All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 661 - Chapter 670

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第661話

家の中にいた女性が玄関まで歩いてくると、ドアの前に立つ二人の姿が見えた。川上麗蘭(かわかみ れいら)は礼央の隣にいる真衣を見ていたが、全く動揺しなかった。彼女は再び礼央を一瞥し、感情のこもらない声で言った。「あなたの元妻?」真衣はわずかにたじろいだ。その女性は穏やかで上品な雰囲気をまとい、全身から漂う空気も柔らかく、驚くほど落ち着き払っていた。麗蘭は、沙夜が見せた写真の中にいた女性だった。ということは――彼がひそかに匿い、守ろうとしていた相手は、本当にこの女性なのかな?真衣は何も言わなかった。ここで麗蘭に出会うとは、真衣は思っていなかった。自分にとって完全に見知らぬ女性。礼央の表情に変化はなく、彼女の問いかけに軽く頷いた。「そうだ」麗蘭は微笑んだ。瞳には澄んだ落ち着きがあり、求めるでも争うでもない静けさが宿っていた。彼女は真衣のために道を空けた。「中でお茶でもどう、寺原さん?」真衣は彼女を見つめた。麗蘭の表情は驚くほど静かで、怒りの気配など微塵もなかった。彼氏が元妻を連れてきたら、誰だって怒るはずだ。たとえ表立って怒りを表さなくても、表情には何か変化があるものだ。しかし、麗蘭の顔には何の感情も浮かんでいなかった。いわゆる愛される者の余裕というものだ。麗蘭は萌寧のように、焦って自分の権利を主張し、目の前の男性が自分のものであることを世間に示すようなことはしなかった。彼女は自信に満ち溢れていた。麗蘭は、礼央が自分のことを愛していると確信していた。だから、自ら礼央が自分の男だと証明しようとも、他人に宣言しようとも思わない。真衣は首を振った。「結構よ。彼と荷物を取りに来ただけなので」麗蘭は礼央を一瞥した。礼央は沈着な面持ちで真衣を見ると、落ち着いた声で言った。「中で待っていてくれ。荷物を持ってくるから。離婚したからといって、敵になる必要はない」「……」真衣は黙り込んでしまった。二人の間には何のわだかまりもない。彼女はこんな関係を気にする必要もなかった。「私は玄関で待ってるわ」麗蘭は笑った。「礼央がもう中に上がるようにって言ってくれたんだから、少し中で座ったらどう?」-結局。真衣はリビングで待つことにした。麗蘭もリビングにいたが、自分のことに
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第662話

真衣は足を止めることもなく、手に持った書類を握りしめ、歩き去った。真衣は二人の関係を推し量ろうとはしなかった。だが、礼央が不在時に一人で家で待っているという事実が、全てを物語っていた。それに。礼央は麗蘭に従順だった。そういえば。礼央は以前、萌寧に対してこんな態度ではなかった。表面的には萌寧を助けているように見えたが、態度は極めて冷たくて、距離もあった。しかし、麗蘭に対しては全く違う態度だ。真衣は玄関前でタクシーを呼んだ。彼女はうつむきながらスマホの配車アプリを見ていた。「送っていくよ」突然、背後から男性の冷たい声が聞こえた。真衣が振り向くと、男性の漆黒の視線とぶつかった。彼は片手をポケットに入れ、見下ろすように言った。「ここは別荘地でタクシーが捕まりにくいのは知っているだろ」「そんな暇があるなら、なぜ書類を自分で延佳さんに届けなかったの?」「兄貴がお前に取りに来させたんじゃないのか?お前は彼に従順だから、俺もとやかく言うつもりはない」「……」真衣は呆れていた。本当に意味不明だわ。こんな大事な場面で、麗蘭が礼央を前妻である自分の送り迎えに出すなんて、本当に器が大きいわ。萌寧みたいに女同士で張り合ったりもしない。麗蘭が寛大な性格をしているからといって、真衣は図に乗って他人の関係を壊すつもりはない。「彼女は嫉妬しないの?」礼央は口元を歪めた。「お前が気にすることなのか?麗蘭が『女の子が一人で帰るのは危ないから送ってあげて』と言ったんだ」「あなたも本当に従順ね」真衣は配車アプリを見て、既にタクシーが見つかったことを確認した。彼女は携帯を軽く振り、「あなたに送ってもらうまでもないわ。真っ昼間だし、大丈夫よ」と言った。礼央は彼女を見つめ、「俺と少しでも長く一緒にいるのがそれほど嫌なのか」と言った。真衣は顔を上げ、「あなたの考えが本当にわからない。変な人だけが元夫と長く一緒にいたがるし、馬鹿だけが元妻と未練がましく絡むのよ」と返した。礼央は眉をひそめた。麗蘭が奥の部屋から出てきた。「礼央、もういいでしょ」礼央は冷たい視線で真衣を見ると、振り返って中へ入っていった。とても従順だ。-真衣はタクシーに乗って病院に到着した。延佳は彼女がこんなに早く戻ってきた
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第663話

