だから皆、姿月に対しては非常に丁寧で、ほとんど社長夫人に対するように接するのだった。「いえ、この冷蔵庫に入ってるデザート、誰のものかなって話してたんです。もうすぐ終業時間なのに、誰も食べないし、持って帰る様子もないし。明日になったら、悪くなっちゃいますよね」姿月は、デザートが入っている容器を一目見ただけで、それが鷹野家のキッチンで使われているものだとわかった。あの屋敷には何度も足を運んでいる。食器のひとつひとつまで、彼女は熟知していた。マンゴースイーツとフルーツポンチは、まさしく清音と辰希の好物だ。おそらく、家の家政婦が作って子供たちのために届けさせたものを、一時的に冷蔵庫へ入れたのだろう。「それ、私のよ」姿月はそう言うと、何のてらいもなく、二つのデザートを冷蔵庫から取り出した。「姿月ママ!」その時、鈴を転がすような、跳ねるように明るい声が響いた。オフィスの中でじっとしているのが退屈になった清音は、パパに「姿月ママはまだ来ないの?」と何度もせがんでいた。パパは「たぶん、忙しいんだろう」と言うばかりだったので、痺れを切らして迎えに出てきたのだ。まさか、出てきてすぐに、大好きな姿月ママに会えるだなんて!清音は満面の笑みで姿月に駆け寄り、その足にぎゅっと抱きついた。その光景を目の当たりにした社員二人は、そっと視線を交わし、全てを察したような曖昧な笑みを浮かべた。社長のお嬢さんが、小林秘書を公然と『ママ』って呼んでる……「姿月ママ、これ、私とお兄ちゃんのために用意してくれたの?」食いしん坊の清音は、大好物のマンゴースイーツを前に、きらきらと目を輝かせている。姿月は、清音の鼻の頭を親しげにつついた。肯定も、否定もしない。「ふふ、お腹が空いてると思ったのよ、この食いしん坊さん」その言葉に、清音は三日月のように目を細め、ありったけの賛辞を並べ立てた。「私とお兄ちゃん、これだーいすきなの!姿月ママって、本当にすごい!世界でいっちばん素敵なママだよ!」このやり取りを目の前で見せつけられた社員たちは、引きつった、だが当たり障りのない笑顔を浮かべた。「あの、小林秘書、お嬢様、我々はこれでお先に失礼します」姿月は片手で清音を抱き寄せながら、軽く頷いて見せる。「ええ、お疲れ様。また明日」エレベーターホールへと向かいな
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