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王位継承

last update Last Updated: 2025-09-10 06:28:34

その年の夏、国王陛下が亡くなった。

テオは王位を継ぎ、国王となった。私もまた王妃となった。前王妃のセリーヌ様はお子を身篭られていて、その経過は順調だった。セリーヌ様は後宮に下がられ、テオと私が王宮に住むようになった。前国王陛下の面影が残る王宮は温かく、そして寂しかった。

◇◇◇

王宮で過ごす事に慣れてきた頃。俺は執務を終えて、王宮に下がる。風呂に入ると、そこには女が居た。見た事の無い女。女は一糸まとわぬ姿で立ち上がると俺にひれ伏す。

「王国陛下、ご機嫌麗しゅうございます」

俺は顰め面で風呂を出ようとする。

「お待ちください!国王陛下!」

女が声を上げるが、俺はそのまま立ち去る。最近、こういう事が増えた。これは由々しき事態だ。王宮に女を送るだと?怒りに震え、俺はガウンを来て、王宮内をずんずん歩く。

「ジル!ジル!」

呼ぶとジルに付いている侍女が出て来て言う。

「王妃殿下はただいま、湯浴み中です」

そう聞いて俺は笑う。

「そうか、なら、ちょうどいい」

俺は中に入り、王妃専用の風呂場に入る。

「ジル!」

呼ぶとジルが振り向く。

「あなた」

侍女たちが頭を下げて伏す。

「下がれ」

言うと侍女たちが下がって行く。

「どうなさったの?」

ジルが聞く。俺はガウンを脱ぎ捨て、ジルの居る湯船に入り、ジルを抱き寄せる。

「俺の風呂場に女が居た」

ジルは溜息をつく。

「またなの?」

聞かれてジルの体を愛でて撫でながら頷く。

「あぁ。俺がジルにしか興味が無いという事をまだ理解していないらしい」

ジルの豊かな胸を愛撫しながら、ジルの首元に唇を這わせる。

◇◇◇

「禁止令?」

お風呂から出て、ジルとベッドに入る。

「あぁ、俺の部屋や風呂場に女を送るのは禁止させる」

ついさっきの女の事を思い出す。ハッキリと見た筈なのに、もう顔さえ覚えていない。

「ジル以外の女など、俺にとってはどうでも良い。皆、一様に同じ顔で同じ作りにしか見えん」

ジルがクスクス笑う。

「笑い事では無いんだぞ?」

言うとジルが俺の胸板に頬擦りする。

「私は心配していません、あなたが私を愛してくれている事は分かってますから」

ジルの頭を撫でる。

「あぁ、そうだ。だが、不快だ」

またジルがクスクス笑う。

「それでは、そのように、国王陛下」

俺は笑って言う。

「あぁ、そうするさ、王妃殿下」

◇◇◇

翌朝、俺は朝早くから家臣たちを呼び
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    その年の夏、国王陛下が亡くなった。テオは王位を継ぎ、国王となった。私もまた王妃となった。前王妃のセリーヌ様はお子を身篭られていて、その経過は順調だった。セリーヌ様は後宮に下がられ、テオと私が王宮に住むようになった。前国王陛下の面影が残る王宮は温かく、そして寂しかった。◇◇◇王宮で過ごす事に慣れてきた頃。俺は執務を終えて、王宮に下がる。風呂に入ると、そこには女が居た。見た事の無い女。女は一糸まとわぬ姿で立ち上がると俺にひれ伏す。「王国陛下、ご機嫌麗しゅうございます」俺は顰め面で風呂を出ようとする。「お待ちください!国王陛下!」女が声を上げるが、俺はそのまま立ち去る。最近、こういう事が増えた。これは由々しき事態だ。王宮に女を送るだと?怒りに震え、俺はガウンを来て、王宮内をずんずん歩く。「ジル!ジル!」呼ぶとジルに付いている侍女が出て来て言う。「王妃殿下はただいま、湯浴み中です」そう聞いて俺は笑う。「そうか、なら、ちょうどいい」俺は中に入り、王妃専用の風呂場に入る。「ジル!」呼ぶとジルが振り向く。「あなた」侍女たちが頭を下げて伏す。「下がれ」言うと侍女たちが下がって行く。「どうなさったの?」ジルが聞く。俺はガウンを脱ぎ捨て、ジルの居る湯船に入り、ジルを抱き寄せる。「俺の風呂場に女が居た」ジルは溜息をつく。「またなの?」聞かれてジルの体を愛でて撫でながら頷く。「あぁ。俺がジルにしか興味が無いという事をまだ理解していないらしい」ジルの豊かな胸を愛撫しながら、ジルの首元に唇を這わせる。◇◇◇「禁止令?」お風呂から出て、ジルとベッドに入る。「あぁ、俺の部屋や風呂場に女を送るのは禁止させる」ついさっきの女の事を思い出す。ハッキリと見た筈なのに、もう顔さえ覚えていない。「ジル以外の女など、俺にとってはどうでも良い。皆、一様に同じ顔で同じ作りにしか見えん」ジルがクスクス笑う。「笑い事では無いんだぞ?」言うとジルが俺の胸板に頬擦りする。「私は心配していません、あなたが私を愛してくれている事は分かってますから」ジルの頭を撫でる。「あぁ、そうだ。だが、不快だ」またジルがクスクス笑う。「それでは、そのように、国王陛下」俺は笑って言う。「あぁ、そうするさ、王妃殿下」◇◇◇翌朝、俺は朝早くから家臣たちを呼び