延佳は真衣を見つめながら言った。「昔から君はいつも忙しく動き回っていた。高瀬家に嫁いだときも、みんなのために奔走していたじゃないか。俺は高瀬家の人間だから、これ以上君に俺のために何かをさせるつもりはない」彼の目には寛容の笑みが浮かんでいた。「君が子供の頃のようにのんびりと暮らしているのを見るのが好きなんだ」「何かあったら俺を頼ってくれ。何か悔しい思いをした時も俺を頼ってくれ」彼は少し言葉を区切り、「ただ、君はもう大人になったから、何かあっても俺に全部話そうとはしない」と続けた。彼の声には幾分の諦めが滲んでいた。「多分、ここ何年か俺が君の視界から消えていたせいで、俺たちの間の絆が少し薄れてしまったんだろうな」真衣はこれらの言葉を聞いていた。彼女は軽く口を開き、「延佳さん、絆は変わらずあるわ」と言った。延佳は穏やかに微笑み、「うん。疲れたら横になって休んでいいんだよ。四六時中俺の世話はしなくてもいいんだ」「俺は数日前に比べればずいぶん楽になった」真衣は彼が仕事の書類を処理しているのを見て少し心配になった。「仕事時間は控えめにして、あまり気苦労しないようにね」延佳はうなずいた。真衣はそばに座り、ナイフを取ってりんごをむき始めた。延佳が仕事で忙しい間、真衣は彼のためにりんごをむいていた。「真衣って、冷たい性格だよね」延佳は仕事を片手に言った。「礼央の性格も冷淡だから、二人一緒にいてもあまり会話は弾まないだろ?」離婚するのも当然だ。二人ともコミュニケーションが苦手で、どんな問題についても話し合えないのだから。真衣のりんごをむく手が少し止まった。延佳が続けた。「俺のそばにいても、君が自分から話すのをほとんど見ない。君は子供の頃と比べると少し変わったな」「子供の頃はおしゃべりで、いつも俺の耳元でぺちゃくちゃしゃべっていたからな」延佳は彼女を見て、「今の真衣に少し慣れないな」と言った。真衣は延佳を見て、笑いながら「延佳さんの方が確かにおしゃべりだよね」と言った。「うるさいと思ってる?君の前だからかもな」延佳が言った。「俺が他の人にこんなに話すのを見たことあるか?」延佳は彼女を見ながら言った。「俺たちは長い間すれ違ってきたんだ。その間、俺らの間には何のつながりもなかった。君の過去のことは人から
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第664話

