火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける のすべてのチャプター: チャプター 491 - チャプター 500

527 チャプター

第491話

萌寧は決して善人などではない。もし彼女が頂点に立ったら、どんなことをしでかすかわかったものではない。これが安浩が心配していることだ。こういう人間にわざわざ嫌がらせを必要はない。だが、一方で萌寧をあるべき位置に押さえつけておく必要も確かにある。真衣はもちろんこれらの道理を理解していた。萌寧がもし本当に頂点に立つ日が来たら、間違いなく業界にとって害となるだろう。「礼央さんは本当にそんな人間を助けるのか?」安浩が聞いた。「それとも礼央さんは外山さんの本性を知らないだけなのか?」「真衣が知っている礼央さんって、どんな人?」真衣と礼央の間には個人的なわだかまりもあるが、萌寧の品行については、ちゃんと注視していく必要がある。そうすれば、真衣も個人的な確執を気にしないで済む。真衣と萌寧の間には、確かにライベル関係である必要はない。安浩はその言葉を聞いて少し固まった。真衣は壇上でスピーチをする礼央を見上げた。彼はすらりと背が高く、声はゆっくりと落ち着いており、気品ある雰囲気を漂わせていた。どんな場面でも泰然自若としており、誰もが注目する存在だ。生まれながらにして上に立つ者。絶対的な権力を彼は持っている。今の地位にいる以上、彼なりの考えがあるはずだ。だが、真衣が知る礼央は――長年同じ屋根の下で暮らしても、自分は完全に礼央を理解することができなかった。少なくとも表面上の浅い交流しかなかった。だからこそ、礼央の本音を理解する機会もなかった。真衣はかつて礼央と心を通わせようとした。うまくいきそうな時もあったが、最終的にはいつもあっけなく終わった。真衣と礼央の交流のほとんどは、ベッドの上で行われた。礼央は見かけによらず、結構性欲の強い人間である。真衣は深く息を吐き、「彼の人となりを実はあまりよく知らないの」と答えた。「だけど、一つだけ確かなのは、彼は決して愚かな人間ではないということね」真衣は口を開いた。「自分を窮地に追い込むような真似はしないからね」「もちろん、愛ですべてを乗り越えられる可能性も否定はできないけど」所詮、愛の前ではどんな賢い男も愚か者になるから。でなければ、なぜ「どんな強い人でも、美しい女性の前では動揺してしまう」という言葉があるのだろうか。真衣はかつ
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第492話

真衣はこの不可解な言葉を聞き、首を傾げて萌寧を一瞥した。そして、冷たい口調で「あなたは何かと人に自分のことを共有したがるよね。礼央とベッドの上で何をしていたかも私に共有するつもり?」と言った。何も持っていない人ほど、自慢したがる。萌寧の瞳が微かに凝り、指を丸めて拳を握り締めた。やがて冷たく口端を引きつらせ、「本当に知りたくないの?」と聞いた。「礼央はあなたが日夜想っていた男性だっかけど、今彼が好きなのはこの私なの。私こそが彼にとっての正解なの」「あなたは何年も彼の側にいたのに、永遠に私には及ばないわ。今の身分や地位があっても、彼のハートを掴むことはできないわ」「尊厳や誇りは、『立場や地位』で手に入るものじゃないわ。礼央はそんなにあなたのことを大事に思っているのに、どうしてあなたは必死に取引先に営業をかけているの?」萌寧は真衣の言葉を聞きながら、だんだん表情を険しくさせていった。だが萌寧は、真衣が内心で嫉妬しているだけだと思っていた。結局、真衣が生涯かけても手にできなかったものを、自分は簡単に手に入れたのだから。この種のことで負けを認める女性などいない。女性の魅力は、男性の好意を得られるかどうかで決まる。特に礼央のような男性は尚更だ。安浩もこれらの言葉を聞き、実に滑稽に感じた。「外山さんはまだ自分の立場をわきまえていないんだね」「それよりあなたは今、どの刑務所に入るかを考えたほうがいいんじゃない?礼央さんに頼ってでしかここまで来れなかったあなたが、まだその地位に居続けられると思っているの?」安浩はさすがに呆気に取られていた。萌寧がここまで厚かましく、ここまで追い詰められてもまだ挑発する余裕があるとは。彼女は確かにプライドが高く、どんなことも人に軽んじられることを許さない。かろうじて場を取り戻した今、彼女は自分を証明せずにはいられない様子だ。自分には実力があると言わんばかりに。自分には、常に頂点に返り咲く才覚があるのだ、と。一時的に低迷したとしても、何も問題はない。安浩は眉をひそめた。「女性の価値は男性に別に認められる必要はない。礼央さんを手に入れたことが勝利の始まりだと思うなら、今後もっと惨めに負けるだけだ」男に頼るのは、最も取るに足らない方法だ。萌寧はこの言葉を聞
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第493話