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    夕食になり、ジルと食事をする。「賊は捕まえたよ。ブランとタイランに吹き矢を放った奴らだ」ジルは切り分けた肉を俺の口に運びながら言う。「じゃあ、とりあえずは一安心ね」ジルの腰を抱く。ジルは俺を見上げ微笑む。「食事中は御触り禁止にしましょうか」俺は肉を飲み込んで言う。「それはダメだ。絶対に」ジルの手を掴んで口付ける。ジルがクスクス笑う。そこから時間をかけてジルは体調を戻し、ブランにまた乗るようになった。俺はまた王城と屋敷を行き来し、国政にあたるようになり、日常が戻って来た。そんなある日。「王宮より!王弟殿下テオ様に!」王宮の使者が息を切らして俺の元へ来る。「テオ様!国王陛下が!」俺は急いで王宮に上がる。扉を開けるとベッドに兄上が寝ている。「兄上!」駆け寄ると兄上が目を開ける。「…テオか」兄上はこんなに弱々しかったか?こんなに顔色が悪かったか?どこかが悪いなんて、思いもしな……いや、違う。俺は兄上の体調に気付いていた。兄上は世継ぎを作るのに忙しいと言っていた……それにまんまと騙されたのか……兄上が体を起こす。俺はそれを支える。「どこが悪いんだ?!いつから?!」聞くと兄上は笑う。「私の病気はもう何年も前からだ」そう言われて俺は驚く。そんな事、全然知らなかった。「なら何故!教えてくれなかったんだ!」言うと兄上は笑って言う。「お前に教えたところで、何も変わらん」兄上の膝に頭を乗せる。涙が止まらない。兄上は俺の頭をポンポンと撫で、言う。「皆、下がれ」◇◇◇兄上と二人きりになる。「テオ、お前に話しておきたい事がある」顔を上げる。「セリーヌが身篭った」え?身篭った……?「私の子だ」兄上は俺を見て微笑んでいる。「これから話す事を良く聞いてくれ」兄上が俺の涙を拭う。「まだ懐妊については誰にも話していない。だがそのうちに話は広まるだろう。口さがない連中は多いからな」兄上は俺の頭をクシャッと撫で、言う。「私はいつまでもつか、分からん。だから」俺は兄上に言う。「イヤだ、死ぬなんて許さん!絶対に許さん!」兄上が微笑む。「聞け、テオ」また兄上が俺の頭を撫でる。「セリーヌのお腹の子が生まれるのは今年の冬か年を越すか、まだ寒い時期だ。そしてその子が王位を継げるのは成人してからになる。成人と共に結婚出来たとした

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  • 始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~   ブランエールとタイランノワール

    ジルを見る。「嫌だった?」聞くとジルは首を振る。「でもテオに触れなくて、切なかった……」そうか、そうだよな、と思う。「それじゃ次は目隠しだけにしようか」ジルが少し膨れて言う。「次はテオが目隠しよ」◇◇◇その日から一週間、俺はずっとジルにプレゼントを贈り続けた。花やドレス、宝飾品や靴、そして最終日……「どこへ行くの?」ジルの手を引いて歩く。「まだ内緒だよ」俺がジルを連れて来たのは厩舎だ。「支度は出来てるか」俺が聞くと厩者が頷く。「はい、殿下」厩者が連れて来たのは真っ白な芦毛の馬。「この子は大人しくて優しいんだ。この子ならジルでも乗れるよ」その子の鼻を撫でてやる。ジルが驚く。「私が乗るんですか?」俺は笑う。「あぁそうさ。俺からのプレゼントだ」最初は俺が乗り、ジルを相乗りさせた。体高が高く、見晴らしが良い。ジルはとても喜んでくれた。「この子の名前は何です?」聞かれて俺は言う。「ジルが決めるんだよ」ジルは驚いて、それでも嬉しそうに考える。「そうね……ブランエールなんてどうかしら」ジルらしい柔らかい名だ。「良い響きだな。意味とかあるのかい?」聞くとジルは馬体を撫でて言う。「白い翼よ」馬から降りて、降りて来るジルを受け止める。ジルを立たせるとブランエールはジルの肩に鼻を寄せる。「撫でて欲しいみたいだな」ジルがブランエールの鼻を撫でると、ブランエールは気持ち良さそうに目を閉じる。「この子、本当に優しいのね」ジルが言う。「奥様にだけですよ」厩者が言う。「私にだけ?」ジルが驚いて聞くと厩者が笑う。「ソイツは自分が気に入った相手じゃなきゃ、乗せません。私だって乗った事無いんです」ジルが俺を見上げる。「でもあなたは乗せたわね」すると厩者がまた笑う。「殿下は特別です。殿下に歯向かう馬なんて居ません。馬は頭が良いんです。だからすぐに相手を見抜く」そしてブランエールに近付いて言う。「良かったなぁ、ブランエールなんて良い名前貰えて」ブランエールはブルルルルとまるで返事をするように唸る。◇◇◇厩舎からの帰り道、ジルと手を繋いで歩く。「ジルは一人で馬に乗れるかい?」ジルが微笑む。「えぇ、もちろん乗れるわ。ヴァロアに居た頃にレッスンを受けたもの」俺は微笑んでジルに聞く。「じゃあ遠乗りは?」

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