ては萌寧のために、自分と会ってるらしい。自分と礼央が離婚する直接的な原因でさえ、礼央は萌寧のせいにした。しかし、最も重要なのは、真衣が離婚を望む理由は、彼女と千咲が既に命を代償に払ったからだ。礼央の目には、自分は何も間違っていないと映っているようだ。礼央は淡々とした表情で真衣をじっと見つめて静かに問い返した。「俺が彼女のために戦ったって、それで彼女が報われるのか?」真衣は耳障りだと思った。そして理解した。確かに礼央は萌寧のために来たのだ。「あなたが全ての会社を私に譲渡した瞬間、すでに主導権は私の手に渡っているわ」「あなたも分かっているはずよ。私と話をしても何の結果も出ないって。ただお互いの時間を無駄にするだけだわ」礼央の瞳は深く沈み、どこか意味ありげだった。「確かに一部はお前が主導権を持っている。俺はお前を尊重し、干渉もしない」真衣は眉をひそめ、彼のこの意味不明な言葉を理解できなかった。「ちなみに引っ越したのか?」礼央が真衣に尋ねた。礼央は、真衣が引っ越したかどうかについて、異常なほど執着しているようだ。「私が引っ越したかどうか気にする時間があるなら、あなたの幼馴染が今どれほど焦っているか気にかけてあげたらどうよ?」そう言い残すと、真衣は背を向けて会議室から立ち去った。「いつも、俺を遠ざけようとする」真衣は足を止め、彼の方を振り返った。「その言葉、自分で言って恥ずかしくない?」礼央の心の中に自分の居場所が一度でもあったのかしら?遠ざけるとは何よ?本当に意味不明だわ。まるで礼央の心が自分に向いているのに、自分がすべてを拒絶しているかのようだわ。礼央は深い眼差しで彼女を見つめたが、何も答えなかった。真衣は鼻で笑い、冷めた表情を
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第482話

礼央の問題の解決の仕方は、明確で筋が通っている。一つ一つの問題を片付けていく。お金に関することは全て些細なことだ。最大の訴訟問題には、既に解決策がある。そして、最終的な解決策は完璧にまとまった。真衣は――やはり、あの高嶺に咲く女だった。そして、真衣はまたゼロから全てを始めなければならない。萌寧がどれだけ不服だと感じていても、彼女は従うしかなかった。「俺もまだ全部計算していないけど、少額ではないはずだ」萌寧は不安を感じていた。「あなたは既に私に多額のお金を貸してくれて、私は収益を上げると約束した――」萌寧は深呼吸した。「エレトンテックをワールドフラックスから切り離す可能性はあるかしら?」エレトンテックの評判は順調に業界全体に広まっていた。誰もがこの会社が何をしているか知っており、裁判の主な責任が萌寧にない限り、今後の彼女の名誉毀損に関する問題は話し合いで済ませられる。会社が存続していれば、再起できないことはない。「この件は真衣に聞かなければならない」礼央の声は淡々としており、明確な答えを示していた。萌寧は心の中でまだ納得できず、なぜこんな状況になったのかも理解できなかった。「私はとても不安なの。こうした事態になることを私も望んでいなかったの……私は本来全てを一人で解決できたはずだわ」自分の実力はみんなも知っていて、業界内でも認められている。自分はどう見てもこの業界の新たなホープなのよ。今でもネット上で自分を嘲笑する声を見かけることがある。ソフィアの成果に便乗したと言われたが、自分はこの業界で仕事ができることについて嬉しく思っているし、ソフィアのような大物に近づくこともできた。だけど――真衣がソフィアだとは思わなかった。萌寧はまるでハエを飲み込んだように胸の奥がむかついた。礼央は言った。「物事はコントロールされている時もあれば、時に制御不能になる時もある」礼央は冷静沈着だった。まるで目の前で山が崩れようとしても、顔色一つ変えずにそこに立っているかのように。彼こそが萌寧にとっての心の安定剤で、彼さえいれば何も悩まなくでもいい。無理に全てを失うことをせず、まず基盤を守れば、あとで困らないのだ。結局のところ、全て萌寧の実力次第なのだ。萌寧本人に何の問題もなければ