萌寧の表情がこわばる。「相変わらず大げさね」萌寧はすぐに立ち上がり、その場から去っていった。安浩は萌寧が去る後ろ姿を見つめ、目には嘲笑を浮かべていた。安浩には萌寧が資本主義に見放された哀れな女にしか見えなかった。少し面目を取り戻すと。すぐにやって来て自分のプライドを見せつけた。そして、萌寧のプライドは全て、壇上にいる礼央から与えられているものなのだ。礼央が誰を選ぶかで、その人のプライドの高さが決まるのか?萌寧がただ礼央の付属品でしかない。無知で哀れなアホだ。いつも男から深く愛されていると錯覚している。そして、男に見捨てられると、もはやもう何者でもなくなり、今まで得てきた支えを全て失う。真衣は冷たい表情で視線をそらし、再び席に戻った。萌寧の行為は実に嘲笑すべきもので、真衣は心底こうした行為を軽蔑していた。まるで全ての価値が、男のために存在しているかのようだ。「外山さんがそこまでするほどの価値はあるのか?」萌寧は自分のことをまるで付属品のような存在にしてしまった。気づかれないうちに、女同士の競争が繰り広げられている。しかし、真衣は萌寧をライバルと見なしたことは一度もなかった。これほど哀れなことはない。真衣は静かに壇上を見つめ、淡々と言った。「人それぞれ志はあるものよ。外山さんの拠り所が普通の人とは違うだけ」礼央はスピーチを終えると、事業内容が優れている企業数社を挙げ、模範とするようその場にいるみんなに促した。壇上に立つ礼央の話し方は上品で優雅ながら、颯爽とした気魄に満ち、重みと威厳さを感じさせた。成熟した男の穏やかさと、冷たさの中にある強力な威厳を併せ持ち、壇上に立つ姿はまさに絶対的な権力者の風格だった。ゆったりとした話し方は、聞く者の耳に心地よく響いた。公の場では、礼央は常にこういう人物だ。沙夜の言葉を借りれば、礼央は見かけだけ立派で、中身は伴っていない。礼央が挙げた優良企業の中には、九空テクノロジーも含まれていた。九空テクノロジーの名前が挙がると、ほかの企業の人たちもみんな笑顔を浮かべていた。客観的に言って、礼央の話術は並大抵のものではない。ただの平凡な言葉にすぎなかったが、それでも推薦された人々の心に深く響き、みんな感激していた。心の中に妙にやる
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第494話