真衣は確かに手放していた。感情のことは無理に求めても得られるものではない。だから彼女も強要はしなかった。礼央に対して、彼女の心が動くことはもうない。たとえ彼の部屋にいた麗蘭を見ても、真衣は特に動じなかった。「君のその一言で、俺は安心できたよ」延佳が言った。真衣は戸惑うように眉をひそめた。「正直、俺がバンガードテクノロジーにいるってだけじゃ、高瀬グループにいる礼央には敵わないんだ。彼には父さんがついていて、北城に関する最新情報を全部持ってるんだ。でも、その情報を父さんは俺に一度も話してくれなかった」真衣は少し間を置き、彼を見つめながら静かに話を聞き、口を挟まなかった。延佳は続けた。「実は君に打ち明けたいことがある。俺が出国してから何をしてきたか、君は多少気になっているかもしれないからな。時期が来たら、すべて包み隠さず話すつもりだ。礼央は、君が以前辛い思いをしていた時に、俺はそばにいてやれなかったと言っていた。だけどな、それはそうしたくてやったわけじゃないんだ――」真衣は唇を噛み、「延佳さんには延佳さんの事情があることもわかっている。今話せないなら、私も無理して聞くつもりはない。あなたも私が話したくないことを無理に聞かないのと同じようにね」と言った。彼女は無理にそれらのことを知りたいわけではなかった。誰にでも秘密はあるから。だが、延佳が今日なぜこれらのことを持ち出したのか、彼女には理解できなかった。「うん」延佳はここまで話すと、手元の仕事関係の書類を置き、パソコンを閉じた。彼は漆黒の瞳を上げて彼女を見つめ、その眼差しは真剣そのものだった。「君の礼央に対する態度がわかった以上、いくつかのことをはっきりさせておきたい」真衣は延佳の真剣な態度を見て、きっと重要なことを話すのだと悟った。彼女も手にしていたりんごとナイフを置き、表情を引き締めた。「もし高瀬家に関することなら、私は口を挟むべきではないわ」延佳は首を振り、「いや、これは君に関することでもあり、俺に関することでもある」と返した。真衣は眉をひそめた。「ずっと前から聞きたかったんだ。こんなに長い月日が経って……君は本当に、俺の気持ちをいわゆる『兄が妹に向ける感情』だと思ってきたか?」真衣はその言葉を聞いて、心の中で激しく震えた。延佳
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第665話

真衣は胸が締め付けられる思いだった。延佳の直接的な態度に彼女は不意を突かれた。真衣がどう阻止しようとも、彼は自分の思いを率直に語るつもりだった。真衣は深く息を吸い込み、「延佳さんも知っていると思うけど、そんなことはありえないわ」と言った。「世間体を気にしているのか、それともそもそも俺らには無理だと思っているのか、どっちなんだ?」延佳が聞いた。「礼央と離婚した後、すぐに彼の兄と再婚すれば、世間の批判を浴びるとでも思っているのか?」真衣は眉をひそめた。「私は延佳さんに対して恋愛感情を抱いたことはないのよ」延佳は頷き、「そこに関しては、俺も無理強いはしない」と言った。真衣は決心した。「延佳さんがそう言うなら、今後は会わない方が良さそうね」延佳は笑った。「俺を拒むために、ここまでする必要があるか?」延佳は唇を噛んだ。「感情のことは無理に求めても得られるものではない。だから俺は待つつもりだ」延佳は真剣な目で彼女を見つめて続けた。「俺はただ伝えておきたかったんだ。君が俺の気持ちを今後も誤解しないようにするためにもな」真衣は深く息を吸い込んだ。この言葉はまるで彼女を遠ざけるかのようだった。延佳が自分に親切にしてくれたのは、理由があるからだと真衣は知っていた。だから真衣は当然のように彼の好意を受け入れることはできなかった。今後どう彼と付き合っていくか、慎重に考える必要があった。延佳は真剣な表情で彼女を見た。「君が今何を考えているのか、俺にはわかる。これからは俺の好意を受け入れないつもりだろ?」彼は目を伏せ、深く息を吸い込んだ。「この件については俺も何度も考えた」数秒の沈黙の後、彼はゆっくりと目を上げ、その瞳は深淵のように暗かった。「君にずっとお兄さんと呼ばれるのは、確かに耐えられない」「延佳さんはまだ意識が戻っていないようだね」真衣は彼を見つめ、「今日のことは聞かなかったことにするわ」と言った。二人の間には確かに感情がなかったわけではない。幼い頃からの深い絆は、たった一つの告白で消え去るものではない。延佳が今の関係をこれ以上続けたくないなら、真衣も無理には求めない。「もう時間も遅いから、家に帰って娘と夕飯を食べるわ」彼女は背を向けて去ろうとした。「真衣」延佳は優しい目で彼
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第666話