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第483話

翌朝。真衣は千咲のために朝食を作った。千咲は自律していて、毎日早起きして、問題ドリルを解いている。千咲は加賀美先生から多くのことを学び、取り組みたいことがたくさんあった。彼女はリビングの食卓に座り、足をぶらぶらさせながら宿題をしていた。「ご飯を食べたら、ママと一緒に新しい家を見に行かない?」真衣は千咲を見つめて尋ねた。千咲はペンを置き、顔を上げた。「いいよ」真衣は最近多くの物件を見て回り、管理体制がしっかりしている高級住宅街の一戸建てを選んだ。治安も良い。千咲は幼稚園を卒業したので、幼稚園近くの賃貸マンションに住む必要はもうない。「もし新しい家が気に入らなかったら、ママともう何軒か見て回ろう」千咲は首を振った。「全部いいと思うよ。ママが選んだものなら何でも好きだよ」千咲はいつも真衣に従い、お利口だ。真衣はリフォーム済みの物件を購入した。リフォームに時間をかけたくなかったからだ。引っ越しについて考えていると、真衣は礼央の質問を思い出した。礼央はいつも自分が引っ越したかどうか気にしている。自分は彼の真意がわからない。言葉の端々に、今の賃貸マンションは安全ではないというニュアンスがあった。あまりにも多くの暗示を受けたせいか、真衣も不安になり、このマンションの警備が確かに甘いと急に感じ始めた。朝食を済ませた後、彼女たちは物件を内覧しに行った。真衣が出張に行った後は千咲を実家に預け、出張から戻ったら新しい家に引っ越せる。「今日はどこに行きたい?ママが連れて行ってあげる」千咲はじっくり考えた。「北城で行けるところは、ママと全部行ったみたい。もしママがよければ、海に行きたいな。ママの都合がつく日に行こう~」千咲は笑顔で、甘く柔らかい声で言った。何よりとてもよく気が利くのだ。真衣は仕事で忙しいが、週末はできる限り時間を作って千咲と過ごすようにしている。真衣は千咲を連れて家を内覧した後、ショッピングモールでブラブラしていた。真衣は、しばらく千咲と一緒に買い物に行っていなかった。真衣は車を運転して、北城でも一番大きいショッピングモールへ向かった。千咲は後部座席でタブレットで何かを見ていた。彼女はニュース速報のところで何かを見つけた。真衣の車がまもなくショッピングモールに到
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第484話

消火活動はいつも危険が伴う。消防士はみんな血の通った人間で、出動の度にみんな彼らの無事の帰還を願っている。人々に尽くすことこそ、すべてのサービス業の基本だ。「ママ?」千咲は真衣の険しい表情を見つめていた。心の中では少し心配していた。「消防士たちはみんなすごいから、きっと大丈夫だよ」真衣は顔を上げて千咲の頭を撫で、かすかに微笑んだが、何も言わなかった。天災や人災の前では、人間はとりわけ小さく見える。この大火災のニュースは大きな話題となった。公徳は、政府の緊急会議に出席した。夜になって火の勢いが収まると、ニュースでは甚大な被害について報じられていた。消防士2名が殉職した。翌日、九空テクノロジーに真衣が出社したばかりの時。みんなまだこの火災について話し合っていた。真衣は、技術部門のメンバーを集めて会議を開いた。終わった時にはもうお昼になっていた。「火災で甚大な被害があったニュースを目の当たりにして、新しいプロジェクトを立ち上げるつもりなのか?」安浩は真衣を見つめた。「何事も力の及ぶ範囲でやるべきだ。君の仕事は他の人でもできる。