沙夜が車で迎えに来て、真衣たちを乗せる際、萌寧が入口でじっと会場の中を見つめているのを見かけた。沙夜は皮肉たっぷりに近づいていった。「ここで誰を待ってるの?あなたの男はもう出てこないんじゃない?」萌寧は冷たい目で彼女を一瞥し、何も言わなかった。萌寧は沙夜のような思い上がったお嬢様と話す気などさらさらなかった。沙夜のようなお嬢様は小さい頃からお姫様のように大切に育てられ、何不自由ない生活を送ってきた。自分の苦しみなんて理解できるはずがない。自分は小さい頃から自力で生きてきた。家族の支えがない分、なおさら自分の努力が必要だった。沙夜のようなお嬢様にはこんな苦労は一生わからないだろう。萌寧も心の底から沙夜のようなお嬢様を軽蔑していた。裕福な家庭で生まれ育っただけで、頭の中は空っぽで何もない。沙夜は萌寧の目に浮かんだ軽蔑の色を見て取った。「愛人ごときが、人をバカにするなんて」沙夜の声には露骨な皮肉がにじんでいた。「礼央の愛人ではないと言ったはずです。これはもう事実なので。松崎さんがこれ以上そのように私を呼ぶなら、名誉毀損で訴えますよ?」「……」沙夜は呆れたような目を向けた。「まあいいわ。法律を穢すような真似だけはやめてね」法も愛人の味方をしたら、たまったもんじゃないわ。萌寧の表情は険しく、これ以上言い争う気はなかった。「馬鹿と議論する価値はないわ。あなたとは話すことがないから」萌寧はそう言うと、別の場所で待つためにその場から離れた。沙夜は彼女の背中を見ながら、腹立たしさで笑ってしまった。まあ!愛人ごときがここまで厚かましいとは。沙夜は頭に血が上るくらい怒っていた。どうしてここまで図々しくいられるのよ?沙夜は深く息を吐き、手でひたすら自分を煽いでいた。このクソ女が。あんな馬鹿と取り合う必要なんてないわ。本当に捕まった時が嘲笑うのにちょうどいい時だわ。会場の中では。とある打ち合わせが行われていた。上層部が打ち合わせのまとめに入った。そして、責任者に真衣を指名した。打ち合わせが終わり。礼央は椅子に座り、足を組んで、だらりと背もたれにもたれていた。彼は立ち上がり、目尻を下げて真衣を見た。「おめでとう」その声は淡々として感情がなく、自然な祝福のように聞こ
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第495話

安浩は眉を少しつり上げた。「僕たちは友達じゃなかったのか?なかなか沙夜も冷たいね」沙夜は真衣の手を引いて、「嘘でしょ?私にまで嫉妬するの?」と聞いた。「ニュースで二人のこと見かけたよ。キラキラしてたね!」沙夜は明るく笑い、そばにいる萌寧を一瞥した。「でもある人は、まったくニュースに映ってなかったわね」「ファイナンスと宇宙工学の博士号を二つ取ったとか自慢してたけど、実際は大したことないじゃない」沙夜が言った。「今日は男の力で会場に入れただけよ。もしその男がバックについていなかったら、こんなイベントに出る資格なんてなかったでしょ?一体どんな肩書きで出てきたつもりなのよ?学歴だけが取り柄なの?」沙夜の声には冷笑が滲んでおり、あらゆる角度から萌寧を嘲っていた。沙夜は、痛いところをことごとく突いてきた。萌寧の表情がこわばり、垂れた両手で拳を強く握りしめ、背筋をぴんと伸ばして、必死に顔の表情を崩さないようにしていた。ここまで嘲られても、負けているわけにはいかない。所詮は人を見下すような連中だ。見る目のある人もいれば、せっかくの才能を埋もれさせてしまう人もいる。萌寧は沙夜を見やり、極めて冷静な口調で言った。「私より無能な人なんてたくさんいますよ。例えばあなたです。あなたにはこの会議に出席する資格すらないじゃないですか?」「?」沙夜は呆然としていた。沙夜は自分を指差し、信じられないというように「私?」と聞き返した。彼女はまばたきをして笑った。「私があんたらの学問の世界に興味があると思う?私と比べるの?」「業界では誰にも勝てないから、部外者と比べてるの?」萌寧は鼻で笑い、ゆっくりと視線を外して腕組みをした。「そうですよ。あなたはこの業界に属する資格すらないくせに、どうして私のことを評価できるんですか?髪は長くても頭は空っぽで、脳みそなんてコアラ以下じゃないですか。そんなのといちいち張り合っている暇はありません」馬鹿とわざわざ争う必要はない。沙夜は呆れてつい笑い出した。「は?!」人の人格まで攻撃するとはね。沙夜は袖をまくり上げた。「私のこと止めないでね、あの女の口を引き裂いてやるから!」真衣は沙夜を引き止め、ゆっくりと萌寧を見上げて言った。「礼央を待ってるの?」萌寧は軽く顎を上げ、高慢な態度で言った。「
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第496話