真衣はニッコリと笑った。「ゆっくり話してて。延佳さん、私は用事があるから先に失礼するね」延佳は軽く頷いた。真衣は立ち去った。亜希子は真衣の後ろ姿を見ながら、冷たく笑った。「礼央の奥さんが好きなの?」「もう離婚した」延佳の声は異常に平静だった。「離婚しても、彼女は礼央の元妻で、あなたの義妹よ。あなたはお兄さんという身分で、彼女を娶ろうとしているの?」亜希子は続けた。「告白したら彼女はきっとびっくりするわ。あなたのその汚い心をどう思うかしらね?」「あなたは自分の義妹に欲情してるのよ。いつからかは知らないけど」延佳の目が冷たくなった。「彼女とのことは、他人である君が口を挟むことではない」亜希子は冷笑した。「私と別れたのは、心の中に彼女がいたからなのね。でも女から見れば、そんな汚い考えはただ気持ち悪いだけよ。真衣はあなたを受け入れないわ。もう気持ちは伝えたんでしょ?彼女の反応はどうだった?」「至って普通の反応だった」延佳の声は非常に落ち着いていた。「彼女とはこういう関係だから、ストレートに言うしかなかった」延佳は彼女を見た。「余計なお世話だ」亜希子は嘲笑い、肩をすくめた。「直接に気持ちをぶつけるのだって、相手があなたを好きじゃなきゃ意味ないわよ。相手が好きじゃなかったら、ただの空回りよ」延佳は俯き、瞳に陰りが浮かんだ。「俺の勝手だろ」-真衣は病院内の廊下を歩いていた。夕日が沈みかけ、空は薄暗い黄色に染まっていた。彼女は夕日を見て、思わずスマホで何枚か写真を撮った。「のんきに景色でも眺めてる場合?」亜希子は真衣を見て、可笑しそうにした。彼女は延佳に追い出されたのだ。高瀬家の男はみな薄情だ。真衣が振り返ると、亜希子がそこにいたが、彼女は何も言わなかった。「延佳があなたに告白してきたんでしょ?実際のところどう思ってるのよ?」亜希子が聞いた。「実はあなたがどう思っているのか、私にはわかるわ。まだ礼央が好きなんでしょ?それで延佳を受け入れられないのね」亜希子は淡々と話し始めた。「あなたが知らないことがあるわ。友紀さんは延佳のことを快く思ってないの。友紀さんは今や高瀬家の主として仕切っていて、彼女が延佳を国外に追いやったのも、礼央に家業を継がせるためだったのよ。友紀さんという
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第667話

会社のトップとして、どうしても会食をする機会が増える。九空テクノロジーは今まさに絶頂期で、無理に他者と協業関係を結ぶ必要はない。だが、市場の動向や会社のイメージはきちんと守らなければならない。安浩と真衣は一緒に参加した。沙夜が真衣を高級なドレスショップに連れて行き、オーダーメイドのドレスを選んだ。「なんで毎回パーティーに参加する前にだけ買い物をするの?それじゃあつまらなくない?女性だったらもっと普段から買い物するべきよ。たまには服や靴を買ってもいいんじゃない?あんたのクローゼットの中はいつも同じようなものばかりじゃない」彼女は真衣の手を取って、「これから私が買い物に行くときは必ずあんたも誘うからね。たくさん買ってあげるよ」と言った。真衣は少し困ったように笑った。「最近は本当に忙しくて、自分のことに割く時間や気持ちの余裕がないの」彼女は確かに忙しかった。自分と千咲の将来をつくるために必死で働き、千咲が胸を張って生きられるよう、真衣は一番の味方になろうとしていた。自分のことに割く時間は確かに少なくなっていた。「女性だったら、自分を愛することも学ぶべきよ。仕事やキャリアが人生のすべてじゃないんだし」沙夜は真衣と一緒にドレスショップに入り、ドレスを見ていた。ショップから出たとき、遠くにある男女の姿が見えた。男性はスーツを着て、手に何かを提げていた。沙夜は真衣の手を引いた。「あの人は礼央の背後に隠れている女性じゃない?」真衣は彼女の視線の先を見た。確かにその女性だった。沙夜は眉をひそめた。「彼女の横の男、あれは誰なの?」その男は大柄で、すらりと背が高かった。遠くからでも彼の冷淡さと威厳さが感じられた。沙夜は顎に手を当てた。「……ボディーガードみたいだね」男というのは、好きな相手かそうでないかで本当に態度が変わるものだ。この女性のことが好きだからこそ、礼央は常にボディーガードをつけて守らせている。萌寧に対する扱いが全然違う。真衣は視線をそらした。「多分ね」次の瞬間、麗蘭はその男の手を掴み、無理やりスーツショップへと連れて行った。「……」真衣と沙夜は少し呆然としていた。沙夜は思わず息を呑んだ。「ボディガード以上の関係らしいわね。彼女の愛人かしら?」「礼央は……完全に浮気され
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第668話