今考えるべきなのは、君自身にその時間があるかどうかだ」真衣には自分の考えがあった。「ドローンによる消火活動を早急に実現させる必要があるわ」真衣の表情は厳しかった。「コストを下げ、将来的にはこの国のすべての地域に普及できるようにする」現代社会には、多くの安全保障上の問題が存在する。科学技術の存在意義は、国家と国民の安全を守るためにある。AIは人間に取って代わるものではなく、人間に代わって危険な作業を行うべきものである。「わかった」安浩は言った。「この件は僕が主導して進める。何かアイデアがあればいつでも相談してくれ」新しいプロジェクトを始める時は、往々にして困難が伴う。安浩は書類を一部取り出して真衣に手渡した。「政府主催のイベントがある。君にスピーチを頼みたい。出張前にある程度準備して欲しい」真衣は目を上げ、チラッとだけ安浩を見た。「わかったわ」北城で起きた火災に対し、政府は緊急会議を開き、対応策を講じた。最新の科学技術をテーマにしたイベントには、多くの企業が参加する予定だ。沙夜がオフィスに入ってくると、顔には明るい笑みが浮かんでいた。
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第485話

真衣はその言葉を聞き、淡々と笑った。「真衣、エレトンテックを接収する時は、私も連れて行ってくれない?」真衣は、「しばらくは接収できないのよ」「?」沙夜が目を丸くして聞いた。「なんでここまでボロボロなのに、まだ甦れるの?」「高瀬グループがエレトンテックの穴を全て埋めたの」ギャンブル契約はすでに発動したが、高瀬グループも賠償した。「???」沙夜は額の血管を浮かぶほど激怒した。「本当にどうしようもないダメ企業だわ。これ以上助けてもダメなのに、まだ助けるつもりなのかしら?」安浩は目を細めた。これらの言葉を聞いて、彼は冷ややかに笑った。「あの二人の間には実の息子がいるんだし、深い絆があるから、礼央さんは外山さんのことが見捨てられないんだろう。翔太は高瀬家の将来の後継者なんだから」沙夜は血を吐きそうなくらい気の毒だと思った。沙夜は、礼央のやり方がひどすぎると感じた。「礼央はただ人を不快にさせているだけだわ」沙夜は冷たい顔で言った。「エレトンテックをワールドフラックスから追い出せばいいのよ。萌寧がどうしようと、目の前で彼女がいるだけ煩わしいわ」真衣は淡々と頷いた。「すでに精算済みで、すべての借金は高瀬グループが単独で賠償したわ」これらの事は既に昨夜処理済みだと真衣は知っていた。礼央から直接電話があった。後日、高瀬グループの人間が契約書に署名し賠償を行う、と。沙夜は、「礼央が本当に放っておくと思ってたわ。じゃあ萌寧はなんでまるで犬のようにあちこちで営業しているの?」と聞いた。安浩は、「女性は好きな男性の前では弱いところを見せたくないものだ。特に困難に直面した時、一人で立ち向かいたがるんだ」と答えた。「ましてや相手が礼央さんのような男なら尚更だ」礼央のような男は権力があり、頭脳明晰で、手段も冷酷だ。そんな男のそばで一生を共にしようと思えば、並外れた重圧を背負う必要がある。溺愛されていた萌寧でさえ、あらゆる面で自分の体面を保とうとする。沙夜は頭から湯気が立つほど怒った。安浩は沙夜を見て、少し面白おかしく感じた。「礼央さんがどんな人間なのか、今さら知ったのか?」「礼央さんが外山さんのためにどんなことをしても、もはや何ら不思議ではないだろう」真衣は軽く沙夜の肩を揉みながら言った。「今
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第486話