「高瀬社長がその後どこに行ったかは本当に私にも分かりません。打ち合わせが終わった後、運転手の車に乗って会場を出ました。社長は私に特に報告する義務はありませんので」「高瀬社長の居場所を知りたいのであれば、直接電話をかけて聞いてみてください」萌寧は軽く歯を食いしばり、手に握った携帯をじっと見つめた。結局、電話を切るしかなかった。もし礼央に連絡が取れるなら、わざわざ湊に電話などかけないわ。-一方で。沙夜は真衣を見つめ、彼女の顔には依然として明るい笑みが浮かんでいた。「礼央は本当に裏口から出たの?萌寧を避けてたんじゃない?」真衣は軽く頷いた。打ち合わせは早めに終わり、その後少し雑談の時間があったが、礼央はとっくに会議室からいなくなっていた。真衣は自分の目で礼央が裏口から出るのを見た。まさか外で萌寧が待っているとは思わなかった。「笑えるわ、あの女の表情見た?スカッとしたわ」なんでもかんでも男に頼るなんて、まったくもって愚かなことだわ。男が少しでも関心を失えば、すべての輝きは一瞬で消え去る。「二人の間には意思疎通の問題があるのかも」安浩が口を挟んだ。「高瀬グループが萌寧の賠償を全額負担したことを考えれば、彼は彼女を見捨てないはずだ」真衣も同じ考えだった。沙夜はそんな事情には興味がない。「外山さんが恥をかいてさえいれば私は満足だわ」沙夜は腕組みして言った。「ほんと、あの女には取り柄ってものがないと思うわ。女らしくも男らしくもなくて、毎日男の後ばっかり追いかけてるし」真衣はそばでタブレットを手に、打ち合わせの議事録をまとめていた。沙夜は真衣を見て、彼女の気分が沈んでいるのに気づいた。彼女は手を振り、「もういいわ。あの女の話はやめよう。不吉だしね」「第五一一研究所の衛星打ち上げはニュース中継の形で行われて、現場にも多くの人が見学に来る予定だわ。真衣、今回のプロジェクトの主任技術者として、緊張してる?」これはこの国とっての一大イベントであり、政府や国民はもちろん、第五一一研究所も注目している。真衣は史上最年少のプロジェクト責任者であり、同時に主任技術者でもある。真衣はタブレットを置き、深く息を吐いた。「実は、これらの栄誉はすべてみんなが支えてくださったおかげよ。みんながいなければ
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第497話

萌寧はプロジェクトの企画書を完成させて、すぐに提出した。高史は、萌寧が忙しく働いている様子を見ていた。「企画書は江村先生に確認してもらったか?江村先生はなんて言ってた?」江村は、萌寧の論文の指導教官にあたる。指導教官である以上、何かプロジェクトを進めるときは、江村に相談しておくのが一番だ。誰にも相談せずに、すべてを自分一人でやり遂げるべきではない。萌寧は俯きながら答えた。「会社のことは江村先生に確認してもらう必要はないわ」「江村先生の専門は学術分野であって、ビジネス分野ではない。ビジネス面では私の方がわかっているから」「この件は礼央とも話し合ったわ。彼はGOサインを出してくれたわ」高史は軽く頷いた。「礼央が確認したなら、少しは安心できるな」何と言っても、礼央は今や商工会議所の会長だ。以前は航空宇宙工学分野の第一人者でもあった。もし彼がこの業界でずっと努力を重ね続けていれば、間違いなく世界的に注目される存在になっていただろう。「でも、お前のこのやり方に対して、江村先生は不快に思うかもしれないぞ」萌寧は俯いたまま、データの整理をし続けた。「不快になることはないわ。これは会社のことであって、しかも私一人で決めたことではないからね」彼女は心の中でしっかり理解していた。高史は他人のことに干渉するタイプではない。今日集まったのも、二社が共同で進めているプロジェクトの打ち合わせのためだ。「お前が分かっているなら、俺もこれ以上は言わないけど」高史は萌寧を見た。「確かにお前は実力があるけど、人間関係の構築の面では礼央を見習うべきだ」そう言い終えると、高史は踵を返してその場から去った。この国では、人間関係が何よりも重要だ。実力があるだけでは不十分で、処世術も必要だ。礼央のような権力のある人間でさえ、どんな場面でも紳士的で礼儀正しく、処世術に長けている。一方の萌寧は、礼央よりも傲慢だ。どんなに実力があっても、埋もれてしまう。同等に優れた条件の下では、人は自然とより一緒にいて居心地がいいパートナーを選ぶものだ。-第五一一研究所の衛星打ち上げの当日。発射基地にて。太陽が燦々と照りつけている。気温は39度もある。炎天下にも関わらず、第五一一研究所の発射現場には多くの人々が日傘
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第498話