憲人はそんな言葉を聞いて、少しだけ固まった。「まるで彼女がここまで来れたのを、君は前から知っていたようだな」礼央は静かにお酒を一口飲み、沈黙したまま何も言わなかった。「どうやら君は本当に気にしていないようだな」「何を気にしていないんだ?」礼央が聞いた。「真衣のことだ」憲人は続けた。「何しろ、君たちは長年夫婦だったのに、あまりにも軽率に離婚してしまった。何の前触れもなく、いきなり離婚してしまったからね」礼央は軽く笑い、さほど気にしていない様子で、「俺が気にしたことなんてあったか?」と聞いた。「……」憲人は黙り込んでしまった。そう言われれば、確かにその通りだ。二人の関係は、誰が見ても愛情のない肉体関係で、ただ形式だけの結婚生活にすぎなかった。ほとんど誰も、彼らが結婚していたことを知らなかった。萌寧が世間を騒がせるまで、人々は何も知らなかった。「そうであるなら、一つ疑問に思うことがある。君は彼女のことが好きでなかったなら、そもそもなんで結婚したんだ?それに、長年離婚もせず、彼女との間に女の子まで設けた」礼央はこれらの言葉を聞き、目元の感情は微動だにせず、手に持ったグラスを揺らしながら、ゆっくりと憲人を見上げた。「お前は以前、俺の結婚生活に興味などなかったのに、急にどうした?」「優秀な女性はみんなに好かれるからな。君の兄が彼女に惹かれているって聞いたんだ」憲人が話を切り出した。「まあ、私たち友達だし、せっかくだから君の本心を教えてくれよ」礼央は少し目を細めて彼を見た。「で?」もうお互いわかっているから、遠回しな言い方はやめよう。「もし君がすでに彼女に対して何の未練もなくて、これまでも一度も愛したことがなかったのなら、私は彼女のこと好きになってもいいのかを聞きたいんだ」礼央は沈黙して数秒間彼を見つめた。しばらくして、突然笑い出した。彼は手に持っていたグラスを置いた。「ご自由にどうぞ」そして、彼は立ち上がって去って行った。高史は彼の去り際を見送りながら、「言ったでしょ?やっぱり礼央は真衣のことを好きになったことなどないって言うって。俺は礼央のことをよく理解している」と言った。憲人は視線を戻して高史を見た。「好きじゃなくても、真衣はかつては礼央の妻だったんだろ?君は私の目の
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第669話