政府関係者が真衣をステージ裏へと案内した。「あなたは私たちを代表してスピーチをしますが、根本的には各メーカーや企業間の連携と協力を促すことを目的としています」政府と実業家が会議をする時間は多い。特に商工会議所の会長は、政府関係者との交流がより頻繁になる。真衣は軽く頷いた。確かにその通りだ。みんながうまく協力し合えば、明るい未来が開ける。「なので、今回のスピーチについては、北城の商工会議所の会長と事前に話し合ってほしいのです」真衣は眉をひそめた。「会長ですか?」「昨日はそのような話を聞いておりませんでした」「連絡しましたが、あなたは電話に出られませんでした。でも、大したことではないです。みんな知り合いのような関係ですから」その言葉が終わらないうちに、外から人の声が聞こえてきた。「高瀬会長が到着されました」真衣が振り返る。そこには礼央が颯爽と立っており、黒いスーツを身にまとって入ってくる姿があった。その身のこなしは、清涼感がありながらも重みを感じさせた。真衣は唇をわずかに動かし、眉を寄せた。「会長?」彼女の記憶では、以前の商工会議所の会長は別の人だった。礼央ではない。政府関係者が軽く頷いた。「新たに就任したんだ。役員交代だ」真衣は一瞬固まった。礼央が商工会議所の会長となれば、今後接触を避けることはさらに難しくなる。会長は商業界の大企業の中心的存在であり、所属する業界や地域で企業界のリーダー的存在であることが通常求められる。その社会的地位は商工会議所の権威と結びついている。商工会議所の会長は、政府の政策諮問に関わったり、業界標準の策定で発言権を行使したりすることがある。商工会議所に加入すれば、企業の情報がより集まり、発展の機会も増える。商工会議所は発展計画や年間目標を策定し、業界や地域のニーズに沿って活動をリードする。例えば、業界の自主規制を推進したり、企業間の協力を促したりする。会長は商工会議所を代表して政府や他の機関とやり取りし、政策支援や資源の連携を求める。各業界で開催されるイベントやビジネス視察を主導して行う。北城の商工会議所は特に有名だ。湊は礼央の後ろについて歩き、真衣を見かけると、唇を軽く噛んで何も言わず、目を伏せた。時に、人と人との間に
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第487話

彼は何もせず、ただ静かに原稿を見ていた。真衣は立ったままで、見下ろすように彼を見た。この瞬間、彼女は前世の時を思い出した。礼央は二分ほど原稿を見ていた。そしてゆっくりと目を上げ、原稿を真衣に返しながら言った。「原稿はよく書けている。将来の見通しについても触れている」真衣は作り笑いで口元を歪めた。真衣は彼に助言を求めたのであって、批評を求めたのではない。そして礼央は手短に本題に入った。「今日は、AI技術について意見を述べるだけの場ではない。わかっているか?」礼央の態度は冷たく、堅苦しかった。まるで二人の間に私的な関係など一切ないかのようだ。表向きに見える通りに。今日が初対面であるかのように。真衣が聞いた。「で?」「政府は新しい政策を発表し、新しいプロジェクトの公募を行う」礼央は真衣を見た。「お前は全体を取りまとめる責任者に決まった」礼央はもうその情報を掴んでいた。なのに、責任者の本人である真衣はまだ知らなかった。真衣はこの話が冗談のように聞こえ、信憑性がないと感じた。しかし、礼央が無意味にこんな話をするはずがない。真衣は軽く眉をひそめ、いらだちを隠さなかった。「で、何が言いたいの?」礼央は立ち上がり、淡々と言った。「多くの企業が入札に参加する。選定する責任者として公平公正であればよい」「何かあれば、俺に相談しろ」そう言い終えると、礼央は踵を返して去って行った。-イベントが始まり、会場には多くの顔見知りが集まった。高史と萌寧も含めて。「チャンスだぞ、萌寧」高史は萌寧を見て小声で言った。「政府が直接プロジェクトを公募する。技術面ではお前の能力を借りることができれば、我々も協力して一緒に入札できる」「礼央もお前を助ける。挽回も夢じゃないぞ」前もって道を整えてくれる人がいれば、会社がどんな状況でも再生できる。十分な資金を投入さえすれば。しかし、高史は時々、礼央がなぜこれほど惜しみなく資金を萌寧に投じるのか理解できないこともあった。ただの会社に過ぎない。萌寧の会社がダメでも、また次の会社がある。同じ会社に固執する必要はない。萌寧は高史を見て言った。「あなたは本当に私を助けたいの?それとも私に失敗して欲しいの?」「今の俺たちは、一つの船に一緒にいる。