翔太は納得がいかなかった。どうしてあの無能な千咲がこんなにもちやほやされるのか、と。萌寧の心が、ドクンと大きく沈んだ。何か言おうとしたが、どこから話せばいいかわからなかった。翔太はまだ小さいから、考え方も単純だ。萌寧は目を伏せ、「ほら、パパもあそこにいるでしょ?」と言った。「パパも同じように優秀なのよ」翔太は唇をきゅっと引き結んだ。礼央の優秀さについて、翔太はとっくにわかっていた。礼央は生まれつき優秀であり、家族全員も知っていることだった。でも、萌寧の方が礼央よりももっとすごくて、十分自慢する価値がある。しかし、翔太の表情にはそれほど大きな変化はなかった。なぜなら、翔太は小さい頃からもう知っていることだからだ。真衣は幼い頃からずっと翔太のそばにいて、着替えを手伝い、料理をし、家事をこなしてきた。しかし、特別に際立った長所があったわけではない。彼の目には、礼央は優秀で立派だが、真衣は何の取り柄もない存在に映っていた。だから、萌寧という優秀なママができたら、翔太が自慢するのも当然だ。「外山さん、坊ちゃんをお呼びに参りました」高瀬家のお手伝いさんがやってきた。家族全員に、家族専用の席が用意されている。萌寧は一瞬固まった。「私の席はどこ?」お手伝いさんは萌寧を見て、笑った。「外山さんは見物にきた一般の方々としてカウントされます。発射が見える場所で適当に席を見つければいいと思います」萌寧は胸が締め付けられる思いがした。自分は不当に扱われていると思った。真衣が今や輝かしい存在になったのはともかく、自分は真衣を見に来たわけではない。今日は人脈を築きに来た。中には、この国を代表科学者たちが集まっている。ここで人脈を築ければ、自分のキャリアも必ず上向きになる。たとえ自分に才能があっても、その価値を見出してくれる理解者が必要だわ。あらゆる事柄は、双方の選択が成立して初めて、一挙に成功を収めることができる。真衣は単に早く自分の理解者に出会えただけだわ。自分は昔、家族から見下されていたから、留学して経験を積んで帰ってきた。「礼央は私の席を用意していないの?」「えっと……」お手伝いさんの表情が少し困惑していた。「旦那様からは特にそのようなご指示はなく、お話もございませんでした」萌寧
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第499話