安浩は、バンガードテクノロジーとの協業を受け入れた。北城に支部を設立し、延佳が常駐するため、当然彼と頻繁に連絡を取る必要がある。延佳は入院しており、本来なら今日のチャリティーイベントにも出席する予定だった。安浩は真衣と話し合った。「突然の知らせだな。君はどう思う?延佳さんの帰国も突然だったけど」真衣はグラスを強く握った。「私がきちんと調べるわ」彼女は直感で、何かがおかしいと感じた。延佳の帰国は突然だった。礼央の態度はどこかおかしかった。様々な出来事が、真衣の心に不安をかき立てた。「協業自体は、今まで通り進めれば問題ない」安浩は真衣を見た。「だが、延佳さんは礼央さんではない。協業内容に落とし穴があるかどうかも分からない」真衣は眉をひそめた。礼央は高瀬家を気にかけ、公徳の名声を重んじていた。一方で、延佳はどうだろう?彼女の脳裏に亜希子の言葉がよぎった。友紀は延佳に冷たかった。彼を国外に追い出したことについて、公徳も同意していた。こうした背景から、延佳は高瀬家や礼央を恨んでいるはず――だから。延佳は公徳の名声など気にしないだろう。彼の帰国は、高瀬家に巨大な爆弾を仕掛けるようなものだ。道理で――礼央は高瀬グループを手放した。だが、延佳は引き継がなかった。高瀬家の誰が引き継ごうと、まるで火中の栗を拾うようなものだと延佳が言ったからではない。引き継いだら、高瀬家とは切っても切れない関係になってしまうからだ。そして、礼央の代わりに、延佳は公徳の囚われの鳥になって、高瀬家という檻に閉じ込められることになる。礼央が求めていたのは、おそらく自由だ。真衣は深く息を吸い、グラスを置いた。「先輩、延佳さんの件については引き続き注意を払う必要がある。彼のことを信じてはいるけど、何せ長らく会っていないからね」人の心は簡単には読めない。用心しておくに越したことはない。-チャリティーイベントの途中で。真衣は外の廊下に出て、一息ついた。騒がしい場で結構お酒も飲んだせいなのか、彼女は少し頭痛がしていた。会場の外に位置する裏庭は、人気がなかった。真衣は深く息を吸い、新鮮な空気を味わった。ふと横を向くと、遠くに座る黒い影が見えた。その男は階段に座り、壁にもた
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第670話

真衣は一瞬呆然とした。薬を飲む?なんの薬?彼は何か病気でも患っているのかしら。しかし、彼の様子を見る限り、病気にかかっているふうには見えない。彼はずっと健康そのものだった。礼央は麗蘭の方を向き、真衣の手を離した。彼は片手をポケットに突っ込み、麗蘭を見上げて言った。「薬は飲まない」真衣は深く息を吸い、これらのことに興味はなく、その場から立ち去ろうとした。麗蘭は去ろうとする真衣を見て言った。「気にならないの?私のことも、彼のことも」真衣は少し足を止め、振り返って麗蘭を見た。礼央は静かに言った。「麗蘭」たった名前だが、これ以上言うなという意味だ。麗蘭は目を細め、それ以上は話さなかった。真衣には二人の間に交わされている暗号のような会話が理解できなかった。真衣は礼央を見て言った。「これからは必要以上の接触は避けましょう」そう言い残すと、彼女は背を向けて去って行った。礼央に会うと、ろくなことがない。-真衣が去った後。二人だけが残された。空気中に、再び静寂が広がった。麗蘭は腕を組み、冷静に目の前の男を見つめた。「薬を飲まないつもりなら、どうする気なの?私が永遠にあなたの世話をするわけにはいかないわ。私にも自分の人生があるの」礼央は俯いて彼女を見た。「わかっている」「もし治療を拒むなら、もう手の施しようがないわ」礼央は首を傾げ、舌で頬の内側を軽く押し、ふっと嗤いた。「百害あって一利なし。脳にダメージを与えるだけだ」薬の作用が思考力に影響するのは、根拠のない話ではない。特に麗蘭が渡した薬はその可能性が高い。麗蘭はそんな言葉を聞くと、まるで笑い話を聞いたかのように冷ややかに笑った。「命が大事なの?それとも脳が大事なの?」礼央はためらうことなく答えた。「脳の方が大事だ」脳がなければ、ただ命があるだけでは何の役にも立たない。他人の掌の上で弄ばれる愚か者になるだけだ。麗蘭は言葉に詰まった。まったく、頭がおかしいわ。彼女は礼央の厳しい表情を凝視し、何と言えばいいかわからなくなった。商売の世界でも、問題だらけの大家族でも、頭の良さは必要だし、それ以上に反応の速さが命取りになる。少しでも気を抜けば地獄に落ちる。彼女はこれらの利害関係をよく理
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