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第488話

萌寧の心の中で次第に不安が募っていった。真衣が本当に選挙責任者なら、必ずや彼女自身に有利な方向に持っていくはずだわ。自分の唯一のチャンスさえも奪われてしまう。なんだかあらゆるものが完全に封じ込められていて、まるで四方から包囲されて追い詰められているみたいだわ。どうしても逃れられない。萌寧が眉をひそめている時だった。礼央がステージ裏から出てきた。萌寧は今やこうした場面ではもう人気者ではない。むしろ誰もが彼女を嫌い、できるだけ距離を置きたがり、彼女が協業を持ちかけてくるのを恐れている。少しでも彼女と関わりを持つことを恐れている。以前はみんなこぞって彼女と協力したがっていたものだ。萌寧はこのようなギャップに、心の中でひどく落ち込んでいた。礼央が黒いスーツ姿で現れると、萌寧はすぐに手を振って合図した。彼はゆっくりと歩み寄り、萌寧の隣に腰を下ろした。その場にいるみんなの視線が注がれる下で。礼央のこの一連の行動は、萌寧への態度を示していた。彼は萌寧を見捨てていなかった。彼女の顔にすぐに笑みが浮かんだ。もともと礼央が来ないのではないかと不安だった。ここ数日、彼は冷淡な態度で電話にもあまり出ようとしなかった。だが、彼が来てくれたことで、自分の気持ちは和らいだ。周囲ではみんながヒソヒソと噂話をしていた。二人の関係についての噂話を。果たして本当に噂通りなのか?萌寧は将来高瀬家に嫁ぐのか?礼央はどこへ行っても注目の的となり、彼の登場は自然とその場にいる全て人の視線を集めた。そして、萌寧も再び人々の注目を浴びることになった。真衣は壇上に立ち、マイクを手にしながら、この光景を静かに見下ろしていた。彼女はもともと、礼央のあの言葉が一体どういう意味なのか、少し気になっていた。なぜ彼女に「公平公正であれ」と言ったのか。今やっとわかった。全ては萌寧のためなのよ。礼央は、自分が萌寧に対して恨みを持ち、意図的に報復するとでも思っているのかしら?真衣は冷笑し、静かに視線をそらすと、マイクを持ってスピーチを始めた。関連する政策について、彼女は理路整然と説明した。新技術の紹介においては、事例として先日北城で起きた大きな火災を挙げた。消防分野に関しては、まだ多くの課題が残さ
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第489話

真衣は責任者であっても、別に彼女の一言で全てが決まるわけではないし、彼女には拒否権もない。「わかったわ」萌寧は軽く頷いた。最悪の場合でも、礼央が自分の後ろ盾になってくれるのだから、何も恐れることはない。「礼央、聞きたいことがあるんだけど」礼央は携帯をちらりと見て、「なんだ?」と言った。「高瀬家の家業から完全に離れるって聞いたけど」萌寧は唇を噛んだ。「もしこれが本当だったら、それは私のせいなのかな?」「私のために、あなたが本来持つべきものを諦めてほしくないの。私はそれほどあなたにとって重要ではないし、あなたはもう十分私のために尽くしてくれたから」自分は心の中で、礼央がどれだけ多くのことをしてくれたか理解している。彼は常に自分の味方だった。しかし、もし礼央が本当に自分のために権力を手放したら、これから自分と礼央の道のりはさらに困難になるだろう。