まるであざ笑うように。萌寧の唇は少し白くなり、ペットボトルを握る手にさらに力が入った。昔とは違う。昔とはもう違うのよ。今や真衣は、ついに成功して輝かしい地位を手に入れた。萌寧は歯を食いしばり、一語一句はっきりと言った。「必要ないです。自分で入れるので」沙夜はにこやかに頷いた。「はいはい。入った時にスパイとして間違われて捕まらないように気をつけてね」そう言うと、萌寧はハイヒールを鳴らしてその場から去っていった。萌寧を嘲笑った後、沙夜の表情は実にスカッとしていた。今日は特に気分が良いわ。調子に乗っている人も、いつか痛い目を見る日が来るものね。萌寧の表情はひどく険しく、炎天下にも関わらず全身が冷え切っているように感じた。お手伝いさんの言葉も実に冷酷だった。早々に、萌寧と礼央の間には何の関係もないことを暗示し、表面上どれほど親しい友人関係であっても簡単には入れないとお手伝いさんは告げた。この国にとっての一大イベントだっていうのに。「外山さん、私はまず坊ちゃんをお連れして中に入りますね」翔太は萌寧を見たが、何も言わなかった。萌寧は翔太の手を握りしめた。「私が入れないなら、翔太も入れさせないわ」翔太は眉をひそめ、萌寧を見て無理やり手を引き戻し、幼い声で言った。「僕は先に入るよ。外で日焼けするのは嫌だし。熱中症になるもん」子供はみな恩知らずで、当然のように楽な方を選ぶ。翔太はお手伝いさんについて中に入ろうとした。萌寧は頭がぼうっとするのを感じた。全身が凍えるようだ。「待って――礼央に連絡が取れないの。中に入って伝言してくれない?私が外で待っているって」萌寧の声には一語一句に不安がにじんでいた。礼央は最初から最後まで自分の味方だった。こんな大事な場に自分の居場所がないはずがないと信じている。お手伝いさんが振り返り、「タイミング見て旦那様にお伝えしておきます」と言った。「翔太、中に入ってパパに伝えておいて、私に電話をくれるようにって」翔太は少し目をぱちくりさせ、うなずいた。そして、萌寧は彼らが中に入るのをただ見つめていた。しばらくすると、湊から電話がかかってきた。「高瀬社長は現在多忙で、すぐには電話に出られません。その代わりではないですが、外山さん宛に社長から伝言を
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第500話

桃代も萌寧に電話をかけ、萌寧が中に入れるかどうか尋ねた。何と言っても、人脈を築く絶好のチャンスだからだ。今の状況だと、萌寧には他に方法がなく、外で待つしかなかった。ただただ中で輝いている人々を眺めることしかできなかった。中と外は厚い壁に隔てられていて、どんなに必死にもがいても、萌寧はその中に入ることができなかった。彼女の胸にはもやもやとした息苦しさが広がり、ひどく不快だった。記者たちはカメラを構え、衛星の打ち上げについて報道していた。人々の視線は真衣に集まっていた。テレビの前の視聴者であろうと、業界の大物であろうと、国際的に活躍している有名経営者であろうと。現場ではみんなが熱心に準備を進めている。その中には、公徳の姿もいた。彼は真衣が入ってくるのを見ると、すぐに手を振った。彼女は軽く頷き、歩み寄った。「今日は君が主役だ。紹介したい人物がいる」公徳の声はとても落ち着いていた。「彼女は前から君に会いたがっていたんだ」公徳が紹介する人物は、大抵大物だ。こんな場では、断るわけにはいかなかった。公徳はある方向に向かって手を振った。美しく、上品な女性が近づいてきた。「こちらは村本さん。君と同じ航空業界でデザインをやっている」村本美和子(むらもと みわこ)は、まるで憧れのアイドルに会ったかのように真衣を見ると目を輝かせた。真衣は自己紹介しようと手を差し出した。すると、美和子は彼女を抱きしめた。「私のアイドル!やっと会えたわ!」美和子の声は抑えきれない興奮に満ちていた。ソフィアこそが、美和子のアイドルだった。村本美和子という名前を、真衣はどこかで聞いたことがあるような気がした。この方の家柄もそう悪くないはず。何せ、村本家も由緒正しい名家だからだ。末娘も、家族に溺愛されているお嬢様である。名家では、無能な子供は育てない。「すみません、私ちょっと興奮しすぎましたよね?驚かせたらすみません」美和子も自分の行動が度を越していたことに気づいた。彼女は見た目が可愛らしい。性格も明るくて活発だ。真衣は軽く首を振った。「いえいえ、とんでもないです。アイドルだなんて恐縮です」公徳は、「謙遜しなくていいんだ。新しい世代を代表する者同士こそ、もっとお互いへの理解を深め合って、学
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