佐山は薄闇の部屋に独り、ベッドの上で背中を壁に預けて座っていた。夜明け前の都市はすでに雨を上がらせていて、窓の外には高層ビルの影がぼんやりと浮かぶ。部屋の明かりは消したまま、スマートフォンの淡い光だけが佐山の指先と横顔を浮かび上がらせていた。手のひらに収まるスマホの画面には、佐伯からのメッセージが通知されている。「また会いたい」たったそれだけの短い文面。時間は深夜零時を過ぎている。佐山は指で画面をなぞり、既読にしないままそのまましばらく眺めていた。新しい通知が届く気配はない。未送信の履歴が下書きのまま何度も保存されていることも知っていた。佐伯の不器用な執着が、画面の端々から滲み出ている。微かに口元が緩んだ。けれど、それは愛情からくるものではない。佐伯がこちらに心を奪われていくのを感じるたび、計画の歯車が音もなく噛み合っていく確かな手応えに、満足の陰が浮かぶだけだった。画面をスクロールし、過去のやりとりを繰り返し読み返す。「今日は楽しかった」「次はもっと、二人きりで」淡白に装いながら、時折見せる佐伯の焦燥や欲望の色。それを引き出すことは、想像以上に容易だった。佐山はスマホをベッドサイドに置き、壁に頭を預ける。部屋の隅で冷えた空気が足元を撫でる。時計の針がゆっくり進んでいく音が、遠くに感じられた。佐伯の依存は、計画の推進力そのものだ。だが、そこには微かな危うさも潜んでいる。手のひらに残る佐伯の熱。行為の最中、身体を貫かれる痛みと快楽の入り混じる感触。自分が誰かに渇望されることに、嫌悪も、快楽も、どちらも混ざり合っているのをはっきりと自覚する。もし本当に自分がただの道具でしかないなら、これほど相手の反応に心が揺れたりはしないはずだ。佐伯からの通知を何度も読み返し、言葉にこめられた執着を味わい尽くそうとする。それでも、姉を奪われた夜から自分の内側は空洞のままだ。誰に抱かれても、どんな快楽を味わっても、その空虚さは少しも埋まらない。佐山は立ち上がると、カーテンの隙間から街を見下ろした。ビルの谷間を縫うように、夜明け前の微かな光が路面に滲む。まだ眠りにつくことのない都市の静けさ。歩道の上には、誰もいない。雨上がりの舗道にだ
Last Updated : 2025-10-06 Read more