この質問は、礼央の本心を探るためでもあった。礼央はその言葉を聞き、軽く口元を歪ませ、萌寧を一瞥した。その視線には深い意味が込められていた。萌寧は背筋が凍るのを感じた。礼央の視線は、まるで彼女の魂までも見透かすかのようだった。「萌寧、お前は何を心配しているんだ?」礼央のこの一言は、冷静で淡々としていた。しかし、萌寧の心は慌ただしく騒ぎ、彼女は手に力を入れた。自分は確かに、自分の利益のことしか考えていない。今の自分の状況では、もし礼央が権力を失ったら、すべてが今のように順調にはいかなくなる。しかし――萌寧は考えを改めた。礼央を信じるべきだ、と。礼央には自分の計画があり、彼の行動には全て意味がある。「ただ、私のためにあなたが多くのものを失い、多くのものを諦めてほしくないだけなの」「あなたが今持っているものもそう簡単に手に入れたわけじゃないし。私はそんなに自分勝手にはなれないわ」「私は翔太を自分の子供として認めなくてもいいわ――翔太が高瀬家で無事暮らしてくれれば私はそれでいいの」「あなたの言うとおり、『命さえあれば何とかなる』いつかきっと私は立ち直って成功してみせるわ。そのときになったら、また翔太に自由に選ばせてあげればいいわ」自分には自分の目標があり、プライドもある。萌寧は、自分が何から何まで他の人に劣っているとは信じていなかった。ただ運
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第490話

萌寧はこの知らせを聞くと、安堵の笑みを浮かべた。そうね。礼央は相変わらず、ピラミッドの頂点に立っている。彼はいつでも彼らしくあり、権力を前に頭を下げるような人ではない。なぜなら、彼自身が権力そのものだから。そんな男が、自分の前では頭を垂れ、ひざまずくことをいとわない。この一生がどんな結末になっても、それだけで十分に報われたと思えるわ。-礼央が壇上に上がると、真衣はマイクを手渡した。受け取る際、二人の手がかすかに触れ合った。一瞬の肌の触れ合いで、真衣は礼央の手の温もりを感じ取った。真衣は表情を崩さず眉を僅かにひそめ、そのまま壇上を下りた。その場にいるみんなが、この光景を見て複雑な表情を浮かべた。かつてこの二人は夫婦だったのだ。だが、今の二人には夫婦らしさの微塵もない。むしろ見知らぬ他人どころか、それ以下に見える。見知らぬ他人なら笑顔で接し、礼儀正しく振る舞うものだ。しかし、今の二人の放つ気配は、すっかり相反するものになっている。まるで互いを許容できないかのようだ。とても同じ屋根の下で暮らした夫婦とは思えず、ましてや息子と娘をもうけた仲だとは誰も信じられまい。見る者全てが違和感を覚えるほどだ。だがこれもまた、頂点に立つ者同士の邂逅と言えなくもない。その場にいる人たちがヒソヒソ話をし始めた。「時々思うんだけど、あの二人って離婚してからのほうが、なんだかいい感じなんだよ」「あらゆる場面で再会を余儀なくされるからな」「共に業界の頂点に立つ元夫婦同士。地位も実力も釣り合い、容姿と賢さも申し分ないね」萌寧はこれらの言葉を耳にするたび、胸がざわついた。これらの噂はかつて、彼女と礼央についてのものだった。いつの間にか、口々に囁かれる噂の主は別人に変わっていた。時として人はこれほど現実的なのだ。誰もが強者に憧れる。上には上がいる。さっきステージ上で起こった一幕を、萌寧はしっかりと目に焼き付けていた。礼央は全身黒の服をまとい、冷ややかな雰囲気を漂わせていた。真衣もまた、同じく黒一色の装いで、その気品は凛として澄み切っていた。ある意味、彼らは同じ種類の人間だ。同質のものは反発し合う。だから離婚したのだ。しかし、この二人のような身分や地位があれば、人は強
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